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VRゲーム・アプリ 2025.01.30

VRユーザーと開発者が知っておきたいNVIDIAとGPU”RTX 50シリーズ”のこと


(左がGeForce テクニカルマーケティング ディレクター Sean Cleveland氏、右がアジア太平洋地域担当テクニカルマーケティング ディレクター Jeff Yen氏)

2025年1月22日、赤坂インターシティにてNVIDIAよりGPU”RTX 50シリーズ”のメディア向け発表会が実施された。RTX 50シリーズは今年のCES 2025の会期中に発表されたばかりで、早速「RTX 5090」「RTX 5080」が1月30日から販売開始されることもあり、開発者はもちろん、PCゲーマーが熱い視線を向けている最中である。今メディアの読者、つまりPCVRユーザーにとっても例外では無いだろう。

結論から述べると、この発表会でVR/XRに関連する発表は”なかった”(筆者がQ&AでVRについて質問をしても「発表できることはないが、VRのサポートはつづける」と回答があった)。だが、VR/XRに関わるユーザーから開発者まで、RTX 50シリーズおよびNVIDIAの動向について知っておくべきことがたくさんある。

RTX 50シリーズの目玉「DLSS4」の力でGPUのパフォーマンスが16倍?

NVIDIAがRTX 50シリーズの目玉機能として大々的にアピールしているのは、フレーム生成技術「DLSS4」だ。DLSS(Deep Learning Super Sampling)とは、NVIDIAのGPUを搭載したPCでのみ使える、AIを駆使してゲームの描画性能を底上げする技術全般のこと。さっくりまとめると、DLSS1からDLSSまでは「AIを使って解像度を上げる(例:フルHDから4Kにする)技術」が特徴で、DLSS3からDLSS4は「AIがフレームとフレームの間を補間して、フレームレート(映像のなめらかさ)が上がったように見せてくれる技術」が追加された。

DLSS3がフレームとフレームの間を1フレームぶん補間してくれたのに対して、DLSS4はフレームとフレームの間に最大で3枚のフレームを補間できるようになった。NVIDIAのアピールポイントを要約すると、「DLSS4を使えばフルHD60FPSのゲームプレイを4K240FPS、ピクセル数換算で16倍に補正できる」ということだ。以下のスライドの画像では、GPUが本来描画したピクセルを灰色、AIが補正して生み出したピクセルを緑色として表現している。

DLSSはゲームタイトルごとにゲーム開発者が実装する必要があるものの、DLSSに対応しているゲームソフトはすでに540本以上あり、DLSSに対応しているGPUを用いるユーザーの8割以上がDLSSを用いてゲームをプレイするという。DLSS4に対応しているゲームはまだまだ少ないものの、RTX 50シリーズ発売以降からのDLSS4採用タイトルの増加に期待したいところだ。

VRにおけるDLSSの実態

VRにおいては、NVIDIAが2021年よりDLSSのVR対応の開始をアナウンスしている。しかし、VR専用ゲームとして開発されたタイトルでDLSSが採用されることはほとんどない。かつてVR専用ゲーム『Into The Radius』と『Legendary Tales』はDLSSを採用していたが、どちらも最新バージョンではDLSSが使えなくなっている。

Into The RadiusのコミュニティマネージャーはRedditで「DLSSはVRだと期待した効果が出なかった」と述べており、詳細な理由として「VRゲームはもともとフレームレートが高い状態で動くようにし、PC VRではヘッドセットの解像度よりも高い解像度でゲームを動かして画質を上げることが多い。こういった動作条件は”解像度が低いゲームプレイをAI補正で解像度を高くする”という用途のDLSSに適さなかった」と説明している。また、筆者としてはTVやPCモニターでは気にならないレベルのAI補正特有のノイズが、VRヘッドセットではディスプレイと肉眼の距離が近いためAI補正のノイズが見えてしまうこともあることから、VR専用ゲームでDLSS採用が進まない要因だと考えている。

一方、VR専用でないゲームがVRに対応した場合はDLSS2に対応していて、パフォーマンス改善に寄与することがある。『No Man’s Sky』や『Microsoft Flight Simulator 2024』、『HITMAN World of Assassination』などが有名な例だ。特に『Microsoft Flight Simulator 2024』のように実写のように緻密なグラフィックスが特徴のゲームは、VRでない状態でも高いフレームレートが出にくいため「VRヘッドセットよりも高い解像度で描画しながら、フレームレートを通常よりも高めに回す」こと自体が現実的ではなくなる。そうなると、DLSSによるAIアップスケールを用いてVRの体験を補正することも選択肢に入ってくる(実際に筆者がRTX 4080のPCでフライトシミュレーターを検証したときも、DLSSのアップスケール補正なしではVRで耐えうる品質のゲームプレイは実現できそうになかった)。

そのため、もしあなたがゲームを開発していて「VR用として作っていなかった、やや負荷の高いゲームを後からVRに対応させる」ということをしたいときは、VRでもDLSSに対応させることを検討に入れてもよいだろう。PCVRゲーマーであれば、VR移植された大型タイトルをプレイする際、その解像度が気になるのであれば、対応の有無を気にしてもよいかもしれない。

なお、VRにおいてDLSS3およびDLSS4の「フレーム生成機能」を実装することができない。これは、フレーム生成機能が「わずかな遅延を許容して見た目のなめらかさを実現する」という設計意図なのに対して、VRはその「わずかな遅延」がVR酔いを誘発する原因になることと、NVIDIAにとってVRの機能を実装するのは優先度が低いためだと思われる。

AIが”補正”する時代からAIが”描画”する時代へ「ニューラルレンダリング」

NVIDIAはDLSSによって「PCが描画したゲーム画面をAIで補正(アップスケール、フレーム生成)する」という技術を実現していたが、まだAIそのものがゲーム画面の描画システムに組み込まれてはいなかった。RTX 50シリーズでは「AIそのものが描画の段階に踏み込む」ための新しいレンダリング手法”ニューラルレンダリング”がいよいよ導入される。

ニューラルレンダリングでは、シェーダー、テクスチャの圧縮解凍、テクスチャフィルタリングにマテリアルといったグラフィクスの描画に欠かせない部分をPCからAIが肩代わりすることによって、描画の高速化とデータの効率化、テクスチャデータの削減を図り、さらには「PCが描画するよりもAIが描画した方がキレイ」の域への到達しようと試みる。

また、ハリウッド映画さながらの高精細で巨大な3DCGポリゴンのレイトレーシング判定計算を効率化するしくみ「RTX Mega Geometry」、人間のキャラクターの表情・フェイシャルアニメーションを生成AIで補正する「RTX Neural Faces」など、様々なツール(これらは”RTX Kit”と呼ばれる)が発表された。近日中にNVIDIAの公式サイトよりRTX Kitが逐次ダウンロード可能になるので、試してみたい人はあらかじめサインアップしておこう。

VRと高精細グラフィックスのジレンマ

では、ニューラルレンダリングをはじめとしたNVIDIAの新機能がVRで利用できるかというと、これもできない。ただし、これは「NVIDIAのVR対応の優先度が低いから」という単純な理由ではない。

筆者の考えではニューラルレンダリングが普及するまでは最低でも数年単位の時間はかかるし、当初は映像方面の活用が中心でゲームに降りてくるまで時間がかかるはずだ。先例として、レイトレーシングが商用ゲームで使えるようになったのは2018年からだが、現在2025年時点でもレイトレーシング機能を満足に使うことのできないユーザーは非常に多く、商用ゲームはなるべく多くのユーザーを相手にしなくてはいけない以上「レイトレーシング必須のゲーム」はほとんど作られておらず、いまのところ『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』の一本のみとなっている。

前提として、VR酔いを避けるためにはVRゲームが「なるべく遅延がなく、フレームレートが安定して高い」状態が望ましい。そのため、MetaやEpic GamesはVRゲームを作るときは、レンダリング手法を遅延がなくてGPUに負荷の低い「Forward Rendering」にすることを推奨している(むろん、使い方を誤れば、Forward Renderingでも動作が重くなる)。しかし、現在の商用ゲームで主流となっているDeferred Renderingとは違って、Forward Renderingはレイトレーシングに対応できないのだ。

いくつかのDeferred Renderingで作られたゲームがVR対応になっていることもあるが、それでもVRとレイトレーシングを同時に動かしてまともにパフォーマンスが出る例はほとんどない。かつてNVIDIAが2022年に産業用メタバース『Omniverse』でVRに対応したレイトレーシングを発表していたが、2025年1月時点ですでにOmniverseのVRサポートは終了している

また、VRのマーケットのマジョリティはMeta Questシリーズをふくめたスタンドアロン型VRとなっており、「NVIDIAのGPUを搭載したPCでだけ動く機能」をふんだんに使ったVRゲームを作ることは、ビジネス的に困難が付きまとうだろう。むろん、採算度外視で動ける個人開発や小規模開発ではその限りではないし、B2B案件であればNVIDIAの機能を駆使したVRを作るケースも考えられる。しかし、NVIDIAのハードでしか動かない機能をふんだんに使った商用ソフトウェアを作るのは、VRに限らず「PC以外のハードに展開できないため、数を売ることができない」ジレンマがつきまとう。

VRユーザーがRTX 50シリーズを買うときは「VRAM」をチェック

では、VRのユーザーはNVIDIAの何の情報に注目すればよいのか。それはVRAMだ。VRAMとは、グラフィクスに関するデータやフレームの描画情報が保存される、グラフィクスに特化したメモリのこと。VRAMはPCだとGPUに内蔵されている(GPUのないPCの場合は、ふつうのメモリがVRAMの機能を兼ねる)ため、通常のメモリのように「足りなくなったら後から増設する」ということができない。そのため、GPU選びの際にVRAMのスペックは非常に重要な指標となる。

では、VRではVRAMに何が必要なのかというと、容量の大きさだ。ゲーミングPCとVRに関心のある人ならば「RTX 3060はRTX 30シリーズの上位機種よりもVRで性能が出る」という話を聞いたことがあるかもしれない。これは、RTX 3060は帯域幅や速度が上位機種と比べて低かったものの、それ以上に容量の多さからVRでのパフォーマンスに恩恵を受けられたということだ。PCVRは「ディスプレイよりも解像度を高めに描画し、フレームレートも高い状態を維持する」という特性に加えて、特にVRChatではテクスチャのデータがVRAMを酷使する。これは、一般的にVRを含めたゲームは多かれ少なかれパフォーマンスが安定するよう最適化するのに対して、VRChatのように「ユーザー投稿型のメタバース」では、あらゆる投稿者が独自の3DCGデータやテクスチャを自由に投稿するため、最適化が事実上不可能なためだ。

幸いにも、現時点で公開されているデスクトップ向けのRTX 50シリーズはすべてVRAMが12GB以上あるため、RTX 5090, 5080, 5070Ti, 5070のいずれを選んでも、通常の範囲のPCVRでパフォーマンスに困ることはないだろう。片目4K解像度のVRヘッドセット(Pimaxなど)を使っているのでもないかぎり、Meta Questシリーズの解像度の描画に困ることはないはずだ。ただし、今後にRTX 5060ほか下位モデルが出てきたときは、VRAMの容量を確認してから購入してほしい。また、ノートPC向けのRTX 50シリーズでは5070のみVRAMが12GB未満となっている。そのため、ゲーミングノートPCでVRをプレイすることを検討している場合は、RTX 5070Ti以上のモデルにしておいた方がよいだろう。

余談:ローカルで動くAIツール「NIM」の衝撃から考えられること

NVIDIAの発表会では、RTX 50シリーズの活用法としてゲームや3DCGのみならず、生成AI/Generative AIが力強くアピールされていた。生成AIは非常に高性能なコンピュータでないと動作するのが難しいため、基本的にはAIサービスに頼りっぱなしになることと、生成AIツールはWindowsではなくLinux向けに作られているケースが少なくないため、生成AIを個人のPCで動かすにはかなり高いハードルがあった。

今回の発表では、NVIDIAのAIツール「NIM」がLinuxだけでなくWindowsでも使えるようになったことで、RTX 50シリーズを搭載したPCでローカル(インターネット接続なし)で生成AIを動作できることを強調していた。NIMのサービスとしてPDFの文書を読み込むとポッドキャスト(内容の要約と朗読)を作ってくれる機能や、3DCGで動くフォトリアルなAIアシスタントキャラクターなど様々発表があったが、イベント会場でもっとも注目されたのは、Blenderのアドオンでプロンプト(文章)から3DCGを作り、それをさらにプロンプトで状況を指定することで、3DCGをレンダリングすることができるデモだった。生成AIでビジュアルの成果物を出す過程の途中で、Blenderで構図を指定できるようになる点がユニーク。ローカルで生成AIを動かして、回数制限を気にすることなくイテレーションを素早く回せるのは、試行回数を重視するクリエイターにとって強力な味方となることだろう。


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