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業界動向 2025.07.19

「XRはメインストリームになった」 AIと融合し加速する北米テック業界の最前線【WWDC×AWE 2025レポート】

2025年6月、XR業界にとって重要な2つの大規模イベントが開催された。Appleの開発者会議「WWDC(Worldwide Developers Conference)」と、世界最大のXRカンファレンス「AWE(Augmented World Expo)USA 2025」である。

WWDCでは、Apple Vision Pro向けの次期OS「visionOS 2」が発表され、空間コンピューティング体験の深化が示された 。一方、AWEでは「XRはメインストリームになった」という力強い宣言と共に、Snapが開発を進めるARグラス「Spectacles」が大きな注目を集めるなど、業界の最新動向が明らかになった。

本稿では、Moguraが主催した「WWDC × AWE 2025 報告会」の模様をレポートする。XR/メタバース専門メディア「Mogura VR」を運営する株式会社Moguraの久保田瞬氏と、ITジャーナリストの西田宗千佳氏が、両イベントで得た知見を余すところなく語った。本報告会から、XRとAIが交差する「今」と、その先にある未来を紐解いていく。

WWDC:visionOS 2で深まる空間体験

UIはvisionOSから生まれている

西田氏によるWWDCの報告は、OS全体のデザイン思想の変革から始まった。今回、iPhoneやiPad、Macに至るまで、OSのバージョン番号が「26」に統一された。これはブランディング戦略の一環であると同時に、UIデザインの根底にある思想がvisionOS、すなわち「空間」から生まれていることを示しているという。

西田: これが何から生まれたかっていうと、visionOSから生まれてるわけですね。で、要はどういうことかって言うと、“重ねてる”ってことなんですよ。

新しいUI「Vibrant Glass」は、ガラスのような透明感を持ち、UI要素が重なり合う様子を空
間的に表現する。これは、複数のアプリケーションやオブジェクトが空間内に共存するvisionOSの思想を、平面的なディスプレイに落とし込んだものだ。

西田氏は、最終的にグラス型デバイスが主流になるという単純な話ではなく、モーションセンサーなどを活用し、平面ディスプレイの中でも立体感やインタラクティブ性を高めていくというAppleの狙いを読み解く。また、この新しいUIはvisionOS 2で使われているものと完全に同じではなく「精確にはvisionOSだけリキッドグラスじゃないんですよ」と指摘し、OSの成熟度に合わせた実装が行われていることを解説した。

画質向上はライバルを意識してのもの

visionOS 2は、まだ完成途上のOSであるため変更点が多いのは当然だが、中でも西田氏が「1番大きい変化」として挙げたのが「画質の向上」である。

西田: おそらく内部のレンダリングが改造されて変わってて、文字の関係の圧縮とかも変わってますよね。デベロッパー版をもう使ってる方がいらっしゃれば、うんうんって分かると思うんですけど、文字の見え方とか結構変わってるんですよね。

この画質向上は、単なるアップデートに留まらない。西田氏は、Googleとサムスンが共同開発するXRヘッドセット「Project Moohan(コード名)」の存在が影響していると分析する 。

5月のGoogle I/Oで実機に触れた西田氏は、そのクオリティを「はっきり言うとVision Proまんまです」と評価。Androidアプリが動作する点や、Googleのサービスが高度に空間対応している点を挙げつつ「絶対安くならないです。値段まだ出てないですけど、僕の予想では2500ドルぐらいだと思います」と価格帯に言及 。顔への圧迫感が少ない装着感の良さなど、Vision Proの強力なライバルになることを見越し、Appleは既存デバイスの強みである表示品質をさらに磨き込んでいるのではないかと推測した 。

Webと連携し、劇的に進化したアバター「ペルソナ」

visionOS 2では、Webの活用も大きく進化した。「空間モード」が搭載され、Webページ全体を空間内に表示できるようになったほか、Webページ内に埋め込まれた3Dモデル(USDZ形式)や空間写真・ビデオを、まるでそこにあるかのように立体的に表示できる 。

西田氏は「独自タグなんでWeb標準としてはどうかなと思うんですけど」と前置きしつつ 「Webへの対応っていうのは決して難しくない」と述べ、コンテンツ拡充の起爆剤になる可能性を示唆した。

そして、今回のアップデートで最も視覚的なインパクトが大きかったのが、アバター機能「ペルソナ」の劇的な進化だ 。

西田: 僕はもうデベロッパー版を見てるので分かるんですが、えげつないぐらいクオリティ高いです。自分、友達とかこうやってみると友達の顔が本当にそこにあるっていうのが明確に分かる。

肌の質感や表情が驚くほどリアルになり、これまでMetaなどが研究開発を進めてきたコーデックアバターのレベルを「まくっちゃった感じ」だと西田氏は語る 。この進化にはアバターデータの再スキャンが必要だが、その手軽さとは裏腹に、生成されるアバターは「俺、髪切ってこなきゃって思うぐらいちゃんとしてる」ほど本人に酷似するという。このリアルさは、Appleが目指すコミュニケーションのあり方を象徴していると言えるだろう。

WWDC:開発者に開かれるAIと新機能

デベロッパーに開かれたApple Intelligenceの可能性

AppleのAI機能「Apple Intelligence」は、ユーザー視点では大きな変化はなかったものの、開発者にとっては極めて重要なアップデートがあった。これまでAppleしかアクセスできなかったオンデバイスAIの機能が、APIフレームワークを通じて開発者に開放されたのである。

西田: これまで、Apple以外アクセスできなかったんですけど、デベロッパーがアクセスできるよっていうことですね。で、これはvisionOSも含みます。

これにより、アプリ内で画像認識や文脈理解といったAI機能を、クラウドを介さず、無料で利用できるようになった 。西田氏は例として、メールで送られてきた予定のスクリーンショットをAIに読み込ませると、内容を文脈から理解し「カレンダーへ」というボタンが表示される機能を挙げる。これはAIを活用した新しいアプリケーション、特にプライバシーを重視するアプリの開発を強力に後押しするものであり、visionOS向けの空間アプリ開発にも新たな可能性を拓くものだと西田氏は強調した。

空間に情報を配置するウィジェットとコントローラー対応

新機能としては「ウィジェット」の導入も大きい。iPhoneやiPadでおなじみのウィジェットがvisionOSにも実装され、空間内に時計や写真、ミュージックプレイヤーなどを自由に配置できるようになった。西田氏は、Appleのミュージックアプリのウィジェットが「えげつない」クオリティであると紹介。この機能は、部屋の形状を認識し、別の日に起動しても同じような場所にウィジェットを再配置してくれる賢さも備えているという。

さらに、外部コントローラーへの対応も発表された 。PlayStation VR2の専用コントローラーと、ロジテック(ロジクール)製の新たなペンデバイスに対応する。これらは主にゲーム開発者やB2B用途を想定したものであり「普段の操作はコントローラー使うと、むしろめんどくさいので、あんまり使われないと思います」と西田氏が述べるように、より高精度な操作が求められる場面での活用が期待される。

AWE:ARグラス競争と業界の最新動向

「XRはメインストリームになった」業界の現在地

続いて久保田氏が、ロサンゼルス近郊のロングビーチで開催されたAWEの模様を報告した。AWEは世界最大規模のXR業界カンファレンスであり、コミュニティイベントとしての側面も強い。

今年のAWEを象徴するメッセージは、主催者であるオリ・インバー氏が掲げた「XRはメインストリームになった」という言葉であった。

すんくぼ(久保田): 市場規模の話でいくと今年は300億ドルであるといったところ。日本円に換算すると、4.5兆くらいの規模感になってきたよねと。ここまで来たら、これはニッチマーケットではなくて、“通常の市場”として考えるべきであると。

このメッセージは、長年ニッチな領域で奮闘してきた開発者や関係者に対し、もはや自分たちの市場はマスマーケットに繋がっているのだという意識改革を促すアラートであったと久保田氏は分析する。そのメッセージを補強するように、基調講演では業界の各プレイヤーをコミカルに描いた「煽り動画」も上映され、会場を大いに沸かせた。

今年のもう一つの大きなテーマは、やはり「AIとXRの融合」であった。久保田氏はXRにとってAIが必要であると同時に、AIにとってもXRが必要不可欠な存在になりつつあるという認識が、業界全体の共通見解になっていたと語った。

Snapが本気で開発者を集めに来た理由

今年のAWEで最も存在感を示していた企業の一つがSnapである。同社は来年発売予定のARグラス「Spectacles」のプロモーションに注力し、会場の最も目立つ場所に巨大なブースを構え、CEOのエヴァン・シュピーゲル氏自らが登壇するなど、異例の力の入れようだった。

久保田氏は、普段はテックカンファレンスに姿を見せないシュピーゲル氏がAWEに登壇した理由を「開発者、クリエーターを集めたいから」に他ならないと指摘。Snapchatには既に40万人のARフィルタークリエイターがいるが、グラス向けの本格的なコンテンツを開発するには、より技術力の高い開発者の力が必要不可欠となるためである。

すんくぼ(久保田): 「(現状のコンテンツは)これグラスでやってどうすんの?」っていう出落ち感のあるものばっかりなんですよ。(中略)だから開発者をガーっと取りに来たのかな。

「Spectacles」は、一体型にこだわり、Qualcomm製のチップを左右に1つずつ搭載しているが、バッテリー持続時間は45分と短い。来年の一般発売に向けて小型軽量化を進めるとしているが 、日本での展開は未定であり、市場が分断されてしまっているのが残念な点だと久保田氏は述べた。

「メガネはメガネでなければならない」グラス型デバイスの進化

AWEでは、様々なAR/AIグラスが出展されたが、その中でも「淘汰が始まっている」と久保田氏は指摘する。そんな中、評価が高かったのがBrilliant Labsの「G1」だ。重量わずか40gで、マイクもスピーカーも削ぎ落とし、通知機能に特化したこのデバイスは、「グラスを1日中身につける時代」を見据えた明確な思想が感じられるという。

この「メガネはメガネであるべき」という思想は、要素技術メーカーにも浸透している。スイスのCrealは、焦点距離を自然に再現する「ライトフィールドディスプレイ」の小型化を進める一方、次の目標として「1000nit」という輝度を掲げた。ARグラスのレンズは構造上暗くなりがちだが、それを克服し、室内でも違和感なく使える透明度を実現することが、一日中装着するための鍵だと考えているのだ。

他にも、日本のスタートアップCellidが台湾のEMS大手Pegatronと組んで開発したウェーブガイド搭載グラスや、サムスンディスプレイが展示したXRデバイス向けの超高輝度・高解像度マイクロOLED など、ARグラスの未来を支える技術が数多く展示されていた。

AWE:プラットフォームとIPビジネスの今

熱狂をビジネスに繋げる「Gorilla Tag」のIP戦略

AWEでは、ハードウェアだけでなく、プラットフォームやコンテンツビジネスの最新動向も共有された。特に注目を集めたのが、世界で最も売れているVRゲームの一つ「Gorilla Tag」の事例である。

DAU(デイリーアクティブユーザー)が100万人を超え、熱狂的なファンコミュニティを形成しているこのゲームは、もはや単なるゲームではなく、1個の巨大なIPと化している。開発元のAnother Axiom社は、ファンコミュニティの育成方法や、ぬいぐるみなどのグッズ展開、インフルエンサーとの連携といったIP化のノウハウを、AWEの講演で惜しげもなく公開していた。

ついに動き出したVRChatのクリエイターエコノミー

これまで表舞台にあまり出てこなかったVRChatも、AWEにブースを出展し、業界を驚かせた。その目的は、VRChat内でアバターやアイテムを販売できる「クリエイターエコノミー」の本格始動をアピールするためであった 。すでにRobloxなどで実績のあるクリエイターが参入を始めており、VRChatという巨大プラットフォーム内に新たな経済圏が生まれようとしている。

Nianticが描く現実世界とデジタルの融合

「Pokémon GO」で知られるNianticは、社名を「Niantic Spatial」と改め、ARプラットフォーム事業に注力している。AWEでは、同社のVPS(Visual Positioning System)技術とSnapの「Spectacles」を組み合わせ、屋外でARキャラクターが正確に表示されるデモを披露 。強い日差しの下でも問題なく体験できたことから、デバイスの屋外性能の高さと、Nianticの技術力が証明された。

彼らが目指すのは、現実世界をスキャンして構築した3Dマップ「ジオスペシャルモデル」を基盤に、現実とデジタルが融合した新たな体験を創造することである。

WWDCとAWEを通じて見えてきたのは、AIとの融合によってXR技術が新たなフェーズへと突入し、空間コンピューティングがより身近なものになろうとしている現実だ。ハードウェアの進化、開発環境の整備、そしてプラットフォーム上でのビジネス……これらが一体となって、私たちの生活や働き方を根底から変える大きなうねりを生み出している。

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