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ゲーム・アプリ 2018.12.01

VRならではの、ナラティブの“進化系”「The Gallery」開発者インタビュー

(※本記事はHTC社公式ブログに2018年10月16日に掲載された、VIVEチームの記事を翻訳したものです)

インタラクティブなナラティブ体験で評価の高いThe Galleryは、最初のエピソードがVIVEPORTに登場したときから見逃せないゲームでした。開発元であるCloudhead Gamesはあらゆる没入手段を駆使して、奥深い世界と魅力的な物語を作りあげました。プレイヤーは失踪した妹を探してファンタジックな未知の領域を探検することになります。開発の経緯とシリーズの今後についてCloudhead GamesのStevens氏に伺いました。

インタビュアー: Nathan Ortega (VIVE)

——まず、ご自分とCloudhead Gamesについて簡単にご紹介いただけますか。

僕はAntony Stevensです。チームのみんなの色々な仕事を手伝っています。コミュニティ関係管理からコンテンツ制作、ナラティブデザインまで何でも。

Cloudhead Gamesの代表作はおそらく「The Gallery」のエピソード1「Call of the Starseed」でしょう。ルームスケールVRで作られた初のストーリー主導型アドベンチャーゲームです。2016年にVIVEのローンチタイトルとしてリリースされて以来、たちまち確固たる評価を獲得しました。当時はVIVEの購入特典だったので、それでお持ちの方もいらっしゃると思います。「Call of the Starseed」は多くの賞やノミネートをいただき、ゲーム・オブ・ザ・イヤーにも選ばれました。

続編「Heart of the Emberstone」は昨年、Viveport Developer Awardのエンターテイメント部門を受賞しました。僕たちはまた、スナップターンやテレポート(僕たちはBlinkと呼んでいますが)といったVR内での移動方法を業界に先駆けて開発したパイオニアでもあります。

——「The Gallery」の構想はどこから?

チームメンバーはみんなファンタジー映画や冒険映画を見て育ちました。「グーニーズ」、「ラビリンス/魔王の迷宮」、「ダーククリスタル」、「インディー・ジョーンズ」などですね。

VRはユーザーを別世界に連れていくことができます。子供のころテレビの前に座りこんで、自分が映画の世界で主人公になったところを想像しながら夢中で見入ったあの体験を、プレイヤーにも味わってもらいたいと僕たちは考えたのです。VRなら自分が本当に主人公になって、フィクションの世界を歩き回り、そこにある物に触れ、謎を解き、自分の手で魔法を使うことだってできます。

——「The Gallery」は音楽といい背景設定といい、昔懐かしいテイストのグラフィックといい、80年代へのノスタルジアに満ちあふれています。特に影響を受けたポップカルチャーなどはありますか?

「グーニーズ」と「ダーククリスタル」には間違いなく大きな影響を受けていますね。「Starsheed」には「グーニーズ」の一場面へのオマージュを詰めこんだ隠しエリアを仕込んでありますし、「Emberstone」には「ダーククリスタル」に出てくる儀式の間そっくりの寺院が登場します。

——インタラクティブなナラティブを作るのは簡単なことではありませんし、そこにVRの没入感を活かすとなるとなおさらでしょう。「The Gallery」の開発で一番難しかったのはどんなところですか?

VIVEを使ったルームスケールVRなので、ただでさえプレイヤーの自由度が高くナラティブの進行中も動き回れるうえ、ハンドトラッキングでゲーム世界内の事物に干渉できるので、事が複雑になりがちでした。プレイヤーがまずい場所にタイミング悪く移動してしまって物語のテンポが台無しになる可能性もあるし、重要なイベントが起きているときに別の方向を見ている可能性もある。従来のゲームと違って、カメラを動かして見てほしいものを顔の前に突き付けるわけにもいきません。

僕たちはこの問題を、できるだけ多くのアフォーダンスを入れることで解決しようと試みました。つまり、プレイヤーが適切なタイミングで適切な場所に目を向けるように、あの手この手で誘導したわけです。

例えば「Emberstone」では、巨大な岩の怪物が起きあがってプレイヤーに話しかける場面があります。このときBGMは盛り上がり、背後で大きな騒音が鳴り響きます。両手のコントローラーは振動し、大きな岩が口をきいたらさもあらんというような唸り声が轟き、正面の壁には巨大な影が落ち――世界のすべてがプレイヤーに「振り返って後ろを見ろ!」と全力で訴えるのです。しかし、これだけやっても、手に持った小さな物をいじるのに夢中で振り向きもしない人は実際いるのです。そこが難しいところでした。

——エピソード1のリリース後、プレイヤーの行動やフィードバックについて何か意外な発見はありましたか? まさかそんな風に反応されるとは思わなかった、というような。

ネタバレにならない範囲で言うと、「Call of the Starseed」の終盤で、あるものが手に触れる場面があります。プレイ動画でも直接立ち会ったプレイでも、その場面では誰もがほぼ必ずといっていいほど無意識に手を引っこめようとします。実際に触れた感覚があったと言う人もいます。それだけ深く没入し、主人公と一体化して体験してもらえたということで、まさに僕たちの狙いどおりです。そういう瞬間を創り出せたと思うといつも本当に嬉しくなります。

——「The Gallery」をエピソード形式にしたのにはどういう意図があったのでしょうか。今後他のプロジェクトでも同様のスタイルを採用していきますか? それとも従来的な一話完結型のアプローチに惹かれますか?

エピソード形式にしたのは、各話ごとに新しい試みができるからです。「Starseed」では、人間がVRにどのくらい長く没入したいと思うものか確信がなかったので、没入を気楽で快適なものにすることに重点を置きました。その結果、長さやペース的にはインタラクティブ映画に近いものになりました。「Emberstone」では複雑な探索を取り入れ、もう少し野心的なストーリーテリングにも挑戦できました。エピソード3はこれまでの経験を土台に、さらに複雑な身体的インタラクションを伴う体験となっています。

——シリーズとしては折り返し地点に来たわけですが、エピソード1と2の開発で学んだことで、特に今後のエピソードに活かしていきたいと思うのは?

全部です。本当に! 僕たちはVR開発に草創期から取り組んできた数少ないチームの一つで、その点は幸運でした。VRで有効な手法、そうでない手法に関する知見を早くから蓄積できたからです。よく言うように、型を破るにはまず型を知らなければなりませんから。これでインタラクションとストーリーテリングについて確かな知識の土台ができたので、次はそれを足がかりに、従来の固定観念を打ち破ることに挑戦できます。エピソード3はこれまでの2エピソードでやってきたことを覆し、全く新しい体験を組み合わせて、本当に面白いものをいくつかお見せできると思います。

——どちらのエピソードにも奥が深くてやりごたえがあるパズルが登場しますが、頭を使う要素を入れることは最初から構想にあったのですか? それともストーリーを考える中で自然と生まれてきたのですか?

実は「Myst」も大きなインスピレーションだったので、ゲームのテンポに変化を付けるためにもパズル要素は入れたかったんです。ただ、世界のコンテキストの中でちゃんと意味があるものにしたかった。だからパズルは単に次のエリアに入るための鍵というだけでなく、解くとストーリーに関わる何かが明かされるようになっています。

謎を解くことが、自分がまさに今身を置いている世界そのものに関わってくるというのは、VRだからこそ実現できる体験です。そのぶんパズルを作るのも解くのも難しくなりますが、ルームスケールが本領を発揮する部分でもあります。辺りを歩き回って周囲の物を調べるという定番の行動が、VRだと全く新鮮な体験になるのです。

——本シリーズでは複雑な関係にある対照的なきょうだいが頻繁に登場するように感じますが、これは意図的なモチーフでしょうか。今後もこの路線は続いていくのでしょうか。よければその理由についても教えてください。

実際にはもう少し広い意味があるのです。対照的なきょうだいというのは、宗教と科学の対立、マジックリアリズム、一般的な文化における排斥を語ろうとして自然と出てきたものだと思います。僕たちはどちらの側も欠点と強さを兼ね備えた存在として描こうとしてきました。無謀な冒険者Elsieと、慎重すぎる救出者Alex。科学の人Sebastianと、信仰の人Sarah。僕たちを分かつものは、究極的には互いを一つに結び合わせるものでもある。エピソード3ではそれを中心テーマに据えたいと思っています。「The Gallery」の世界とは切っても切れない主題でもあります。

——「The Gallery」では音楽も雰囲気とトーンの演出に大きな役割を果たしていますね。サウンドトラックを手がけられたのは作曲家として受賞歴もあるJeremy Soule氏だそうですが、このコラボレーションが実現した経緯を聞かせてください。また開発に際して、どちらかのスタイルやムードがどちらかに影響を受けたということはありましたか?

シアトルのあるイベントに「The Gallery」のごく初期のバージョンを出展したことがあって、Soule氏とはそこで知り合いました。Soule氏はデモをプレイして、非常に良かったと言ってくれました。僕たちと同じようにVRに将来性を感じていて、そのために何か作りたいと思っていたところで、「The Gallery」は彼にとって絶好のきっかけだったのです。楽曲制作をお願いするにはまさに理想的な、これ以上は望めないというほどの相手でした。

——エピソード3を心待ちにしているファンのために、現時点で何か公表できる情報はありませんか? 実はリリース日がもう決まっている、とか……?

エピソード3は現実を織り成すもの自体に関わる旅です。それは自分自身の根源に触れる旅でもあります。主人公は「Heart of the Emberstone」で授けられたガントレットで、現実を改変する大きな力を手に入れることになります。それが究極の解決への鍵となるでしょう。今言えるのはここまでです。

——「The Gallery」の完結後、次のプロジェクトについては何か構想はありますか?Cloudhead Gamesとしては引き続きインタラクティブなナラティブVR体験の可能性を追求していくのでしょうか、それとも他のジャンルに挑戦するのでしょうか?

この5年で僕たちはVRについて多くを学びました。もっと大がかりな作品に取りかかる準備はできています。次は型を破り、ありふれたアイデアをパラダイムシフトへと押し上げてみたいと思っています。僕たちはシネマティックを得意とするチームですが、ファンタジーやアドベンチャーといった慣れたジャンル以外に挑戦していくプロジェクトも暖めています。ファンの皆さんならご存じのように、僕たちは常にVRの新たな可能性を切り拓こうとしています。すでに構想はいくつかあって、もう少ししたら詳しくお話しできるかと思います。

——お時間を割いていただき、ありがとうございました。

(「The Gallery」のエピソード1「Call of the Starseed」とエピソード2「Heart of the Emberstone」はVIVEPORTで現在配信中です。VIVEPORTサブスクリプションからもプレイできます)


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