レオナルド・ダ・ヴィンチを通して創造の原動力としての「疑念」を探る
「IL DUBBIO. EPISODE1」は、世界で最も有名なアーティストの1人レオナルド・ダ・ヴィンチの心の中が描かれたアニメーション作品です。第77回ベネツィア国際映画祭VR部門「VENICE VR EXPANDED」やRAINDANCE Film Festival2020などのコンペティションにノミネートされています。
制作したのは、世界中の芸術家のドキュメンタリーを制作しているMatteo Lonardi監督。彼は、芸術家たちが”疑念”という感情を作品制作の重要な起点にしていると気づき、ダ・ヴィンチの作品も同様だったのではないかと考え、創造の原動力としての「疑念」について探っていきます。
オススメのポイント
1. 最小限の視覚表現とVR空間
物語はレオナルド・ダ・ヴィンチの小さなスタジオを訪ねるところから始まります。陰影のグラデーションがうまく使われ、当時の薄暗いスタジオの雰囲気が体験できます。
空間の中にあえて描かれていない部分が多いのも印象的です。不足の部分は自分のイメージによって補完されるため、より多くのことを体感できている気がしました。
監督自身は視覚表現を抑えたのは予算不足のためと言っていましたが、本当は演出的な狙いがあったのではないかと思います。
2. 深くまで考えられたインタラクション
作品の中では、レオナルド・ダ・ヴィンチのエピソードと、現代アーティスト Velasco Vitaliの2つのエピソードが描かれています。
それぞれのエピソードに象徴的なインタラクションがあり、レオナルド・ダ・ヴィンチのエピソードでは空間内の各所に置かれている蝋燭に火を灯すことでそれぞれの作品の思いや苦悩、「疑念」が語られます。
Velasco Vitaliのエピソードでは、Velasco Vitaliの作品でよく取り上げられる犬の彫刻がバーチャル空間内で再現され、彫刻が自分に向かって歩いてくる際に、その彫刻に触れられる感覚になるよう工夫されています。
2つのエピソードに共通しているのは、体験者自身がその場所にきちんと存在していると感じられるようになっていること。体験者は自分の手元を見るとオレンジ色の炎のような、魂のような光が見られます。この光が作品の中では体験者そのもので、光を動かせば物語が進むように考えられています。
3. 監督の発見から始まったVR作品
Matteo Lonardi監督は、私が2019年にイタリアのBiennale College Cinemaのワークショップを一緒に受けた仲間でした。あれから1年以上かけて、この作品が作られたのかと思うと感慨深いものがありました。
何より印象的な部分は、監督が企画の段階から多くのアーティストが抱える「疑念」に焦点を当てたことだと思います。このテーマがバーチャルリアリティで上手に表現されています。
ちょっと違った視点からアートを捉えてみる良い機会になると思います。
作品データ
タイトル |
IL DUBBIO. EPISODE1 |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Matteo Lonardi |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
7分 |
制作国 |
イタリア |
体験できるサイト |
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