映画祭で高い評価を得ているアニメーション作品
今回はアヌシー国際アニメーション映画祭やトライベッカ映画祭、ヴェネツィア国際映画祭で高い評価を得ているアニメーション作品「MINIMUM MASS」を紹介します。
ディズニーの長編アニメーションや「アバター」などの制作に関わったRaqi Syed監督と、ホビットシリーズの制作に関わったAreito Echevarria監督のVFXのスペシャリスト2人が監督をしています。またSundance New Frontier Story labなどでストーリー開発が行われています。
作品のテーマは「流産」という非常に難しいもの。自分たちの子供が別の次元で生まれていると信じるようになるカップルの悲しい物語です。
ニュージーランドのロトルア(地熱活動が活発な地域として有名)とブラックホールの不確かな世界を舞台にした20分のインタラクティブなVR映画作品です。
オススメのポイント
1. ミニチュア表現と断片化された記憶
この作品は、何度かこの連載でも取り上げてきたドールハウスのようなミニチュアサイズ演出を使っています。
ただVR演出の便宜上ミニチュアサイズの演出を使っている訳ではありません。真っ暗闇の空間のあちらこちらに、ドールハウスやジオラマのようなシーンが浮かんでは消えます。
そこでは記憶の断片のように様々な出来事が語られます。ユーザーは、その記憶の断片に触れられます。すると、ドールハウスが回転するように、物語を別の角度からのぞき見ることができます。
この演出は、今までのミニチュア演出にはなかった新しいインタラクティブなものだと思いました。
2. 現実を直視するために利用したVR
作品の中では流産がわかる瞬間や、それを抱えて生きていかなくてはならない時など、目を背けたくなるシーンがたくさんあります。
Areito Echevarria監督はこのテーマを扱うために取材をした際、現実を直視する男性が少なかったことが気になったと言います。女性、男性、子供、それぞれの気持ちを様々な視点から描けるVRの双方向性を利用して、このテーマを描きたかったそうです。
作品の中では苦楽を交互に表現していくため、なおさら痛切に感じられます。
3. 作品の中に「自分」がいることの意味とは?
作品開始からずっと、自分の手が表示されていることに違和感がありました。
作品世界の中に、自分が存在しているのだと認識させられているにも関わらず、自分の役割が分からないまま物語は進んでいきます。
途中までは「ドールハウスを動かすための自分の手」なのか、「他人事だと思わないで現実をきちんと見なさいというメッセージ」なのかと考察しながら鑑賞していました。
しかし最後に、上空の方から主人公カップルがゆっくりと自分に向かって降りてくるシーンがありました。
もしかしたら、自分は2人の元に生まれた子供だったのかもしれない。そう思うと、何とも言えない切なさに、涙が溢れそうになりました。
作品データ
タイトル |
MINIMUM MASS |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Raqi Syed, Areito Echevarria |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
約20分 |
制作国 |
ニュージーランド、フランス、アメリカ |
体験できるサイト |
Trailer
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