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医療・福祉 2018.03.26

もしも望まない妊娠が発覚したら…女性の選択権を訴える社会派VR作品

2018年3月23日金曜日、ポーランド・ワルシャワで中絶禁止法厳格化に対し数千人規模のデモ行進が行われました。

ポーランドではすでにヨーロッパで最も厳格な中絶法が存在しています。中絶が認められる場合は、胎児の生命が脅かされているとき、母親の健康に重大な脅威があるとき、妊娠がレイプや近親相姦に起因しているときの3つに限られています。厳格化が進めばポーランド国内での中絶がより一層困難となり、女性たちの選択する権利について多くの声が上がっています。

ポーランド系カナダ人の映画監督Joanne-Aska Popinska氏は、VRを活用して女性の選択権に関する仮定を実証しようとしています。同氏は製作チームとともに、中絶を考えている架空の女性のデジタル意識へ潜ることができるVR映画『The Choice』を制作しました。

目覚めると妊娠していた

『The Choice』でユーザーは、自分ではない別の人の身体に入って目を覚まします。その新しい身体は女性で、妊娠しています。「どうしてこんなことが起きたのか、どうすればいいのか」といったパニック状態の思考が次々と空間に浮かび上がるにつれて、この妊娠が望まないものだということに気付きはじめます。

VR映画には実際の女性がシミュレーションに登場し、計画外の妊娠と中絶を決心した自身の経験を語りだします。「恥ずかしい思いをしましたか?」「恐怖を感じていましたか?」「安心しましたか?」といった質問が女性たちに投げかけられ、それぞれ個々のストーリーを話します。女性たちの状況と感情はひとつとして同じものではありませんが、物語を誠実に伝えたいという共通意識を持っています。

共感と思いやりを生み出す方法としてVRを活用

Aska-Popinska氏は、このVR体験を「体験した人が自分の人生、問題、ジレンマとして受け取ることができるように作り上げました」を話しています。

ポーランドで育った同氏は、女性の友人や家族が、制限的な中絶法によって影響を受けてきたことを目の当たりにしてきました。多くの国で妊娠中絶合法化が進んでいく一方で、ポーランドは中絶に対する多くの制限を実施し続け、議員たちは一層の厳格化を進めています。

同氏は、中絶に関する法律や考えを変えるためには、共感と思いやりが重要だと考え、ドキュメンタリーにVRを活用することを決めました。VR映画は、ユーザーが妊娠を終わらせるかどうか決心しようとする女性の中に、文字通り「入る」ことを可能にします。この技術が体験者に大きな理解と、このような困難な場面に直面している女性に対する共感と思いやりを与えることが期待されています。

Kickstarterで製作費用を調達

Aska-Popinska氏は『The Choice』が最大のインパクトを持つためにVRで撮影され製作される必要があることを認識していました。しかしVRでコンテンツを製作するにはかなりの費用がかかります。彼女は製作チームと、数ヶ月間の空き時間と週末を費やし、計画を立て脚本を書くきあげました。またクラウドファウンディングKickstarterでキャンペーンを開始し、目標額の15,000カナダドル(約120万円)を調達しています。


写真:プロトタイプ3Dデプスカメラリグ

『The Choice』は3Dゲームエンジン内に構築され、ビデオ撮影と3Dレンダリンググラフィックを使用しています。製作チームはインタビュー撮影用に、3Dステレオスコピックカメラとデプスカメラを組み合わせる技術を開発しました。撮影機材は小さくて簡単に持ち運ぶことが可能で、インタビュー対象者が落ち着いて安心して応対できるよう、自宅で撮影することができました。

本作品はOculus Rift、HTC Vive、Gear VR用に開発が進められています。

(参考)

VRScoutThe GuardianFLAREKICKSTARTERThe Washington Post

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