2026年9月9日から10日にかけて大阪で開催されたXR Kaigi Hub 大阪 2026。そのセッションのひとつとして行われたのが、イシムラ設備企画J/株式会社ホロラボの石村卓也氏による講演「個人開発から市とともに作り上げたホタルイカプロジェクト — 地域の課題をXRで」である。個人でVRを現場に持ち込んだところから、常設化を経て、市からの相談による新たなAR常設へ。その過程が語られた。
登壇者紹介: 石村 卓也 氏(イシムラ設備企画J/株式会社ホロラボ)

医薬品営業、配管職人を経て、Unreal Engineに魅了される。個人活動としてホタルイカをテーマとしたXR展示に着手。ほたるいかミュージアムアンバサダー。
個人開発から市とともに作り上げたホタルイカプロジェクト — 地域の課題をXRで
冒頭、石村氏はこう断りを入れた。「今回の講演では、要素技術の話は1mmもなくて、どうやってこの自分の作ったものを地域に根付かせるかという泥臭いことを喋っていこうかなと思っています」。
石村氏は富山県で配管職人として働くなかでUnreal Engineに出会い、開発を面白がっているうちに、気がつけばホロラボに所属していたという経歴を持つ。現在はほたるいかミュージアムのアンバサダーも務めている。
「ホタルイカ、いないんですか?」をどう解決するか?
石村氏がアンバサダーを務める「ほたるいかミュージアム」は、富山県滑川市に1998年3月27日に開館した施設だ。まもなく開館30周年を迎える、ホタルイカを主役にしたミュージアムである。
この施設が長年向き合ってきた課題がシーズンだった。生きたホタルイカを展示できるのは3月20日から5月末まで。この期間はオンシーズンと呼ばれ、実際に触れる展示や発光ショーが行われ、入館者数も伸びる。一方、6月1日から3月19日までは、生きたホタルイカを館で見せることができない。一年の大半を、主役の生きた姿なしでどう魅力的にするか。それが館の課題だった。
その間は発光するプランクトンやダイオウグソクムシ、チンアナゴなどを展示している。小林館長の方針は、面白いと思えるものは何でも展示してみるというもので、尖ったことをやりたい施設なのだと石村氏は説明する。それでも、ほたるいかミュージアムならいつ来てもホタルイカに会えるはず、と期待して訪れる来館者は多く、「ホタルイカ、いないんですか?」と尋ねられることも少なくない。入館者数はオンシーズンとオフシーズンの差が大きかったという。
ただしミュージアム側の姿勢は前向きだった。ホタルイカがいない季節があること自体も生態の魅力だとして、あえてその事実から逃げずに伝えている。石村氏は小林館長を、その事実を正面から引き受ける覚悟があり、新しい挑戦をためらわない人物だと評した。
現在、同館には「VRホタルイカ」と「AR定置網」が常設されている。ハンドトラッキングでイカに触れ、KAT VRという歩行デバイスで深海を歩いて探索し、展示の中をARで自由に見るという体験が可能となっている。開発は石村氏がUnreal Engineで手がけ、ミュージアムや滑川市、地元の漁師、ホタルイカに思いを持つ地域の人たちの協力を得て常設に至った。
「まず被ってください」から始まった
このように紹介すると、石村氏のことを地域課題の解決に燃える人物のように思えるが、本人は「全くそういうのはなくて」と否定する。出発点はVRとゲームエンジンが好きで、何か面白そうなことができないかという動機だけだった。それが現在は街づくりを考えるところまで移行している。その移り変わりこそヒントになるのではないか、という構成で講演は進んだ。
配管職人だった頃には、バーチャル空間で配管をする「配管VR」を作っていた。その開発は石村氏にとって「面白いものだった」という。しかしふと、これは誰の何のためのもので、何を解決するのかと考えたとき、自分で答えが出せなかった。「面白さだけでは相手の行動を変えたりとか、予算をもらえたりとかしない」。そう気づいて富山県の研修会に足を運び、企業の課題を聞いて課題起点で考えようとした。それでも「これ、XR技術でいけるかも」と手段に飛びついてしまい、XRで何か解決できないかという思考から抜け出せなかったという。
暗中模索のなか、知人にVRデバイスを見せたときに投げかけられたのが「ホタルイカの身投げを見せればいいんじゃない?」という一言だった。身投げとは、ホタルイカが浜辺に打ち上げられて青く光る、条件が揃ったときにしか見られない現象だ。そのアイデアを面白いと感じ、すぐにプロトタイプを制作。水槽のアセットにイカを置き、ハンドトラッキングで触れるだけのものである。

この制作物をホタルイカのプロに見せたくなった。とはいえ1人で乗り込むのは怖い。地元の勉強会で知り合ったNPOの方を通じて富山県の県議を紹介してもらい、ミュージアムへ向かった。頼まれてもいないものを勝手に作って持ち込む、いわば押し売りで、叱られるかもしれないと思っていたという。館長も最初は半信半疑だった。VRデバイスは被ってみるまで良さが伝わらない。そこで石村氏は「まず被ってください」とヘッドセットを手渡した。その結果、反応は一変し「これはすごい」と驚いてくれたという。
ここで石村氏は重要な気づきを得る。自分は面白いVRを見せに行ったつもりだった。しかし館長にとっては、ホタルイカに会えない季節という課題への解決案が目の前に現れた瞬間だったのではないか、と石村氏は語る。同じデモでも、課題感を持っている人が見ると受け止め方がまるで違う。館長が挙げた評価は、近隣にVRを使った展示がなくオフシーズン対策になること、尖ったミュージアムと尖った展示という共通点があること、そして石村氏の熱量だった。熱意はやはり大切だ、と石村氏は振り返る。
「これは本当のホタルイカではない」の壁をどう乗り越える
もっとも、話はそのまま進まなかった。館長から告げられたのは「これは本当のホタルイカではない」という言葉である。石村氏が作ったのはありふれたホタルイカのモデルだったが、本物を見続けている人間には違和感が伝わってしまう。本物でないホタルイカを見せれば厳しい意見が出る、とも言われた。
富山県民のホタルイカを見る目が肥えている。シーズンになればスーパーに並び、子どもの頃に遠足でミュージアムを訪れるのが王道のパターンだ。しょせん作り物というイメージを持たれれば受け入れられない。VRヘッドセットを被ること自体への抵抗感もある。そこでまず企画展を実施し、体験者の意見を集めようという流れになった。
ここから始まったのは開発ではなく、ホタルイカと向き合う時間だった。館の協力でバックヤードに通い、水槽を長時間眺め、身投げを見るために夜の浜辺に立ち続ける。ここまでするのは、現場でしか感じられないもの、対象物に真摯に向き合わなければ見えないものがあるからだと石村氏は言う。
調べ方も徹底していた。ホタルイカは滑川市にとって観光と水産の要であり、市議会の議事録に情報が多く残る。議事録検索システムでホタルイカに関する記述を読みあさり、YouTubeで公開されている議会の映像から、ホタルイカの課題がどんな思いで語られてきたかを確かめた。文章だけでは分からず、AIで検索しても出てこない部分を自分で掴みにいった形だ。専門書や歴史書も読み、滑川市がホタルイカという観光資源をどう育ててきたのかまで遡り、相手と同じ目線に立つための知識と文脈を手に入れた。
課題を理解したとき、思考が反転する。「XRで何かしたい」ではなく「課題を解決するための手段がXRである」と。ホタルイカは養殖されておらず、生きた姿を館で見せられるのは漁期に限られる。見られないものを見せる。それならXRが最適だ。
コンテンツは「季節限定のホタルイカにいつでも触れる」「条件が揃わなければ見られない身投げを見る」「深海300mという行けない場所へ行く」と段階を踏んで不可能な体験を実現する方向に定まった。
夏休みに開催した企画展では、水を出して進む動き、体のへこみ、発光、腕の動きまで再現したホタルイカが登場した。検証したかったのは、本物らしいか、VRへの抵抗感なく楽しんでもらえるか、という館長の不安そのものである。10日間で約500人が体験し、約300人がアンケートに回答した。満足度は高かったが、石村氏が重視したのは数字以上に生の声だった。作り物とは思わなかった、柔らかさを感じた、発光が綺麗だった。なかには水が冷たかったという声まであったそうだ。
初めてVRを体験した人がほとんどで、オフシーズンに初めて来館した人が多い、というデータも得られた。VRへの抵抗感なく、オフシーズンの来館者が疑似的にホタルイカに触れられる。それが証明された。振り返って石村氏は「これ、展示というよりPoC(概念実証)だな」と考えたという。そして題材の向こうに地域の人たちの思いがあると分かり、責任感が生まれたそうだ。
作ったあなたが自分の声で伝えなさい
常設化にあたっては、ほたるいかミュージアム、滑川市観光課、石村氏、ホタルイカ好きの有志でチームを組み、展示のあり方そのものから見直した。それまでの展示は、人が展示物を見る、ホタルイカを見る、パネルを見るという構図だった。VRなら対象物になりきれるため、展示物の側から人間を見るポジションを取れるのではないか。VRでしか出せない魅力だとして、その方向に踏み出した。
導入を決めたのが歩行デバイスのKAT VRである。理由は3つあった。ひとつは安全性。企画展では、ヘッドセットを被った子どもが夢中になって走り出し、壁にぶつかってしまう場面があった。ある程度体を固定し、転んでも大丈夫な状態にする必要があった。ふたつ目はVR酔いで、石村氏自身がワープ以外の移動で酔ってしまう体質だという。KAT VRは足の歩行速度に合わせて画面が動くため酔いにくく、VRに慣れていない人が移動する表現に向いていた。三つ目は話題性だ。当時は東京タワーや大阪の一部、研究機関などにしかない機材を、地方のミュージアムに置く。そのインパクトを狙った。
館長の判断も大胆だった。ミュージアムへのKAT VR設置は前例がなく一番手になれること、富山県で最も面積の小さい市のミュージアムが最新のVRを導入するというギャップに惹かれた、というのが決め手だったと石村氏は明かす。変化や未知の挑戦を恐れないミュージアムと市の姿勢があったからこそ、チーム一丸で進められたという。
結果として民放、NHK、新聞社、全国放送、バラエティ番組などに取り上げられ、導入から3年が経った今も取材が入る。作って終わりではなく、知ってもらうことに価値がある。石村氏はそう受け止めている。
ただ本人は、人前で話すのが苦手なタイプで、メディアの取材にも出たくないという。そこで小林館長から言われたのが「作ったあなたが自分の声で伝えないと、何にも伝わらないから伝えなさい」という言葉である。当時のテレビ収録は何を言っているか分からない状態だったと笑いつつ、上手い下手ではなく、どういう思いがあるのかを自分の声で届けることが大事だと語った。作る責任、課題を認識する責任、そして伝える責任がついてくる、という整理である。
当事者意識を決定的にしたのは、ある寄付だった。ほたるいかミュージアム建設当時の市長のご家族が、VRホタルイカの取り組みに共感し、「ミュージアムのために使ってほしい」と寄付を寄せてくださった。30年近い歴史を勝手に背負っているような責任感が生まれ、常設後も思いを伝える行動とアップデートを続けることになった。
常設化は新たな課題も生んだ。運用面では必ずアテンドが1人必要で、1回5分で、一度に体験できる人数が限られる。時間制限を設けていなかった頃には、80代の女性が20分間夢中で海底を歩き続けたこともあった。さらに年齢制限があり、小さな子どもは体験できない。ホタルイカがいなくて悲しい、VRがあると喜んだのに体験できず悲しい。二度がっかりさせてしまうことが、石村氏のなかで引っかかっていた。
今の課題に真剣に向き合えているのか?
家族で楽しめる仕組みを考えていた時期に、滑川市から相談が入る。定置網の魅力を伝えるコンテンツが欲しい、という依頼だった。滑川のホタルイカ漁は定置網で行われる。産卵を終えて沖へ帰っていくホタルイカが網に入る仕組みだ。その仕組みと、定置網が資源や環境に優しい漁法であることを伝え、子どもたちが漁業に興味を持つきっかけにしたい、という人材育成の狙いもあった。
最初に作ったのは、ガウシアン・スプラッティングとUnreal Engineのアセットを組み合わせた、定置網を舞台にしたレースゲームだ。面白いが、定置網の魅力は伝わらず説得力もない。そこで方向転換に至った。
この判断を振り返って石村氏が強調したのが軸の話である。自分は楽しいという軸だけで動いてきた。VRホタルイカが常設まで至ったのは、その楽しいという軸と、館長が持つ課題感という軸が重なったからだ。楽しさと課題解決が掛け合わさって社会実装になった。一方のレースゲームは楽しさの軸だけで作ったため社会実装にならない。軸を一つに絞らず、二つを比較しながら企画することが大事だと語る。面白いだけで進めると、本来伝えたいことからズレてしまう。
選ばれたのは、ARで定置網を観察できる案だった。家族で見て触れて楽しめ、漁師がどう獲っているのかが伝わる。ただしレースゲームから観察型のARへ切り替えたことで制約が生まれ、納期は2か月しか残っていなかった。本業のホロラボの仕事が忙しく、子どもにも恵まれてバタバタの時期である。無理だと思ったが、そこで制約を疑った。自分で制約を作り出していないか、本当に変えられないことなのか、今やる必要があるのか、自分がやる必要があるのか、手段に入り込んでいないか。制約を壁として受け取らず分解すれば隙間がある。そう考えて隙間時間を作り、開発を進めた。
石村氏は自身を直感タイプだと語る。いいなと思ったら動いてしまう。行動自体は良いとしても、検証は欠かせない。そして直感で動く人が、なぜそう動いたのかを言語化できたときに強くなる、と続けた。直感を言語化できれば自分の直感を信じられるようになり、いいなと思った瞬間にすぐ動ける。手段やツールから考えて自分を縛るのではなく、目的に立ち返って軸を立て、比較し、要るものと要らないものを分け、要ると判断したら直感を信じて動き、検証して次へ進む。そうした進め方を提示した。
AR定置網の制作では、市を通じて地元の漁師に監修を依頼し、実際に定置網を見学して漁の仕組みの説明を受けた。漁師に絵を描いてもらい、それも反映させている。ホタルイカのモデルは知人のデザイナーに依頼し、内臓まで作り込んだ。細かく見れば内臓が見えるという作りである。
完成したタブレットの常設展示は、子どもが説明なしで遊び、大人は大人の目線で学べるものになった。スタッフの付き添いがなくても楽しめるため、館の運用負担の軽減にもつながった。さらに持ち運べる利点を生かし、市内の小学校の授業でのSDGs学習にも使われている。ミュージアムという枠から地域へと活躍の場が広がりつつある。
現在は、ARやVRだけではオフシーズンの集客に足りない部分があるとして、大人数が同時に楽しめる仕組みを構想中だ。まだ詰め切れていないとしつつ、石村氏個人の思いとして、ミュージアムを観光のハブにして人を集め、ホタルイカに思いを持つ地域の店にも足を運んでもらい、滑川市全体を豊かにしたいと語った。富山を訪れた際はぜひミュージアムでVRホタルイカとAR定置網を体験し、美味しいホタルイカも味わってほしい、とも呼びかけた。
講演の結びで石村氏はこう述べた。
きっかけは面白そう、楽しそうという自分の本能で良い。ただし大事なのはその先で、縁があった相手の課題感にどれだけ真剣に向き合えるかにかかっている。各地で試行錯誤する人たちと交流し、地域同士で情報を共有しながらXRで地方を盛り上げたい。
AI・スマートグラスの最新事例が集合! 国内最大級カンファレンス「XR Kaigi 2026」、11月30日〜12月2日に開催決定
XR Kaigi実行委員会は、バーチャル領域のカンファレンス「XR Kaigi 2026」を2026年11月30日(月)から12月2日(水)の3日間、東京・ポートシティ竹芝内(ポートホール・東京都立産業貿易センター浜松町館)で開催します。
※XR Kaigi、MoguraVRはMyDearest株式会社が運営しています。
XR Kaigiは、XR・スマートグラス・VTuberなど、バーチャル領域の担い手を対象としたカンファレンスです。企業・個人・業界団体・行政などが参画する業界横断型のイベントで、海外からの登壇者や出展社も迎えます。開発者やクリエイターを中心とした参加者が集まる場を目指しており、2014年から業界専門メディアとして活動するMogura VRが企画しています。想定総動員数は4,000名、想定出展ブース数は100ブースです。
XR Kaigi 2026 概要
| 名称 | XR Kaigi 2026 |
| 会期 | 2026年11月30日(月)〜12月2日(水) |
| 会場 | ポートシティ竹芝内(ポートホール・東京都立産業貿易センター浜松町館) |
| 想定総動員数 | 4,000名 |
| 想定出展ブース数 | 100ブース |
| 公式サイト | https://mydearestvr.com/xrkaigi/2026/ |
| 主催 | XR Kaigi実行委員会 |














