米国ラスベガスで開催されたCES 2026において、ウェアラブルデバイス、特に「メガネ型デバイス」の領域で興味深い傾向が見られました。
これまでメガネ型デバイスといえば、現実空間に映像を重ねる「ARグラス」が主流でしたが、今年は生成AIの活用に主眼を置いた「AIグラス」の出展が目立ち、両者の違いが徐々に明確になりつつあるようです。
どのようなデバイスが見られたのか、実例をもとに紹介していきます。
CESで見かけた、象徴的な「メガネ型」デバイス
会場では、ARからAI/実用性へのシフトを象徴するようなデバイスがいくつか見受けられました。
1. Nuance Audio(聴覚拡張グラス)
「ARではないメガネ型デバイス」のわかりやすい例です。ディスプレイを一切持たず、見た目は普通の太めのメガネそのものですが、ビームフォーミング技術(電波や音波を特定の場所へと集中させる技術)を使って「前方の人の声を聞き取りやすくする」という、聴覚のサポートに特化した機能を持っています。視覚情報を重ねるのではなく、テクノロジーで人間の身体機能を自然に補う方向へ進化しているわかりやすい例です。
公式サイト: https://www.nuanceaudio.com/en-int
2. Even Realities G2(情報表示特化型AIグラス)
こちらはディスプレイ付きですが、動画を見るためのものではありません。 緑色の単色ディスプレイに、AIからの通知やスピーチの原稿などを「文字情報」としてシンプルに表示します。AR的な没入感を目指すのではなく、日常に必要な情報をさりげなく視界の端に置くことに徹しており、デザインも普通のメガネと見分けがつかないほど洗練されています。
日本でも、新型の「Even G2」が昨年の11月から発売されており、ディスプレイで見える領域が拡大。AIが音声でナビゲートする機能や多言語の翻訳機能なども有しています。さらにスマートリング「Even R1」と連携して、片手でのディスプレイ操作も可能となりました。
公式サイト:https://www.evenrealities.com/smart-glasses
3. LLVision Leion Hey(翻訳・字幕表示グラス)
「ARとAIの技術をコミュニケーションのために使う」という実用的なアプローチの例です。 相手が話している言葉をリアルタイムでレンズ上に「字幕」として表示します。AIによる多言語翻訳はもちろん、聴覚に障害がある方との会話をサポートする用途としても注目されています。「映像を見る」のではなく「言葉を見る」ことに特化しており、まさに生活を助けるツールとしての進化を感じられました。
公式サイト:https://www.llvision.com/
AIグラスとの併用・連携が視野に入る、注目のウェアラブルデバイス
AIグラスなどのメガネ型デバイスが普及するにつれ、課題となるのが「操作方法」や「入力のプライバシー」、そして「生体情報の活用」です。 単体での利用だけでなく、AIグラスと組み合わせることで利便性を高める可能性のある特徴的なデバイスを紹介します。
Wearphone
本体は少し大きめですが、一見すると通常のマスクのようにも見えるウェアラブルデバイスです。口元を覆うことで、周囲に声を聞かれることなく通話や音声入力が可能になります。 AIグラスへの音声入力は、公共の場では抵抗感があるのが現状のため、Weaphoneのようなデバイスを併用することで、プライバシーを保ちながらAIアシスタントと自然に対話する環境が整う可能性があります。ややサイズは大きいものの、マスクという日常的な形状を採用している点が特徴です。
公式サイト:https://verne-tech.com/jp/wearphone/waitlist
AIVELA Ring Pro
指輪型の多機能デバイスです。一般的なヘルスケア計測に加え、タッチ操作やジェスチャーによるデバイスコントロール機能を備えています。 AIグラスの操作において、ツル(テンプル)を触る動作や音声コマンドが煩わしい場面でも、手元の指輪でさりげなく操作を行うための入力デバイスとして機能することが期待されます。
Mudra Band
Apple Watchに取り付けて使用するバンド型デバイスです。手首の神経信号を感知するSNC(Surface Nerve Conductance)センサーを搭載しており、指を動かすだけで接続したApple機器などをジェスチャー操作できます。 画面に触れることなく、指先の微細な動きだけで操作できるため、AIグラス上のインターフェースをハンズフリーで操作するためのコントローラーとして有効な選択肢となり得ます。
公式サイト:https://mudra-band.com/
OVOMIND
装着者の感情状態をリアルタイムで分析・取得できるリストバンド型デバイスです。 生体信号からユーザーの緊張や興奮などの感情を読み取ります。これをAIグラスと連携させれば、例えばユーザーの感情に合わせてAIが応答を変えたり、ゲーム体験を変化させたりするなど、コンテキスト(文脈)を理解した高度なインタラクションが可能になると考えられます。
公式サイト:https://ovomind.com/ja/
まとめ:「映像」のAR、「活用」のAI
これまで市場を形成してきた「ARグラス」は、主に映像コンテンツの視聴や、リッチな視覚情報の表示を目的としてきました。一方、今回多く見られた「AIグラス」は、AIアシスタントを活用するためのインターフェースとしての役割が強く、両者は似て非なるものとして分化し始めている印象を受けます。
ディスプレイ搭載が主流だが、目的は異なる
今回見かけたAIグラスの多くは、音声入出力だけでなく多くのプロダクトがディスプレイ搭載モデルとなっていました。
しかし、ディスプレイがあるからといって、これまでの「ARグラス」と同じではありません。ARグラスが空間への映像投影や没入感を重視するのに対し、AIグラスのディスプレイは、あくまでAIからの回答や通知をシンプルに表示する役割に留まっています。
「ディスプレイの有無」で分類するのではなく、「何を体験させるか(映像か、情報か)」によって、ARグラスとAIグラスは別のカテゴリとして扱われ始めているようです。
「メガネ」という形状の再評価
この流れを見ていると、デバイスに対する考え方が、より現実的な方向へシフトしているように感じます。「ARという新しい視覚体験を見せるための装置」を作ろうとするのではなく、「メガネ」という古くから存在し、装着負担の少ない形状をそのまま流用するというアプローチです。
近未来的な新しいウェアラブル体験を目指すのではなく、使い慣れた「メガネ」という道具に、便利な機能をアドオンする。今年のCESで見られたのは、技術的な大革新というよりも、デバイスが日常に馴染むための「地に足のついた進化」だったのかもしれません。
「映像を見る」ための進化と、「AIを使う」ための進化。 「メガネ」という共通の形状をとりながらも、それぞれの目的がはっきりと分かれ始めたことで、ユーザーにとっては自分のライフスタイルに合ったデバイスを選びやすくなってきています。
何か一つの正解に収束するのではなく、用途に合わせて選択肢が自然に広がってきた。そんな変化を感じる展示内容でした。






