米国サンフランシスコで開催されたGDC 2026。その中で展開されたMetaのセッション「VR LiveOps: Sustaining Player Engagement & Monetization」では、Meta Questプラットフォームにおいて大成功を収めているVRタイトル『Gorilla Tag』の開発元であるAnother AxiomのCOO、デビッドが登壇した。
かつて『エバークエスト』や『ウルティマオンライン』といったMMORPGの運営(LiveOps、ライブオプス)を担当してきた経歴を持つデビッドと、Metaのプロダクトマネージャーであるパトリシアが共に登壇し、彼らがどのようにしてプレイヤーのエンゲージメントを維持し、収益化に成功しているのかについて深い洞察が語られた。
本記事では、この講演の内容をもとに、現代のVRゲーム市場におけるLiveOpsの成功法則を解き明かしていく。
成長するVR課金市場
セッションの冒頭、パトリシアの解説によって、Meta QuestプラットフォームにおけるLiveOpsモデルのアプリが現在も年々着実な成長を続けている現状が示された。特に注目すべきは、IAP(In-App Purchase:アプリ内課金)による収益が2024年から2025年にかけて前年比13%の増加を見せたことである。
ゲーム業界全体で従来のプレミアムモデル(買い切り型)からの脱却や、ユーザーの行動様式の移行といった大きな変化が起きている中で、このIAP収益の継続的な成長は、デベロッパーにとって非常に有望でエキサイティングな兆候であると言える。基本プレイ無料(Free-to-Play)であるかどうかにかかわらず、LiveOpsを成功させる道は確かに存在しているのだ。

「プラットフォーム全体での13%という収益成長は単なる平均値ではなく、個別のアプリやスタジオが大きな成功を収めている結果でもある」とパトリシアは語る。その成功事例の一つとして挙げられたのが、Continuum VRが開発した恐竜ゲーム『UG』である。プレイヤーが恐竜の卵を孵化させ、育て、背中に乗って楽しむこのタイトルは、昨年夏にQuestでリリースされた後、ホリデーシーズンのピークを迎える前のわずか4ヶ月間で800万ドルもの収益を記録したという。
彼らはローンチという瞬間を単なる始まりとしてではなく、「Limited Access」から「Early Access」を経た長期的な戦略の集大成として捉え、ユーザーの期待と需要を計画的に拡大していった点が特筆される。
さらに別の成功事例として『VAIL』が紹介された。すでにプラットフォーム上で一定の地位を築いていたこのゲームは、昨年に新しいゲームモードをEarly Accessとして追加したことで、前年比205%という爆発的なIAP収益増を達成した。これらの事例からもわかる通り、優れたLiveOpsの手法を用いれば、新作・既存タイトルを問わず大きな成長を生み出すことが可能である。
しかし、Meta Questプラットフォームにおけるパラダイムシフトを決定づけ、「優れたLiveOps戦略のアーキタイプ(原型)」とも呼べる存在が、他ならぬ「Gorilla Tag」である。デビッドは、本作がいかにして常識を打ち破り、成功を収めたのかを紐解いていった。
没入感を生む3つの原則
「Gorilla Tag」がVRゲームとして圧倒的な支持を得た最大の理由は、6DoFトラッキングをフルに活用した「Hand-based Locomotion(手を使った移動)」という自然な身体性の表現にある。プレイヤーはゴリラとなり、自らの手で周囲の環境に触れ、地面や壁を押し出すことで空間を縦横無尽に移動する。
「開発当初からこのアプローチが成功すると確信していたわけではない。ゲーム開発のプロセスのなかで、実験を重ねるうちに見出していったものだ」とデビッドは明かす。思い込みを捨て、早期かつ頻繁に方向性を修正しながら、ユーザーの反応(シグナル)を読み取っていく姿勢が重要であるという。
開発にあたり、社名の由来にもなっているAnother Axiomは「3つの原則(Axioms)」を強固な指針として掲げている。
第一の原則は「Hand-based Locomotion」がもたらす「Tactile Presence(触覚的な存在感)」である。初期のVR開発においては、写真のような写実的なグラフィックが重視される傾向にあった。しかしデビッドらは、「世界に触れたら、世界が押し返してくる」という感覚こそが、プレイヤーをその世界に存在させるために何よりも重要だと考えた。
初期のVRでは、テーブルに手を押し付けてもすり抜けてしまう「ゴーストハンド」という概念があり、これがプレイヤーの没入感と「そこにいる」という錯覚を削いでいた。現実世界を歩くとき、地面から足に押し返される力を感じることで自分がそこにいると認識するように、『Gorilla Tag』では手を表面に押し付けると自らの体が押し出されるという物理的な反応を返すことで、「世界が本当にそこにある」という事実を強力に補強しているのである。視覚や聴覚以上に、この「触覚」こそがVRにおける存在感を決定づけるのだ。
第二の原則は「Social Togetherness(社会的つながり)」である。「VRは孤独でディストピア的なものだというステレオタイプがあるが、我々は全くそうは思わない。VRは直接対面に次ぐ最高のソーシャルコネクターである」とデビッドは強調する。
ソーシャル要素はあらゆるゲーム体験のインタラクションを何倍にも増幅させる力を持っている。プレイヤーが『Gorilla Tag』を深く愛しているのは、単なるゲームシステムが優れているからではなく、そこでリアルな友人と一緒に時間を過ごすことができるからに他ならない。
第三の原則は「Plausible Alternate Reality(もっともらしい代替現実)」である。これは、プレイヤーに「自分は今、ゲームの世界にいるのだ」と感じさせたり、不信感を抱かせたりするような要素を徹底して排除するという哲学である。
メニュー画面やUI、システム的なチュートリアルといった「ゲーム的」な要素を意識させた瞬間に、プレイヤーの世界への没入感は完全に失われてしまう。「我々はゲームではなく、世界を作っているのだ」とデビッドは語る。そのため本作にはチュートリアルが存在せず、遊び方はシステムから与えられるのではなく、ゲーム内で出会った友人から直接教わるように設計されている。
子供たちはこの徹底した世界観と、背景にある伝承に夢中になっており、直近で行われた3回のライブイベントでは、それぞれ平均同時接続数が11.3万人、12万人、9万人を突破するという驚異的な記録を打ち立てた。「VR市場が落ち込んでいるという声もあるが、ターゲット層と作るべきものを正しく理解していれば、VRは非常に健全な市場なのだ」とデビッドは力強く語った。
コミュニティと共に作る
『Gorilla Tag』のマーケティングとコミュニティ運営の手法は、旧来のゲーム業界の常識を覆すものである。デビッドは「現代のマーケティングとは、コミュニティそのものである」と断言する。ターゲット層を事前に机上で絞り込み、パブリッシャーに莫大なマーケティング予算を預けて何年もかけてゲームを作り上げ、ローンチして初めて結果を知るという従来の手法は、現代においてはリスクが高すぎる。彼らは開発初日からコミュニティと直接関わり、早期にビルドを配信してフィードバックを得ながら、ユーザーと共に製品を作り上げていくプレイスタイルをとっている。
特に、Meta Questの主要ユーザー層であり本作の主力でもある10〜13歳のアルファ世代の行動様式を深く理解することが求められる。「彼らはFacebookやInstagramにはいない。TikTokやYouTubeにいるのだ。彼らがいる場所へ行き、直接エンゲージしなければならない」とデビッドは語る。
また、インフルエンサーとの関わり方についても独自のアプローチをとっている。「Another Axiom Creators Club」と名付けられたクリエイタープログラムには、現在約500人のクリエイターが所属しており、彼らのYouTube登録者数の合計は3,000万人を超えるという。驚くべきことに、現在も12万5,000人もの応募が審査の順番待ちの状態となっている。
外部の巨大なインフルエンサーをお金で雇い、単なるプロモーション媒体として扱うような「トランザクショナル(取引的)」な関係を避けるべきだとデビッドは忠告する。代わりに、自社のIPやゲームと共に成長し、純粋にゲームを愛して発信してくれるオーガニックなクリエイターを自らの手で時間をかけて育て上げることが、長期的に強固なコミュニティを構築するための唯一の鍵となる。
さらに先月には、Patreonのような形式でファンが開発者とより深く交流できる「Fan Club」も立ち上げた。伝説的なオリジナルファウンダーであるLemmingがDiscordでAMA(Ask Me Anything:質問コーナー)を直接開催するなど、熱狂的なファンに対して特別なアクセス権や体験を提供することで、彼らの熱量をさらに高め、エコシステム全体を活性化させている。
2週間の超高速開発
ライブサービスの魅力を維持し、プレイヤーを飽きさせないためには、アップデートの頻度とスピードが命となる。「現代のユーザーの、アテンションスパン(注意力)は極めて短い」と指摘するデビッドは、ローンチ当初に設定していた4週間というアップデートサイクルを「これでは遅すぎる」と即座に判断し、現在は2週間ごとに新しいコンテンツを配信する体制を敷いている。
リリース日に対するこだわりも強い。LiveOpsの定石では、アップデートは火曜日や木曜日に行うのが良いとされることが多い。しかし『Gorilla Tag』は、あえて金曜日にリリースを行っている。「なぜなら、それがユーザーが新しいコンテンツを消費したいと望むタイミングだからだ。可能であればユーザーが最も集まる土曜日に配信したいくらいで、それに合わせて我々の勤務スケジュールの変更すら検討している」という徹底ぶりだ。
品質に対する考え方も、従来のAAAスタジオ的な価値観とは一線を画している。「現代のユーザーは、AAAタイトルのようなバグのない完璧さを我々に求めてはいない。むしろ、少しの不具合やバグ、裏技をゲーム内で見つけること自体を、『開発プロセスの一部』としてエンタメとして楽しんでいるのだ」とデビッドは語る。長い時間をかけて完璧なものを磨き上げるより、ユーザーが求める圧倒的なスピードでコンテンツを提供し、いち早くフィードバックを得ることを優先している。
質疑応答で「2週間という短いリリースサイクルでは、技術的負債(Tech Debt)が蓄積するのではないか」という懸念を問われた際も、デビッドは「正直なところ、物事を完璧にすることやスケーラブルにすることに過度な投資はしない。とにかく早くリリースし、その機能がコミュニティに受け入れられ、長く使われると分かってから初めて、次のアップデートに向けて技術的負債の解消に取り掛かる。我々はバグのゼロ化を目指す哲学では動いていない」と明言した。
この超高速な開発サイクルを根底で支えているのが、社内で定期的に開催されるゲームジャムである。例えば、あるエンジニアが提案した「ボクセルベースの地形掘削機能」は、ゲームジャムの期間であるわずか1週間でプロトタイプが完成した。完全な機能として洗練されてはいなかったものの、そのまま市場に出してテストしたところ、ユーザーから非常に強い反応(シグナル)が得られたため、正式なアップデートとして実装されることになった。「2週間以内で形にならないアイデアは、そこに開発リソースを投資する価値がない」という徹底した合理主義とスピード感が、彼らのLiveOpsを牽引しているのである。
収益化と最新支援ツール
強固なコミュニティとの良好な関係を、いかにして収益化(マネタイズ)に結びつけるのか。デビッドは「過去の常識や思い込みを完全に捨てること」の重要性を説く。「VRにおける価格設定は従来とは全く異なる。特にRobloxやFortniteで育ったアルファ世代が、何に対していくら払うのかという金銭感覚は、我々大人たちの想像とは全く違うことが多い」という。
リテンション(継続率)向上のためにゲーム内アイテムを安易に無料で配布する手法にも警鐘を鳴らす。もし無料で配布するのであれば、それが本当にコンバージョンや収益として還元されているのか、明確なデータに基づいてシビアにROI(投資対効果)を測定する必要がある。また、最初に設定した価格がユーザーにとってのアンカー(基準)となってしまうため、プレミアムモデル(買い切り)にするか、Free-to-Playにするかといった根本的な価格設定は、アーリーアクセスなどを活用して慎重にテストと検証を重ねるべきだとアドバイスした。
Meta側も、こうした開発者のLiveOpsを強力に支援するための最新機能を次々とダッシュボードに投入している。パトリシアから紹介された「Profiles」機能は、開発者のアプリ情報や最新のアップデート情報をアプリ外で集約し、ユーザーを誘導するランディングページの役割を果たす。
さらに「Dev posts」機能では、ミニブログのような投稿に対して、VRヘッドセット内でユーザーが直接返信できる双方向のコミュニケーション機能が追加され、エンゲージメントの詳細な分析も可能となった。特定のアップデートに合わせて集客を行うための「Dev events」や、ベータテストなどに用いる「Release Channels」のユーザー上限が200人から2,500人へと大幅に拡大されたことも、コミュニティ主導の開発を後押しする強力なアップデートである。
収益化に直結するマネタイズツールも急速に拡充されている。複数のIAPアイテムをまとめて魅力的なパッケージとして販売できる「Featured Bundles」や、他社のアプリのアイテムとも連携してクロスセルが行えるベータ版の「Multi-Team Bundles」が導入された。
さらに、リリース前の段階でユーザーの期待感を煽り収益を先取りできる「Pre-Order IAP Bundle(予約購入)」や、プレイヤーの継続的なプレイ意欲(FOMO:見逃しの恐怖)を刺激し長期間のエンゲージメントを促す「Season Pass」など、開発者が収益を最大化するための多彩な選択肢が提供されている。
セッションの最後に設けられた質疑応答では、「『Gorilla Tag』のような激しい移動方法はVR酔いを引き起こしにくくする反面、若年層の男性以外を遠ざけ、VR市場全体の拡大を限定的なものにしてしまうのではないか」という質問が飛んだ。
これに対しデビッドは、「市場を拡大するための最大の障壁はVR酔いではなく、250ドルというヘッドセットの価格そのものだと考えている。また、手を使った移動は物理的な感覚を伴うため、逆に酔いを軽減する側面もある。
実際、我々のゲームのプレイヤーには10〜13歳の男子以外の層も多数存在しており、これは生理学的な限界の問題ではなく、単純に露出とアプローチの問題だと捉えている」と持論を展開。パトリシアもこれに同調し「VR市場はまだ初期段階であり、常に進化を続けている。より多くの人に遊んでもらいたいのであれば、開発コストとの兼ね合いにはなるが、『Resident Evil 4 VR』のようにテレポートや直接移動といった複数の移動オプション(モード)を用意することも、市場を広げるための有効な手段だ」と補足した。
思い込みを捨ててユーザーと直接対話し、未完成でも市場に出して高速で仮説検証を繰り返す『Gorilla Tag』のスタンス。彼らの成功は、これからのVRゲームビジネスにおけるひとつの金字塔であり、次世代のLiveOpsに挑むすべての開発者にとっての重要な道標となるはずだ。


















