NTTは、人間のジャンプ動作の「自然な見え方」に関する研究論文を発表しました。本研究では、人のジャンプ動作のような複雑な運動とボールなど物体の単純な運動では、「自然に見える」と感じる動きの基準が異なることを明らかにしています。
従来、ボールの跳ね返りは地球の重力よりも弱い環境下で動く方が自然に見えると考えられていますが、人間のジャンプ動作は実際の地球の重力に従った動きの方が自然に感じられることが分かりました。同社は「この知見は、メタバース空間やVTuberなどのデジタルアバターの動作表現の向上に活用できる」としています。
人間が物体の動きを見る際、私たちの脳は視覚情報から動きを予測し、その予測と実際の動きの一致度が「自然さ」の判断に影響を与えます。これまでの研究では、ボールなどの単純な物体が跳ね返る様子を見る場合、実際の地球の重力環境よりも弱い重力下での動きの方が自然に感じられることが知られていました。
今回の研究では、人間のジャンプ動作のように複数の身体部位が協調して動く場合、その自然さの知覚が単純な物体とは異なることを発見。実験では、実際の人間のジャンプ動作データを基に、ジャンプの高さと時間を0.5倍から2倍まで様々に変化させた動画を作成し、参加者が「自然さ」を評価しました。
その結果、元のジャンプ動作だけでなく、ジャンプの高さや時間が変化していても、地球の重力法則に従った軌道であれば自然に見えると評価される傾向が確認されました。例えば、通常では起こりにくい高さのジャンプでも、その動きが地球の重力法則に従っていれば、不自然さを感じにくくなります。
また研究チームは、ジャンプ動作の自然さを判断する脳の仕組みを説明する計算モデルも開発。このモデルは、(1)ジャンプの初速度の計算、(2)その初速度から予測される重力下での速度変化、(3)予測と実際の動きの比較、という3つのステップで動作を評価します。モデルによる計算結果と実験参加者の評価には強い相関が見られ、人間が正確な地球の重力法則を基準に動作の自然さを判断していることが示唆されました。
NTTでは、この発見がメタバース空間やVTuberなどのデジタルアバターの動作表現の向上に活用できると考えています。現在のCGアニメーションやゲームの人物動作は、時として不自然に感じられることがあります。今回の研究結果を応用することで、より自然に感じられるキャラクターの動作表現が可能になると期待されます。
(参考)プレスリリース