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Meta Quest 2024.08.27

MRコンテンツは日本にも浸透するのか? Metaコンテンツエコシステムディレクターインタビュー

VR/MRヘッドセットMeta Quest 3がリリースされて以降、ストアには数多くのMR対応コンテンツが登場している。MR(Mixed Reality)は、現実とバーチャルが混合したような映像を体験できるのが特徴で、「もっと! ねこあつめ」や「LEGO Bricktales」など、その技術を利用した斬新なアプリがリリースされている状況だ。新規アプリだけでなく、YouTubeやNETFLIXなどの動画サービスがMRモードに対応するなど、既存のVRアプリにMRモードが追加される流れもある。

また、MRコンテンツの面白さをアピールするためのプロモーションに関しても大々的に行われている。今年6月には、渋谷を中心に「四畳半MIYASHITA PARK by Meta Quest 3」を開催。また、東京港区の和風民宿を活用したMRコンテンツ体験イベント「MR HOUSE by Meta Quest」も実施されている。

MRコンテンツの開発とプロモーション、その両面をMetaはどのような方針で打ち出しているのだろうか? 今回は、MetaのコンテンツエコシステムディレクターChris Pruett氏に話を聞いた(※Chris Pruett氏は日本語を話せるため、以下インタビューは日本語で実施)。

MRコンテンツの開発は未知へのチャレンジ

——昨年10月にMetaQuest3をローンチしてからの状況を教えていただけますか?

Chris Pruett:
具体的な台数の話はできませんが、日本を含む世界的な売り上げについては、私たちの予想を超えるものとなっており、非常に満足しています。

——現状、MRに非常に力を入れて、アップデートやソフトのリリースを進めている印象ですが、開発者の皆さんを巻き込むエコシステムの形成はどの程度進んでいますか?

Chris Pruett:
そもそも、Meta Quest 3はMetaが初めて、消費者向けに発売した”MRデバイス”になりますが、リリースに合わせて、MRコンテンツを、ゲーム企業や開発者の方々と協力して、およそ100タイトルほど発表いたしました。それ以降、はじめてMR技術に触れたという方も含めて、MR技術自体に関心を寄せる開発者の方が増えたと認識しています。ローンチ後から開発をはじめるとなると、制作には当然時間がかかります。我々としては、出来上がったものを即座に出すよりも、開発により時間をかけてより面白いモノを発表してもらうという方針をとっております。なので、今年から来年にかけて、MRコンテンツについては続々と新しいものが発表されるだろうと思っています。

——個人的な見解で構いませんが、VRとは違って、MRにはどのような魅力があるとお考えでしょうか?

Chris Pruett:
VRコンテンツとMRコンテンツとでは、その魅力が違うと思います。VRでは、ゲームの世界に入り込むというイマ―シブな感覚、現実の世界から飛び出して別の世界に行ってしまったかのような没入感が強いですよね。

一方、MRは「自分の世界にバーチャルなものを持ってくる」という感覚があります。例えば「もっと! ねこあつめ」のMRモードでは、実際には存在しないはずのバーチャルな猫たちが集まってくる。そういったシンプルな経験であっても「自分の家にいる感覚」というのは、かなりのインパクトの強さがありますね。また、ねこたちに直接触ったりとか、インタラクションが可能であるという点も、実際に体験してみないと伝わりづらいものですが、かなりの感動があると思っています。

——ユーザーがMRを活用することによって、生活や仕事などが今後どのように変わっていくのでしょうか。イメージを教えてください。

Chris Pruett:
これまでのデバイスでは、そもそも「普通の生活をしながら別の世界の体験をする」といったことができませんでした。携帯電話は、自分の手元に別の世界の窓を持っているという感覚になるかもしれませんが、自分と一緒に動いたり、(画面の中にあるバーチャルなモノを)直接触って操作したりできるようなデバイスではありません。だからこそMRではこれまでに無かった体験ができます。

「どういった使い道が今後一番流行るのか」は我々にも分かりません。「もしかしたら、こっちの方向に行くのではないか」という私たちなりの考えはありますが、実験して面白い使い道を探すのは、開発者の方々の領分です。だからこそ、開発者の方々と一緒に(新たな使い道を探るような)システムを検討している状況にあります。

——開発者側の視点に立った際、MRコンテンツの開発にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

Chris Pruett:
開発者の方々にしてみると、はじめてのMRデバイスだからこそ、改めていちから発想を考え直さなければならない問題がたくさんあります。「実在しない猫に触る」という感覚を作るには、これまでの技術ノウハウだけでは足りないわけです。それは、ある意味で「今まで見たことのないチャレンジができる」とも言えますし、そういった未知への挑戦が、大きなモチベーションにつながるのではないかと考えています。また、早い時期から開発に参加することで、自分の切り開いた道筋が、そのまま王道の方法になる可能性もあります。自分が社会に大きな影響を与えるかもしれないという点も、興味を持ってくださるポイントではないかと思います。

——「発想を考え直す」とのお話がありましたが、開発者の方々がMRコンテンツを制作するにあたって、どういうところから取り掛かると良いでしょうか?

Chris Pruett:
「自分の家にバーチャルのモノを置くとして、どのような形で、どのように配置するのが適切か?」といった非常に基本的なことを、一から考えるのが重要だと思います。「空中にあるのか、地面に置かれているのか」といったことすらも、最初から決めなければならない。ただ、それが決まってしまえば、すでに制作してある3Dオブジェクトなどを使うのであれば比較的気軽に導入ができると思っています。これまで、VRコンテンツを長く制作してきた方々は、ユーザーがどのような体験を欲しているのか、どのような方法でそれを実現できるのかといったノウハウをすでにお持ちなので、(MRコンテンツを制作する際にも)応用できると思っています。

我々の(Presence Platformの)SDKもUnity対応など、外部のソフトウェアとの連携は容易ですし、本当に必要なことは「(MRに)何を持ってくるか?」ということだと思います。そこを追求するのは開発者の方々にとっても、面白いところではないでしょうか。

——最近になって、VRのコンテンツであっても、ゲームのワンシーンだけがMRモードに切り替わったり、設定変更中にMRモードに自由に切り替えられたりと、シンプルにVR/MRとジャンルを区別できない、混合したコンテンツも増えている印象です。こういった傾向は今後増えていくのでしょうか?

Chris Pruett:
おっしゃる通り、フィットネス系のアプリなどで、その傾向はよく見られるようになりましたね。たしかに、はげしく運動するときは、周りの状況を知りたいからMRモードで楽しみたいというユーザーの需要があり、開発者側がそれに応えたのだと思います。一方で「現実空間とは違った環境で運動を楽しみたい」という声もありますので、VRモードも必要となってくる。どちらか一方だけというかたちにするのではなく、ハイブリットになったモードを作りたいという想いを、開発者の方が持っているから実現しているのだと思います。

日本ユーザーにもMRは浸透していくのか?

——Metaは、MR技術を活用したコンテンツのPRを、日本でも積極的に取り組んでいる印象です。今年の6月には渋谷を中心に「四畳半あれば、何でもできる、何にでもなれる。」というキャッチフレーズで、大型の体験イベントを実施していました。こういったPRにはどういった意図があるのでしょうか?

Chris Pruett:
そもそも、日本は私たちにとっても非常に重要なマーケットです。日本の家屋は、北米圏のものと比較すればコンパクトではありますが、「一軒家のような、広い空間でなければ、VRやMRは使えない」というわけではありません。そのため、あえて「四畳半あれば、何でもできる~」というキャッチフレーズを使い、Meta Quest 3はどんな場所でも自由に活用できるものであることをアピールしたいという狙いがありました。さらに言えば、「巨大な画面で映画を見たい」「こたつに入ったままドラムを叩きたい」といった、現実に広いスペースのない人のやりたいことを実現できるデバイスとして広めたかったという思いもあります。

——MRコンテンツであれば、自分の部屋の様子を見ながら体験を楽しめるので、狭い部屋であっても、モノにぶつかる怖さが軽減されている印象です。

Chris Pruett:
これまでもVRコンテンツを安心して遊ぶための機能として、ガーディアンシステムというものがあり、事前に指定した境界から身体が外れた際に、現実空間の様子を表示するという機能が活用されています。しかし、MRであれば、ガーディアンも必要なく、より安心して体験できます。

——そういった意味では、MRコンテンツは日本でも大きく広がりそうな予感があると。

Chris Pruett:
そうですね。ただ、もちろんですが、日本だけではありません(笑)。MRデバイスが世に浸透するにつれて、ゲームだけではなく、運動やお絵かきといった、ソフトウェアでできる基本的なことの全てを、MRの中で体験するようになるのではないかと考えています。

私たちが見ている限り、日本ではMRコンテンツに対して、一般の方でも、プロのゲーマー方でも「なるほど!」と、すぐにコンテンツの内容を理解して、すぐに体験したいとおもってくださる傾向があると思います。

——MRコンテンツの中には、ゲームや運動以外にも、仕事などに活用できるアプリがありますが、こういった“仕事”の領域でのMR活用については、どのようになっていくと予想していますか?

Chris Pruett:
私たちは、日本を含めた世界各国で、ユーザーリサーチを継続的に行っていますが、ユーザーの意見を聞いてみると、MRに関しては多種多様な利用のされ方があることが分かっています。例えば、家の中を歩き回りながら仕事のアプリを開いたり、ピアノを習いながらVRアプリを使ったりと、それぞれのライフスタイルに合わせた活用法があります。調べている限りでは、仕事用に活用したいというユーザーの方も数多くいらっしゃるようです。

例えば、リサーチした中には、ゲームの大好きな大学生の方がいたのですが、彼は、Meta Quest 3を自分の宿題を片づけるために利用していました。どういう宿題だったのかはよく分からなかったのですが(笑)MRであれば、机の上の本を見ながら、ブラウザを開いて調べ物をするといった使い方もできますね。こういった活用法についても私たちは注目しています。

——今後のMetaのMRコンテンツ展開の方針についてお聞かせください。

Chris Pruett:
特にユーザーの方が好きなコンテンツを発表していきたいです。先ほど「MRで何ができるかを考えるのは開発者の方々」という話をしましたが、私たちの考えと、開発者の方々の積み重ねてきた考えを付け合わせて、そこからどのように面白いものを作るかを考えていきたいと思っています。

——「ねこあつめ」や「8番出口」など、すでにPCやスマホで遊べる人気タイトルが移植されるケースも増えている状況です。ユーザーとしては、次にどんなゲームやアプリが来るのかも気になるポイントではないかと思います。

Chris Pruett:
昨年は「Asgard’s Wrath 2」が発表され、今年は「Batman: Arkham Shadow」という大型タイトルがリリース予定で、そちらにもご期待していただきたいところですが、MRコンテンツの場合は、アプリのボリュームが小さいものであったとしても多くの人に利用される可能性があると思います。超大作ゲームのリリースにも注力しつつ、ゲーム以外の小型のアプリなども、開発者と話し合いながら様々なものを発表していく予定です。

——ありがとうございました。


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