Adobeの研究機関であるAdobe Researchは、一般のインクジェットプリンターを使って、紙にARコンテンツを埋め込む技術を開発しました。埋め込まれたデータは目視では確認できず、スマートフォンのカメラを使って読み出します。この技術により、紙の感触とデジタルメディアの対話性を両立させた、新たなコンテンツを生み出せるとしています。
「見えないARデータ」を埋め込んだハイブリッドな文書
今回開発されたのは、家庭でも利用できる一般的なインクジェットプリンターを使って「見えないARデータ」を紙に印刷する技術。通常のインクではなく赤外線吸収インクを使用することで、「ヒトの目には見えないが赤外線カメラでは読み取れる」ARデータを埋め込めます。本論文ではこのように作成した文書を、紙とデジタルのハイブリッド文書「StandARone」と呼んでいます。
一見すると、「StandARone」は普通の文書にしか見えません。しかし、スマートフォンのカメラをかざせば、隠されたARコンテンツを読み出せます。
(出所:論文)
「StandARone」に埋め込まれたデータには、コンテンツの表示や操作に必要な情報が全て含まれています。そのため、URLやQRコードから呼び出すARコンテンツと異なります。専用アプリのインストールも不要です。
また、ARデータの印刷には家庭でも利用できる一般的なインクジェットプリンターとインクを使用します。そのため、スクリーン印刷などの複雑な印刷作業は不要で、手軽にデータを埋め込むことができます。
誰でも直感的にARコンテンツを埋め込み
文書の作成者は、ウェブベースの専用ツールを使ってARコンテンツを埋め込む場所やコンテンツの内容(テキストやボタンなど)、コンテンツの動作などを設定します。このツールはドラッグ&ドロップなどにより直感的に操作できるため、手軽にARコンテンツを作成できます。
(出所:論文)
レストランメニューの個別化など、多くの用途に利用可能
今回の「StandARone」は、紙の感触とデジタルメディアの対話性を組み合わせた次世代型のコンテンツを生み出せると考えられます。
論文内には、レストランの客が望む食事(カロリー範囲や摂取したい栄養素など)にマッチしたメニューだけをARでハイライトさせる例や、数学の試験問題にAR表示されるヒントを生徒の習熟度に応じて変える例、商品のパッケージに製造情報をAR表示する例などが紹介されています。
また、ネットワークに接続できない・したくない場合でも、本技術を使えば安全にARコンテンツを表示できます。たとえば、外国人旅行者はネットワークに接続しなくても正確な翻訳を確認できます。
現状、「StandARone」上には2Dの視覚コンテンツしか作成できません。しかし将来的には、3Dコンテンツやマルチモーダルコンテンツ(音声やアニメーションなど)も追加できる予定だと言います。さらに、Microsoft HoloLensのようなARヘッドセットに対応する計画もあるようです。
(参考)論文