VRでは、現実では再現の難しいシーンをリアルに、かつ繰り返し作り出せるといった特徴があります。これらの特徴を心理学の実験に活かすメリットを、心理学者が5つにまとめたリストが公開されました。
心理学者のAlison Jane Martingano氏らは、VR利用で得られるメリットを、頭文字を繋げて“DREAM”と説明しています。以下では具体的に、5つのアドバンテージ(Data collection, Realism, Experimental control, Adaptability, Mobility)を見ていきましょう。
Data collection(データ収集)
VR内では、身体の動きを詳細に計測し、記録することができます。肉眼で観察するよりも正確で、また人手を必要としません。さらに言語化することが難しい、或いは被験者が言語化を望まない事実でも、動作などから読み取ることができます。
例えば医学生を対象にした実験では、学生は肥満体のバーチャル患者に対しては、痩身の患者に比較して、目を合わせたコミュニケーションを取ることが少ないと分かりました。
Realism(現実感)
VRでは、まるで現実にいるかのようなリアリティのある空間を作り出せます。そのため被験者から、現実空間で実際にとる行動を引き出すことができます。
例えばバーチャルのバーを設置し、アルコール摂取の多い被験者に対し、アルコールへの欲求を引き出す(測る)という実験が行われました。こうした衝動的、場に対する反応で起こる行動は、従来の質問形式では捉えきれないものです。
また、実際に再現することが難しいシーンを作り出せることにもメリットがあります。例えば公衆の面前でスピーチする際のストレスレベルを測るというテスト。VRであれば、簡単にバーチャルの聴衆を設置し、その反応をコントロールすることも可能です。
Experimental control(実験の統制)
現実に人を相手とする実験を行う場合、被験者に対する人物がある役割を演じる、ということがあります。しかし演者による違いや、同じ演者でさえ、毎回完璧に同じ演技を再現することは不可能です。
これに対してVRであれば、警官から患者、子供まであらゆる役割の人物を作り出し、全く同じ演技を繰り返すことができます。また、性や人種、体型なども自由に設定可能です。この特長を活かし、人種や年齢が引き起こすバイアスを測る実験などが行えます。
Adaptability(適応性)
あらゆるシーンに用いることができる適応性も、VRのアドバンテージです。例えば通話や音楽を聴きながら通りを渡る、といった状況も、VRであれば被験者を危険にさらさず作り出せます。
また被験者の姿を変えるシミュレーションも可能なため、医師に、特定の症状を持った患者を体験させるという例もあります。
Mobility(携行性)
VRを用いた実験では、デバイスさえあれば、特別な実験施設に被験者を呼ぶ必要はありません。遠隔地で同じ実験を並行して行うことも可能です。
Martingano氏はこうしたメリットを活用することで、既存の調査、観察といった手法からは把握しきれない、人間の行動に迫れるとしています。
(参考)Psychology Today