Meta Quest 3/3Sでは、VRゲームやメタバースだけでなく、Webサイトを閲覧したり、SNSをチェックしたり、動画を視聴したりと、スマホやPCで扱うような一般的な作業も可能となっています。また、ソフトウェアのアップデート(V72)以降、PCとの同期がより簡単になり、空間上に自分のPC映像を大画面&複数ディスプレイ状態で表示できるようになりました。
気になるのは「VR/MRで作業すれば、仕事は捗るのか?」ということ。MoguLive編集部で実際に試してみたところ、メリットと課題の両方が見えてきたので、紹介します。
Meta Quest 3S単体でも作業は可能。しかし致命的な課題も
そもそもMeta Quest 3S単体(PCに接続しない状態)であっても、VR空間の中に、複数のウィンドウを設置して、作業できる環境となっています。自分の好きな位置に好きな大きさでウィンドウを設置できるのがポイント(最大6枚)。左にSNS画面を置いて、右側でYouTubeを流し、中央画面にドキュメントを設置する……というような使い方も可能です。
またMRモードを利用すれば、現実の景色を見ながらウィンドウも見られるので、機能的には、紙の資料を見たり、誰かと対面で喋ったりしながらの作業もできます。MicrosoftのWordやExceなどlの公式アプリもすでにリリースされており、ブラウザ上からであれば、Googleの各種サービスも利用できるため、仕事できる環境はある程度整っているといえるでしょう。
しかし、課題もあります。それはキーボードです。Meta Questに搭載のバーチャルなキーボードはまだまだタッチ精度が物理キーボードよりも精確ではなく、使い勝手も正直良くはありません。ちょっとした検索やパスワード入力などでは問題ありませんが、長時間のキーボード作業には対応しているとは言えません。
また、Meta Quest 3SはBluetooth接続で現実側のキーボード単体と接続も可能ですが、ここにも致命的な欠点があります。それは現状のMeta Quest 3Sは現実側のキーボードの日本語入力変換に対応していないということです。いくつか非公式な抜け道的な方法もあるのですが、実装の手順が難しい上に非公式な方法となるので、推奨はできません。
また、基本的な仕事用アプリやサービスはそろっているものの、より専門的なアプリ(プログラミングツールやイラスト、映像制作ツールなど)については、まだまだ種類が少ない状況です。ブラウザ対応のサービスであっても、Meta独自のブラウザが対応していないといったケースもあり、痒い所に手が届かない状態です。
つまり、現状では「Meta Quest 3Sだけで仕事が完結する」のは非常に困難だと言わざるを得ません。今後のアップデートで改善していくのを待ちたいところです。
Meta QuestとPC接続する「Mixed Reality Link」が現状最善手
現状、Meta Questを作業用デバイスとして活用するなら、最適解はPCとの同期です。ヘッドセットの画面上にPCのウィンドウを表示させれば、装着したまま作業可能です。キーボードはPC付属のものをそのまま利用できるため、上記のような日本語入力変換の問題も起こりません。
「PCがあるなら、わざわざVRヘッドセットを使う理由はないのでは?」と思うかもしれません。しかし、普段ノートPCを使っているのであれば一考の余地あり。VR/MR上でPCのウィンドウを大型スクリーンに表示でき、別窓にして複数枚を空間に設置可能という点がメリットになり得ます。また、いつもディスプレイを覗き込むような姿勢をして肩・首コリに悩んでいる(著者のような)ユーザーにとっては、VR上でのスクリーンの自由配置はかなり楽に感じられるはず。もちろん、VRヘッドセットを長時間使用することによる重さの不快感はありますが、そのデメリットを考慮した上でも、一度試してみる価値はあると思います。
実際、この原稿は、Meta Quest 3を装着した状態のままで執筆していますが、いつもより集中できている気がします。過去にMeta社へのインタビューで、Quest 3を装着して学校の勉強をしているという学生の事例が紹介され驚いたことがありますが、今なら何となくその学生の気持ちが分かります。一度装着すると、いつもより「作業しなくては」というきもちになるのです。
このMeta Quest 3/3SとPCの接続方法については、複数の方法がありますが、現状の最善種は、公式アプリ「Mixed Reality Link (Preview)」を利用した方法です。Meta Questのソフトウェアのアップデートが「V72」以降であれば、誰でも気軽に使用できる上、他のやり方と比べて、明らかに接続が簡単だからです(※現状Windows11限定の機能です)。
やり方を紹介します。まずはアプリ「Mixed Reality Link(Preview)」をPC側にインストールしましょう(Windows11の最小要件はこちら)。そのうえで、Meta Quest側の設定を開き、「試験中」を選択します。
「Microsoft Mixed Reality LinkでPCにペアリング」というボタンをオンにします。完了したら、PC側のアプリを起動し、表示されたQRコードをヘッドセットで“見つめる”だけ。しばらく見つめるとボタンが表示されるので、選択すれば、PCとの同期は完了です。うまくいかない場合は、こちらのサイトのQ&Aコーナーを確認してみてください。
この機能を使えば、最大3枚までPCウィンドウを複数枚設置可能(画面右下にある設定ボタンで調整できます)。ウィンドウの大きさも自由に変えられる上、湾曲型ディスプレイにしたり、MRで表示される周囲の景色の明るさを調整したりもできます。ちなみにMeta Quest側にあるアプリ(非VR)を立ち上げたまま、PC作業をすることも一応できます。
再接続する際も、再びアプリ側のQRコードを見つめるだけで完了するので、あまり手間を感じません。そもそも長時間使用していても、接続が切れることはほぼありませんでした。何より、キーボード入力のラグがほぼ無く、快適に操作できるのが嬉しいところ。難点をいえば、Quest 3/3Sのバッテリーはそこまで長くない(2、3時間程度)ので、充電バッテリーを用意しておくか、電源ケーブルに接続して使用する必要があること。また、Questシリーズはデフォルト状態では装着感がそこまで良くないので、公式のエリートストラップかサードパーティ製のストラップに付け替えるのをおすすめします。なお、作業時の文字の見やすさについては、Meta Quest 3Sよりも、Meta Quest 3の方が良い印象です。
他にも「Virtual Desktop」などのアプリを利用したり、公式の「Quest Link」を利用したりといった方法もありますが、現状(Windows11ユーザーなら)最も手軽に使える方法は「Mixed Reality Link(Preview)」のものとなります。Windows11以外のPCであれば、「Immersed」というアプリが、上記とほぼ同じ機能を有しているため、おすすめできます。
ちなみに、空間コンピュータ「Apple Vision Pro」やスマートグラス「XREAL」シリーズなど、PCと同期して空間上にウィンドウを表示できるデバイスは他にも複数あります。それぞれのデバイスによって、作業のしやすさ、捗りやすさは大きく変わってくる印象です(画面の表示の美しさでは「Apple Vision Pro」が圧倒的ですが、高額すぎるのが難点、軽量で気軽に扱いやすいのは「XREAL」シリーズですが、視野角の広さはMeta Questシリーズに劣ります。細かい性能差を比較しても、現状はどのデバイスも一長一短で、最適解はまだ無いという印象です)。
仕事の効率化・作業用に購入する需要はまだ低いかもしれませんが、Meta Quest 3/3Sをすでに所持しているのであれば、一度試してみて欲しいところです。著者はこの原稿をデバイスを装着したまま書き終えたことも付記しておきます。