covid-19で静まり返った街並みの記録
「When We Stayed Home」はcovid-19による外出禁止要請(外出自粛要請)が出されたパリ、東京、ヴェニス、エルサレムの4つの都市を撮影したドキュメンタリーシリーズです。UNESCO世界遺産機構のサポートにより、各都市の歴史的瞬間を後世に遺すことをコンセプトに作られています。
パリ編ではセーヌ川沿いの書店の店主、東京編では女性寿司職人、ヴェニス編では運河のゴンドラの漕ぎ手、エルサレム編では写真屋と、それぞれの都市の地元の人たちの声を通して、静まり返った街並みの様子を伝えています。
今回取り上げる東京編では、女性の寿司職人が2020年4月の東京の様子を語りつつ、人がいなくなった渋谷のスクランブル交差点や浅草、築地、東京駅など東京の街並みを映しています。
この「When We Stayed Home」のシリーズは、2020年エミー賞のOutstanding Original Interactive Program部門にノミネートされています。
オススメのポイント
1. 後世に残す記録
VRの重要な機能の1つが、その時の空間の記録だということは間違いないと思います。没入感、臨場感の大きい体験型の映像であることも、もちろんなのですが、空間そのものをフレームなしで持ってくることは現状、VRにしかできません。
またフレームがある場合、どこを切り取るかという撮影者、編集者の意思が多く介在します。一方で、場所や時間の切り取りはありますが、フレームのないVRはよりありのままの現実感が強くなります。
VRがドキュメンタリーと相性がいい点はここにもあるでしょう。世界的に未曾有の事態であるcovid-19で静まり返った街並みをVRで記録し、後世に残すというのことに価値のあることだと思います。
UNESCO世界遺産機構のサポートを受けているというのも頷けます。そしてあの時、渋谷のスクランブル交差点にはこれだけ人がいなかったという事実を残すメディアとして、一望でそれを伝えることができるVRは最適なものと言えます。
2. 通常の街並みとの比較
今回、通常の街並みと静まり返った街並みを並べることにより、そのコントラストが強調され、静まり返った街並みが異常な状態であるということが明確にわかります。
この2つを並列させるアイデアは、当初から想定されていたものではなく、最初に撮影したパリ編を作っていく過程で、通常の街並みがどのようなものであるかを示さなければならないことに気づいたということです。
この気づきから通常の街並みのショットをVRプロダクションなどから集め、それを確保した後に同じカメラ配置のものを撮影するようにしたそうです。東京編では冒頭の渋谷のスクランブル交差点でこの通常の街並みと静まり返った街並みの比較が効果的に行われています。
最初に通常の街並みを知ることで、covid-19によって驚くほど人がいなくなったということがよく理解できます。
3. 撮影ガイドライン
4つの都市を撮影するにあたって、人の移動ができない状況だったこともあり、リモートで各都市の撮影クルーに指示して撮影を進めたそうです。その中で、明確で一貫した映像になるガイドラインを共有する必要があったといいます。
それは、道路の中心にカメラを構える、橋からの角度、カメラで影を落とさないような工夫、カメラから被写体までの適切な距離など細かいものまで、ルールを決めていったとインタビューで語られています。
その点を意識しながらまた映像を見て、ルールを見つけてみるのも面白い見方だと思います。また、パリ、東京、ヴェニス、エルサレムとそれぞれの都市を見比べて違いを探してみるのも、それぞれの都市の特徴がわかり、興味深いです。
作品データ
タイトル |
When We Stayed Home – Tokyo |
ジャンル |
ドキュメンタリー |
監督 |
Chloé Rochereuil |
制作年 |
2020年 |
制作国 |
フランス |
本編尺 |
3分18秒 |
視聴が可能な場所 |
Oculus TV |
この連載では取り上げてほしいVR映画作品を募集しております。
自薦他薦は問いません。オススメ作品がありましたら下記問い合わせ先まで送ってください。よろしくお願いします。
VR映画ガイドお問い合わせ:[email protected]