1月17日にリリースされた新型スマートグラス(空間ディスプレイデバイス)「XREAL One」。スマホやPCとケーブルで接続すれば、端末の映像をグラスに映し出せるのが大きな特徴です。さらに今デバイスでは、自分の頭の動きに映像が追従する3Dof機能が本体に搭載され、従来のXREALシリーズ以上に画面を見やすくなったのもポイント。価格は、税込69,980円です。
映像鑑賞やゲーム、お仕事など、さまざまな用途に使えるデバイスですが、実際のところ、どの程度使えるものなのか。実際に試してみました。
とにかく軽い! 快適な装着感で長時間使用にも使える
軽い!
重量は82g。ちょっと大きめのサングラスをつけているくらいの重量感です。著者は普段、Apple Vision ProやMeta Quest 3などを装着していますが、それらとは比べ物にならないほどの軽さです。この時点でより長時間使用には向いていると期待できます。過去のXREAL Airシリーズと比べると若干重量は増しているのですが(※XREAL Airは79g)微々たる差です。
装着感も快適。激しく首を動かさなければ、グラスがズレることもなし。横からみると、グラスと目の間の隙間が、一般的なサングラスよりも離れていますが、バランスが悪いわけではありません。むしろ瞼にグラスが触れてしまったり、前髪がデバイス側に挟まったりがないので、とても楽な着け心地。どうしても合わない場合は、付属している鼻パッドを交換してみると良いかもしれません。
ちなみに、眼鏡をつけたままの着用は無理でした。強引に上から装着するやり方もありますが、グラスに傷が入る恐れがあるので止めたほうがよいでしょう。公式の度付きインサートレンズを別途購入するか、コンタクトの着用をおすすめします。
事前準備必要なし 接続した瞬間から体験がはじまる
スマホやPCには有線ケーブル(Type-C)で接続します。本体への給電はデバイス側のバッテリーを使うことになるので、充電の手間が無いのもXREALシリーズの良いところ。ただし、デバイス側のバッテリーが消費されるので、長時間使用時には注意です。
事前のアプリやソフトのインストールも不要。ケーブルを繋げて少し待てば、デバイスのスクリーンが「XREAL One」にそのまま表示されます。
(ボタンは3つ:フレーム上部にあるボタンが「ディスプレイ設定の変更」、下部の赤いボタンが「表示モード切替」、下部の長細いボタンが「明るさや色合いの切替」に振り分けられています)
設定自体はシンプルです。本体右側のフレーム部分にあるボタン3つの操作のみ。フレーム下側の赤いボタンを2度押しすれば、ディスプレイサイズや細かい設定画面が利用できます。装着している間はボタンを直接見ることができないので、どうしても覚束なくなりますが、慣れてくればボタンの割り当ても覚えられるはずです。設定モードの中にチュートリアルもあるので利用しても良いでしょう。
注意事項が1点。デバイス側の操作は「XREAL One」ではできません。なので、スマホと接続した後も、手を使っての操作自体はスマホ側で行うことになります。PCであれば、キーボードやマウスの操作も必要となります。基本的には「XREAL One」は「グラス型のモニター」として捉えるのが良いでしょう。
映像の美しさは及第点、視野の狭さは弱点だが設定で強引に解決
実際にPCに接続してみます。映像の美しさは、正直に言えば及第点といったところ。「感動的なほど美しいわけではないが、実用するのに問題はなく、安定的」という感想です。本体の画面解像度自体は1920×1080度。最大リフレッシュレートが120 Hz。別ジャンルではあるもののMR系デバイスのMeta Quest 3(解像度:4,128 × 2,208度、最大リフレッシュレート120Hz)などと比較すると、どうしても見劣りします。ただ、映像がチラついたり、細かい文字がぼやけたりといったことは無く、マイクロOLED(有機ELディスプレイ)を採用しているためか、発色がよく、映像がくっきりしている印象です。試しにYouTubeを観てみましたが、映像のラグがなく、滑らかに感じられました。
明確な弱点となっているのが視野の狭さです。表示できるスクリーン自体は最大367インチですが、デバイスの視野角自体は50度のため、単純に設定で画面を大きくしただけでは、映像全体が視界に入り切らないことがあります。特に「ウルトラワイドスクリーンモード」という一番広いモードの状態では、首を大きく動かさなければ画面を見渡せないことに注意です。
スクリーン全体を入り切らせるためには、画面サイズと視聴距離の部分をうまく噛み合うように調整する必要があります。ただし、デバイス側の画面の表示設定も調節すれば(例:YouTubeの拡大&縮小モードを活用するなど)、強引ですが、どうにか見え方を合わせるといった方法もあります。
いずれにせよ、ホームシアターのような巨大スクリーンを体感できるというものではなく、PCやスマホ画面を大きく見るのに丁度いい大きさと視野の広さといった印象です。ただ、これほど軽量なデバイスで、そこそこの大きさのスクリーンが出せるのであれば、申し分ないと言えるでしょう。
3Dof機能はオンの状態のままが楽
「XREAL One」の最大の特徴が、デバイス単体での3Dof機能です。3Dof機能は一般的に、ユーザーの頭の傾きや方向を認識し、それに追従するように映像を調整してくれるというものです。これまでの「XREAL」シリーズのデバイスは、単体では画面を表示する際に、一方向に固定したかたちでのみ表示していました。そのため、頭をふったり傾けたりしても、画面がそれに合わせて動きませんでした。そのため、「Nebula」という専用アプリをインストールする必要があったり、外部デバイスとして「XREAL Beam Pro」を中継したりとややこしい状況でした。(※XREAL Air 2 Ultraは、単体で6Dof機能に対応しており、外部デバイスは不要でした)。しかし、なんと「XREAL One」では「XREAL X1 チップ」を搭載したことで、補完用のデバイスやアプリ不要で3Dof機能を利用可能になったのです。
試してみたところ、この機能は、かなり良好です。先述したように「XREAL One」の視野角はそこまで広くないので、大型画面で固定状態にしておくと、少し首を傾けただけで端のほうが見えなくなることがあるのですが、3Dof機能をオンのままにしておけば大丈夫です。自分の見ている方向に常に画面がついてきてくれる上、全体を捉えやすくなっています。常時使う際は、オンのままで良いと思います。
大きなメリットは、いつもよりも姿勢が良くなりそうということ。スマホやノートPCでの作業では、ついつい下を向いて作業に没頭してしまい、首と肩に大きな負担を与えがちですが、この機能を使った状態であれば、少し頭を上げたままでもスクリーンが見られるので、身体が楽です。姿勢の悪さで困っているユーザーにも良さそうです(※ウルトラワイドスクリーン状態では、この機能を利用できません)。
他の空間コンピュータ・MR関連デバイスと比べると、最適解は何か?
著者は、普段仕事場ではノートPCに空間コンピュータのApple Vision ProやMRヘッドセットのMeta Quest 3を接続した状態で作業しています。「XREAL One」は、現実の景色をグラス越しに見られるARデバイスに区分されますが、「機材を装着して仕事や作業をできる」点で、上記の3つは共通している部分があります。
これら3つを比較して、どれが一番作業にオススメなのかを考えたのですが、正直どれも一長一短で「絶対にこれ!」と決められません。
体験の快適さ、グラフィックの美しさで言えば、圧倒的に「Apple Vision Pro」です。何よりバーチャル・ディスプレイを大画面で映し出せる上、自分の好きな場所にスクリーンを自由に設置できるのが魅力。空間全体をフル活用できる点で、現状これに勝るものは無いでしょう。ただし、そもそもデバイスが高額(¥599,800)で、なかなか手が出せないのが難点。その高額さ故に、外に持ち出して気軽に使うといったこともためらわれます。また重量が約600gほどあり、長時間使っていると頭を支える首元が疲れてくるのもデメリットです。また、そもそもMacとしか同期できないので(※「Immersed」アプリなどApple非公式のアプリを除けば)、Windows PCを使っているユーザーは一緒に使うことができません。
「Meta Quest 3(3S含む)」は、グラフィックや性能で言えば「Apple Vision Pro」に劣るものの、仕事をする用途にはかなり活用できる印象です。Windows11以降のPCであれば、Quest 3を装着して画面を見つめるだけでPC画面と同期を完了でき、最大3枚までのマルチモニターにも対応。繰り返されるアップデートで仕事に利用しやすくなっています。価格も手に届く範囲のため(Quest 3:81,400円、Quest 3S:48,400円)、現状の最適解と言いたいところですが、デフォルトの状態では装着感がイマイチ(別売のストラップの購入を推奨)なのが気になるポイント。重量は約515gで、長時間使用すると、どうしても首と肩が疲れてきます。
「XREAL One」は、上記ふたつと比べれば圧倒的に気軽です。今回のレビューのために約半日ほど使ってみましたが、少なくとも首・肩の負担はかなり少なく感じられます。着脱の手間もなく、ケーブルを挿せば間もなく起動できる点も大きなメリット。試しに、iPhoneとBluetoothキーボード、XREAL Oneという、かなりミニマムな構成で作業を試してみましたが(軽作業であれば)これだけで完結します。作業できるスペースが狭いことにお悩みであれば、間違いなく選択肢のひとつとして、おすすめしたいところです。
また、電車で着用してYouTubeを使用する用途も試してみましたが、スマホで見るよりもリッチ感がありますし、なにより周りから変な顔でジロジロ見られることがありませんでした(※著者の主観です。本当は見られていたかもしれません)。Apple Vision ProやMeta Quest 3を移動中に使うと、どうしても目立ちますが、ちょっと大きめのサングラスといったデザインなので、人前での使用ハードルが低い印象です。
ただし、実際の作業のしやすさ、映像の見やすさに関しては、上記ふたつのデバイスが圧倒的に上だと感じられました。機能的にも性能的にも、「空間全体を使って作業する」といった用途では、まだまだ足りない要素が多くあると思います。「手軽な使いやすさ」をとるか「性能の良さ」をとるかは、ユーザーの仕事環境や生活サイクルを踏まえて選択したほうが良いでしょう。
結論として、メガネ型の軽量なデバイスを手軽に使ってみたいなら「XREAL One」をおすすめできます。現状、メガネ型のデバイス全体では(開発者・ビジネス向けの機器はあるものの)一般ユーザーの気軽に使える種類が少なく、海外ストアには日本での使用を想定していないものも混じっている印象です。国内家電量販店でも購入でき、なおかつ価格も比較的お手軽というのも、大きなポイントに思いました。
今後、他社から「XREAL One」を上回るデバイスが出てくるのか、それとも、新規デバイスとして予告されている「XREAL One Pro」で、より上質な映像体験ができるのか、現時点では不明ですが、現在のところでは、今の作業環境や使う際のシチュエーションなどを想定したうえで、自分にとっての最適解を模索してみてください。