2016年1月から開始されたTokyo XR Startupsのインキュベーションプログラムも第5期を迎えています。2019年に入り、安価で簡単に6DoFのVR体験を楽しめるOculus Questの発売により一般消費者向けのVR市場の拡大が期待されています。
また、企業向けのVR/ARソリューションの浸透が着実に進むなど、世界中で一層XR市場の拡大が予測されています。日本ならではの動きとしては2017年12月からブームの始まったバーチャルタレント(通称VTuber)もXR技術をベースにした新しいコンテンツとして国内のみならず海外でも高い成長が続いています。
この度数回にわたってTokyo XR Startupsプログラム出身のXRスタートアップ経営者のインタビュー記事をお届けすることになりました。XR市場の黎明期に起業した先輩起業家のお話から、皆様がXR領域でスタートアップとして起業するために有意義な知見や勇気を得ていただければ幸いです。
第1回はカバー株式会社 代表取締役である谷郷 元昭さんへのインタビューをお届けします。
(カバーの代表取締役社長CEO・谷郷 元昭氏。イマジニア株式会社で株式会社サンリオと提携したゲームのプロデュースを担当後、テレビ局や出版社と提携した携帯公式サイトを運営する事業を統括。化粧品口コミサイト@cosme運営の株式会社アイスタイルでのEC事業立ち上げ、モバイル広告企業、株式会社インタースパイア(現ユナイテッド)の創業に参画後、株式会社サンゼロミニッツを創業し、日本初のGPS対応スマートフォンアプリ「30min.」を主軸としたO2O事業を展開し、株式会社イードへ売却)
(Tokyo XR Startups第2期採択企業のカバー株式会社は2016年6月13日に設立、VTuber事務所「ホロライブ」を運営。「日本発のバーチャルタレントで世界中のファンを熱狂させる」ことを組織のミッションとし、VTuberの運営やライブ配信サービス開発を手がける)
(※記事中のインタビューは、2019年5月21日に行われています)
カバー:VTuberとして活動したい個人を支援する
- 若山 泰親(以下若山):
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まず、カバー株式会社の事業について教えてください。
- 若山:
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今はビリビリの方がYouTubeよりも登録者が多いんですね!
- 谷郷:
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そうです。
(2019年4月15日、ホロライブのYouTubeチャンネル登録者数合計は100万人を突破。同時にビリビリでも150万人の登録者を突破し、同年5月末にはそれぞれ140万人・200万人にまで成長した)
- 若山:
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海外でもファンを増やして収益を上げている、日本を代表するVTuberの会社になってきましたね。VTuberや関連ビジネスはここ2年ほどで一気に立ち上がり、スタートアップも多数現れてきていますが、その中でカバーの特徴はどのようなところにあるのでしょうか?
- 谷郷:
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VTuberの会社には大きく分けて2種類あると思っています。1つは企業が主体となってVTuberの企画、開発、運営をしているコンテンツ企業型のビジネス、もう1つはVTuberとして活動したい個人を支援するようなインターネット企業型のビジネス。我々はインターネット企業型で、VTuberになりたい人を支援する事業を中心に展開しています。
初期のVTuberビジネスはコンテンツ企業型が中心で、我々も最初はその形でした。最近はVTuberになりたい個人を支援するインターネット型企業の方が伸びている傾向にあると思います。
- 若山:
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カバーも今後は個人を支援するタイプの事業を伸ばしていく方針ですか?
- 谷郷:
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僕らはそもそもインターネット企業出身者が経営しているVTuberの会社です。我々は基本的には何かやりたい方を支援する事業という方が得意領域なので、今はそこに主軸を置いています。
VTuberのビジネスは設備の整ったスタジオで3Dのモーションを収録して、動画を編集して配信、そして広告を取るためには営業をしないといけない……という、一言で言うなら大変なビジネスだと思われていました。我々はスマートフォンだけで自宅から簡単にライブ配信ができ、ファンの方々と繋がって、投げ銭などの形で収益化できるという、いわば「あまりリスクを取らずに、VTuberの活動を始められる」ことを支援する、そういった領域をやっています。
- 若山:
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ビジネスのやり方もかなり違ってきそうですね。
- 谷郷:
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コンテンツ型の企業の場合には、基本的にはスマートフォンゲームなどの企業運営に近いところがあります。企業主体でVTuberを運営し、ビジネスモデル的には広告が近いですね。収益は企業に入り、企業から演者さんへ報酬が支払われる形が一般的だと思います。
一方で、カバーが主に展開しているのはVTuberになりたい演者さんと基本的には売り上げをレベニューシェアしていくビジネスになります。この形だと、VTuber活動が演者さん主体になるで、より演者さんのやる気を引き出せる可能性があります。
勘違いされがちなんですが、VTuber企業でありながらリアルのYouTuber的なビジネスを展開しているのが我々のような会社っていうことですね。リアルのYouTuberさんはヒカキンさんなども基本的には個人が主体の活動をされていて、営業の案件の調整などをUUUMさんのような事務所の方がやっていらっしゃるっていう感じですよね。カバーはUUUMさんのような業態にすごく近くて、VTuberになりたい個人の方の営業面だけでなく、専用のアプリケーションだったり、キャラクターの提供などの面を支援することで、個人の方が活動できる環境を提供しています。
- 若山:
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あくまで個人を支援するという立場で存在している、ということですね。では、具体的に個人の演者さんに対して、カバーが提供している価値を教えていただけますか。
- 谷郷:
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まず1つはキャラクターを提供しているというところです。キャラクターデザインは非常に有名なイラストレーターさんにカバーからお願いをしています。個人の方だと直接お願いするのは難しいと思います。2つ目はアプリケーションの提供です。演者さんが簡単に配信することが出来るアプリケーションを自社で開発して提供しています。3つ目は各種のマネジメント面でのサポートです。演者さんの日々の企画のサポート、あるいは営業的な案件の調整などを行っています。
当社のシステムとして、まず2Dキャラクターとしてライブ配信者として活動していただくのですが、一定のチャンネル登録者数を超えたらキャラクターの3D化を支援させて頂き、3Dになった後は当社のスタジオを使用して配信できたりとか、あるいはニコニコ超会議みたいなイベントに出演したりとか。そういった活動の幅を広げていくような形での支援を行っています。
- 若山:
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個人で活動するVTuberが活動の幅を広げるための仕組み、の部分ですね。
- 谷郷:
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あとは中国での展開の支援というのもあります。我々は元々のビジョンとして、日本発のバーチャルタレントを世界で展開するということを掲げています。日本のVTuber企業のなかでは他社に先駆けてビリビリでの配信を積極的に行なっていて、おかげさまで現在ビリビリではNo.1のポジションを取っています。中国での展開は個人では難しいですし、他の企業でもあまり提供していないサポートだと思います。
中国展開:先行者メリットは大きい
- 若山:
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カバーはVTuberの中国展開では先頭を走っている会社だと思います。どうして中国展開を他社に先駆けてやろうと思ったのですか?
- 谷郷:
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TXSのプログラムに入ってデモデイに参加したとき、日本のVC各社からの評判はあまり高くない中、HTC社を含む台湾や中国の会社に非常に高く評価されたことが1つのきっかけです。実際、HTC社が展開しているVIVE Xというグローバルなアクセラレータープログラムに採択されて台湾と中国のデモデイでも登壇し、日本のコンテンツが中国で通用することを実感できました。
加えて、我々の人気VTuberをデザインしたイラストレーターさんが、偶然中国で広く遊ばれているゲームも手がけていらっしゃったということもあって、当初から非常に反響が大きかったんです。だったらもう飛び込んでみようかなと。
- 若山:
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最初に中国市場に参入したメリットは感じていますか?
- 谷郷:
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ビリビリ主催の大規模イベントでもメインステージで登場させて頂くなど、先行者メリットを大きく感じていますね。
- 若山:
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ちなみに、日本のファンと中国のファンの違いはありますか?
- 谷郷:
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大きな差はないのではないか、と思っています。日中とも今はライブ配信者の人気が高いですね。その中で、日本のアニメを普段視聴しているような中国のファンは、「より日常的な日本人の姿を見たい」と思っているのかもしれません。それゆえ、日本のVTuberのライブ配信者に身近さを感じる、というところはあるのかもしれないですね。
XR領域での起業:「誰がなんと言おうと、やってみようと思いました」
(現カバー株式会社取締役CTOである福田一行氏とともに起業)
- 若山:
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少し話題を変えて、起業のきっかけについて教えてください。谷郷さんはインターネットビジネスでの起業経験もお持ちのシリアルアントレプレナーですが、今回なぜXR領域で起業しようと考えたのでしょうか?
- 谷郷:
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僕は元々インターネットビジネスをやる前はコンテンツビジネスをやっていました。キャラクターや家庭用ゲーム、携帯コンテンツのプロデュースをする企業に勤めていて。その後しばらくインターネットの会社にも勤めましたが、「インターネットとコンテンツを掛け合わせるようなビジネスを、いつかやってみたい」と考えていました。
主流のデバイスが変わるタイミングで、コンテンツのビジネスは変わっていく。僕自身ゲームボーイやiモードなどの初期に事業を手がけ、はじめこそ「しょぼい」「性能が足りない」と言われていたデバイスでも、最初にチャレンジしていった人たちが先行者メリットを得て、会社を成長させていく姿を目の当たりにしたんです。その流れで、これからどうなるかわからない領域ではあるけれども、XR領域でチャレンジしたい、と考えました。
- 若山:
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XRでチャレンジしようと思ったのはいつ頃ですか?
- 谷郷:
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2015年頃だったと思います。
- 若山:
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何か直接のきっかけはありましたか?
- 谷郷:
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実は別のインターネットビジネスでの起業を検討していたのですが、投資家にビジネスプランをボコボコに叩かれるという出来事がありました。それもあって、直近のインターネットビジネスの経験を踏まえて、近しいことをやるのではなく、やりたいことをやりたいと思いました。
その時VRに飛び込むのは無謀以外の何物でもなかったんですけど、やってみようかなと。
誰がなんと言おうとやってみよう、と思ったんです。
- 若山:
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会社設立までの準備期間は、どんな活動をしていましたか?
- 谷郷:
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当初は法人を立ち上げずに、「VRで何ができるのか?」をCTOの福田さんといっしょに議論したり、実際にVRコンテンツを作ったりしていました。
- 若山:
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福田さんとは以前も一緒に何かされていたんですか?
- 谷郷:
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仕事上の関係はありませんでしたが、僕の前の会社のサービスを使ってくれていて、知り合いではありました。
- 若山:
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会社を立ち上げる前にまず頼りになる仲間を見つけ、一緒にコンテンツを作りながら可能性を探る……というアプローチは特徴的ですね。
- 谷郷:
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VRのコミュニティにも参加したのですが、まだ国内では投資の資金が流入してないことがわかりました。海外では既にVR領域専門で投資するファンドもあったので、gumiの國光さんを口説きに行ったりしていましたね。
- 若山:
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投資家へのロビー活動的なこともやりながら、自分で環境を作っていった感じですね。
- 谷郷:
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gumiの経営陣にOculusの日本の人たちを紹介したり、投資家経由で桜花一門(※Tokyo XR Startups第1期採択企業)の高橋建滋さんを紹介してもらって、360°映像を撮るために富士山の麓まで車を出してお手伝いしたり……。色々な人と知り合いながら、何ができるかを探していました。
- 若山:
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コミュニティの中に入っていって、一番情報を持っている人たちとコミュニケーションしながら準備していったと。
- 谷郷:
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そんな中、2015年の11月頃にKigurumi Live Animator (KiLA)のことを知りました。僕が最初に勤めた会社ではキャラクターのゲームを作っていたので、キャラクターのビジネスをしたいという想いがどこかにありました。その後手がけたインターネットビジネスでもUGC(ユーザー生成コンテンツ)の領域が専門だったので、初音ミクのような成功例がある中で、やっぱり自分はキャラクタービジネスに携わっていきたいと。
3Dのキャラクターで何か出来るんじゃないかと思っていた中で、Perception NeuronのようなデバイスやKiLAのようなツールが出てきて、可能性を感じました。
TXSへの参加:「やっぱり、決心つくかってことです」
- 若山:
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その後は谷郷さん、福田さんというチームでTXSの第2期に参加していただきました。
- 谷郷:
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当時は自分たちでもある程度VRのコンテンツが作れるようになってきていましたが、VR領域に投資をするVCなどの投資家が全くいなかったため、自分たちの力だけで事業を立ち上げるのはかなりきついと感じていました。
僕はVCの知り合いが多いのですが、当時はみんな僕には近寄らないように避けられていたような状況で。この状況を打破するためには、何かに入らないと、自分たちだけで状況を打破するにはきついなと思いました。ちょうどTXSの第1期に入っていった方々が色々揉まれながら成長を遂げていったところを見ていて、そういうところで叩かれないことには腹は決まらないんじゃないかと。
- 若山:
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TXSへの参加当時のことを振り返ってみて、どうですか?
- 谷郷:
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僕らはすごく特殊でした。TXS内部で行うクローズドのデモデイ1が終わった後、最終のデモデイ2の前、ラスト1ヶ月でプランを変更して作り直す、という暴挙に出ました(笑)
- 若山:
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それまではVRゲームを作っていましたよね。それを最後の1ヶ月でやめて思いっきりピボットしました。
- 谷郷:
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先程お話したように、キャラクターものには元々興味がありました。当時VRで開発者の人たちがキャラクターを動かすのが流行っていたり、自分たちもVRならではのキャラクターに会えるようなコンテンツは面白いと思っていて、ゲームとは別に細々と開発を続けていました。
その後いよいよキズナアイちゃんなどが登場してきて、「やっぱりこっちの方が自分たち的には面白いんじゃないか?」という葛藤があり、ラスト1ヶ月で決断を迫られる中でバーチャルキャラクターにしよう、と決めました。なんというか正直誰も何もわからない中で、当時は本当に眠れなかったという記憶があります、眠れないというか、早く起きちゃうというか。
- 若山:
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私もその時期のことは今も鮮明に覚えています。ピボットという決断に至る過程、それにピボットした後もいきなり目の前が開けていたわけではなくて、かなり辛い時期でしたね。ピボットという決断を含め、TXSに参加した判断や参加した意義について、今どんな風に考えていますか。
- 谷郷:
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そうですね、やっぱり、決心つくかってことですよね。客観的に判断されるので、結局。プログラムに入って数ヶ月間集中してやるぞ、というところにも価値があったと思います。TXSに入らず自分たちだけでやると、ある意味誰にもプレッシャーを受けずにやる形になります。何か得意な領域でチャレンジするのだったり、今まであるような領域のビジネスをやるのだったりすればそれでもいいと思いますが、まったく新しい領域にチャレンジする場合に、客観的に自分たちが今やっていることがイケているのかイケていないのかとか、そういうところを誰かに見てもらえる環境でやった方が、判断をショートカットできると思います。
- 若山:
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客観的な視点が得られること、プレッシャーをかけられること、プログラム期間の中で決心を迫られること、その辺りですかね。
- 谷郷:
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VCから出資を受けるのに近いかな、とは思います。あとは國光さんや若山さんがXRでスタートアップすることについてよく知っている、というのもありますね。
TXS後の成長:VTuber市場の展望とカバーのビジョン
<hololiveで活動する中国など海外でも人気を集めている>
- 若山:
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カバーは最終的に今で言うVTuberビジネスへとピボットしましたが、当初は苦労の連続でした。スタートアップの経営者として光が見えた、このビジネスで良いんだ、という手応えを感じたのはどこの瞬間でしたか?
- 谷郷:
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2017年の12月頃ですね、デモデイの9ヶ月後、IVS(※Infinity Venture Summit:日本のベンチャーキャピタルであるインフィニティ・ベンチャー・パートナーズ主催によるインターネット・モバイル・ソフトウェア関連のカンファレンス。IT業界の国内外の経営者・経営幹部を対象として年2回開催されている)に登壇したあたりです。僕らはTXSのデモデイではそんなに投資家の興味を引くことができませんでした。やむなくブリッジファイナンスに近い感じで知り合いに頼み込み、僕たちのことを信じて頂けるエンジェルの方に出資をして頂き、その上でVCにも出資して頂きました。ほとんど僕たちチームの信用というかたちで出資して頂きながら、最終手段として大切な友人を巻き込んでしまったので、引き下がれなくなり、そのまま開発を続けていました。
そしてときのそらちゃんというキャラクターが際ニコニコなどで配信を始めたのが9月頃、でしたが、初回の配信が伝説になっていて。13人しか参加者がいなくて、みたいな状況でした。
- 若山:
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AKB48みたいですね。
- 谷郷:
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そうですね。それでこれってどうするんだろうと思いながら続けている中で、だんだんバーチャルYouTuberという存在、キャラクターをYouTubeで配信するっていう人達が徐々に増え始めてきました。12月のIVSに出るために面接を受けにいき、その場で17 Liveで試しに配信してみようという話になり、驚くほど多くの人たちに見ていただくことができたので、これはもしかしていけるんじゃないかと思い始めました。
- 若山:
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17 Liveは全く事前の広告も無しでしたが、大変多くの人が配信を見てくれましたよね。
- 谷郷:
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視聴者にとってすごく新しかったって感じですよね。僕らはいわゆるバーチャルライバーという領域で9月くらいから取り組み始めていて、17 LiveやLINE LIVEでは多分僕らが最初にバーチャルキャラクターとしては配信したと思うんですが、すごく手応えがありました。その中でIVSに出場してLaunchPadでは3位に入ることができて、投資家からも高く評価されることがわかったんです。そこから一気に年末にかけてVTuberのブームが来ました。
- 若山:
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ここまでお伺いした内容と若干重複しますが、これまでカバーを経営してきて、一番苦労したことと、一番嬉しかったこと、一つずつ教えて頂いてもよろしいですか?
- 谷郷:
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苦労……。やっぱり暗中模索の期間が一番きつかったなあ、と思いますね。VRでどのようにスタートアップを立ち上げていくのか、というところは難易度がすごく高かったと思います。まともにロジックで考えようとすると頭がぶっ壊れそうになるっていう、当たり前なんですけど、当時は今以上に市場がなかったわけで。アメリカの方は若干立ち上がっていたものの、国内市場はなかったので。
- 若山:
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ありがとうございます。では、一番嬉しかったことを。
- 谷郷:
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直近の新卒歓迎会ですね。カバーには直近7人の新卒社員が入ったんですけど、皆がこの会社、この事業が好きなんだなっていうのがわかって、「もしかして、僕はいい会社をつくってしまったのではないか?」と思いました。
- 若山:
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そうやって入社したメンバーがこれからカバーを支えていくわけですね。楽しみです。次に、これからXR領域でスタートアップしようとする方に向けてメッセージを頂けますか?
- 谷郷:
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僕らはXR市場がまだまだ立ち上がりきっていないから、XRをツールとして使って既存の動画ビジネスの市場に活路を求める、というような決断をしました。これからはXRだけで成立するチャンスも増えてくるのかもしれないですけれど、XRでなにか既存の課題をどう解決するのか、といったアプローチの方が当面はいいのかな、と考えています。例えばHADOを展開しているmeleapさんや、リトルプラネットを展開しているプレースホルダさんのように、既存の施設にARを適用したり、僕らのVTuberみたいに、動画の市場の中でXR的な強みを活かしていったりだとか。XRをツールとして使う、大きな市場を対象にXRというテクノロジーを武器として使っていくという考え方はできるかな、と思います。
- 若山:
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何かしら大きな課題をみつけて、課題を解決する手段がXR、みたいな。そういうアプローチが正しいのではないか、ということですね。
- 谷郷:
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XRがとても大きい産業になるまでは、そういうアプローチの方がやりやすい側面もあると思います。
- 若山:
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非常に貴重なアドバイスをありがとうございます。次に、これからのカバーについて、将来の夢をお願いします。
- 谷郷:
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日本と中国で非常に人気のあるバーチャルタレントグループに成長し、日本だと武道館だったり、中国だとメルセデスベンツアリーナのような、大きなホールを満員にできるようなVTuberグループになりたいですね。
例えばブシロードさんなどがテレビや既存のメディアを通じて人気のIPを作り上げていっているように、僕らはインターネット上で新しいタレントやIPを生み出していっています。インターネット発で、「ラブライブ!」に匹敵するようなタレントグループやIPを作りたいと考えています。
- 若山:
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インターネット発のタレントやIPの今後の成長性について、どのように感じていますか?
- 谷郷:
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今、グローバルで大きなメディアプラットフォームが登場してきています。YouTubeやビリビリ、Netflixなどが成長する中で、日本ならではのコンテンツというと、こんまりさんのようにNetflixで大人気になって、米国の投資家から巨額の資金調達をする例が出てきていますね。流れとしてはVTuberも同じだと思っていて、YouTubeやビリビリなどのグローバルなメディアプラットフォーム上で、日本ならではのコンテンツを提供することで、世界中の人たちに珍しがって見ていただけるんじゃないかと。
日本市場に限定しないのであれば、そもそもメディアプラットフォームはテレビではなく、インターネットに繋がったデバイスで。これから5Gのサービスが始まると、ライブエンターテインメントのようなコンテンツも、遅延なく楽しめるようになることも追い風です。
僕たちはVTuberが受けているっていうのは「課題を解決するから」だと思っていて、ちょっと前までのソーシャルゲームが暇つぶしみたいな形で遊ばれていたのと似ていると思っています。当時は同じソーシャルゲームが好きな人同士がつながっていたり、といった雰囲気でしたけど、今は一人暮らしの大学生や若い社会人の人たちが、自宅で誰か同じ趣味の人とつながれる。で、同時接続数が1万人とかいったりするような。インターネットネイティブの若者がどんどん増えて行っているので、インターネット発で人気のキャラクターやIPが生まれるのは今後必然の流れだと思います。
- 若山:
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ユーザーの変化、5Gのような通信環境の変化、あとプラットフォームの発達、大きな変化が起きている中で、VTuberのグローバル展開についてどうお考えですか?
- 谷郷:
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VTuberの領域において、日本企業にはすごく地の利があります。Anime Expo(毎年7月にロサンゼルスで開催される、北米でも最大規模のアニメイベント)に行って、日本のアニメ的なコンテンツのファンは海外にたくさんいて、日本に生まれていることのは幸せだと体感しました。
クランチロール(アメリカを中心に日本のアニメ・ドラマ・漫画などのコンテンツを提供する配信サービス)やビリビリなどでは、日本のアニメがリアルタイムで日本の声のまま字幕付きで放送されている背景もあり、アニメ的なキャラクターだけではなく日本の声優さんの「声」が市民権を得ているところも大きいです。日本企業であることがこれだけ有利な業界はなかなか無いので、やっぱりVTuberの領域において日本からの世界市場展開は外せないと思います。
- 若山:
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本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
なお、カバーでは日本を代表する、次世代のエンターテインメント企業を創るチャレンジに挑戦してくれる仲間を募集しているそうです。ご興味がある方は是非こちらからご応募ください!