Home » 如月千早が武道館に立った日 アイドルを“実在”させる演出と、ソニーのロボット「groovots」が拡張するステージの可能性


VTuber 2026.01.29

如月千早が武道館に立った日 アイドルを“実在”させる演出と、ソニーのロボット「groovots」が拡張するステージの可能性

765プロダクション所属アイドル・如月千早が登壇した記者会見から、はや10ヶ月。彼女の武道館単独公演「OathONE」が、2026年1月に開催された。

『アイドルマスター』シリーズでは近年、キャラクターを演じるキャストがステージに立つのではなく、作中の“アイドル”本人が出演するXRライブに注力している。本公演もその流れを汲むものだが、今回は初の単独公演。しかも「日本武道館という大舞台に如月千早が立つ」ということで、開催前から大きな注目を集めていた。

追加公演も含め、1月24日・25日の2日間にわたり開催された「OathONE」。蒼く染め上げられた武道館に、「アイドル・如月千早」の姿はどのように顕現したのか。そして、どのような演出が彼女を彩り、客席にどのような体験をもたらしたのか。両日ともに現地へ赴いた筆者が、その衝撃をレポートする。

武道館のセンターステージに立つアイドルと、気になる「花道」の存在

今回の「OathONE」は、武道館中央に舞台を配置した「センターステージ」スタイルを採用している。

円形のステージは足場部分がスクリーンとなっており、その上部には360度全方位から視認可能な円柱型スクリーンが設置されている。開演前の時点では、スクリーンには公演ロゴが投影されていた。

一方で目を引いたのが、中央ステージから両サイドに伸びる「花道」の存在だ。武道館を南北に分断するように東西へと跨り、その周囲をアリーナ席が囲む。

一般的なライブであれば何の不思議もない光景だが、このライブには“生身”の人間は出演しない。にもかかわらず、物理的な足場である「花道」がなぜ必要なのか。そこに違和感を覚えた観客も多かったはずだ。あるいは、事前告知にあった「ロボットを使った演出」のための設備だと推測した人もいたかもしれない。

開演を告げる暗転とともに、円柱型スクリーンに幻想的な映像が流れ出す。当初、筆者はこのスクリーンにアイドルの姿が投影されるものと推測していたのだが、その予想は鮮やかに裏切られた。演出のさなか、スクリーンがゆっくりと上昇を始めたのだ。

そこで初めて、そのスクリーンが底のない「円筒形の透過ディスプレイ」であったことに気づかされる。上昇したスクリーンの内側から現れたのは――紛れもない、アイドル・如月千早その人だった。


(余談になるが、この円筒形スクリーンがどのような仕組みで映像を投影しているのか、最後までわからなかった。上の現地写真では向かって正面に映像が映し出されているが、スクリーンは360度どこからでも視認できるため、反対側の席からも同じ映像が見えているはず。にもかかわらず、今まさに映像が流れているはずの反対側のスクリーンを裏から見ると、向こう側の客席が見えるように透過しているのだ)

「花道を歩く如月千早」の衝撃と、実在感を補強する演出の妙

壇上のアイドルの歌と魅力を最大限に引き出すべく、すべての演出が計算し尽くされたライブだった。そう言っても過言ではないほどに、この「OathONE」のステージは完成されていた。

1日目と2日目、両日の幕開けを飾ったのは、彼女の代表曲「蒼い鳥」。

その後のセットリストは日によって異なるが、特に1日目序盤は、彼女の伸びやかな歌声を堪能させるバラードが続く。満月や水面を映した幻想的なビジュアルがステージを彩り、青と白の照明が場内を優しく包み込む。

ライブ全編を通して印象に残ったのが、この緻密に計算された「照明」の演出だ。

楽曲の展開に合わせて会場を照らすだけでなく、ステージ上のアイドルの動きやコールのタイミングと完璧に同期し、空間そのものを彼女のパフォーマンスの一部へと変えていた。

(「目が逢う瞬間」では、円筒形スクリーンに顔を大きく映し出す演出も。歌詞を体現するかのように、歌い出しのタイミングでスクリーンに大きく顔が映し出されたため、ドキリとさせられた人も多かったようだ)

(1日目は765プロの仲間の楽曲を複数カバー。力強く、高らかに、しかしどこか切実な想いが見え隠れする歌声が場内に響き渡った「隣に…」(三浦あずさ)のカバーでは、壮大な音楽と照明の連動が見事だった)

(2日目には、765プロ以外の事務所のアイドルのカバーを次々に披露。その1曲目として「アイヴイ」(月村手毬/学園アイドルマスター)が流れた瞬間の、現地会場の沸き立つような歓声は凄まじかった。SNSでもトレンド上位に入っていたようだ)

(両日ともに歌われた「眠り姫」。1日目はアカペラで1コーラスを歌唱し、音楽も、視覚的な演出も一切ない武道館に、一筋の明かりに照らされたアイドルの姿と、その歌声だけが響き渡る。空間が「歌」に支配されたかのような、圧巻のパフォーマンスだった)

(会場オリジナルCD収録の新曲「輝夜」。アコースティックギターの伴奏で始まり、自然体で口ずさむように、優しく紡がれる言葉と歌声があたたかい)

予想外のカバー曲や、盛り上がる定番曲のイントロが流れるたびに歓声が響いていた、公演1日目。そんななか、この日最大のどよめきと驚きの声があがったのが、幕間のシーンだ。

ライブ中盤、上昇していた円筒形スクリーンが下降し、ステージ転換が行われるかと思われた瞬間。センターエリア外――つまり「花道」の上に、人影が姿を現した。

なんと、千早がセンターステージを飛び出し、自らの足で花道へと踏み出したのだ。

「花道を歩く如月千早」の姿は、現地と配信の両方で驚愕をもって受け止められた。

客席からその光景が目に入った瞬間は、本当に「歩いている」ようにしか見えなかった。筆者もVRやARの体験には慣れているつもりだったが、これは予想外が過ぎる。「画面の向こう側の存在だと思っていたキャラクターが、本当にリアルに飛び出してきた」という壁を壊されたような衝撃に、感動を覚えずにはいられなかった。

冷静に考えれば、それが移動式の高精細モニターに映し出された姿であることはわかる。しかし、彼女の歌声とステージ演出によって没入感の極地にいた観客が、「ロボットのために用意されたものだろう」と思い込んでいた花道に、不意打ちのようなタイミングで「歩き出す人影」を目にしたら……?

それはもう、「千早が花道を歩いている」と認識するほかないだろう。


目に見えて「そこにいる」と強く感じさせられたのは花道を歩く場面だったが、彼女を武道館に顕現させるためのこだわりは、それだけにとどまらない。

指先の動きまで高精度かつ滑らかに描写していた全身のモーションは言わずもがな、その一瞬一瞬の感情の揺らぎまで伝わってくるかのような、繊細な表情にも驚かされる。

(2日目ラストの「約束」では、観客たちの大合唱が響く中で涙を流す場面もあった)

また、生身のアーティストがセンターステージで歌う場合と同じように、彼女の「背中」を見る場面が多々あったのも印象的だ。

現地ではそれも演出の1つだと思っていたのだが、終演後のSNSでの声を見ると、どうやら「実際にそちらを向いている」ように描写されていたようだ。要するに、「背中が見えている場面では、360度どの席からも背中が見えている(同じ姿が映し出されている)」という見え方だったのかと思いきや、「アイドルが背中を向けている場面では、会場の反対側からは、正面を向いて歌う姿が見えていた」らしい。

どの座席からでも同じ見え方にするほうが簡単で確実なはずなのに、あえてそうはせず、生身のアーティストと同じように、「そこにいる存在」として再現することを選んだ。その事実に、制作陣の並々ならぬこだわりを感じずにはいられない。

groovotsが彩るステージと、色とりどりの輝きの向こう側に見えた仲間たちの姿

映像・照明・音響のすべてが非常に高い精度で連動し、「音楽ライブ」としても圧倒的な臨場感を生み出していた今回のライブ。その中に、他のライブでは見たことのないステージ演出として注目を集めていたシステムがある。

それが、ソニーが開発するロボットシステム「groovots(グルーボッツ)」だ。

groovotsは、LEDパネルを備えた複数のロボットを同期させ、映像と音響を物理空間で連動させるシステムだ。ソニーグループの技術交換会で披露された際には、大型ロボットと小型ロボットによるライブステージのデモンストレーションが行われた(参考ページ)。

公演1日目、しばらくは影も形もなかったgroovotsが登場したのは、ライブも後半に差し掛かったタイミングだった。ちょうど「花道を歩く千早」の姿を見てどよめきが起こり、衣装を着替えて再登場した彼女が、「輝夜」と「my song」を歌った直後である。次の「Kosmos, Cosmos」のイントロとともに姿を現したのが、groovotsだった。


花道の両サイドから計8台。幅約0.3m、高さ約1.3mの直方体ロボットが、滑らかな動きで中央へと集結する。一言で説明するなら、「ロボット掃除機の上に、側面が全面モニターの直方体が載っている」ようなイメージだろうか。

物珍しさもあって目を引くが、彼らの役割は「バックダンサー」に近い。

ステージ上下のスクリーンと連動し、鮮やかなビジュアルでステージを演出する。一般的なモニターとは異なり、見慣れない「光る柱」がステージ上を縦横無尽に動き回りながら映像を映し出す演出は、空間にダイナミックな躍動感を与えていた。


groovotsを使った映像表現は思いのほか幅広く、いろいろと応用が効きそうだ。星空のような背景映像をそのまま表示するだけでなく、今回のライブでは以下のような表現も見られていた。

  • オーディオビジュアライザーのようなエフェクトの投影
  • 特定の面だけを使った視覚表現
  • 音と完全に同期した映像のオンオフや、ウェーブの演出
  • 1台が横を通ると同時に、近くのロボットが点灯し回転する

(「」のサビで、「繋ぐレインボー」の歌詞に合わせて虹色に染まるgroovotsたち)

途中、groovotsの1台が停止してしまうトラブルもあったようだが、なんとか事なきを得ていた様子。演目中は一糸乱れぬ動きでステージを彩り、特に音と連動して明滅する表現はまったくラグを感じられないほどに精度が高く、見ていて気持ちがよかった。

ちなみに、先ほどの「花道を歩く」演出で使われていたのもgroovotsらしい。今回のライブのために開発されたという幅約2m×高さ約2mのLEDパネルを搭載した大型ロボットが、アイドルの「足」となり、彼女をステージの外へと連れ出してくれていた。

演出装置としてステージに溶け込み、最後までライブを彩ってくれていたgroovotsたち。ところが、そんなロボットたちが突如としてある種の“文脈”を付与され、良い意味で存在感を発揮した場面があった。

それが、公演1日目のアンコール。
ライブを締めくくる1曲「約束」での一幕だ。

2011年放送のアニメ版『THE IDOLM@STER』の20話の挿入歌であり、エンディングでもある曲。劇中では、歌えなくなってしまった千早のために765プロの仲間たちが作詞し、声を出せないステージ上の彼女のもとへと駆けつけて、みんなで歌った大切な歌だ。

そんな大切な1曲を歌う晴れ舞台に、集まったgroovotsは12台。

その中の1台が赤く輝いた瞬間、客席のあちらこちらから歓声があがり、ため息が漏れ、声にならない声が発せられ、場内を満たしていく。そして、その「赤」に呼応するように、千早の周りに控えていたgroovotsにも、色とりどりの光が灯される。

そう、これは、いつか見たステージの再現だ。最新のロボットたちが、物理的にはそこにいない仲間をステージに召喚した瞬間だった。

一見すると「ロボットがカラフルに光っている演出」にしか見えないが、「如月千早」というアイドルのことを、彼女と765プロの物語を一度でも見たことがある人なら、誰しもがそこに込められた意味を一瞬で見出だせる。長年にわたって彼女を応援してきた“プロデューサー”への信頼あってこその演出だったと言えるだろう。

本来は全員では立てない単独公演の場で、擬似的にではあるものの、「765プロのみんなが一緒に立つ」という光景を実現してくれた、愛おしきロボットたち。終演後のスタッフロールで「groovots #01、groovots #02……」の文字が流れてきた際には、自然と大きな拍手が巻き起こっていた。

翌日の追加公演でも活躍していたgroovotsだが、最後にもうひとつ、このロボットがいたからこそ見ることのできた光景も忘れてはならない。

2日目のアンコールが終わり、声を震わせながら感謝を伝えて、ステージを降りた千早。万雷の拍手を受け止めながら、花道をゆっくりと歩いていく。

やがてステージ袖へとたどり着き、足を止め、会場中をぐるっと見渡したところで、流れていたBGMがピタリと止まる。拍手と歓声、感謝と称賛を送り続けていた観客も動きを止め、武道館が静まり返った、次の瞬間だった。

「ありがとうございました!!」

静寂を切り裂いて響いたのは、感謝の言葉。深く頭を下げるのと同時に、彼女が立つ場所から、叫ぶように発せられた声。マイクを通さずに放たれたようにしか聞こえなかったそれは、間違いなく“如月千早”の肉声だった。

花道を歩く姿を見ていなければ、これほどの実在感を感じられることはおそらくなかっただろう。キャラクターがステージへの外へと歩み出し、物理的に退場していく姿を見た後に響いた、マイクを通さない、万感の想いを込めた感謝の叫び。

あの瞬間、「如月千早」は、たしかにそこにいた。
あの日、彼女の声を耳にした我々が、その証人だ。

「ステージの外」へと一歩踏み出したアイドル

音楽ライブとしての完成度の高さは本稿で書いてきたとおりだが、今回のライブは「如月千早の武道館ライブ」としての満足度も非常に高いものだった。終演後に興奮気味に話をする人たちの姿やSNSの声からも、それは間違いないだろう。

他方では、groovotsの導入や花道を使った演出など、「キャラクターライブ」として新たな試みに挑戦していたことも本公演の特筆すべきポイントだ。

「キャラクターが花道を歩く」という演出は、現地で見るかぎりでは衝撃的ではあったものの、「キャラクターライブの演出の1つに過ぎない」という見方もたしかにできる。しかし同時にそれは、これまではステージに固定されたスクリーンの中でしか動けなかったキャラクターが、「ステージの外」へと一歩踏み出した瞬間でもあったのではないだろうか。

振り返ってみると、『アイドルマスター』シリーズでは以前から、ライブの現場で意欲的な挑戦を続けてきた。

遡れば、2018年開催のMRライブ「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆」を嚆矢とし、2022年からは「“MR”-MORE RE@LITY-プロジェクト」と題して、アイドルの活動を多方面に広げる取り組みを推し進めている。

このプロジェクトの一環として、「アイドル・如月千早」が取り組んできた仕事についての言及があったのも、今回のライブの特徴と言えるだろう。彼女が空間オーディオを体験する仕事で聴いた「アイヴイ」が2日目のセットリストに組み込まれており、また1日目の「M@STERPIECE」がTHE FIRST TAKEで歌ったアレンジバージョンだった点がそれだ。

近年は「現地会場+xRストリーミングライブ」の2軸で楽しめるライブを数多く展開してきた同シリーズだが、今回の「OathONE」はその集大成と言っても過言ではないだろう。

キャラクターライブには、まだまだできることがある。もっともっと、近くに行ける。大好きなアイドルを、間近で応援できる。「すごいものを見た」と感動するだけでは終わらず、「これから」にも期待せずにはいられない。そんなライブだったと、心から思う。

いや、「これから」を見られる日は、もしかしたらそう遠くないのかもしれない。

2026年7月に開催される、シリーズ20周年イヤーを締めくくるフィナーレ公演「IDOL WORLD SUPER FESTIVAL 2026」。ライブタイトルで「MORE RE@LITY LIVE」と銘打っていることから、MRプロジェクトの集大成的なイベントになる可能性は十分にある。

20年経ってもなお、歩みを止めることなく、新たな挑戦に取り組み、アイドルたちの物語を更新し続けている、『アイドルマスター』シリーズ。ファンとして、プロデューサーとして、アイドル・如月千早の晴れ舞台を目の当たりにした1人として、これからも応援していきたい。

最後に、1年前の記者会見で彼女が語った言葉を引用して締めくくりたい。「ファンに向けてどのようなステージを届けたいか」と問われた彼女は、こう答えていた。

「そうですね……。何年経っても、あの時の光景が目に浮かぶ、あの時の歌声が耳に残る――そんな、宝物のようなステージにできればと」

「如月千早の記者会見」の衝撃 アイマスと現実を融合する“MRプロジェクト”が実現しつつある夢【現地取材レポ】 – MoguLive

如月千早武道館単独公演「OathONE」イベント概要

セットリスト(1日目)

  1. 蒼い鳥
  2. 静かな夜に願いを…
  3. 9:02pm
  4. 目が逢う瞬間
  5. arcadia
  6. inferno
  7. relations
  8. Fate of the World
  9. 眠り姫
  10. Snow White
  11. LOST
  12. 隣に…
  13. 輝夜
  14. my song
  15. Kosmos, Cosmos
  16. Light Year Song
  17. 君に映るポートレイト
  18. Coming Smile
  19. Just be myself!!
  20. M@STERPIECE
  21. 細氷
  22. 約束

セットリスト(2日目)

  1. 蒼い鳥
  2. 輝夜
  3. 月下祭 ~la festa sotto la luna~
  4. アイヴイ
  5. arcadia
  6. 目が逢う瞬間
  7. 静かな夜に願いを…
  8. スローモーション
  9. 眠り姫
  10. Little Match Girl
  11. Snow White
  12. SING MY SONG
  13. 細氷
  14. my song
  15. Light Year Song
  16. My Starry Song
  17. しっくりとゆっくりと
  18. Coming Smile
  19. Just be myself!!
  20. Never say never
  21. GR@TITUDE
  22. ToP!!!!!!!!!!!!!
  23. 約束

©窪岡俊之 THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード

CONSULTING / DEVELOPMENT

コンサルティング・開発サービス

Moguraの知見を、あなたのプロジェクトに

mogura_next

Moguraの知見を、あなたのビジネスに
編集長の久保田を筆頭に、XR/メタバースなどバーチャル領域を知り尽くす専門チームが、リサーチからコンサルティング、企画、開発までを一貫支援。
Mogura VRで培った豊富な情報力と業界ネットワークを強みに、企業・行政機関の成果につながる最適な解決策をご提案します。