Meta Questシリーズ初となる機動戦士ガンダムシリーズのVR作品「機動戦士ガンダム: 銀灰の幻影」。ガンダムといえば45年の歴史を誇る超人気シリーズで、とくに本作の舞台となる宇宙世紀は熱心なファンが多いことで知られています。これまで、ガンダムをテーマとしたVRコンテンツは専用の体験施設などに登場したものが複数ケースありましたが、完全にオリジナルシナリオの映像作品が登場したことが、発売前から話題となっていました。
果たして、「銀灰の幻影」は期待に応えるものなのか、いちガンダムファンのライターの視点からレビューしていきます(※一部、物語のネタバレが含まれます。あらかじめご了承ください)。
VRで体験する宇宙世紀
「銀灰の幻影」は、宇宙世紀0096年を舞台としたVR映像作品が楽しめる作品です。0096年といえば、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」のシャアの反乱から3年後、「機動戦士ガンダムUC」のラプラス事件と同じ年です。宇宙世紀の歴史を新たな視点で体験することができます。
主人公は、「アージェント・キール」と呼ばれる傭兵部隊に所属する、元地球連邦の軍人。連邦、ジオンのどちらでもない組織の一員として、ネオ・ジオンに逃れてきた連邦高官アザミ・メギッネを暗殺する作戦に参加します。顔や名前は明かされないものの、作中はしっかりとしゃべり、自分の意志で行動するタイプのキャラクターです。
主役機となるのは、もちろん“ガンダム”。「デルタザイン」と呼ばれる銀色の機体で、幻の機体「デルタガンダム」の系譜に位置するモビルスーツです。名前にガンダムとはついていませんが、登場人物たちがガンダムと呼んでいるのでガンダムのはずです。おそらく。
味方機体には、行動をともにするパイロットのバビア・レナが乗るヤクト・ヴァイゼ、ベテランパイロットのメイベル・レナが乗るリ・ガズィが登場。他にも銀色に塗装されたザクⅡやジムなど、連邦・ジオンや世代をごちゃ混ぜにしたモビルスーツが揃っているのが、第3勢力らしく、面白いところです。敵も旧式モビルスーツが活躍しており、サイドストーリーならではのお祭り要素を感じます。
ただ、世界線の違うはずの「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」のデザインの機体が一部混ざっており、長年のコアなガンダムファンは首を傾げるかもしれません。
一般的なVR映像作品では一人称視点で話の進む作品が大半ですが、銀灰の幻影では、カメラがところどころで切り替わり、主観視点だけでなく、登場人物やモビルスーツをガッツリ映してくれます。これのおかげか、大胆で格好いいカットシーンが数多くありました。カメラワークが激しすぎることもなく、全体的にVR酔いを感じにくいのも良いポイントです。幻のデルタガンダムが動き回るだけでも一見の価値があります。
モビルスーツに乗る体験が出来るミニゲームと問題点
「銀灰の幻影」では、基本的に会話劇や戦闘シーンを“観る”こととなりますが、シーンの合間には自分でモビルスーツを操作するミニゲーム的な場面もありました。
序盤の見どころのひとつが、モビルスーツの発進シーン。こちらではコックピットに乗り込み、自分で操作してデルタザインを発進させることとなります。宙空でナビゲートするメカニック、大量の情報が映し出されるディスプレイ、歩行シーンからカタパルトでの加速など、ロボットものでお約束のシーンが次々と展開されます。
戦闘では敵モビルスーツと戦うため、ビームライフルで応戦したり、ビームサーベルで斬り合ったりする場面もありました。モビルスーツに乗って実際に戦えるという、熱いシーンを自分の手で行えます。
ただし、これらのミニゲームは本作の欠点でもあります。というのも、コントローラーを前に押し出したり、視点でターゲットを狙ったりと、一般的なVRゲームでもあまり類例がない操作方法が多く、求められる操作が場面ごとに変わってしまうため、とっさに行うのが難しいケースが何度もありました。アクション自体もやや単調に感じられます。
また、コックピットの位置調整を落ち着いて出来るのが出撃場面のときのため、うまく操作できないときに直しづらいのも問題点です(※場面によっては、サイドのパネルを見つめると位置調整が行えます。しかし、やり方は本編中に説明されませんでした)。幸い戦闘自体はミスにシビアではありませんが、戦いが長引いてシナリオのテンポが悪くなることが起こりやすかったです。
ニュータイプを巡るドラマ
肝心のシナリオですが、登場人物の数や勢力が少ないため、あくまでもサイドストーリー的な規模の作品となっています。宇宙世紀の1エピソードなので、壮大な物語を期待すると肩透かしになるかもしれません。しかしクリアまではだいたい90分ほどかかり、単作としては一作の映画ほどの長さがありました。
キャラクター同士のドラマパートでは、今はいないパイロット「フィクジィ」を通して、主人公やバビア・レナのニュータイプへの羨望を描いています。一方で、登場人物たちが言葉を重ねても、お互いを理解し合えないという、宇宙世紀らしいテーマが見え隠れしていました。
実は主人公、「逆襲のシャア」の時代の作戦に参加していたパイロットでもあります。そのため、小惑星アクシズを押し返す、ガンダムファンなら一度は体験してみたいあの有名なシーンも回想として体験できるのです。もちろんνガンダムもしっかり登場しており、アムロ・レイのセリフを間近で聞けるのもポイント。
「ニュータイプの力をどう捉えるか?」というのが話のキモとなっており、エンディングが分岐するなど、物語の結末にも大きく関わってきます。最後に何を選択するかは、プレイヤー次第です。
実は、おまけこそが本編!?MRモードで体感する白熱のバトルと巨大なモビルスーツドック
「銀灰の幻影」にはVR作品だけではなく、MR(複合現実)コンテンツも2つ用意されています。ひとつは現実空間上にモビルスーツが出現するシューティングゲーム「MRバトル」。もうひとつが、好きなモビルスーツを格納庫から眺められる「MRギャラリー」です。
このMRバトル、初報のときは本編のおまけ的な要素だと思っていましたが、実際やってみると想像以上に白熱した体験が待っていました。ゲームを始めると現実の部屋の前後左右に宇宙空間が出現。プレイヤーはフィギュアサイズのモビルスーツを掴んで操作します。
操作は非常にシンプルで、出現した敵に銃を向けるだけでライフルを発射してくれます。接近戦ではビームサーベルを使い、ゲージが溜まれば必殺技も使用可能。逆に敵もどんどん弾を発射してくるので、手に持ったモビルスーツごと動かして直接避けていきます。
そのため操作は直感的で、今までにない新たなシューティング体験ができました。モビルスーツをブンブン動かして戦う感覚は、子供の頃に楽しんだ「ブンドド」遊び(フィギュアやプラモを戦わせて遊ぶこと)で通じるかもしれません。
ただし、かなり手応えのある難易度で、νガンダムを使うラウンド2で、まさかの2連敗をすることに。ゲーム中は被弾せず敵を攻撃してバーを一定数以上キープしなくてはいけません。
最後に登場するのはあの「サザビー」。ファンネルの連撃をかわす必要があり、緊迫したバトルが楽しめました。
一方、MRギャラリーは、ガンダムファンならじっくり楽しめる内容になっています。選んだフィギュアを台座に置き、ポータルを通過すると目の前にモビルスーツのデッキが出現します。
やはりモビルスーツはデカい! ワイヤーアクションで近づき、さまざまな角度から眺めることができます。選べるのは本編で出てきた機体の他、本家RX-78-2、ジオングやユニコーンガンダム ペルフェクティビリティもありました。
ちなみに、ポータルを通過せずそのままフィギュアで遊ぶこともできます。フィギュア自体精巧で、持ってるだけでも満足感アリ。両手でサイズを調整でき、1/60のプラモデル以上に大きくできました。このサイズのサザビーを現実でも欲しい!!
このため“だけ”にMeta Questシリーズを買うのはアリか?
ここまで本作の見どころを中心に語ってきましたが、どうしてもこれだけは書かなければいけないことがあります。ズバリ、「機動戦士ガンダム: 銀灰の幻影」を楽しむために、VR/MRヘッドセット「Meta Quest」を買うべきか否かです。
はっきり言えば、このゲームのため“だけ”にMeta Questシリーズを買うのは厳しいと思います。先述のとおり、VR映像本編のボリュームは90分ほど。アプリ自体は2,800円ですが、近日発売のMeta Quest3の廉価版モデル・Meta Quest 3S(128GB)は48,400円です。90分の映像を楽しむためだけに購入するのは、コストパフォーマンス的に悪く、宇宙世紀作品は何としても欠かさず見なければならないという使命感を持ったファンでない限りはおすすめしません。
しかし、今回のガンダムの映像作品以外のVRゲームやMRコンテンツに興味があり、これから手広く始めてみたいという方なら、Meta Questシリーズは間違いなくおすすめできます。さまざまなジャンルが遊べるVRゲームには、「アルトデウス:BC」や「BIG SHOTS -ビッグショット」「Mecha Force -メカフォース-」などの巨大ロボット操縦系のVRゲームがリリースされており、今後、和製のロボットVRゲームとして「QuantanoID(クオンタノイド)」が登場予定です。今回のガンダムをきっかけに、様々なVRゲームを試すことを、おすすめしたいです。
まとめ
ついにMeta Questに進出し、VRという領域でも一般発売されるようになったガンダムシリーズ。「銀灰の幻影」は惜しいところが散見しますが、一般向けVR初作品ながら光る部分もあります。いちガンダムファンとしては操作部分やスケール感で物足りなさは感じるものの、派手に立ち回るデルタザインや目の前に迫るジェガンなど、他のVRゲームでは絶対に味わえない魅力も感じられました。また独立したストーリーのため、ガンダムを知らないVRユーザーでも入りやすい内容となっています。筆者としては、本作を機にガンダムのVR作品が次々と生まれて欲しいという願望があります。今度はぜひ、本格的な戦闘が体験できるガンダムのゲームに期待したいです。
近年ガンダムコンテンツでは、「ガンダムメタバース」のようなバーチャル空間、ガンプラの3Dスキャンでのバーチャルバトルなど、新たな領域への施策を次々と打ち出しています。まだまだ道半ばですが、ガンダムビルドシリーズのような未来が近づいていると思うと、ファンとして応援したいです。
「機動戦士ガンダム: 銀灰の幻影」の購入はこちら(2,800円)
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