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ゲーム・アプリ 2019.09.01

選ばれたのは“時代を反映した”5作品 「VRクリエイティブアワード 2019」受賞作を徹底紹介

8月25日に、VR作品コンテスト「VRクリエイティブアワード 2019」の授賞式が行われました。二次審査を通過したファイナリスト11作品の中から、最優秀をはじめとする受賞作品、5作品が選出されました。

テクノロジーがこなれてきた時に、どのような価値を新しく作り出すのかが課題

「VRクリエイティブアワード」は、今年で第5回目となるVR作品コンテストです。授賞式の冒頭で、VRコンソーシアム代表理事の藤井直敬氏は今年の作品の傾向について、「テクノロジーがこなれてきて、ひととおりのことが表現できるようになった時に、僕らは何を表現するのかが難しい」と語りました。

「SF映画で出てきたようなUIが、比較的安価なデバイスで実現できる。AR的な表現もスマートフォン1個でかなりのことができる。そういう表現に手を出しやすくなった時に、じゃあ僕らは何を作り上げて、どのような価値を新しく作り出すのかが、ものすごく難しい。今年のこのアワードは、その迷走のど真ん中にいる世代なんじゃないかと思います」と藤井氏。

「ただ、それは(本アワードを)5年間やっているからわかること。これを続けていくことでVRの世界を俯瞰的に見ることができるようになってきた。そういう意味でこれから出てくるのは、いずれも時代を反映した作品で、今年のトップ5作品にふさわしいものです」と述べました。

受賞作品紹介

デジタルハリウッド賞

memex「Cloud Identifier」Music Video + Virtual Creation Studio(memex + ars)


(写真左:VRコンソーシアム理事で、デジタルハリウッド大学 学長の杉山知之氏 写真右:arsのsabakichi氏。杉山氏が手にしたタブレットに表示されているのはmemexと開発メンバーのみなさん)

今回受賞したのは、バーチャルアーティストmemexの楽曲「Cloud Identifier」のミュージックビデオおよび、ミュージックビデオの制作に使用されたバーチャル空間内リアルタイム撮影制作システムです。この撮影制作システムは、ソーシャルVRサービス「VRChat」内に構築されており、空間の直接編集や自由なテレカメラ、複数人での同時編集といったことが可能な、専用のインターフェースが実装されています。

https://www.youtube.com/watch?v=o-t3eQz_I84
https://www.youtube.com/watch?v=yy6EjJCNzRI

取材の都合上、Virtual Creation Studioの実際の操作を体験することは残念ながらできませんでしたが、MV撮影に必要な操作がVR内ですべて完結しており、空間を自由に撮影・編集できるというVRの特性がフルに発揮されているのは、非常に合理的で扱いやすいものでしょう。

受賞したarsのsabakichi氏は「今回はVRChatで作ったコンテンツが受賞させていただいたということで、UGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)の時代がここから始まる、ひとつの時代の転換点になれたら嬉しいです。UGCもっと盛り上がれ、ということで。皆様、ありがとうございます」とコメントしていました。

大川ドリーム賞

STYLY(株式会社Psychic VR Lab/藤井明宏)


(写真左:VRコンソーシアム理事で、エンハンス代表・EDGEof共同創業者・慶應義塾大学大学院 特任教授の水口哲也氏 写真右:株式会社Psychic VR Labの藤井明宏氏)

「大川ドリーム賞」は、VRクリエイティブアワードを後援している一般財団法人大川ドリーム基金から贈られます。この基金は、元CSK社長・会長でセガ・エンタープライゼスの会長でもあった故 大川功氏の遺志に基づき、先端的新産業分野におけるベンチャー企業の振興・発展を図ること等を目的としています。水口哲也氏はかつて、大川功氏のもとで「Rez」「スペースチャンネル5」などのゲームを制作していた縁もあり、受賞作品発表の前には水口氏から改めて、この賞の意義についての説明が行われました。

受賞作の「STYLY」は、VRで多彩な空間を構築できるVRクリエイティブプラットフォームです。VR空間をWebブラウザだけで制作できるだけでなく、制作したVR空間をSTYLYのクラウドテクノロジーによって、世界中の主要VRデバイスに向けて、ワンクリックで即座に配信できます。

会場では、「STYLY」によって制作された空間の内部に、複数の参加者が同時に入る体験が行われていました。海外の遺跡などをリアルに再現した空間から、アーティストの個性あふれるデザインによる空間、またVRヘッドセットのパススルーを使ったAR表現によって、その場にファッションショップを開くことができる空間など、多彩な空間が次々と自分の周囲に広がる様子は圧巻でした。他の参加者も、ヘッドセットの形が空間内に表示されるため、しっかりとその位置を認識できました。

株式会社Psychic VR Labの藤井明宏氏は、「こういった賞を受賞できたのは、プラットフォームを使ってくださっているクリエイターのみなさん、そして盛り上げてくださっているユーザーのみなさんのおかげです。本当にありがとうございました」とコメントしていました。

優秀賞(学生部門)

地震列島VR(愛知工科大学板宮研究室/平川俊貴)


(写真左:VRコンソーシアム理事で、東京大学 先端技術研究センター 教授の稲見昌彦氏 写真右:愛知工科大学板宮研究室の平川俊貴氏)

「地震列島VR」は、東日本大震災、阪神・淡路大震災など、過去に発生した全国各地の大規模地震をバーチャル体験できるVRアプリです。体験できる地震の揺れは、気象庁ホームページで公開されている強震観測波形データに基づいて再現されています。

本作の最大の特徴は、「放課後の教室」という共通したシチュエーションで、タイプの異なる地震の揺れ方の違いを実感できる点です。最初に大きな揺れが来てすぐ収まるタイプ、少しずつ揺れが大きくなり、波のように強さが変化しながら長く続くタイプなど、地震によって揺れ方に大きな違いがあることを、文字通り自分の身をもって知ることができます。その意味で、非常に学習効果の高いアプリだと感じました。

ちなみに、平川氏が所属している研究室の指導者である板宮朋基教授も、VRクリエイティブアワード2015で受賞しており、今回は教え子が受賞した形になります。これもまた5回の歴史を重ねてきた本アワードならではのエピソードでしょう。平川俊貴氏は「毎日少しずつ作ったことで、このような賞をいただけたと思います。ありがとうございます」とコメントしていました。

優秀賞(ビジネス部門)

けん玉できた!VR(株式会社CanR/川崎仁史)


(写真左:審査員で、IntoFree代表取締役の西川美優氏 写真右:株式会社CanRの川崎仁史氏)

「けん玉できた!VR」は、VRで遊ぶけん玉トレーニングゲームです。玉がゆっくり動くVR空間でお手本のモーションを真似しながら、けん玉を遊ぶことができます。玉の速度を少しずつ現実に近づけて、ヒザを使う感覚にVRで慣れることで、現実のけん玉の上達を目指します。

玉のスピードを調整したり、受ける際に補正がかかるVRでまずけん玉を操る感覚に慣れておいてから、現実のけん玉に挑戦するという段取り自体が、実際に体験してみるとまず新鮮な感覚でした。VRで覚えた感覚が現実でピタリとハマって、今まではできなかったけん玉ができるようになる瞬間の気持ち良さはなんとも言えないものです。お手本のモーションが目の前にあるので、自分の動きのタイミングを合わせることができるのも、非常にわかりやすいですね。

川崎仁史氏は、「とても嬉しいです。今日、もうひとつ嬉しいことがありまして。このVRを通じて新しくけん玉をできるようになった人が、今日で1000人を超えました(場内拍手)。今年3月に株式会社CanRを立ち上げて、XRを通じてゴルフが上達するトレーニングシステムを作って、販売を始めております。今後は産業のトレーニングなども作って、“XRで、できないをできたにする”というのが当たり前の世の中にしていきたいと思っています。どうもありがとうございます」とコメントしていました。

最優秀賞

MOWB(東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻/YuharaKazuki)


(写真左:VRコンソーシアム代表理事の藤井直敬氏 写真右:東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻のYuharaKazuki氏)

「MOWB」はVRヘッドセットを通して、手描きVRアニメーションを体験できる作品です。VRといえばCGによるソリッドな表現や、写真や実写動画を使ったフォトリアルな表現が多いなかで、全天球360度のアニメーションをすべて手描きで制作したというのは、おそらく前代未聞でしょう。PhotoshopとAfter Effectsを使用して、約1年間かけて制作されたとのこと。

本作では、一本のへその緒でつながれた母と子の姿が描かれています。手描きならではの温かみのある絵柄と、上下や背面などもフルに使った全天球ならではのは表現の組み合わせが、非常にユニークな感覚を生み出しています。独特の色味や哲学的なテーマなど、日本のアニメよりは、フランスのアートアニメなどに近い印象を受けました。会場ではショートバージョンでの公開となっていましたが、ロングバージョンもあるそうなので、そちらもぜひ見てみたいです。

YuharaKazuki氏は、「PhotoshopでVRを作っている人なんてあまりいないと思うし、僕はそれしか知らなかったから、こういう形で作ったんですけど、こういう評価をいただけて、すごく嬉しいです。ありがとうございます」とコメントしていました。

すでに報じられているように、本アワードを主催するVRコンソーシアム(VRC)は、名称を「XRコンソーシアム(XRC)」に変更して、新たな体制で事業拡大を目指します。新体制で開催されるであろう、2020年の本アワードがどのようなものになるのか、今から楽しみです。


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