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Vision Pro 2025.02.13

スポーツの感動を次の10年に残す。Apple Vision Proを活用した、サッカーJ1チームFC町田ゼルビアイベントに密着

空間コンピュータ「Apple Vision Pro」では、一般的な2D映像を大画面で観られるだけでなく、奥行きのある没入感の高いイマーシブ映像(8K 3D映像)を体験できるのが大きな魅力です。Appleは公式コンテンツ「Apple Immersive Video」でそういった映像作品を現在続々と公開中ですが、「右目用と左目用の映像を1つにまとめたビデオ(通称:空間ビデオ)」を収録できる機材を用意すれば、高クオリティの没入感のある映像を撮影し、Apple Vision Proで体感できます。

この技術を活用して、スポーツの感動を記録し、未来の資産とする。そんな試みがJ1サッカーチーム「FC町田ゼルビア」で行われていると聞きつけ、サポーター限定イベントにお邪魔して来ました。

限定ファンイベントの目玉にApple Vision Proを活用した特別映像

イベントが行われたのは、東京都町田市にあるクラブハウス。「【プラチナ会員限定】開幕直前!イマーシブ体験ツアー」と名付けられたサポーター向け企画です。町田ゼルビアの特別映像をApple Vision Proで体験できる場として、ファンクラブのプラチナ会員(年会費3万円の最上級会員)向けに抽選が呼びかけられました。同チーム広報によると、約300名のプラチナメンバーから約100名が応募、当選した約30名が参加したとのことです。

筆者も動画を視聴し、イベントに参加したサポーターの方々の様子も拝見させてもらいました。なお、筆者はApple Visionn Proで、専用カメラ機材にて撮影された映像コンテンツ「Apple Immersive Video」を体験済みです。同じく、サッカーや選手の様子を撮影した「MLS 2023シーズンダイジェスト(Major Soccer Leagueは米サッカーリーグの略)」も鑑賞しています。FC田ゼルビアのイマ―シブ映像が、Apple公式とはどのように違うのかといった点にも注目しつつ、取材に臨みました。

体感30cmの近さ! 没入感のある映像だからこそ分かる試合中の選手の迫力

まず、簡単なガイドが渡されていきます。訪れたほとんどの方がデバイスに初めて触るということで、じっくりと説明文を読む方も。メガネをかけている方も、アクセサリーを追加してカスタマイズしたデバイスが用意されており、視聴可能でした。

装着前に外付けバッテリーを入れたバッグを首から下げて、Apple Vision Proを被ると、シンプルなサムネイルが目の前に表示されます。表示された再生ボタンをハンドジェスチャーでクリックすると、動画がスタート。​​前面の視界いっぱい、首を振ると上下左右の約180度ギリギリまで映像が展開され、「おお〜!!」という歓声があがります。

動画全体のダイジェストが30秒ほど流れた後に、監督や選手をクラブハウス横の駐車場から試合会場に送り出すシーンから本編が始まりました。バスに乗り込む選手達に向かい合う列に並んだ視点のため、まるで現地に見送りに来ているような感覚に。


(町田ゼルビア・黒田監督ともハイタッチできる)

順々に選手や監督からハイタッチを求められるので、こちらも思わず手を挙げてハイタッチ。自然と笑顔が溢れます。

切り替わった次の視点は試合前のスタジアム周辺。試合を待ちわびるサポーターがFC町田ゼルビアの良さを語るシーンや、子供たちがファンイベントで楽しむ様子が映し出されます。サポーターが感情豊かにチームの良さを語る場面は、単純に楽しくワクワクしたものの、イマーシブ映像ならではの奥行きを感じられず、この時点では、わざわざ立体映像化する有効性をイマイチ感じられませんでした。

しかし、スタジアムのシーンから「没入感のある映像であること」の本領が発揮されていました。階段を登りながら、そそり立つスタジアムを見上げることができ、演出の良さが際立ちます。グラウンドで試合前の選手が体を動かす様子や、ピッチ際から監督が選手を送り出すシーンに切り替わると、さらに没入感が高い映像が映し出されます。

待ちに待った試合シーン。視点が次々に切り替わり、コーナーフラッグやゴール裏の選手の激しい動きを臨場感たっぷりに見て取れます。

映像を視聴するサポーターも、上下左右に首や体全体を動かしながらゴールの動きを追っていました。

選手との近さは体感30cmほど。ボールを奪い合う接近戦が目の前で繰り広げられます。皆さん、ゴールネットに飛び込んでくるボールから、身をのけぞっていました(もちろん筆者も)。


(公式提供。右下の画面がApple Vision Proに表示されている)

試合映像の合間には、熱気溢れるサポーター席から広大なグラウンドを見下ろすシーンもあり、スタジアムの広さや応援席の視野を体感できました。ただ、暗い場所の映像の立体感は明るい昼間の映像より劣って感じられ、多少の映像ノイズ(ちらつき)が気になりました。

動画の最後には、日が沈んだ試合後のサポーター席を見上げる選手の視点に。Apple Vision Proの視野限界のギリギリである180度いっぱいに、青いユニフォームを着たサポーターが飛び上がりながら歌うシーンは圧巻。「熱い応援は選手達のモチベーションになるのも納得……!」と、まさかの選手の感情まで追体験できました。5分強の映像時間もあっという間に感じられるコンテンツでした。


(公式マスコットのゼルビーも視聴(?)。町田市の鳥であるカワセミがモチーフ)

結論から言うと、今回の町田ゼルビアのイマーシブ映像は、Appleですでに配信されている公式コンテンツと比べれば、同レベルの品質とは言えません。しかし、こうした没入型映像コンテンツがまだ普及していない現時点だからこそ、一般ユーザーに”初体験の価値”を提供できる可能性を感じました。

実際、サポーターの方々に視聴後の感想を聞かせてもらうと、「期待していなかったけど、本当にその場にいるみたいでおもしろい体験だった」「普段見れないようなピッチ際の攻防が見られて、思わず興奮してしまった」といったポジティブな声が続出。中には「ぜひ続編も見てみたい。できるならサブスクリプションで契約したい」というサポーターもいました。

また、参加のきっかけを伺うと、「VRやイマーシブという言葉自体はテレビでは知っていたけど、体験したいとまではいかなかった。でも町田ゼルビアのコンテンツならやってみたい! と思って応募した」と回答された方が多数おり、XR技術やデバイスの普及とファンビジネスの相性の良さを感じました。

一方で、「シーンひとつひとつが短すぎる」「最初の操作になれるまで大変」とコンテンツの構成やオペレーションに不満の声もちらほら。没入感のある映像コンテンツならではの演出や、事前準備のノウハウの蓄積が今後の課題といえそうです。

イマーシブビデオの良さは感動をアーカイブできること

今回のイベントでは、コンテンツ開発者である株式会社サイバーエージェントの岩﨑謙汰氏にお話を伺いました。同氏の所属するサイバーエージェントはFC町田ゼルビアのオーナー企業です。


(岩﨑謙汰氏: 株式会社サイバーエージェント AI事業本部 AIクリエイティブディビジョン XR研究所 所長)

ーーーなぜファンイベントのデバイスに「Apple Vision Pro」を選んだのでしょうか。

岩﨑謙汰氏(以下、岩﨑):
これまで、あらゆるデバイスを一般の方に被って開発コンテンツを体験してきてもらったのですが、Apple Vision Proが一番反応がいいんです。高画質で、UXもすごく自然なので、みんな素直に感動してもらえる。これはApple Vision Proにしか提供できない価値だと感じました。

また、コントローラーがないのも利点ですね。ハンドトラッキングで操作が完結するので、初めてXRデバイスを触る方にとってハードルが低いです。装着感も初心者にとって快適だと思います。

ーーー今回はアプリ開発ではなく映像コンテンツ制作ということで、開発過程もかなり違ったのでは?

岩﨑:
これまで取り組んできたアプリソフト開発ではUnityを使っていましたが、今回は8Kの3D映像を撮ることから始まったので、全く違う開発でした。

撮影はデジタルシネマカメラ「EOS R5 C」で行い、ビューアーソフトの開発はSwiftを使用しました。新しい映像フォーマットということもあり、制作ノウハウを一から構築していく必要がありました。今回、各分野のプロフェッショナルと協力しながら、試行錯誤を重ねて実現に至りました。大変感謝しています。

ーーー実際に撮影して、難しかった点は?

岩﨑:
暗い場所や時間帯で撮影した画像にはちらつきが残ってしまい、ノイズ除去に手がかかりました。今後に向けて、Blackmagic Design社のApple Vision Pro向けのイマーシブビデオ撮影に特化したカメラを採用するか検討しているのですが、そういった専用カメラで撮影できればさらに高精細な映像になると期待しています。

またJリーグやチームの規定上、試合が始まるとグラウンドに近づくことが難しく、また試合の展開によっては迫力のある映像を撮るのが容易ではない場面もありました。

ーーーその分、サポーター視点の応援席やスタジアムの周辺映像や、選手を送り出すようなピッチ周辺の映像を組み込んだ構成にしたのでしょうか?

岩﨑:
それもありますが、イマーシブビデオの良さは感動をアーカイブできる点です。町田ゼルビアにとって2024年はJ1に昇格した記念すべき年です。今しかない感動や思い出をコンテンツとして残し、10年後に振り返った時に、さらに印象深いものにする。「イマーシブビデオ」はそれができる技術だと思います。そのためにも、サポーターが馴染みがある光景に、普段見ることない視点を加えることで、感動が伝わる構成にしたいと考えました。また、今回の撮影にあたり、FC町田ゼルビアの選手、監督、サポーター、スタッフの皆さまにも多大なご協力をいただきました。この場を借りて、心より感謝申し上げます。

現状、Apple Vision Proを使った開発でソフトウェア側ではなく、映像コンテンツに取り組んでいる企業や組織は少ないです。このままAppleがVR/MRデバイスから撤退する可能性は低いと考えており、デバイス全体の小型軽量化は進むと予想しています。将来、もっと手軽なデバイスが登場した時に見返せるように、あらゆる映像を立体的に撮っておきたいという気持ちもありました。

ーーーサイバーエージェントはこれまでもDXやAIを使った広告事業など、先行投資に長けている印象があります。今後はXR分野にも力をいれていくのでしょうか?

岩﨑:
現在は実験段階ですが、映像コンテンツに取り組んでいる企業が少ない今だからこそ可能性を探っていきたいと考えています。今回のようなファンイベントで、生の声フィードバックをもらってコンテンツを進化させていきたいです。

長期的には、海外の試合を撮影して臨場感のあるダイジェストを提供したり、サポーターのプレミアムコンテンツとしてスポンサーを募ったり、とアイデアはありますが、まずはXR研究所として各所巻き込みながら段階的に取り組んでいきます。

またイマーシブビデオはスポーツの魅力を伝えるうえで非常に相性もいいので、サイバーエージェントグループ内のスポーツチームの活躍を後世に残すことにも大きな価値があると考えています。今後は、技術貢献と事業活用の両面から積極的に取り組み、より多くのスポーツシーンを記録し、未来へつなげていきたいと思います。


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