数々の映画祭やイベントで高い評価を得た名作
これまでベネツィア国際映画祭やルミエール・ジャパン・アワードなどで高い評価を得て、2021年のカンヌ国際映画祭併設マーケット「Marché du Film」のXR部門「Cannes XR」Veer Future Award2021にもノミネートした「BEAT」を紹介します。
主人公は錆びて動かなくなってしまったロボット、マルボロ。彼はユーザーの「心臓の鼓動」によって命が吹き込まれ、動き始めます。そして、もう一体のロボット・カクボロに出会い、相手の気持ちを思いやる心に気づき始めます……。
監督は、今や日本を代表するVR映画監督となった伊東ケイスケ監督です。今までは映画祭等のイベント以外で体験できなかった「Beat」ですが、VIVEPORTでの販売を開始しました。今回の販売に向けて伊東監督は「今作の主人公:マルボロくんとたくさんの人に出会ってもらえる機会にワクワクしています!ぜひVRの世界で彼と仲良くしてもらえたら嬉しいです。」と語っています。
オススメのポイント
1. セリフのない物語
セリフなしでストーリーテリングの作品を制作するのはかなり困難な作業です。しかも深いテーマや感情まで描くのはかなりの技術力が必要でしょう。
「Beat」では全編セリフがなく、ロボットからは無機質な機械音しか聞こえてきません。ですが最後まで作品を体験し終わると何故か心を動かされる作品になっていることに驚かされます。
言葉がないからなのか、生き生きとしたロボットたちの表情や感情を表すような表現豊かな音楽によって自然とこの作品世界に没入していきます。
また何よりこの作品の中で一番重要な心臓の鼓動が静かに響き渡り、自分自身の心臓と向き合うような不思議な体験をすることができます。
2. 高いCGアニメーションクオリティ
伊東監督の前作「Feather」と同様に、「BEAT」も丁寧に描かれたCGアニメーションがこの作品の大きな見どころのひとつです。
ロボットの錆びた感じや、ボロのプロペラ飛行機、薄暗い中の古びた工場の雰囲気など細部まで描かれた画面に伊東監督の拘りを感じます。このディティールもあり、冒頭色味の抑えられた古びた工場の真ん中に立った時、一気に「BEAT」の世界に引き込まれます。
一方で、体験者が手に持つ心臓やそこから出るパーティクル、そしてクライマックスの花火は古くて錆びた雰囲気とは対称的にポップな色使いで表現されています。このパーティクルを見ているだけでもワクワクしてきます。
止まっていた世界と、体験者の鼓動によって動き出し、何か素敵なことが起こるかもしれない世界を対称的な表現をすることで巧みに描いています。
3. 体験者の心臓の鼓動を活かしたVR映画
この作品の1つのキーポイントは心臓の鼓動をハプティクス技術(振動で触覚を擬似的に作り出す技術)を用い、物語を動かすインタラクションとして使用していることでしょう。
今回販売されるVIVEPORT版ではハートを手に持った時、鼓動を体感できるように事前に記録された心臓の鼓動のデータを使ってコントローラーが振動するようになっているのですが、実は「BEAT」にはもう1つ別のバージョンがあります。
別バージョンでは、コントローラーの代わりに特別な触覚デバイス「心臓ボックス」を使うことで、体験者自身の心臓の鼓動を感じながら作品を体感することができます。聴診器を使って体験者自身の鼓動を取得し、体験者が手に持つ「心臓ボックス」に伝わり、振動となって鼓動を伝えます。
また作品内のハートのアニメーションや心音とリアルタイムに同期させ、自分の鼓動を体感し、さらには鼓動と共に点滅するハートを手に持って、自分の心音を聞きながら、まさに自分の心臓と向き合いながら物語を進めるVR映画作品になっています。
私も自分の鼓動で錆びてボロボロの主人公マルボロが動き出した時なんともいえない愛情が湧いてきました。そして最後のシーンはスクリーン映画では味わったことのない感情がありました。
作品データ
タイトル |
BEAT |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
伊東ケイスケ |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
約12分 |
制作国 |
日本 |
視聴が可能な場所 |
VIVEPORT: |
Trailer
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