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ゲーム・アプリ 2016.09.22

なぜ『刀剣乱舞VR』は絶賛されたのか?DMMが目指した“居心地の良さ”

9月15日から18日の期間に開催されていた「東京ゲームショウ2016(TGS)」では、VR作品の出展が増加、またVR専門ブースも設置され、まさにVR元年にふさわしい賑わいを見せていました。

そういった中、DMM GAMESが出展した『刀剣乱舞VR』は、今までの女性向けVR作品と比較しても引けを取らない素晴らしい体験で話題になりました。

刀剣乱舞VR 5つの観点で見る工夫点

Mogura VRではDMM.comラボのビジネスデベロップメントエクゼクティブの藤井隆之氏、同社のエグゼクティブプロデューサーの花澤雄太氏の9月15日に行われたステージイベントと藤井氏へのインタビューを踏まえて、刀剣乱舞VRの体験は何が素晴らしかったのか――このコンテンツに見えた工夫をレポートします。

※コンテンツの内容について深く触れるため、内容はネタバレを多く含みます。また、本体験のレポートはこちらの記事をご覧ください。

1)目指したのは「居心地の良さ」
2)技術デモの随所に見える工夫
 1)体験へのいざないとしめくくり――女性への丁寧な配慮
 2)体験の質を高めるコンテンツの要素
 3)世界観・安全性の担保
 4)没入感を高める設営
 5)三日月宗近からのサプライズ
3)藤井氏インタビュー コンテンツにかける想いと意識した挑戦

目指したのは「居心地の良さ」

刀剣乱舞VR 5つの観点で見る工夫点

向かって左がDMM.comLaboのビジネスデベロップメントエクゼクティブの藤井隆之氏。右がDMM.comLaboのエグゼクティブプロデューサーの花澤雄太氏

9月15日に行われたステージイベントではこの体験の制作について語られました。

「VRで大事な要素に没入感(presence)があるが、Active(自分が何かして入ろうとするもの)とpassive(何もしなくても受け入れられるもの)に分けられると思っている。刀剣乱舞VRは、何もせずずっとそこに座ってても気持ちいい。そんなVRを今回はカタチに出来たんじゃないか、と思っている。」とDMM.comラボのビジネスデベロップメントエクゼクティブ藤井氏。

また、エグゼクティブプロデューサーの花澤雄太氏は「今回の刀剣乱舞VRが目指したのは“居心地の良さ”。静と動でいうと、静、癒しになるようにした。星空を眺めたり、夕暮れを眺めたり、そんな素敵な時間が家で実現できたらいいなと今後考えている。」とステージ上で語りました。

技術デモの随所に見える工夫

刀剣乱舞VR 5つの観点で見る工夫点

体験へのいざないとしめくくり――女性への丁寧な配慮

今回の展示は全工程に女性の監修がされているとのこと。体験した筆者の中で、工夫が感じられたポイントを考察していきます。

実際にコンテンツを体験して、ブースを出るまでは、ざっと以下ような流れです。

1.整理券順に順番待ち
2.順番が来たら暖簾をくぐる
3.玄関でVR体験の諸注意を受ける
4.靴を脱いで上がる
5.マスクをもらう
6.靴と荷物をおく
7.畳の上にある座布団に座る
8.マスクを装着し、Oculus Rift・ヘッドフォンを着けてもらう
9.コンテンツ体験
10.靴と荷物をもって畳の間からでる
11.靴を履く
12.お化粧直しする
13.暖簾をくぐってブースを後にする。

体験時間が数分に対して、ブースに入ってから出るまでは15分ほどの時間を要します。
1~7までで戸を開け、本丸に入っていることを視覚(本丸のしっかりした建物、壁絵)から認識、嗅覚(畳の匂い)、触覚(畳・座布団の感覚)で、“今私は本丸にいる”という感覚が高まります。

その状態でコンテンツを体験することで、さらに視覚聴覚の認識が強化され、嗅覚、触覚がない状態とは大きな没入感の差になります。複数の感覚からの情報を組み合わせる手法はVRZONE Project i Canでも実例があります。

コンテンツ体験のあとは、しめくくり。
10~13では、デモの余韻に浸りながら、身支度も整えられるつくりになっています。またアンケートを記入もあり思いの丈をここで記入。身支度とともに現実世界へかえる心も整い、暖簾をくぐって体験が終了できます。

体験の質を高めるコンテンツの要素

さらに、体験そのものも随所に工夫が見られました。

・忠実に再現した、違和感の少ないキャラクターモデル
キャラクターとVR空間内で会うと、不思議な現象が起こることがあります。2D画面で問題なく見ているものでも、VR空間内で見ると、“人型のバランスが現実と違いすぎると違和感が出る”現象です。

特に女性向けゲームの2D立ち絵をそのままモデリングすると、男性モデルは身長が高く、足や腰が細かったりするのに顔が小さくて下手をすると11頭身くらいになってしまい、いざVRで目の前にすると気持ち悪く感じてしまいます。今回の刀剣乱舞VRでは、「しっかり描画しているのでむしろ思い切り見てもらっても大丈夫ですよ!」とお墨付きを藤井氏からもらうほど作り込まれていましたが、実際制作する際はこういった点も注意が必要です。

・キャラクターの個性の現れた自然な動き
キャラクターの動きは、没入感を与える上で今回のような受動的なコンテンツでは重要です。もし今回の三日月宗近がロボットのような動きをしていたら、きっと三日月宗近が“本当にいる”感覚にはならなかったでしょう。逆に、今回は天下五剣の中で最も美しいと言われた“キャラクター設定に違わず、美しい優雅な袖の動き、歩き方”で実在感が増しました。

・視線誘導の巧みさと、それによる自然な出会いの演出
こちらに近寄ってくる猫に注目させ、ひざ元に目線を向かせます。そして右の頭上から“三日月宗近の声が聴こえることで、そちらを向かせて”三日月宗近と自然に対面させる。こちらへ歩いてくる三日月宗近の所作の美しさも存分に堪能できる演出です。

・キャラクターが体験者を目で追ってくれる、“寂しくない”体験
冒頭の15日に行われたステージイベント中、藤井氏は制作中のデモを女性に体験してもらったとき、”寂しい”という感想を言われたことを話しました。その理由は体験者に関係なく体験が進むため無視されているように感じたからとのこと。その解決策は“キャラクターが体験者を目で追う”動作をいれることで、実際に体験するとしっかりと改善されていることが見受けられました。

・自然な近さ
人間には、パーソナルスペースがあります。キャラクターが体験者のパーソナルスペースを超えて近づいてきたときに「近い近い」と照れます。照れるのは、まさに実在しているように感じるからこそ。今回は三日月宗近が目の前に座って猫を撫でるときに多くの体験者がそのような状態になったのではないでしょうか。

なお、パーソナルスペースへの侵入は、好きなキャラクターであれば良い方向に作用しますが、怖いものや嫌悪感のあるものは要注意です。パーソナルスペースを超えて近づかせると、現実と同じように不快感を感じる現象がVR空間内でも起こるからです。

・三日月宗近や猫だけではない、空間の精巧さ
Oculus Riftを装着して本丸に入った際、目の前の青々とした鮮やかな庭園に心が奪われました。後ろを振り返って本丸の部屋を確認したあと、まるで祖父母の家を訪れたようなほっとした気をしたことを覚えています。

実際にここにいる、と思える空間は実際のスケールが重要です。天井の高さや板の幅など、VRに入ると現実世界の大きさと違い違和感が現実に引き戻されてしまうからです。

世界観・安全性の担保

・キャラクターに近づきすぎた場合、視界を暗くすることで体験を担保。
キャラクターのモデルを突き抜けてしまうと、現実に引き戻されてしまいます。これほど“覚めて”しまうこともありません。この現象はキャラクターに近づきすぎて、HMDの位置がキャラクターのいる座標に重なることで起きます。回避策の1つとして、画面を暗くして見せない(目をつぶったことにする)ことは効果的でした。

・大きく動きすぎた時に現れる格子
体験時の安全策として、指定位置から大きく動いた場合は格子がでて、これ以上進めないことを表示していました。体験中に大きく元の位置からでてしまうと、Oculus Riftのセンサーのトラッキングが外れて体験が止まってしまい、一気に酔ってしまうことがありますが、見事に防止できています。また、体験者自身が壁にぶつかったり、危険になる、などのアクシデントも防げます。

没入感を高める設営

体験するスペースの設営にも配慮が行き届いています。

・無駄な配線はすべて隠す

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刀剣乱舞VR 5つの観点で見る工夫点
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刀剣乱舞VR 5つの観点で見る工夫点
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ゲームセンターの筐体のように、無駄な配線がまったくない体験スペース。センサー・コードもうまくセットの中に隠して設置してあります。配線につまづくことも、本来なら本丸にないものが目について没入感がそがれることもありません。

・ブースには仕切り、他人からは体験中の自分の姿が見えないような体験スペース

刀剣乱舞VR 5つの観点で見る工夫点

三日月宗近に会う今回のデモは感情が出やすい、かなり個人的な体験です。人から見えない配慮は初めての人でも安心して体験できる環境につながっています。

・HMDをつけるときの“優しい”案内

刀剣乱舞VR 5つの観点で見る工夫点

マスクの位置、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)をつけるときの案内、きつさ・緩さを一つずつ確認してくれました。マスクやHMDがずれてしまうと、十分に見えなかったり、ぼやけていたりで体験が台無しになってしまう可能性があります。初めて装着するときは体験者も何が正しいか分からず、言い出しにくいため丁寧にリードして聞かれると体験者も安心です。

設営・女性への配慮

・マスクの案内
メイクが崩れたり、他人がつけたHMDを直接つけたくない人にも衛生的で安心なマスクをもらえます。

刀剣乱舞VR 5つの観点で見る工夫点

・体験後のメイク直しブース

刀剣乱舞VR 5つの観点で見る工夫点

胸元まで映る大きな鏡はもちろん、綿棒、ティッシュ、ウエットティッシュ…。HMDを着けた後の髪型は気になるもの。とはいえTGSではトイレも混んでいることも多く、ブース内で直せるのはとてもありがたいと筆者は感じました。また、この時間で余韻に浸れるのも素晴らしいところ。

三日月宗近からのサプライズ

ビジネスデーではなかった演出で、うれしいサプライズ。
女性はサプライズが好きだとよく言われますが、思ってもみないおもてなしは誰でもうれしいもの。今回は2点ありました。

15分おきに本丸の障子に現れる三日月宗近。

順番を待っている体験者や通りがかった人が、本当に三日月宗近がここにいる、と感じられるプロジェクションマッピング。今回は当選者のみの体験だけ、ということもあり一般デーに全く何もないのは寂しいと筆者は思ってブースを訪れていましたが、見事なサプライズでした。

三日月宗近イラスト入りのあぶらとり紙のおみやげ。

こちらは体験者に配っていた模様。体験のあとに何か記念になるものをおみやげにもらえると、形に残る想い出に加え、体験者だけが感じるプレミア感があり、さらに良い体験になったことと想像します。

藤井氏インタビュー コンテンツにかける想いと意識した挑戦

刀剣乱舞VR 5つの観点で見る工夫点

ここからは、プロデューサーの藤井氏へのインタビューを元にした開発秘話になります。

今回のコンセプト「Visual Relaxation」については、「デジタルコンテンツの中でもずっと見ていたい、と思える感情――こころのバーチャルリアリティ――をうまく表現できれば、と思っています。例えば本丸の庭園をみて、京都にいって縁側に座ってお団子を食べたいなあと思うように同じく感じられるようにしたかった。」と藤井氏は語ります。

また、没入感を高める仕掛けについては、インタラクション性が必要になります。「その上で棒のようなコントローラでインタラクション性をいれなくても、畳の感触やいぐさの匂いから今和室にいると感じてもらう。さらに正座をすることで筋肉や神経からの体感の入力にも挑戦した。」と熱弁。

没入感を高めるブースの流れについては、「いまからいくんだぞ、という暖簾をくぐる所から入るからこそ、さらに体験の没入感が増すと思い今回のブースは作っている」とのこと。

また体験全体のプロデュースはすべてに女性の監修入り。“最後にいい思い出だった”と思ってもらうところまで、完全にプロデュースしたとのこと。「余韻に浸りたいのに、体験が終わってすぐ現実、というのはしたくなかった。」と体験する女性へのおもてなしが垣間見えました。

今回の刀剣乱舞VRは、技術研究の一環として“体験する環境”を想定してつくっていたそうです。
「我々日本人が楽しめるコンテンツだと和室で座って体験するタイプで、室内で動くコンテンツは今回は違うと思っていた。」とあまりスペースが確保できない日本のVR事情を配慮したつくりになっています。

また、今回自分たちがVRコンテンツが、後発だとしながらも、「こうきたか!といわれる研究成果を自分たちが出して、他の開発者も触発されていくような、業界全体がレベルアップしていきたい」と業界全体の発展についても語りました。

 


 
ここまで振り返ってきたように、細部まで体験者への工夫が見受けられた『刀剣乱舞VR』。

今回の技術デモはTGSのみ展示、今後の再体験の機会は未定とのことです。今後はハイエンド向けにコンテンツを作っていく、とステージ上で語っています。多くのファンが待ち望んでいる体験なだけに、今後の展開にも期待したいところです。


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