ARグラス向けのディスプレイ開発や空間認識技術を手掛けるCellid株式会社は、新しいARグラス用レンズ「Cellid Precision Fit Lenses(セリッド・プリシジョン・フィットレンズ)」を発表しました。このレンズには視力補正機能が付いており、通常のメガネを使うことなく、ARグラス単体で視力調整が可能になります。
世界の人口の半数以上がメガネを利用していることからも、ARグラスを快適に使うためには視力の調整機能搭載が必要とされています。
従来のARグラスでは、眼鏡の上から装着できる構造を採用したり、度付きレンズのインサートを提供したり、内蔵の視力補正機能を開発・搭載するといった形で対応を進めてきました。
しかし、これらのソリューションはいずれも決定的とは言えません。眼鏡との併用は装着感や見た目の面で不便が多く、インサートレンズもコストやメンテナンスの面で手間がかかります。一方、内蔵の視力補正機能では乱視や強度の強い補正には対応できず、どうしても視野の鮮明さには影響が出てしまいます。
こうした現状を踏まえると、今後のARグラスの進化には、ユーザー一人ひとりの「見え方」に寄り添う視力対応の仕組みが欠かせません。快適な視界は、ARの没入感や操作性を大きく左右するため、単なるガジェットの性能向上だけでなく、視覚体験そのものを最適化する発想が求められています。
今回、Cellidが開発したCellid Precision Fit Lensesは「視力の調整機能」と「ARの画像表示距離の調整機能」を一つにまとめたレンズです。一般的なメガネのような軽さや薄さを保ちながら、ARグラスで表示される映像がよりはっきりと見えるようになっています。
AR画像表示の距離調整機能は「ライトフィールドコントロール機能」と呼ばれています。作業時に確認したいAR表示の距離に合わせて、最適なレンズを選ぶことで、実際の作業とAR画像の両方を快適に見ることができます。
例えば作業現場でのマニュアル表示や教育現場での教材表示など、特定の距離で情報を確認しながら作業を進める場面での利用が想定されています。
視力補正レンズとARグラスのレンズは通常、それぞれ形状が異なるため、一体化させることが難しいとされてきました。特に、視力調整に必要なレンズの厚さを増やさずに薄型化することが重要な課題でした。Cellidは独自の設計技術「SCL技術(Small base Curved Lens technology)」を開発し、この問題を解決。2025年4月後半にはさらに薄型化したモデルのサンプルを提供する予定です。
日本発のAR要素技術を手がける
Cellid株式会社は2016年設立の日本企業です。次世代のARグラスディスプレイや空間認識エンジンの開発を行っています。ARグラスの主要部品となるウェーブガイドやプロジェクターの開発を強化しており、2024年11月には軽量のARグラスモデルを公開しています。また2025年2月には日本政策投資銀行を中心とした企業から総額20億円の資金調達を実施し、累計調達額は約52億円に達しています。