気軽な作品だが、制作は本格的
海外の映画祭で評価されるVR映画作品は深いテーマの作品や解釈が難しいアート作品が多いのですが、今回は気軽に体験できるコメディタッチのラブストーリー「Marco & Polo Go Round」を紹介します。
主人公マルコは、彼の誕生日の朝、彼女であるポーロが作ってくれた台所のテーブルにあるケーキを発見します。しかし、それと同時にキッチンのありとあらゆるものが、テープやロープで補強されているという異常事態にも気づいてしまいます。マルコとポーロにとって特別な美しい朝は、一転世界の崩壊へと進んでいき……。
「気軽に体験できる」とは言いつつも、この作品は様々な最新技術を使って制作されています。アーティストのデイヴィッド・ホックニーにインスパイアされ、その世界観を作り出すためにモデリングとテクスチャーに膨大な作業時間がかけられています。その結果、体験者は絵画の中に入ったかのような感覚になるはずです。
監督は2015年にSamsung Mobileの広告でカンヌライオンズを受賞し、その後も様々な広告やミュージックビデオで独特の世界観が評価をされているBenjamin Steiger Levine監督です。
オススメのポイント
1. 独特のアニメーション表現
この作品で最も目を惹くのが、通常のアニメーション作品と少し違う絵画的な雰囲気だと思います。前述したようにアートスタイルに関してはイギリス出身のアーティスト、デイヴィッド・ホックニーに影響を受けているそうです。デイヴィッド・ホックニーはイギリスを代表する芸術家で、1960年代のポップ・アートムーブメントに大きく貢献した人物として有名です。作品は明るい華やかな色調のものが多く、2010年のiPad発売時より、いち早くドローイングツールとして使用することになってからもその世界観は大きく変わりません。
「Marco & Polo Go Round」はデイヴィッド・ホックニーの作品のように明るく華やかな色調の絵画的な表現で描かれています。まるで一つの“動く”絵画の世界に入り込んだ感覚で、作品を体験できます。
2. 最新技術を使った挑戦的なVR映像表現
パッと見た感じでは手描きのアニメーション作品かと思うのですが、この作品ではボリュメトリックキャプチャやモーションキャプチャ、物理ベース流体シミュレーション(3DCG)などの最新技術を使って制作されています。
それによりマルコとポーロの動きや表情がとてもリアルになります。今回使われている絵画的な表現にもマッチしていました。また2人の関係が壊れると同時に世界の重力がおかしくなっていくのですが、その時の液体や空気の流れを物理ベース流体シミュレーション(3DCG)を使うことでリアルさが増しています。
3. ストーリーと設定のユニークな関係性
「Marco & Polo Go Round」の1番の魅力はBenjamin Steiger Levine監督のユニークな視点だと思います。
この企画を考える時に1番最初に浮かんだのが、監督自身の最初のガールフレンドと共有していたキッチンだったそうです。そこから着想を得て、アイデアを膨らませて、最終的にこの作品を作りあげた監督の発想やアイデアの展開の仕方は興味深いです。
彼氏の浮気が原因でカップルが別れる話を描くのであればよく聞くストーリーですが、2人の関係性が壊れるのと同時に世界の重力も崩壊していくという演出への飛躍が、とてもユニークで面白いのです。
話を聞くだけだと突拍子もない、よくわからない演出だと思えてしまうかもしれません。しかし、2人の関係性の崩壊と重力の崩壊が絶妙に絡み合い、また絵画的な独特な世界観もあって、なんとも言えない魅力が作品からあふれています。
作品データ
タイトル |
Marco & Polo Go Round |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Benjamin Steiger Levine |
制作年 |
2021年 |
制作国 |
カナダ、ベルギー |
本編尺 |
約14分 |
視聴が可能な場所 |
Viveport:https://www.viveport.com/54ac8fbd-de5e-498d-b046-b0a1137e58fb |
Trailer
Marco & Polo Go Round – Trailer from Item 7 on Vimeo.
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