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VR動画 2022.05.09

【VR映画ガイド第99回】ARを使った飛び出す絵本「Acqua Alta」

絵本とARを組み合わせることによって新たな物語世界を作り出す

今までこの連載ではVRやMRの作品は紹介してきましたが、今回は初めてAR作品をご紹介します。MRとARの違いは諸説あって、きちんとした定義ができていないというのは以前の連載でも書かせていただきました。

ここではARが現実世界に付加情報を重ねて、現実を拡張するものとします。そう考えると、今回紹介する「Acqua Alta – Crossing the Mirror」は、現実にある絵本とARを組み合わせ、新たな物語世界を作り出しています。

タイトルの”Acqua Alta”とはイタリアのベネツィアで見られる高潮現象を意味しており、その自然現象をモチーフにした作品です。男女のカップルが真っ白い家で平穏に暮らしているところから始まります。

しかし、大雨によって彼らの生活は一変します。増水した水によって彼らの家が海の中に沈んでしまいます。女性は足を滑らせてしまい海の中に消えてしまいます。残された男性は女性を探すために海の中に飛び込み様々な不思議な体験をします。

「Acqua Alta – Crossing the Mirror」は、空間演出家のClaire Bardainne氏とコンピューターサイエンティストのAdrien Mondot氏の2人が2011年に設立したAdrien M & Claire B社の制作です。第24回文化庁メディア芸術祭のアート部門で優秀賞をとるなど、評価の高い作品です。

オススメのポイント

1.ポップアップ絵本とARの組み合わせ

この作品の1番の魅力は、やはりポップアップ絵本という物理的な物とARを組み合わせていることだと思います。ポップアップ絵本自体、通常の平たい絵本をポップアップすることによって拡張したものだと考えられますが、「Acqua Alta – Crossing The Mirror」ではARによって更に拡張された表現になり、驚かされます。

立体的に水中を表現したり、絵本のページを超えた巨人を出現させたり、紙媒体の絵本ではできない光と影が装飾されていたりと、今までの絵本を超えた世界を体験できます。

制作したClaire Bardainne氏とAdrien Mondot氏が「現実の世界とARの空間が完全に同期して初めて、魔法がかかるのです。」と言っており、絵本とデジタル表現や音楽が重なると、物理的な絵本とデジタル表現の境界線がなくなます。それにより、今まで見たことのない世界に入り込めました。

2.ARで表現するステージパフォーマンス

物語に出てくる男女のカップルのアニメーションは、実際のパフォーマーの動きをモーションキャプチャで取ることで制作されています。

これにより、動きがとても滑らかで、繊細な動きまで細かく表現できています。絵本の上で見るリアルな動きは不思議な感覚でした。また絵本の中でポップアップする階段や家の周辺で行われるパフォーマンスに関しても、ちゃんとその高低差に合わせた動きをしており、デジタル部分のパフォーマーの動きや立ち位置が物理的なポップアップ部分にズレることなく表現されています。

モーションキャプチャを撮影する際に実物大の木製の家や階段を作って、そこで緻密な動きの確認をして制作を行っているのが大きな要因のようです。少しでもパフォーマーがポップアップの家や階段に埋もれてしまうと一気に物語が覚めてしまう恐れがあるため、かなり計算して制作されていることがわかります。

3.新しい表現の探求

制作者のClaire Bardainne氏とAdrien Mondot氏は、パフォーマンスアートとデジタルアートを組み合わせて新しい表現に挑戦しています。Acqua Altaに関しては、VR用に制作した「Acqua Alta – Tête-à-tête」や実際の舞台用に制作した「Acqua Alta – Ink black」と同じテーマで3つの違う表現方法に挑戦しています。

ポップアップ絵本とARを組み合わせた拡張現実で見る「Acqua Alta – Crossing the mirror」。VRヘッドセットで舞台のパフォーマンスを見るような感覚で体験できる「Acqua Alta – Tête-à-tête」。そして、舞台上に透過型のスクリーンをボックス型に設置して、その中でパフォーマンスを行う「Acqua Alta – Ink black」。まさに実際の舞台で行うパフォーマンスアートとデジタルアートの融合に挑戦しています。

デジタルアートはプログラミングされた温度感の無い表現のように思われがちですが、Adrien M & Claire Bの表現するものは、無機質で冷たく感じてしまうデジタル表現の中に、人の血が通った温もりを感じさせる表現を目指しているように感じました。

今回紹介した「Acqua Alta – Crossing the mirror」も革新的で驚かされましたが、VR版の「Acqua Alta – Tête-à-tête」や舞台版の「Acqua Alta – Ink black」も、ぜひ体験してみたいところ。今後の彼らの表現に目が離せません。

作品データ

タイトル

Acqua Alta – Crossing the Mirror

ジャンル

アニメーション

監督

Adrien M & Claire B

制作年

2019年

制作国

フランス

本編尺

体験者による

視聴が可能な場所

Web:https://www.am-cb.net/projets/acqua-alta-popup-book

Trailer
https://vimeo.com/amcb/aqa-book-demo

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