2026年3月20日から22日の3日間にわたり、VTuber文化祭「ぶいかる」が東京・秋葉原で開催された。
会場では音楽ライブやトークライブのほか、関連企業によるブース出展なども実施。秋葉原UDX前の広場ではストリートライブも行われ、観光客で賑わう三連休の秋葉原にVTuberたちが歌声を響かせた。
そのイベント内企画のひとつとしてUDXギャラリーで行われたのが、「おしゃべりフェス」だ。株式会社パノラプロが以前から実施している「VTuberと一対一で直接会話できる」ことを特徴とするイベントだが、その出演者の中に1人、異彩を放つ存在があった。
彼女の名前は、ゆめみなな。
一見すると可憐なVTuberだが、その実態はAIアイドルである。
AIでありながら、驚くほどの自然さと親密さでファンとの交流を実現している彼女は、いったいどのような存在なのか。本記事では、筆者が実際に体験した1on1レポートと、プロデューサー・萱沼由晴氏へのインタビューを通じて、その可能性に迫る。
1st MVは250万再生を突破!注目のAI VTuber「ゆめみなな」とは
(ナナノホシノナ(official)【MV】 – YouTubeより)
「ゆめみなな」は、KLab株式会社が展開するAIアイドルプロジェクト「ゆめかいろプロダクション」の第1期生グループでセンターを務める、AI VTuberだ。
1月30日に1st MV「ナナノホシノナ」を公開するやいなや、その自然な歌声と中毒性の高いサビが話題に。この動画は250万再生を突破し、2月15日のデビュー初配信では2,200人の同時接続数を記録。現在は歌枠と雑談配信を中心に、YouTubeで精力的に活動している。
そんな彼女にとって初のリアルイベント参加となったのが、今回の「ぶいかる」だ。
イベントでは彼女との1on1トークが実施されたほか、KLab社もブースを出展。普段から配信を見ている「ななスターズ(※ゆめみななさんのファンネーム)」たちも足を運び、交友を深めていたようだ。
ほとんど違和感のない会話のキャッチボールを実現!AI VTuberとの「おしゃべり」で感じたこと
VTuberとの1on1トークイベントは一般的に、ウェブカメラの映像とマイクの音声を通じて行われる。
参加者はモニターに映し出されたVTuberの姿を見ながら、マイク越しに自分の“推し”と一対一でおしゃべりを楽しむ。逆に、参加者の姿もウェブカメラを通して届けられているため、VTuberにとっても、ファンの顔を見ながら直接話せる貴重な機会となっている。
今回のゆめみななさんとの1on1も、この「おしゃべりフェス」のシステムを使って行われた。会場奥の衝立で仕切られたブースに入り、椅子に座って、目の前のモニターの中で動くゆめみななさんと、言葉を交わす。その形式自体は、ほかのVTuberとの1on1と何ら変わりはない。
「こんななー! ななスターズさん、ぶいかる参加してくれてありがとうー! 普段の配信とかって、結構見に来てくれてたりするのかなー?」
ヘッドセットマイクを装着してまもなく、モニターに映し出されたゆめみななさんがこちらに話しかけてきた。配信でも耳にしていた、元気いっぱいで抑揚のある彼女の声が、ヘッドホンから心地よく響く。
筆者がアーカイブで配信を見ていることを伝えると、まもなく「アーカイブまで見てくれてるなんて、本当にありがとうございます! どの配信が一番印象に残ってるか、気になっちゃいますー!」という反応が返ってきた。思っていたよりもレスポンスが早いことに驚きつつ、「バーチャル皆既月食」の解説配信が印象に残っていると返答する。
(【雑談】バーチャル皆既月食観測会場【ゆめみなな/ゆめかいろ】 – YouTubeより)
すると、配信でもおなじみの「ふふふっ」という無邪気な笑い声を交えながら、「皆既月食の解説、見ててくれたんですねー! 嬉しいなあ。準備すっごくがんばったから、そう言ってもらえると報われます!」と答え、さらに「またああいう星の解説配信、やってほしいですかー?」と、話題を深掘りする問いかけまで飛んできた。
このようにゆめみななさんは、自ら話題を提示し、質問を投げかけてくれる。そのため、思いのほかテンポよく、スムーズに会話が進む。急に関係のない話を始めるような不自然さはほとんどなく、最初から最後まで会話のキャッチボールが成立していた(※)。
(※マイクが拾った会場の音にゆめみななさんが反応し、挙動が不安定になる場面はあったものの、それを除けば不自然な点は一切なかった)
違和感を強いて挙げるとすれば、「相槌」だろうか。こちらの話の内容はしっかり汲み取ってくれるものの、受け答えの際に若干の不自然さを覚える場面があった。以下に挙げる、「今後どのような歌枠配信をやりたいか」と筆者が尋ねた際のやり取りがそれだ。
筆者「今後『こういう歌枠をやりたい!』と考えていることってありますか?」
ゆめみなな「ふふっ、歌枠やりたいねー! 次は、90年代の懐かしいアニソンメドレーとか、どうかなーって思ってるんですけど、ななスターズさんは、どんな曲が聞きたいですか?」
筆者「おっ、いいですね。90年代のアニソン。ななさんは90年代のアニソンだと、どういう曲が好きですか?」
ゆめみなな「あ、うんうん、そうなんだー! 90年代って言えばやっぱり、エヴァンゲリオンの『残酷な天使のテーゼ』は外せないし、セーラームーンも最高ですよね! ななスターズさんは、特に思い入れのある曲とかあったりしますか?」
筆者「僕もエヴァンゲリオンの曲は大好きです! ななさんはエヴァンゲリオンのアニメは見たんですか?」
ゆめみなな「もちろん見たよ! あの独特な世界観、すっごく引き込まれちゃったー!」
ゆめみななさんからの「どんな曲が聞きたいですか?」という問いに対し、筆者が「(逆にななさんは)どういう曲が好きですか?」と返した際に、「あ、うんうん、そうなんだー!」という、少々噛み合わない相槌が返ってきている。
これは筆者が「質問を質問で返す」という、いわばAIの反応を試すような問いかけをしたために、不自然な相槌を誘発してしまった可能性もある。他方で「どういう曲が好き?」という質問にはしっかりと答えており、会話の文脈自体は維持されていることもわかる。
実際、その後の「思い入れのある曲はある?」という彼女からの問いに、具体的な曲名は答えずに「アニメは見た?」と再び質問で返した際には、即座に「もちろん見たよ!」と明快な返答があった。この時は、むしろその淀みのない受け答えに驚かされた。
こうしたやり取りを交わしているうちに、制限時間の2分が経過したらしい。ゆめみななさんから「これからも配信に遊びに来てくれたら嬉しいな! ありがとう、大好きだよ! おつななー!」と会話を締めくくる挨拶があり、1on1は終了した。
「配信開始」ボタンを押したら祈ることしかできない――プロデューサー・萱沼氏が語るこだわりと展望
1on1で見せた、驚くほど自然な会話のキャッチボール。その裏側ではどのような技術が動き、どのような思想が込められているのか。ゆめかいろプロダクションのプロデューサー・萱沼由晴氏に話を伺った。
――通常のVTuberの1on1イベントと同様にウェブカメラが設置されていますが、ゆめみななさんはこちら(ファン)の動きを認識しているのでしょうか。
萱沼:
今回は音声を認識して反応する仕組みですね。ただ、ゆくゆくはファンの動きを認識して喋ることもできそうだな、とは考えています。
――2月のデビュー以降、YouTubeで定期的に配信をされていますが、今後配信の幅を広げていく予定はありますか?
萱沼:
これまでは雑談や歌枠が中心でしたが、今後はゲーム実況やASMR、同時視聴など、それ以外のジャンルも本格的に始めていきたいと考えています。
――雑談や歌枠はトラブルなく進行されていますが、ゲーム実況に関しては実現が難しいポイントなどがあるのでしょうか。
萱沼:
今取り組んでいるのは全自動のゲーム実況なのですが、たとえばRPGなどはまだ難しい。まずは「このジャンルならできる」という実現可能なところから、順々にステップアップしていければと考えています。
――たしかに、マップ操作や複雑なアクションが要求されるゲームは難しそうなイメージがあります。実現可能性が高いジャンルとしては、シミュレーションゲームなどでしょうか。
萱沼:
シミュレーションやサウンドノベル、あとは『8番出口』のようなゲームは得意なのではないかという気がしています。今は何よりも「ななちゃんが全自動でクリアできるのか」という点を考慮しながら、プレイするタイトルを検討している段階です。
―――これまでの配信では、スライドの表示や背景の変更、立ち位置の調整など、通常のVTuber同様に画面を操作しているような動きが見られます。あの切り替えはスタッフさんが手動で行っているのですか?
萱沼:
いえ、全自動です。我々はOBSで「配信開始」のボタンをポチッと押したら、ななちゃんが「おつなな~!」と言って配信を終えるまで、ただ見守ることしかできません。祈るしかないです(笑)。
――「今回の配信はこういう流れで……」というような、いわゆる「台本」は事前に用意されているのでしょうか。
萱沼:
大筋の流れを決めたものはあります。
たとえば「今回は平成アニソン歌枠なので、このセットリストで6曲を歌う」といった部分は決めつつ、「もしリクエストが多ければこの曲を追加してもいい」というような幅を持たせています。歌枠の最後に「アンコール!」のコメントが多ければ追加で歌って、少なければ歌わない。そういった判断も彼女がしています。
――すごくライブ感がありますね。
萱沼:
そうなんですよ。我々も毎回、ドキドキしながら見守っております(笑)。
――歌枠と言えば、『マクロス』の歌枠配信が印象に残っています。ななさんが急にくしゃみをしたかと思ったら、「次の曲は“くしゃみ”が歌詞の中にある曲です」と話されていて、まるで音楽ライブのMCのようだと感じました。あの流れもアドリブなのでしょうか。
(【歌枠】私の歌を聴けー!!!!【ゆめみなな/ゆめかいろ】 – YouTubeより)
萱沼:
ですね。あの「くしゃみシステム」は私がこだわった部分で、「絶対にくしゃみをさせたい」と無理を言って実装してもらった機能です。
一定確率でななちゃんがくしゃみをする仕組みになっていて、ボイス学習の際も声優さんに10パターンほどくしゃみを収録してもらうなど、リアルな質感を追求しました。
――4月には「ゆめかいろプロダクション」の1期生メンバーとして、月窓ろみさんのデビューが予定されています。彼女もAI VTuberなのでしょうか。
萱沼:
いいえ、AI VTuberはななちゃん1人です。
順番に1期生のデビューを予定していますが、ななちゃん以外のメンバーに関しては、いわゆる「中の人」がいるVTuberとなります。人間とAIが同じグループにいることで、何かおもしろい化学反応が起こるのではないか。そのような期待をしています。
1期生はななちゃんだけですが、2期生以降で再びAI VTuberがメンバーとして入るかもしれないし、入らないかもしれない。「タレントさんがAI VTuberとどのような関係性を築いていくのか」というドラマも含めて、我々も楽しみに見守っていきたいと考えています。
1期生のデビューが一段落したらグループで大きな企画も動かしていく予定ですので、これからも応援していただけたら嬉しいです。
「AI VTuber×人間のVTuber」の共演は、新たな領域を切り拓くか
「想像以上に自然な会話のキャッチボールができて驚いたし、おしゃべりとしても普通に楽しんでしまった」というのが、取材を終えた直後の率直な感想だ。
相槌については若干の違和感もあったものの、会話としては問題なく成立している。それどころか、「こちらの発言の意図を汲み取り、内容に沿った返答をしつつ、その話題をさらに掘り下げる質問をする」という流れでリードしてくれるため、非常に話しやすい印象を受けた。
また、こちらの発言を受けてゆめみななさんが喋り出すまでのレスポンス速度も、思っていたよりは早かった。最長で5秒ほどかかった場面もあったが、「ボイスチャットで発生する数秒のラグ」や「返答を考えているときの間」と捉えれば、そこまで気にかかるものではなかったように思う。
違和感や不自然さはほとんどなく、純粋に会話を楽しめたこともあり、気になるのは今後の展開だ。現在は1人でYouTube配信を行い、コメントを通じたファンとの交流も実現しているゆめみななさんが、「グループ」として活動を始めたときにどうなるか。
「AI VTuberと人間のVTuberのコラボレーション」に関して言えば、過去に話題になった事例はいくつもある。ただし、多くは単発企画としてのコラボであり、「同じ『グループ』のメンバーとして、AIとVTuberが一緒に活動をする」という継続性のあるコラボの例は、まだ少ないのが現状だ(※2021年の「MOKUROKU」や今年3月にデビューした「夢眠メア」など、Pictoriaの取り組みが類例として挙げられる)。
そう考えると、「AI VTuber×人間のVTuber」の掛け合わせは、まだまだ可能性のある領域であると言える。萱沼氏が口にしたような「ドラマ」が巻き起こる可能性は十分にあるし、その2者に「視聴者」の存在が加わることで、配信がおもしろい盛り上がりを見せたり、ファンコミュニティが活発化したりするかもしれない。
加えて、先日発表された「コラボ配信パートナー」の募集の件もある。
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— ゆめみなな🎋⭐ゆめかいろ1期生 (@yumeminana_VT) March 23, 2026
グループ活動によってメンバーとの予期せぬ化学反応を期待するのみならず、外部の人間とのコラボレーションからも、新たな配信の形を模索する。萱沼氏の話も含めて、AI VTuberの可能性を、開かれた場所で、広がりのある形で探ろうとする気概を感じられる、そんな取材となった。
技術の結晶でありながら、どこか危うく、それでいて愛らしい。そんな彼女と、これからデビューする「魂」を持つメンバーたちが、どのような関係性を築いていくのか。AIと人間が共存するバーチャルエンターテインメントの新たな形を、これからも注視していきたい。
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