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VRヘッドセット 2025.03.26

【実機体験】驚愕ふたたび 世界最軽量のVRデバイス「Bigscreen Beyond 2」“世界最高”にこだわった次世代機

世界最軽量のVRヘッドセットの新機種がわずか2年でお披露目された。

2025年3月22日、Bigscreen VRは世界最軽量のVRヘッドセットの新型「Bigscreen Beyond 2」(以下:Beyond 2)を発表した。

筆者は、2年前の2023年2月に初代Bigscreen Beyond(以下:初代Beyond)が発表された直後に、3月の渡米時に製品版手前のバージョンを初めて体験した時の驚きと感動は今でも覚えている。

「つけていることを忘れる軽さ」

あまりにも尖っていたこのデバイスが新型でどう進化したのか、CEOのダーシャン・シャンカー氏に話を聴きながら、さっそく体験してみた。

最大の違いは光学系にあり

軽さは初代から続くBeyondの特長だ。だからこそ、 Beyond 2の驚きは別のところにあった。

それは視野角だ。

装着した瞬間、明らかに前世代機と異なることが一目瞭然だ。今回、視野角は水平視野角が108度、垂直視野角が96度で対角視野角は116度となる。Quest 3やValve Indexと比べても広い数値となる。

前回のbeyondのレビューではこう書いていた。

若干狭いが、他のヘッドセットを被った直後にかけたり、気になる人は気になるという程度かもしれない。目の前のコンテンツに集中してしまうと、筆者はあまり狭いことが気にならなくなった。

Beyond 2をかけた次の瞬間思わず言ってしまったのは「うわ、広い!」の一言だ。

どうしても「これだけ小型だから、サイズの大きいQuest 3やValve Indexとかと比べても狭くてもしょうがない」と思ってしまうのだが、Beyond 2は完全に克服した。

視界を十分カバーしており、コンテンツに集中していく時間はもう必要ない。体験した瞬間からばっちり没入できる。

Beyond 2を作るにあたり、シャンカー氏たちが向き合ったのは視野角を広げることだけではない。

光学系=レンズ設計への挑戦だ。

Beyond2は“最高の光学系を目指した”という。視界の中心から端まで全体が明るくくっきりと見えるようにするための「クリアな見え方」(鮮明度、Clarity)、ちらつきや反射を抑えたり、周辺視野の歪みを抑えたりと光学系に関係する改善点は多かった、という。

「VRヘッドセットの”没入感と体験価値の向上”は、ディスプレイと光学系の組み合わせで決まる。両方が噛み合わないと、いい体験にはならない。たとえば、Quest Proは、パンケーキレンズを採用し、光学系は素晴らしかったが、ディズプレイのクオリティが高いとは言えなかった。」(シャンカー氏)

Beyond 2の光学系には開発側の大きな苦労が隠されている。

「我々が作るのはただ視野角の広いVRヘッドセットではない。ヘッドセットを大きくすれば実現はしやすい。でも、我々が作りたいのは世界一軽いのに光学系も最高のVRヘッドセットだ。今回は軽さと光学系を比べても光学系を何としても果たしたかった。日本やアジア各国、米国のサプライヤーを巡り、製造レベルでのクオリティコントロールを試みた。その結果、最高のパンケーキレンズに仕上がっている」シャンカー氏も製品担当責任者も、光学系の実現に最も時間をかけたという。

その結果が、「うわ、広い!」であり、小型なはずなのに何ら違和感がなくクッキリと見える視界だ。

見え方に死角のなくなったBeyond 2、格段に体験の質は上がっている。

127g→107g、いい意味で「分からない軽さ」

初代Bigscreen Beyondはヘッドバンドなどを除き、ヘッドセット単体の重量は127g。Beyond 2では107gまでさらに約16%の軽量化に成功している。

ここまでくると、感想としては、とにかく軽い。

頭にどのように固定して体験するかにもよるが、オーディオストラップをつけた状態での総重量は約300g、他のVRヘッドセットと比べても、並ぶのは日本のShiftallが2024年11月に発売したMeganeX Superligjt 8Kくらいだ。

「1gでも軽くする、それが僕らのこだわりだ」とシャンカー氏が話すように、軽量化には徹底したこだわりがある。アイトラッキングを搭載している上位モデルBigscreen Beyond 2eは、専用センサーと保護パーツが追加されたのに重量は1gしか変わらない。

世界最軽量の座は譲らない、そんな強い気概が感じられる。

針の穴のような超小型センサー

デモを体験した部屋にはアイトラッキング(※視線追跡)を搭載した上位機種 Beyond 2eもあった。

体験することはできなかったが、そのサイズは驚異的だ。通常、VRヘッドセットでアイトラッキングを実現するためには、左右のレンズの周りを取り囲むように複数のセンサーを配置する方法が一般的だ。

しかし、Beyond 2eに搭載されたセンサーはあまりにも小さい。パーツ自体は大きいが、環状のセンサーはなく、一箇所に一つのセンサーがあるだけ、しかも針の穴のように非常に小さい。


(アイトラッキング用のセンサーがあまりにも小さいので、拡大した写真とともに)

「アイトラッキングは2020年から開発を進めてきた。この世界最小のアイトラッキングセンサーで精度を高める独自のアルゴリズムを独自開発した」

見たことのない方式だが、センサーもソフトウェアも全く新しいアイトラッキングシステムを製品レベルに作り上げたことになる。

「Beyond 2のアイトラッキングを実現するために、日本やアジア各国など様々な場所を巡って理想を追い求めた」という。

体験してその実力を確かめるのが楽しみだ。

サイズは変えない配慮

Beyond 2の体験はBeyondの進化版といったところ。
一方で変わらなかったのは、サイズだ。その結果、各種付属品の互換性が保たれている。

15%軽くなった筐体の大きさも基本的な外見も世界最小を謳った初代と変わらない。前面のパーツのカラーバリエーションこそ増えたものの、設計も変えていない。

その結果、初代Beyondのユーザーは様々な付属品やオプションパーツをそのまま使うことができる。たとえば、顔につけるフェイスクッション。没入感を高めるためにiPhoneで3Dスキャンを行い、ユーザー一人ひとりにカスタマイズされたものが付属する。

他にも視力矯正用のレンズ、2024年に発売されたオーディオストラップなど、個人個人の好みに合わせたオプション品も多い。

ほぼ全てのオプション品が全て使えるが、唯一の例外がある。Beyond 2を購入し、2023年から2024年までにBeyondを購入したユーザーの視力矯正レンズは互換性がない。「アイトラッキングへの影響を考慮した新しい視力矯正レンズが必要だった」とのこと。2025年以降に出荷されたモデルは、すでに新型の視力矯正レンズに統一されているので、買い替えが必要ないということだ。

「私たちがBeyond 2を作れたのは、初代 Beyondを買ってくれた人たちがいるから。その成功の上にBeyond 2がある。初代のユーザーが買い替えたいと思った時に、必要最低限になるようにしたかった」(シャンカー氏)

機種が変わるたびに形状が大幅に変わりオプション品も数千円から一万円以上のものを複数買い直す…そんなことも多いが、購入してくれるユーザーを裏切りたくない、一緒に走る仲間だ、という最大限の配慮が強く感じられるポイントだ。

今回は見送った要素

他にも変わらなかったものは多い。

例えば接続方式やトラッキング方式。Beyond 2は初代に引き続き、PCと有線接続で体験するいわゆる「PCVR」のヘッドセットだ。トラッキング方式も、HTC VIVEやValve Indexと同じ、ベースステーションと呼ばれる外部デバイスを使う。

Meta Questのような一体型ではないし、前面にカメラもないからパススルーでのMRやハンドトラッキングもできない。

ここにはシャンカー氏らの設計思想がある。

「我々はまだ40人程度の小さいチームだ。MetaやAppleが参入する中で、僕らは特定の部分でベストを追求し、中途半端なものは作らない。例えば、一体型はQuestだ。彼らは本当に素晴らしい技術を持っているし、何よりデバイスの値段も安い。そして、トラッキングは、精度を落としたくなかった。カメラで位置トラッキングを行うインサイドアウト方式よりもベースステーションを使う方式は精度が安定しているから、その精度を下げずに使える買い替え先のデバイスとして選んでもらえることを目指した」

そして、一体型の市場が盛り上がる中で、現在PCVR向けのヘッドセットの新機種は少ない。PCVRにて最もシェアの高い最後のデバイスだった「Valve Index」(2019年発売)が終売になる中、その買い替えを強く意識しているようだ。

もう一つ、初代から変えなかったポイントが解像度だ。初代と同じ解像度、2560×2560のマイクロOLEDパネルを2枚使っている。明るさは改善したモデルとのこと。市場には片目4K近いApple Vision ProやMeganeX Superlight 8Kが登場しているが、だからといってそこに追随はしなかった。

「高解像度のマイクロOLEDの製品化は思っているよりも難しい」と語る。特に大量生産に向けた課題と高コストな構造が大きいそうだ。4K マイクロOLEDを採用するヘッドセットが増えることで大量生産が可能になり、価格が下がることに期待する声もあるが、さらなる壁が立ちふさがる。

「マイクロOLEDの基盤を支えるのは半導体と同じウェハー(※半導体素子製造の材料)であり、半導体への需要がAIで爆発的に増える中、価格が高騰している。4KのマイクロOLEDが安定的に大量生産されるようになり、手頃な値段で大量供給されるようになるにはまだ時間がかかる。現時点では、4KマイクロOLEDを採用しても修理なども高額になってしまうのでうまくいかず、我々としてはビジネスにならないと判断した。」(シャンカー氏)

エンタープライズ利用すら見据える

消費者向けのBigscreen Beyondだが、初代Beyondの発表後には、思いもよらないニーズが寄せられた。それが法人利用=エンタープライズ需要だ。VRは企業の中でトレーニングやシミュレーションなど様々な用途に使われている。どんな企業でどんな風に使われるかによって、PC接続型で世界最軽量のVRヘッドセットが使いたい企業も出てくるだろう。

個人差のある瞳孔間距離(IPD)も手元で調整ができるようになったし、没入感を高めるため一人ひとりの顔を3Dスキャンして成形していたフェイスクッションにはユニバーサルモデルが選べるようになった。さらにつけ外しや跳ね上げがしやすい「ヘイローストラップ」も登場している。

出荷は”すぐ”

Bigscreen VRは最終製品の組み上げを彼らのお膝元であるカリフォリア・ロサンゼルスの自前の工場で行っている。

「今回は4月には出荷を開始する」初代Beyondは、発表から出荷まで半年以上かかり、遅れもあったが、製造ラインも整備されたのか、大きな自信を見せる。

私たちは、製品のスペックだけを目にするが、その裏にはハードウェアメーカーの血の滲むような開発がある。

各技術をユーザーの期待を裏切らないないレベルで組み込むにはどうすればいいか、安定性供給できるか、ピースを組み合わせて複雑なピースを解きながら、製品を世に送り出している。そこには各メーカーのセンスが問われる。

Metaが独占的な市場を築く中、PCVRを好むコアユーザー向けの尖った製品で存在感を放っているBigscreen Beyond。

初期出荷分がなくなる速度は初代Beyondの10倍のスピードだったとのこと。「日本のVRChatユーザーのように、PCVRの市場は成長している。バッテリーを気にすることなく、圧縮されることない解像度の高くてはっきりと見える、より品質の高いVRを体験したいユーザー層は確かにいます」

小さなチームだが、巨人のひしめく市場で徹底的にユーザーに向き合い、技術にも体験価値にも妥協しない。そうすることで、一緒に市場を拓いていきたい。パッションに満ちたチームから産み落とされたBigscreen Beyond 2の存在感は、さらに大きくなるに違いない。

間違いなく必見のデバイスだ。


(Bigscreen VRのCEOダーシャン・シャンカー氏)

デバイス概要

デバイス名 Bigscreen Beyond 2
価格 169,800円(税込)
出荷予定時期 2025年6月
販売サイト https://store.bigscreenvr.com/ja-jp/products/bigscreen-beyond-2?srsltid=AfmBOooigGTW99UcQHtLevysmluwfCZxE1ZR8zHC3-AD_ygpIum3By3r

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