有名映画祭にも出展された注目の作品
「We Live Here」は、昨年のベネツィア国際映画祭のVR部門Venice VR Expandedでのノミネートを皮切りにトライベッカ映画祭などにもノミネートしている注目の作品です。
内容は、ロサンゼルスの公園にテントを建てて、3年近く暮らしている59歳の女性、ロッキーの話です。体験者はロッキーの家の中で彼女の人生を知ることができます。ある日、ロッキーは公園から追い出されてしまいます。ロッキーの唯一の住居を奪われる瞬間を目の当たりにした時、あなたは何を思うでしょうか。
また今作は、OculusのVR for Goodプロジェクトで生まれました。Oculus VR for GoodとはVRの様々なクリエイターやNPO団体を結びつけ、VRの共感性を利用したストーリテリングで、世界中の人々がお互いをより深く理解できるようにしようというプロジェクトです。これまでのこのプロジェクトでは「The Key」、「Home After War」、「Step to the Line」などの世界の映画祭で高い評価を得ている作品が多数あります。
オススメのポイント
1. 360°映像、アニメーション、フォトグラメトリーなどの様々な映像演出
この作品では様々な映像演出が効果的に使われています。ベースは360°映像で構成されていますが、シーンごとにアニメーションやフォトグラメトリー等を使って、主人公ロッキーの人生の物語をスムーズに知ることができます。
個人的に面白いと思ったのはテント内の映像が360°映像からフォトグラメトリーに切り替わるところです。360°映像の時は受動的に周辺で行われている物語を傍観するしかできないのですが、フォトグラメトリーになると、テントの中を歩き回ることができ、色々な物にも触れられます。この演出が物語への没入をさらに高めています。
2. インタラクションの重み
体験者がラジオや日記、オルゴールなどに触れると、その瞬間に物からイメージが広がり、ロッキーの過去が語られます。ユーザーにとっては何気ない物ですが、ロッキーにとっては大切な思い出の物だということが分かってきます。
それぞれの物から語られるロッキーの思い出は、母親との楽しい思い出や学園生活、結婚の思い出、そして小さな家に暮らすことだった夢など、彼女も最初からテント暮らしをしていたわけではなく、私たちと変わらない人生を送っていたことがわかります。
それはもしかして、今後ユーザーも同じような境遇に立つかもしれないというメッセージにも読み取れます。
3. 体験した後こそが重要となる作品
私はこの作品を昨年のベネツィア国際映画祭で体験しましたが(昨年のベネツィア国際映画祭はオンライン参加でした)、私にとってはとても衝撃的でした。
物語は作り物でも、過去の物でも、特別な物でもなく、実際に現在進行形で行っている真実の話です。物語の中でロッキーがテントから立ち退くように命令されている時、私はそれを傍観するだけで何もできません。自分の思い出の物をめちゃくちゃにされて、悲しそうに立ちすくむロッキーの表情を見ることしかできません。
体験をしただけで終わりの作品ではないとRose Troche監督は言います。ロッキーの物語を知った後、自分がどう変われるかが重要なのです。
作品データ
タイトル |
We Live Here |
ジャンル |
ドキュメンタリー |
監督 |
Rose Troche |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
12分 |
制作国 |
アメリカ |
体験できるサイト |
Trailer
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