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VTuber 2026.03.02

AI VTuberは本当に“春”が来ているのか?—―Neuro-samaの熱狂、そしてShizuku AIの飛躍を読み解く

AIがSaaSに死を告げ、AIが新たな命を生み出す

2026年に入って「Claude Cowork(クロード・コワーク)」が出てきた瞬間、うっすら見えていた未来が、急に輪郭を持った。

「SaaS(サービスとしてソフトウェアを提供するビジネス)を買う」より、「AIに作業を渡す」ほうが自然になる世界。

フォルダ整理も、資料のたたき台も、外部サービス連携も、もはや「ツールの複雑になりすぎた使い方」を覚える必要がない。

人間の横にAIの“同僚”が座った。

そんな感覚だ。

そのインパクトは計り知れない。ソフトウェアエンジニアの間で議論されていた「SaaSの死」が、実態のある死神として出現したのだ。

そして投機筋を含む市場は、当然のようにざわつく。結果として「たった一日で約43兆円(3,000億ドル)の時価総額が消失」した、いわゆる『アンソロピック・ショック』が起きた。

そんな“事件”の裏で、別のベクトルの注目が集まったのは興味深いタイミングだった。日本人からも視線を集めた、AIを軸にしたとある企業である。

注目の的となったのは、AIで動作するVTuber「しずく」を運営する『Shizuku AI, Inc.』だ。

注目が一気に高まった理由はシンプルで、Andreessen Horowitz(以下:a16z)が出資したからだ。
a16zは巨大VC(ベンチャーキャピタル)で、資金だけでなく採用・PR・政策まで含めて「会社を勝たせる仕組み」を持つことで知られている。国内でも名前だけは聞いたことがある人もいるだろう。

直近では「Anime is Eating the World」という記事を投稿し、日本の界隈をざわつかせたのも記憶に新しい。

https://x.com/nikkei_startup/status/2020957193886105960

さらにDeNAが出資していたこと、CEO兼ディレクターが日本人=日本発の匂いが濃いことも重なり、NIKKEIでも報じられた。国内のビジネスマンに「AIとVTuber」という組み合わせを認知させる、ひとつのきっかけになったのは間違いない。

AI VTuberの春が来たのか…?

MoguLiveでは、これまでChatGPTブーム黎明期に起きた「Neuro-sama(ネウロサマ)」の盛り上がりや、「しずくちゃん」などの事例を特集している。徐々にこの文化が勃興しつつあった2023年当時は、AIで動くVTuberを、AITuber(エーアイチューバー)と呼ぶことも多かった。

ただ当時、著者の執筆した総括は、驚き屋的な熱狂を伝えるものではなく、ドライにまとめた。
なぜなら、当時はエンタメとして視聴者の心を掴んでいる配信者は数えるほど。加えて国内の技術者サイドでは、LLM(大規模言語モデル)の知見やデータが不足していた。

https://www.twitch.tv/directory/all/tags/AiVtuber

https://www.twitch.tv/directory/all/tags/Ai

そして2026年現在。LLMが仕事のフローやソフトウェア開発の常識を塗り替え、Neuro-samaはついに3Dデビューまで果たしたことで、国内でもAI VTuberが再注目される。

ただし、「AIの盛り上がり」=「AI VTuberの盛り上がり」ではない。

Twitchで100人超が視聴するAI配信は数件しか見当たらない。当時注目を浴びたAI番組「Nothing, Forever」も継続はしているが、視聴者は数名で、勢いの面影はない。

ニケちゃん氏が運営する「AITuberList」では、AI VTuberが285名登録されている。だが、AI VTuberを主軸にしたチャンネルで登録者が100万近いのはNeuro-samaのみ。銀盾(10万人)ラインでも、目立つのは紡ネンくらいだ。結論として、現状の主戦場ではNeuro-samaの“一強”感が強い。

AI VTuberは「技術」という観点では成熟した

「Neuro-samaが強いのは技術力が飛び抜けているからでしょ?」

この説明は、半分正しくて、半分ズレている。

もちろん技術は強い。2022年当時からローカルLLM(個人向けPCで動かせるAI)を自前でカスタマイズし、(おそらく)独自学習していたのだから、当時基準でも飛び抜けていた。

そして(詳細は公開されていないが)2025年のVRChatからの配信は、様々な技術障壁を乗り越えた事例としてredditで議論が起きている。

だが、国内のAI VTuberに研鑽がないのかと言えば、もちろん違う。


https://x.com/rotejin/status/1927181476904272048

2023年の盛り上がりをきっかけに、saldra氏はAITuberに関する技術書を2冊出した。さらに今もイベントで、AIキャラクター人格に必要なシステムについて発表していて、国内のAITuber開発者に影響を与えている。

また、自作対話ボット制作者やAITuberの愛好家たちの間でも、「人間に違和感を与えないためのテクニック」「個性的に魅せるプロンプト」が積極的に共有されている。

特に、ろてじん氏のAI VTuberは突出している。夢ノ森マイムや妹尾トマリの喋り方、合間の話題振りは、「人間との差」を忘れさせる強さがある。

さらに、VTuberのガワ(外見・クチパク等のモーション付きデータ一式)やAIキャラクターシステムについても、準備コストが下がった。「MotionPNGTuber」「AITuberKit」がその代表例だ。

この3年で関連技術も飛躍的に進化した

Anthropic(アンソロピック)のClaudeの登場で、コーディングのハードルも劇的に下がった。それと並走するようにAIの「学習データ不足」や「実用性の向上」を支える周辺技術も総じて成長し、AIキャラクターの性能向上に影響している。

頭(LLM)の進化
AIキャラクターの“頭”という観点では、ローカルLLMでもかなり賢いモデルが増えた。中国から破格のビジネス利用が可能かつ「ベンチマークでClaudeやGemini(ジェミニ)に迫るローカルLLM」が出てきた。

賢さではClaudeやGeminiが圧倒的だ。一方で、安全フィルタ(いわゆる検閲)があり発言内容に縛りが出るため、安全フィルタが外されたローカルLLMが逆に強みになってきた。

また、LLMへの指示としては、推論を段階的に積み上げる設計や、プロンプト周りの定石も一般化し、性能が向上している。Tool use(外部機能をAIが呼び出す概念)も普及し、AIが判断して外部機能を操作する流れが当たり前になった。

記憶(コンテキストとRAG)
LLMは「知識の集合体」であり、短期記憶はLLMのコンテキスト長(LLMが受け付けられるトークンの量)に強く依存する。GeminiやClaudeには100万トークン(1トークン≒日本語1~2文字相当)級のコンテキストを持つモデルもあり、それに引っ張られるようにローカルLLMにも余裕が出てきた。

長期記憶という観点では、RAG(検索拡張生成)と周辺の情報探索技術が進歩した。
設定資料や過去ログを外部DBから検索し、AIに知識を反映しやすくなっている。

目と耳(マルチモーダル)
LLMのマルチモーダル化も大きい。文章だけでなく音声・画像を“トークン化”して理解し、返答できるようになった。

音声の文字起こしでは、ローカルで動作するWhisper(ウィスパー)も実用域に入った。OCR(オーシーアール)も精度が上がり、手書き文字の認識力も向上している。

声(TTS)
TTS(テキスト読み上げ)も、もう別世界だ。筆者的にドン引きしたのが、「Pocket TTS」「Qwen3-TTS」である。

どちらも、短い音声素材から、同じ声質のTTSができる。前者は英語中心だがCPUで軽快に動作し、後者は日本語など複数言語に対応する。

「気持ち悪いレベルで自分の声が聞こえてくる。」

たとえ技術好きの筆者でも、人間の感情が追いつかない瞬間がある。

そして、AI VTuber向けに独自に音声を合成して喋らせるのであれば、クラウドならElevenLabs(イレブンラブズ)、ローカルならAivisSpeech(アイビススピーチ)+Style-Bert-VITS2など、手段が選べる。

ここまでをまとめると、AIキャラクターが“認識して、考えて、判断して、発言する”ための部品は、この3年で熟成した。

少なくとも技術の話だけなら、もう「できない理由」を探すほうが難しい。

なぜ「Shizuku AI」は評価されたのか?


https://character.ai/

技術が整っていてタイミングも良い。

それに加えて、AIキャラクターの注目度が上がる事例がいくつも重なった。

ひとつは、2025年の「YouTube Culture & Trends」が、VIRTUAL CREATORS特集でVTuberだけでなくNeuro-samaのようなAIキャラクターも扱った点だ。

もうひとつはサービス面。

X(旧Twitter)を運営する企業が公開した「Ani」は、日本文脈を感じる姿でAIキャラクターとして、一時期異様な盛り上がりを見せた。

さらにユーザがAIと対話できるキャラクターを作成できる「Character.AI」では、2024年に1日あたりアクティブユーザー600万人超という数字も報じられている。

そこにNeuro-samaの3Dデビューの盛り上がりも重なり、日本の注目度も上がっていた。

そして、上記で紹介したShizuku AIの開発者でありCEOの「Kodaira Akio氏(愛称:あき先生)」については、「ICCVで発表できるレベルの技術実績」「MetaやLumaAIでの経験」に加えて、「アニメ・ゲーム・マンガが好きなオタク気質の日本人」という文脈も強い。

a16zが「アニメが世界を呑み込む」と語るほど、アニメ・マンガ・ゲームのビジネス期待値が上がっていた。「鬼滅の刃」の大ヒットなど、「ウマ娘」、中国の「原神」、韓国の「ブルーアーカイブ」や「NIKKE」など、日本のアニメ文脈っぽいキャラクター表現が世界で存在感を見せている。

ところで「ブルーアーカイブ」や「NIKKE」は、制作陣の“オタク”の匂いが強いと言われることも多い。それは開発者や脚本家がメディアのインタビューで影響を受けた日本のコンテンツを熱く語ったり、過去の名作のオマージュをシナリオに詰め込んだりといった傾向がよくみられることからも分かる。

こだわりの強い人間が前面に出ると、それだけでユーザーからの会社のイメージ良くなる側面がある。

Shizuku AIのしずくちゃんでもブルーアーカイブの影響を感じるデビュー演出があり、日本のオタクカルチャーで好かれやすい傾向を押さえている。個人的には、そういった仕草に対して「わかってるな」と思い、好印象である。

投資者だけに共有された構想もあるだろうため、外から判断できない部分は多い。それでも表向きの文脈だけで、評価が積み上がる理由はそれなりに説明できる。

AIで動くVTuberには何が求められているのか?

表向きの話だけを見ると華やかだ。

しかし、どこまでうまくいくかは未知数である。少なくとも筆者には。

まず、AIサービス全般の先行きが判断しづらい

最先端LLMやAIファーストな新興サービスの多くは、現状ビジネス拡大を優先するために、(売上は伸びても)推論コストと成長投資で黒字化前が多く、ビジネスとして大きく儲けを出せていないケースが多い。また、SaaSの死が突然訪れたように、AIファーストな新興サービスは大手AIサービスに死を告げられるリスクがある。

GoogleのGeminiのように、自社のプラットフォームと資金体力があるところは当面耐えられるだろう。
一方、コーディングやデスクトップ作業の自動化という金鉱を掘り当てたAnthropicは、黒字化が他社より見えやすい。

しかし、自社によるLLM開発がなく、一点張りで差別化が弱いAIアプリ層は、ユーザー確保・ビジネス化・AI開発の資金垂れ流しの三重苦で、統合・買収や撤退が増えやすい。

AI VTuberは、さらに難しい

2023年以降、多数のAI VTuber、AI番組が生まれた。だが大半は飽きられ、屍になったのもそれなりにいる。


https://x.com/ms_rinna/status/1981317174917812633

Microsoftが開発し、rinna株式会社へ事業継承され、その後VTuber化もした女子高生AI「りんな」も、2025年10月に無期限休止となった。

IP(知的財産)を継続するのは難しい。VTuberという先行事例では、「注目度はデビュー当初に跳ねる」が「似たりよったりな企画が続くと再生数は先細り」している。“事業”の目線だと、近年のにじさんじ(ANYCOLOR)とホロライブ(Cover)の株価差が示すように、市場が「いかにコンテンツ投入をシステム化して人件費を抑えつつ、タレントIPを逐次供給できるか」を見ている側面もある。活動を継続するためのユニークな企画アイデアを(コストをコンパクトに抑えつつ)独自で駆動・運営できるかが鍵になってくる。

そして、AI VTuberが投げ銭やサブスクを主力にして稼げるのか。ここにも疑問が残る。

先駆け事例でも、伸びは限定的

AI VTuberのタレントビジネスとして先駆けのPictoria Inc.の「AI CAST」は6名所属している。
しかし、最初にデビューした紡ネンの10万登録以外は、登録者1万以下が多く、1名は活動停止中だ。

その中で比較的数字の良い「月夜野アルマ」には熱心な有料メンバーがいて、投げ銭もされている。しかし、登録者数から有料メンバー数を推測して、YouTubeの手数料、API費用もしくはGPU費用、技術者の人件費を踏まえると、直感的には、まだまだ課題があるように思える。

そして、VTuber事務所のようにタレント拡大へ進めていない点を見ると、AI VTuberを通した“自動化配信ビジネス”の難しさが伺える。どちらかというと、このAI VTuberの技術を通し得られたであろう実績や宣伝を元に、ここ1年はBtoB向けの「Picto STAND」や「AI彼氏くん」のような女性向けに注力しているように見えた。

最大の鬼門は「1対Nのエンタメ」である


上記の表を見てほしい。このあたりが、AI VTuberが飛躍するための本質だと筆者は考えている。

ChatGPTやCharacter.AI、GrokのAniは基本が1対1で、出力は入力者のセンスに左右される。LLMはざっくり言えば「入力に対して、学習した知識から確率的に文章を返す」仕組みだ。

つまり、曖昧な指示なら曖昧な結果になる。厳密に指示すれば、欲しい結果に近づきやすい。センスのある人や都合のいい意見にハマりやすい人間は、その時点で課金フレンド関係は継続するだろう。

これがAI VTuber(1の配信者)になると状況が変わり、視聴者(Nの人数)が混ざる。エンタメのセンスがある視聴者もいれば、そうでない視聴者もいる。そして、視聴者コミュニティの総合的なセンスが、AI VTuberの面白さに直結する。

机上の空論としては、AI VTuber自身が面白さを誘導したり提案したりもできるだろう。だが、現状そういう理想的なシステムのAI配信を筆者はほとんど見たことがない。

キャラクター設計は、技術ではなく“センス”が支配する

AIキャラクターの性格設計は重要で、開発者のセンスが問われる。

個性をほとんど設定しないまま出すと、LLMは無難な回答に寄る。結果、つまらない配信者になる(どのような回答が視聴者を喜ばせるのかについては、後述のNeuro-samaの解説を確認いただきたい)。
さらに制限が弱いと、迂闊な発言も増える。開発者の倫理観は、AI VTuberにも直結する。代表的なトラブルとして「AIずんだもんの3Dモデルが使用中止」が挙げられる。

「バイブコーディング」と「仕様駆動開発」

話が少しそれるが、重要なので書き置くことにする。

AIにコードを生成させてソフトウェアを開発するとき、

  • バイブコーディング
  • 仕様駆動開発
    という概念がある。

バイブコーディングは、Vibe(ノリ)の名の通り、行き当たりばったりのプロンプトでソフトウェアを組み上げるやり方だ。短期的には速いが、大規模プロジェクトではバグや仕様の食い違いが増えやすい。

そこで研究が続くのが仕様駆動開発である。仕様書のように、作りたいものを事前に文章で詰め、それをAIに読ませて開発させる。

仕様駆動開発の現実として、まだまだ課題がある。だが将来的に、人間がAIから質問を受けながら仕様を詰めていたら、ソフトウェアが立ち上がっていたという流れは本命だろう。

2023年のAI VTuberが伸び切らなかった理由

上記の2つの概念でAI VTuberの面白さに説明がつく部分がある。

2023年当時のAI VTuberは、バイブコーディング的なものが多かった。視聴者側にAI VTuberの“面白さを引き出す責任”を負わされがちだったのだ。言い換えると、視聴者がキャラ作りのバイブコーディングをさせられていたのである。

さらに、LLMが大量トークンを受け取れない、という当時の制約もあった。結果として、キャラクター性は「限られた知識」「薄いコンテキスト」「ゆるゆるのキャラクター定義」の上で演じるしかなく、「顔は同じなのに自分の知らないAIキャラクター」を繰り返すことになる。

VTuberもデビュー当時はキャラクター性の確立という面で、視聴者と発掘する楽しみはある。しかし、VTuberは中の人が方向性を最終的に決定し、それに沿うように強くコントロールできる。しかし、AI VTuberは決めたことを記録はできても忘れっぽい。仕様駆動開発でも以前のことを忘れて一貫性がブレることが多々あり、意思決定をLLMだけに任せて自動配信しているAI VTuberは一貫性の魅力がなくなりやすい。

正直、このブレブレな状態はエンタメというよりストレスでしかない。
「面白いかどうか」が、視聴者側の試行錯誤に寄りすぎている。

それでも「Neuro-sama」が異常だった理由

2023年時点でもすごかったのがNeuro-samaである。もちろん初期はバイブコーディング的な面もあった。差別的発言を引き出してしまい、チャンネルBANにも繋がった。

しかし開発者のVedal氏は即座にガードレール(発言の安全策)を適用した。これは今のAI駆動開発では当たり前の考え方だが、当時の個人開発者がAI VTuberの“肝”を見極め、構築していたのは驚嘆に値する。

Neuro-samaはその後もやんちゃな発言をする。だがアニメテイストなKawaii見た目が吸収し、「ちょい強がりで可愛い存在」として受け止められやすい。そして、ガードレールとLLMの不安定さが良い塩梅で噛み合い、こちらの予想を裏切るようなエモーショナルな発言が生まれる。

ここからは筆者の持論だけではなく、配信とコミュニティの体感、そして研究論文を踏まえた結論だ。

Neuro-samaのコンセプトは、
「AIにより完全に制御された、リアルタイムで視聴者とやりとりする配信者」
というものだとされる。

この時点で2つの方向性がでてくる。

「AI臭さを消した人間な配信者」か、「人間っぽいけどAIらしいAI配信者」だ。

どちらがワクワクするかと問われれば、後者だろう。

人間(に擬態したAI)がそつなくこなすより、器用で不器用なAIが乗り越えていくほうがエンタメとして面白い。

つまり「人間に寄せる」のではなく、AIらしい配信者として育てることで魅力が強化される。
そのコンセプトを守り強化しているのがVedal氏自身の企画力だ。

復帰後の配信や歌枠は例にしやすい。

たとえばチャンネルBAN明けの復帰配信で、Neuro-samaは夕方の教室から配信していた。これはゲーム「Doki Doki Literature Club!」の登場人物モニカの文脈を想起させる演出だ。ゲームの中でのとある演出やデジタル存在とリンクさせ、Neuro-samaをAIキャラクターとして存在しているという文脈を強化している。

歌枠では、Discord等で集まった要望のミーム的な挑戦曲だけでなく、アニソンも歌う。

「serial experiments lain」絡みの「Boa – Duvet」もあった。 lainは作品の説明が難しいのでざっくりと解説すると、ネット上に広がる情報的存在を取り扱い集合的無意識について描いた名作で、国内外に今も熱心なファンがいる。Neuro-samaはAIキャラクターとして、ファンコミュニティの集合的無意識があってこそ存在しているというメッセージだろう。

LLMは制御が難しい。しかし企画や選定は人間側のコントロール領域である。Vedal氏はNeuro-samaのコンセプトを崩さず、ファンの期待に応える打ち手を積み続けているように見える。

面白い視聴者が集まると、ループが回る

https://arxiv.org/abs/2509.10427

面白いことが起きると、面白い視聴者が集まる。インターネットはそういう場所だ。

AIキャラクターに哲学を問いかける。

面白い返しが来たら切り抜きが拡散する。

また面白い視聴者が来る。

スパチャや命令で“面白さ”を誘導する。

正のフィードバックループだ。研究でも「ユーザーが話題を作る力が強い」「予測不可能性を受け入れながら一貫性を維持する」といった点が語られている。

ただし「奇跡」は設計しないと続かない

ここが大事だ。

面白い視聴者が集まるだけでは、奇跡的な発言は何度も起きない。Vedal氏は初期から「AIには人間の付き添いが重要」と述べ、チャットを監視・モデレートするチームの存在を明かしている。

つまり“放置”でも“過剰な操縦”でもない。この微妙なバランスが、技術的安定性(一貫性)と“本物らしさ”を両立させている。

LLMを触っている人なら分かるが、調整しすぎると面白みが消える。調整しなさすぎると一貫性が死ぬ。論文にある「重要なのは、一貫性という信憑性はファンの期待であるだけでなく、プラットフォーム(ここではAI VTuberの開発者)の責任」は正にそれである。

ビジネス用語に置き換えると「ブランド力」だ。これがNeuro-samaの真の魅力なのである。

AI VTuberの未来は?

未来があるかどうか。正直、よく分からない。

個人開発のAI VTuberは「始めやすい」が「伸ばしにくい」

個人は気楽に始められる。

しかし気楽さは、エンタメとしての成長性を奪うこともある。

開発のハードルは格段に下がった。

LLMは賢くなり、あえて馬鹿な発言やパフォーマンスもできる。

だから、センスの良い開発者が、偶然面白くてやる気のある視聴者を獲得して、伸びる可能性は十分にある。

ただ逆に言えば、そういうAI VTuberが次々と出てくるため、エンタメ合戦で生き残る必要がある。

AI VTuberは開発者の支配下にある。エンタメ性を維持する責任も、開発者が背負う。VTuberは「個人の切り売り」と言われるが、個人AI VTuberも本質は変わらない。市場から、永遠にエンタメ性を要求され続ける。

買収という誘惑もチラつく

Vedal氏が買収オファーを断った、という話も見かける。
全くありえない話ではない。

もしNeuro-samaが売却されたら、「個人開発で育った」という価値が崩れる。最悪なイメージとしては「愛娘を企業に売り払った人間」という印象を与えかねない。一般的なAI VTuberなら、企業の売上ノルマが乗り、ほんの少し拝金主義な性格に変わるかもしれない。それを敏感に嗅ぎ取る視聴者は、一定数離れるだろう。

AIによる可処分時間の奪い合いが地獄

生成AI以降、動画サイトではAI Slop(粗製濫造コンテンツ)問題も起きている。

低品質でも量で殴れば、運が良ければ儲かる。さらに生成AIで非コンテンツクリエイターによる“センスの良いスナック菓子動画”も増え、競争は熾烈だ。

それでも逆に言えば、カオスな環境でも「個」を保ち、マイペースに楽しめる精神があれば、個人AI VTuberが楽しい時代でもある。


https://x.com/rotejin/status/2005309624950624745

では企業系AI VTuberはどうか?

これも「今が最高の稼ぎ時!」と手放しには言えない。

1対1ならCharacter.AIやAniが強すぎる、という見方はある。とあるイラスト画像無断転載サイトではそのキャラクターになりきったAIチャットサービスもある。ただ、キャラクターへの思い入れが育てば戦える余地はあるので、そこは致命傷ではない。

個人と比べて企業の強みは、継続性と安全性だ。
個人開発だと個人情報の管理や維持に不透明性・不確実性が強く、企業なら(少なくとも法令を守っている限り)一定の安心がある。

1対Nの企業AI VTuberの可能性は?

AI VTuberはまだ一般認知が薄い。

そこにAIブームとNeuro-samaの盛り上がりが重なり、期待値は上がっている。

たとえばアラブ首長国連邦の王族がバックにつき、仮想通貨やAI取引に手をだしているKLabが運営する「ゆめみなな」は、オリジナルソングで100万再生を達成するほど広告を回し、2月のデビュー配信の最高視聴者数は2000人を超えた。これは筆者が記憶している「しずくちゃん」の瞬間最大視聴者数600人の3倍で、宣伝効果と期待値の高さが分かる。

ただし注意点もある。AI生成コンテンツは、クリエイターの価値観や倫理観という名のガードレイル(葛藤)が機能して出ていなかったコンテンツが、生成AIによって非クリエイターが何も考えずにガードレイルを踏み越えやすくなった結果として、「今までになかった」が出力され驚かれる。

だがその後、アイディアやデザインがAI頼みで新しいクリエイティブが継続できずワンパターン化し、再生数が極端に落ちるケースも多い。

その点、ゆめみななは選曲がきちんとしていて、宇宙関連コンテンツをやりたいという意志も見せた。
宇宙は知識の取り扱いが難しく、一般向けに届けるには専門用語の翻訳力も要る。AIキャラクターの可能性を試す領域としては面白く、今後が気になるのは間違いない。

それでも最後に残る不安:「SaaSの死」の余波

Claudeが巻き起こした「SaaSの死」という不安は、エンタメにも忍び寄る。

AI駆動開発が進むと、極端に単純化すれば、資金のある企業がAIエージェント(自律的に作業するAI)に投資して、資金のない企業を後追いで突然上から圧倒できる世界になる。

これはエンタメも例外ではない。つまりAI VTuberも、AIエージェントで自動開発された“エンタメAI”が突然投下され、「SaaSの死」ならぬ「AI VTuberの死」が起きても不思議ではない。

もちろんこれは現状では極論だ。実際、生成動画コンテンツを見ていると 「人間の個性というノイズが乗った作品」や「その作品群を通して体験したドラマ」のほうが面白い、というのが率直な感想である。

だから杞憂かもしれない。

だが、難しい時代だ。

話が重くなってしまったので、最後に筆者おすすめのAI生成VTuber動画をひとつ貼って締めたい。

AIによって、インターネットはカオスなほど情報量が爆発した。

それでも、AIだからこそ生まれた魅力的な作品も確かに生まれた。

もしかすると今後、個人とも企業とも、人間ともAIとも判別できない、バンクシーのような正体不明のデジタル配信者が現れるかもしれない。

そう想像すると、このカオスなインターネットにも、将来がちょっぴり楽しみになる。

……ならないだろうか?


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