生きた人間として、襲い掛かるモンスターたちから逃げ延びる――そんな、ホラーゲームの“原則”を、ある意味反転させた、一風変わったVRホラーが登場しました。
ゲームの名前は「Wraith: The Oblivion – Afterlife」。主人公エド(プレイヤー)は、死後にさまよえる亡霊「レイス」となって、自身の死因を解き明かすため、不気味極まりない邸宅を探索していくのです。
「Wraith: The Oblivion – Afterlife」は、あの「Apex Legends」に名前が似すぎていることで“バズッた”「Apex Construct」を開発した、Fast Travel Gamesが手掛けたゲーム。
本作は、TRPGの「ワールド・オブ・ダークネス」ユニバースに含まれる作品で、「Vampire: The Masquerade」などと世界観をシェアしています。音声は英語ですが、日本語字幕に対応。英語が苦手でも問題なくプレイできます。
いきなり表示される享年
エドは、ハリウッドの大御所ハワード・バークレイの館で行われる交霊会に、妻のレイチェルと共に訪れたものの、そこで何らかの異変が発生し死亡してしまった模様。開始直後には、しっかりと享年まで表示されてしまう始末。
ゲームを始めると、いかにも“あの世”な場所からスタート。チュートリアル面に相当する場所で、移動やアイテムの拾い方など、基本的な操作を学ぶことができます。
アイテムの“念力キャッチ”には、ややクセがあるので、ここで慣れておくといいでしょう(手首を動かしてキャッチします)。
なお、今回プレイしたのは、Oculus Quest版(レビューではQuest 2を使用)ですが、同デバイス向けの作品としては、グラフィックは“かなりの出来栄え。特に光の描写は美しく、一部のPCVRゲームに迫るレベルです。
圧迫感バリバリな邸宅内部
操作を学び終わると、バークレイ邸の玄関にエドは移動。ここからゲーム本編が本格的にスタートします。館は、ホールが“ハブ”に近い構造になっており、そこから各部屋に移動していくことに。
邸宅の内部はモダンな作り。内装もオシャレですが、荒れて、人が忽然と消えてしまったような各部屋の状態は、“何か”が起こったことを強く感じさせます。
いきなりドアが開いたり、物が落ちたりといった、いかにもな演出もあるのですが、特筆すべきは、邸宅全体に漂う異様なまでの圧迫感。明るい部屋でも、言葉にし難い“圧”がプレイヤーに襲い掛かります。筆者の場合、新しい部屋に入る前に、毎回深呼吸して覚悟を決める準備が必要でした…。
この圧迫感ですが、個人的には、Questの描写能力の限界が、一役買っていると考えます。最新作よりも、一昔前のホラーゲームが怖い…と言えば伝わるでしょうか。
プレイヤーにプレッシャーをかけ続ける仕組みはとにかく徹底しており、効果音やBGMは、イヤらしいタイミングで鳴りまくり。落ち着こうと試みても、なかなか緊張から解放してくれません。
メリハリを生み出すモンスター要素
要所では、プレイヤーを追跡してくる悪霊的な存在「スペクター」が登場。銃や近接戦闘といった対抗手段はないので、周囲に落ちているものを投げて相手を誘導したり、逃げ回って対処します。
邸宅の圧迫感が静的な恐怖だとすれば、「スペクター」は動的な恐怖を生み出すものと評せるでしょう。ホラーが怖くなくなる原因のひとつに、“パターン化”がありますが、本作では、これら2つがメリハリを生み出しており、なかなかに遊び手を翻弄してくれます。
(最初に遭遇するスペクター、これぐらいなら逃げるのも簡単なのですが…)
物語を追うのは、なかなか大変
ストーリーは基本的に、登場人物たちが来館後、どのような行動を行ったのかを“追憶”する形で進行します。
邸宅の各所では、黒いモヤのようなものがしばしば出現し、来館者たちの過去の行動や会話などが“再生”される仕組み。様々な話が聞けますが、バックログなどは存在しないので、すべての会話を追いたい場合、集中して話を聞く必要があります。
(来館者たちの会話。いきなり始まるので、音に驚かされることも)
不意に話が聞こえてくるのは面白いのですが、ビビリまくっている状態では、色々話されても情報が頭に入ってこないことがしばしば。あとは、会話時に登場人物の名前が表示されないのも残念ポイント。特に序盤は、キャラクターの名前と容姿を、脳内で一致させるのが大変でした。
固有名詞なども割と登場するため、用語集やジャーナル、登場人物リストなど、状況を分かりやすく整理してくれるシステムがもう少しあれば、より物語に入り込みやすかったと感じました。
なお、過去の記憶のほかに、エドには復活時から、謎めいた囁き声が彼を導くように語りかけてきます。その正体(自称)は、割と早めに判明するのですが、ここでは、なかなかひねったキャラクター…と評するだけに留めておきます。
総評:ホラー好きのためのホラーゲーム
「Wraith: The Oblivion – Afterlife」は、環境的な恐ろしさと、心霊/モンスターホラーが組み合わさった、特濃のホラーゲームです。ドッキリ演出を乱発せず、プレイヤーを追い込んでいく作りは、恐怖という要素に対する、開発者の自信を感じます。
正直なところ、レビュー執筆という仕事でなければ、すぐにプレイを止めたかったぐらい怖かったというのが本音…。「怖い、怖い、勘弁して」というワードがプレイ中、ずっと脳裏で回転していました。
(一部の会話は、カメラで撮影することで再生されるギミックも)
そのようなワケで、ホラー初心者や、(筆者のように)恐怖耐性低めの人には、本作はあまりオススメできませんが、慣れている人や、骨太のホラーコンテンツを求めている方にとっては、確かな恐怖と対面できる良質な作品となるでしょう。
「Wraith: The Oblivion – Afterlife」のOculus Quest版は、Oculus公式ストアで2,990円(税込)で販売中。2021年5月にはPCVR版も発売予定です。
タイトル |
Wraith: The Oblivion – Afterlife |
開発元・パブリッシャー |
Fast Travel Games |
対応VRヘッドセット |
Oculus Quest(Quest 2)、Oculus Rift、HTC VIVE、VALVE INDEXなど |
価格(税込) |
2,990円(Quest版) |
公式サイト |
(執筆:井文)