2025年3月に開催されたGDC 2025には、「大きな挑戦、大きな成功:VR/MRビジネスの収益化戦略」というパネルディスカッションがあった。Meta Quest向けに人気コンテンツを送り出しているスタジオのキーパーソンが集まり、VR/MRコンテンツをどう収益化しているのか、その秘訣を語り合った。
登壇したのは、「Gorilla Tag」で知られるAnother Axiom、「The Thrill of the Fight」を展開するHalfbrick Studiosなど、実際にヒットを生み出したチームのメンバーたちだ。マネタイズやチーム作り、さらにコミュニティ運営など、ビジネスを成功させるためのリアルなノウハウが共有された。
VR/MR市場が急速に変わる中で、開発チームはユーザーの変化にどのように対応しているのか。ローンチ前後で実際に役立つマーケティングや収益モデルについても、現場ならではの具体的な事例が紹介された。本稿ではその内容を詳しく伝えていく。

変化するVR/MR市場と成功スタジオたち
セッションの冒頭、モデレーターを務めたMetaのキンバリー・アンガー氏は、現在のVR/MR市場の変化について言及した 。特に注目すべきは「MRネイティブ」と呼ばれる新しいユーザー層の出現である 。
キンバリー氏によれば、彼らは「ヘッドセットを装着することに抵抗が少ない人々」であり、「彼らが望むものはヘッドセットの中にあり、そのためヘッドセットを装着します」 。従来のユーザーのように乗り物酔いや装着感をあまり気にせず 、友人がいるヘッドセット内を自らの居場所と捉えているという 。これは、VRの価値を説得する必要があった時代から、VRと共に育つ世代への移行を示唆しており、「携帯電話と共に育った最初の世代とほぼ同じ」状況であると述べた 。
このようなユーザーの変化は、開発者にとって大きなチャンスであると同時に、新たな戦略が求められることを意味する。キンバリー氏は、「楽しいことを続けたければ、お金を払い続ける必要があり」「私たちの仕事は、ゲームをこれらのプレイヤーに届け、彼らが望むものを提供する方法を見つけること」だと語り、セッションのテーマへと繋げた 。
このパネルには、Meta Questプラットフォームで成功を収めているスタジオから4名のキーパーソンが登壇した。
- スコット・オルブライト (Scott Albright): Combat Waffle Studios CEO兼クリエイティブディレクター 。VRFPS「Ghosts of Tabor」の開発で知られる。(「Ghosts of Tabor」は、記事掲載時点でQuestストアでの人気ランキングで32位、Quest向けコンテンツのオールタイムランキングで30位。)
- デイビッド・イー (David Yee): Another Axiom COO 。大ヒット作「Gorilla Tag」の開発元であり、セッション時点の数週間前に新作「Orion Drift」を早期アクセスでローンチ 。「Orion Drift」は「1シャードあたり約75人のプレイヤーがライブで走っている」状況だという 。(「Gorilla Tag」は、記事掲載時点でQuestストアでの人気ランキングで1位)
- シャニール・デオ (Shainiel Deo): Halfbrick Studios CEO 。大ヒットしたボクシングVRゲーム「The Thrill of the Fight」、人気モバイルゲームのVR版「Fruit Ninja VR」の開発元。2作目となる「The Thrill of the Fight 2」を早期アクセスで展開中 。(Quest向けコンテンツのオールタイムランキングで「Thrill of the Fight」は5位、「Thrill of the Fight 2」は28位、「Fruit Ninja VR」は35位。)
- タラ・ニューエン (Tera Nguyen): Wooster Games/Spatial プロダクトディレクター 。「Animal Company」はセッション時点でMeta Questの人気・収益トップクラスのゲームであり、「過去9ヶ月間、マーケティング費用ゼロ」でそれを達成した 。同社はSpatial.ioのIPであり、元々はエンタープライズ向けプラットフォームからスタートし、UGCゲーミングプラットフォームへと進化した経緯を持つ 。(「Animal Company」は、記事掲載時点でQuestストアでの人気ランキングで2位)
「事象初期に知っておきたかった」こと
Wooster Games/Spatialのニューエン氏は、Spatial社として展開していた事業初期の学びとして「エンタープライズ向けにVR/MRのSaaSを販売することは非常に困難」だった点を挙げた 。導入の遅さ、支払い意欲の低さ、日常利用の難しさから、「営業サイクルは6ヶ月から12ヶ月続くこともあり、持続可能なビジネスを構築するのがいかに難しかったか」と振り返る 。
https://www.youtube.com/watch?v=7kNzw8Pkw-w
(Spatialが最初に取り組んでいたデバイス横断でVRとMRをクロスさせて会議を実現するツール)
その経験から学んだ重要な点として、「α世代がVRの新しいオーディエンスである」ことを挙げた 。若い世代はヘッドセットへの抵抗感が少なく、新しい技術をゲームのために容易に受け入れる 。また、親が子供のために新しいデバイスやコンテンツに投資する意欲が高い点も特徴であるとした 。
Another Axiomのイー氏は、ビジネスの成長に伴うメンバー採用のタイミングが重要だったと語る。「第一原理に戻って考え」「オーディエンスが誰であるかを知り、彼らがどのように支出するかを知る必要があり」「それに対応する損益計算書(P&L)とビジネスモデルを構築する必要がある」と述べ、事業計画に基づいた判断の重要性を説いた 。
https://www.youtube.com/watch?v=y3bR3s546CU
特に現在の業界状況を踏まえ、「誰かをオンボーディングしてフルタイムのスタッフとして迎えるコストと、外部の誰かと協力する場合のコストを比較検討する必要がある」と指摘 。コアチームの規模を把握し、外部パートナーとの連携(アウトソース)も視野に入れながら、「絶対に不可欠な採用であるべき」と強調した 。
Combat Waffle Studiosのオルブライト氏も、「現在3つのタイトルに取り組んでおり、今後3〜4年でさらに2つのタイトルがパイプラインに加わる」状況で採用を進めていると語り、採用計画が重要だとするイー氏の意見に同意を示した 。
そして、オルブライト氏は、採用における失敗談として、「以前にMeta Quest向けにVRゲームを構築したことがあるからといって、必ずしも優れたVR開発者であるとは限らない」点を挙げた 。「私たちはそれを何度か痛い目に遭って学びました」と語り、GitHubやコードベースの確認不足が、後のリファクタリング作業(AIシステム等)とそれに伴う時間・コストのロスに繋がったと話しました 。
「お金と時間を節約するためには、できる限り全員を吟味してください」「彼らにコードベースを見せてもらい、Unreal EngineやUnityのブループリントを見せてもらいましょう」と、採用候補者のスキルを具体的に確認することの重要性を訴えた 。
https://www.youtube.com/watch?v=OdSJ3CIoJVU
イー氏も、「あなたのブランドはあなた独自のものであり、XR/VRには様々なフレーバーがある」と補足 。単に「VR経験者」というだけでなく、「彼らが実際に何をしたのかを確認」し、自社のVRに対する考え方(Another Axiomの場合はメニューやレーザーポインターを使わないのでUI/UXに関する経験は不要となる等 )と候補者の経験が合致するかを見極める必要があると語った 。
チーム構成に関して、専門性と多才性のどちらを優先するかも論点となる。Halfbrick Studiosのデオ氏は、「ジェネラリストを雇うこと」が有効なアプローチだったと語る 。「多才な開発者を雇うことで、彼らを様々な分野に異動させることができた」と語る。「スペシャリストは特定の役割を果たしますが、通常はジェネラリストほど適応性がありません」とその利点を説明した 。
一方、ニューエン氏も、「バックグラウンドから専門知識を持つ人々を雇うことは、私たちができるだけ早く学ぶために非常に重要」としつつも、「そのプレイブックを今日の時代にどれだけ適応させることができるかを戦略的に考える必要もある」と指摘 。技術やユーザーの嗜好が急速に変化する中で、過去の経験に固執しない柔軟性がメンバーにも求められるとした。
収益化への道筋:多様化するマネタイズモデル
続いて本題であるマネタイズの話へ。Combat Waffle Studiosのオルブライト氏は、「Ghosts of Tabor」のマネタイズについて、VRではないが世界的に人気のFPS「Escape from Tarkov」のモデル(アプリ内購入、異なるゲームエディション)を参考にしていると話した。実際、「Ghosts of Tabor」は“VR版タルコフ”とも呼ばれることがある。同時に、「Animal Company」や「Gorilla Tag」の成功事例は分析しており、「彼らが現在行っていることは、驚くほどうまく機能するマネタイズモデルであり、Taborのモデルはまだ通用しているものの、すぐに古いものになると思う」と、新しい潮流にも関心を持っており、将来的には異なるマネタイズシステムを模索する可能性を仄めかした。
Halfbrick Studiosのデオ氏は、「Thrill of the Fight 2」において、早期アクセスで価格を抑えつつプレイヤー数を確保し、開発資金を得る戦略をとったと説明 。現在は、「プレイヤーが実際にアプリ内購入にどれくらい支出しているか、そのアタッチメントレートを把握しようとしている段階」であり、その結果が正式リリース(1.0)時の価格設定に影響すると述べた 。同氏は「私たちにとっては、実験が重要」であり、他の成功事例から学びながら最適なモデルを模索していると話した 。
https://www.youtube.com/watch?v=yJevyMqgGKg
Another Axiomのイー氏は、「Gorilla Tag」のマネタイズモデルの起源について、「当初は完全無料だったが、サーバーが高価で、もはやそれらを賄えなくなったから」であり、「何かに対して課金を開始しなければならなかった」という裏話を明かした 。その上で、開発者へのアドバイスとして「マネタイズをテストすること」の重要性を強調 。特にApp Labがなくなった現状(セッション当時)に触れつつ、「オーディエンスと協力し」「何かが定着し、維持されていることを確認し」「そして、マネタイズをテストしてください」と段階的なアプローチを推奨した 。
Wooster Games/Spatialのニューエン氏は、「Animal Company」のマネタイズについて、開発前に「Gorilla Tag」や「Among Us」などの成功事例を分析し、多くのインスピレーションを得たと語った 。「プレイヤーと話し、何が彼らを興奮させるかを理解し、それを反映しました」と述べ、ユーザーの声を聞きながら、、実験を繰り返して最適な戦略を見つけ出したプロセスを説明した 。ここでも、「オーディエンスを理解すること」、「成功しているゲームからインスピレーションを得て、その上に反復していくこと」の重要性が強調された 。
https://www.youtube.com/watch?v=xSnTEPnUSco
ローンチ前と後、どちらが重要?コミュニティ主導のマーケティング戦略
ローンチ後のストアでのプレゼンス維持について、オルブライト氏は「Ghosts of Tabor」では「少なくとも四半期に一度は新しいDLC(ダウンロードコンテンツ)をリリース」しており、「それらは各四半期の収益の約4分の1を占めています」と、DLCの重要性を語った 。パブリッシャーとの連携にも触れつつ、「新しいDLCをリリースすることで、ユーザーは継続的にゲームをプレイしており、DLCこそが私たちをMeta Questのプラットフォームで新鮮さ(アップデートすることで露出し続けること)を保つものだと感じています」と述べた 。
https://www.youtube.com/watch?v=z9BYCpgx_3k
一方、イー氏はローンチ前にオーディエンスを獲得すべきという視点を提示した。彼が重要視するのは、「開発中にオーディエンスを集め、その集めたオーディエンスに向けてローンチすること」であり、PDP(製品詳細ページ)の更新よりも、オーディエンスを早期に発見してアクティブに保つこと、Discordやソーシャルメディアなどオーディエンスがいる場所へ行き、開発しているタイトルについて伝えること、が認知度向上に繋がると主張した 。
広告費ゼロ成長の鍵:TikTokとクリエイター探し
イー氏は、「Gorilla Tag」が「ミームに達した」ことで有料マーケティングをほとんど行っていない現状に触れ、「現在、#gorillatag のハッシュタグでTikTokの視聴回数は10億回を超えている」と驚異的なオーガニックリーチを明かした 。彼のアドバイスは、「まず第一に、オーディエンスがどこにいるかを見つけることであり、α世代であれば彼らはTikTokとYouTubeショートにいる」と指摘した 。

さらに重要な点として、「SNSにおいて独自のクリエイターエコシステムを構築すること」を挙げた 。一時的な関係で終わる可能性のあるインフルエンサーに有料で依頼するよりも、「あなたのゲームを自分から見つけて購入して、動画コンテンツを作成し、自分自身のオーディエンスも集めたいと考えている人々と提携する方がはるかに良い」と力説した 。
オルブライト氏もこの点に同意し、「Ghosts of Tabor」では「早期アクセスのときには全ての大物クリエイターを除外し、フォロワー数に関わらず」小規模なクリエイターにアクセスを提供した経験を語った 。「これらの人々はあなたのタイトルについて1日に10本のビデオを作成するからです」とその理由を説明し、同スタジオも「マーケティングにお金を払ったことは一度もない」と述べた 。
ニューエン氏は、「Animal Company」の成功要因として、「VRでプレイするのが楽しいだけでなく、ソーシャルメディアで見るのも楽しいゲーム」を作るという設計思想を挙げた 。α世代がコンテンツの消費者であると同時に作成者でもある点に着目し 、「人々が自然にコンテンツを作成し、友達と共有したくなるような、ゲーム内の瞬間をどのように作成できるか」を考えたと語る 。
さらに、「コンテンツクリエイターが毎週新しいビデオを作成するための新しいものを与えられるように、週次リリースのケイデンスを採用したことが、週次リテンションを高める上での成功の鍵」だったと述べた 。同スタジオもローンチ前からDiscordでコミュニティ構築を開始し、現在ではTikTokで5億回のオーガニックビューを獲得、クリエイターの多くはコミュニティから生まれた熱心なユーザーであるという 。VRゲームを題材にした動画で人気のクリエイターjmancurlyですら、「Animal Company」を気に入り自発的に動画を作成した例として挙げられた 。
デオ氏は、「動画クリエイターが簡単にコンテンツを作成できるようにするためのツール開発に投資した」事例を紹介 。三人称視点でVR内の試合を撮影できる「スペクテイターアプリ」を作成したことで、「コミュニティがトーナメントなどを開催するのに本当に役立ちました」と、開発者側からの支援がコミュニティ活性化に繋がったと語った 。
持続可能なコンテンツビジネスを築くための視点と準備
最後に、キンバリー氏から「ローンチ後に開発者が計画することをお勧めする、財務的またはタイムライン上のランウェイ(期間)の長さはどれくらいか?」という質問が投げかけられた 。これに対し、デオ氏は「できるだけ長く。私の見解では、最低でも6ヶ月」と回答 。他の登壇者も同意し、ローンチ後も事業を継続・発展させるためには、少なくとも半年程度の準備期間を見ておく必要があるという認識が示された。
本セッションを通じて、VR/MRコンテンツでビジネスを成功させるためには、単に良いゲームを作るだけでなく、変化する市場とユーザーを理解し、適切なマネタイズモデルを選択・実験し、チームを戦略的に構築・成長させ、そしてコミュニティと密接に関わりながらオーガニックな成長を促進していく、多角的な視点と継続的な努力が不可欠となる。
30分と短いセッションだったが、VRゲームのマネタイズに頭を悩ませる経営者や開発者にとって、参考になるエピソードが満載のセッションとなった。
