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VTuber 2018.10.21

割り切れないアイドルグループ「22/7」は“バーチャルタレント”の先駆者となるか?

バーチャルYouTuberの世界も、YouTube以外のプラットフォームが増え、リアルイベントやテレビなど活動の幅も拡大し、「VTuber」という言葉(略称)の由来が揺らぎつつある時期に入ってきました。

そんな中、「バーチャルタレント支援プロジェクト」を称する「upd8」は、早い時期から「バーチャルタレント」という呼び方を押し出しています。

仮想世界で生きる才能(タレント)が活動の幅を広げて行けるよう、必要なノウハウの提供からさらなる躍進のための展開まで、リアル・バーチャルに関わらない支援をおこなっていきます。
(引用元:upd8 公式webサイト

他にも、VRアイドルグループ「えのぐ」が所属する岩本町芸能社は「VRタレント」という肩書きで呼んでもらおうとしているようです。

英語の「talent」の原義である「才能」とは別に、一般には「(プロの)芸能人」というニュアンスで「タレント」は使われています。そのためアマチュアとして活動したいVTuber達からはちょっとズレるかもしれない用語なのですが、現在の枠に収まらない、VTuberの「未来」を見据えた言葉であるのは確かでしょう。
(個人的には、「バーチャルタレント」と「VTuber」は「VT」という略称で両方を表せる点がよいと感じています。)

ただ、upd8の支援を受けているVTuber達も、基本的にはYouTubeを活動の主軸としています。それはおそらく今後も続いていくでしょうから、私達一般のファンにとって「バーチャルタレント」という概念がまだピンと来ないのが現状という気もしています。

そこで今回は、「バーチャルタレント」という言葉を今考える上で、重要かもしれないグループを紹介したいと思います。それが「22/7」(ナナブンノニジュウニ)という、割り切れない数を名にしたアイドル達です。

VTuberとしての22/7

まずは、メンバーの1人でもある藤間桜がVTuberデビューしていることを知っている人は多いのではないでしょうか?

2018年6月1日に個人チャンネルを開設。アメリカからの帰国子女で二ヶ国語を話せることから、日本向けの動画だけでなく、英語圏に向けた動画の投稿も行っているのが特徴です。

フルボディトラッキングの3Dでよく動き、表情も自然で豊かなのが見どころ。

さらに9月11日には同期メンバーである河野都」「佐藤麗華」「戸田ジュンに加え、両足以外が卵というなんだか謎の多いキャラクター「たまご」もYouTubeにチャンネルを開設し、それぞれ活動を始めています。

バーチャルタレントとしての22/7と、冠番組「22/7 計算中」

公式には「デジタル声優アイドル」と称されるアイドルグループ「22/7」は、2016年12月24日に11人で結成されました。これはバーチャルYouTuberの元祖「キズナアイ」がYouTubeで活動しはじめてから約一ヶ月後のことです。

アイドルプロデュースの企画が発表されたのは2016年10月ですから、つまり「バーチャルYouTuber」の影も形もない頃に考えられたグループだということになります。また、2017年9月にデビューシングルがリリースされるまで「SHOWROOM」を用いて声優お披露目などの配信を行っていました。

「デジタル声優アイドル」という公式名称ですが、おそらく当初イメージされていたのは「ラブライブ!」や「Wake Up, Girls!」のような、二次元キャラクター+リアル声優で展開される2.5次元アイドルの企画だったのでしょう。そこに「乃木坂46」や「欅坂46」のソニー・ミュージックと秋元康のプロデュースによって、より本格的なアイドル要素を打ち出そうとしていたのだと思います。

現在はシングルを3枚出している彼女達ですが、3rdシングル「理解者」のMVは乃木坂風のお嬢様感のある制服と、欅坂に近い力強い振り付けの組み合わせが特徴でしょうか。

2018年4月の2ndシングルまでは、MVの他、堀口悠紀子が作画監督を務めるショートアニメのシリーズ、声優自身のラジオ番組、そしてミニイベントのライブなどが主な露出になっていました。


そのミニライブは「3DCGのアイドルによるステージ」「リアルの声優によるステージ」の二部構成が主で、アニメ化の発表も行うなど、やはり「アニメ」を主軸とした2.5次元アイドルの展開を想像させています(22/7の初ライブレポート)。

つまり、アニメによって「キャラクター」としてのアイドルを描写しつつ、その声優は声優としてパフォーマンスするという、「ラブライブ」や「アイドルマスター」シリーズでも見られる形式ですね。

彼女達はおそらく……というより当然と言えるのですが、「VTuberブーム」を予想してスタートできるグループではなかったはずでした。

正直に言えば筆者も「企画を考えるのが早すぎたのでは?」「時代に対応できないのでは?」という印象を抱いていたくらいです。これからの時代は「ラブライブ」的な2.5次元アイドルのビジネスモデルを踏襲するだけでは済まされず、やがて「バーチャルアイドル」の時代が来るはずだろう……、と。

そう感じていたところに藤間桜がVTuberデビュー。しかし8名のキャラクターがいる中、1人だけではイレギュラーな宣伝の一環、という印象も受けていました。

そんな企画自体に対する曖昧なイメージが、2018年7月に始まった冠番組「22/7 計算中」の第1回が放送された時に一変します。彼女達はVTuberブームに順応できていないどころか、「バーチャルタレント」と呼べるその先の姿を見せていたからです。

司会に2人の芸人(お笑いコンビの三四郎)を据え、スタジオに並ぶアイドル達に様々なミニ企画を与えるという構図は、まさにリアルのアイドル番組そのものです。
……そのアイドル達が3DCGモデルのキャラクターであり、実写の司会者とクロマキー合成されているという事実を除けば。

その1人である藤間桜は「VTuberの藤間桜」と全く変わらない個性のアイドルであって、他のメンバーも彼女と同じように活き活きと動き、アドリブ全開でトークに参加します。

そしてアニメ化よりも早く始まったこの番組は、「22/7というグループの個性」を決定付けるものでもあるでしょう。つまり「物語としてのアニメ」からキャラクター性を作り上げるのではなく、声優自身の演技や「素のリアクション」がキャラクターの性格に繋がるということです。それは、とてもVTuber的なキャラクターに近い在り方です。

ここまで「VTuberブームを予想できたはずがない」と強調してきましたが、この番組が初めから企画にあったのか、それとも「ブームに対応して」始めたものなのか、は気になるところです。

なにせ、番組の第1回では「8人のメンバー中、3Dモデルで動けるのは半分の4人だけ」で、残りの4人は立ち絵と声のみの出演。「回を追うごとに動けるメンバーが徐々に増えていく」という、急拵え感も漂うスタートを切っていたくらいですから。

しかし、実は「計算中」以前からも「VTuberらしさ」との近さを22/7の活動から再発見することができます。まず、MVの映像は「アニメーターが手付けした3DCGアニメ」ではなく、声優自身がスタジオでモーションキャプチャーして作られています。

ライブにおける「3DCGのステージ」も同様なのですが、目を引くのはVR技術において一般的な「VRHMD」と「トラッカー」の組み合わせでトラッキングするのではなく、まるでゲーム会社が使うようなモーションキャプチャースーツを着て撮影している点。

そこだけを見るとVRというより、3Dのゲームやアニメの技術を参考にしていると思われるのですが、このスーツをそのまま利用して「計算中」の撮影も行われています。
(HMDやコントローラーもないのに表情が自然に変わるようすは、一般的なVRのシステムを見慣れていると、かえって奇妙な驚きも感じます。)

そして、2018年2月の2ndシングル発売記念イベントを振り返ると、すでに「キャラクターと声優のトークを一致させる」試みが始まっていたこともわかります。

楽曲については追って触れるとして、バーチャルライブで気になった点は「メンバーのMCパート」である。
〔中略〕
正直、最初は観客から、このMCに反応して良いものかどうか、事前に収録されたものなのか、という迷いが見て取れた。

しかし、メンバーがその観客の戸惑いや反応に気づき、不自然にならないように客席からの声をリアルタイムで拾うことで上手く理解させるという機転を効かせたことで、会場は徐々に熱気を取り戻した。
(引用元:Real Sound

当時はまだ22/7を追うファン達も、「リアルタイムで声優がキャラクターになる」という展開に驚いていた様子が読み取れます。

実際のところ、「計算中」で見ることのできるアイドル達の個性には、公式サイトのキャラクター紹介とはギャップのある部分も生まれています。「関西出身(河野都)」「優等生の生徒会長(佐藤麗華)」「知的でクール(丸山あかね)」といったキャラ属性はあるにしても、かなり声優の演じ方に任されているように見えます。特に「ツンデレ・お嬢様」という属性だったらしい戸田ジュンは、かなり子どもっぽくて自由奔放な性格を番組で見せているのですが、今のその姿がもう「戸田ジュン」なのだと思えてくるでしょう。

さらに「計算中」で注目したいのは、「ロケ撮影した収録映像」を中心にした番組作りです。アイドル番組のお約束とも言える「食レポ」「絶叫マシーン」「お化け屋敷」「滝行」などの体当たりロケを行っていくのですが、それは声優としてではなく「22/7のアイドル」としてのロケなのです。

一体どうしているのかというと、「目線カメラ」を頭に着けた声優が生身で取材して、そのカメラ視点を収録映像にするんですね。

実写を組み合わせたVTuberというと「甲賀流忍者ぽんぽこ」や「おめがシスターズ」「オッドアイ」「日雇礼子」など多く前例がありますし、「バーチャルなのに生身の手が映り込む」といったゆるいテイストにも馴染みがあるでしょう。

そこで「計算中」は目線カメラという、テレビのバラエティ番組では定番の機材を使って「主観視点による体験ロケ」を実現した点に新鮮さがありました。
生身の手が映り込むのもそうですが、キャラクターと同じデザインの制服を着ているので、屈んだ時にスカートの裾がアップになったりするのも面白いところですね。

遊園地で絶叫マシーンに乗るだけでなく、魚を捕まえて捌いたり、ショッピングや観光をしたり、海外のイベントレポートに出掛けたりなど……。

また、声優がキャラクターを演じているというメタな構造も、今見るとそれほど違和感がないと気付いたりもします。VTuberとは、キズナアイのように完全なバーチャルの存在というだけでなく、「自分ではない誰かになれる」という可能性を開くものでもあり、VR世界のアバターというのも元々そうした夢を叶えるためのものでした。

特に「計算中」を見ていてその動きを楽しめるのは、メンバー内で一番低身長な戸田ジュンです。逆にその声優である「海乃るり」は生身のメンバー内で最も高身長の女子(167cm)であり、体格的な落差が大きかったキャスティングなんですね。

2017年9月のインタビューで海乃るりは、「背が高いのって、それはそれでコンプレックスだったりするんですよ」と語りつつ、モーションキャプチャーをしている時に「今、私は背が低いんだ」と思えたことが嬉しかった、二次元上とはいえ願望が叶った、と表現していました。

「計算中」のメイキングでは、リアルの海乃るり用の椅子(上の画像1枚目の右端)だけ座席の高さを上げることで、長身の彼女の両脚が床から浮くようにしてあるのがわかります。
3DCGの映像では全員同じサイズの椅子になりますから、つまりモーションキャプチャーの縮尺をCG空間に合わせたら「椅子に座ると爪先が床に届かないほど小柄な女の子」だという姿が強調されるんですね。

戸田ジュンは見た目のイメージ通り、幼くて身振りの大きい動きをしがちなのですが、他のメンバーが両脚を揃えて座っている中、1人だけパタパタと足を泳がせながら座っているのがとても可愛らしいです。それは「身長の高い人でも低身長になれる」という、VR体験の可能性を実感できる映像でもあって、本人もすごく楽しそうなのが伝わってくるのがよいですね。

バーチャルタレントとVTuberはどこに向かうのか?

2018年の夏以降、企業型VTuberのテレビ進出が目立つようになってきました。

キズナアイの「キズナアイのばん組」(前身である「キズナアイのBEATスクランブル」が2018年4月~)、電脳少女シロの「サイキ道」(同年4月~)、KMNZの「VIRTUAL BUZZ TALK!」(同年7月~)、にじさんじプロジェクトの「にじさんじのくじじゅうじ」(同年10月~)……。

けしてテレビがネットよりも大きな舞台だとはかぎらないのですが、VTuberという枠を超えた活動を象徴した場だとは言えるでしょう。
「プロ」と「アマチュア」の境目が曖昧になりつつある時代ですが、「タレント」という言葉のイメージが、「テレビ」と強く結びついてしまっているのも現状でしょう。

やがてネット(もしくはVR)とテレビの価値が逆転するような日が来るとしても、今は「テレビ出演」にそれだけのステータスがあり、「バーチャルタレント」の通過点として見ることができるかもしれません。そして「いかにもアイドル番組らしい番組作り」を実現している「22/7 計算中」は、その最先端を他のVTuberに示していると言えます。

また、逆に22/7の藤間桜と河野都が「バーチャルハロウィン in cluster」というVRイベントに出演することが先日告知され、まさしくVTuberである「田中ヒメ」「鈴木ヒナ」との共演(コラボ)もついに実現します。

「デジタル声優アイドル」なのか。「VTuber」なのか。どっちつかずな存在でもあった22/7のメンバーが、堂々とVTuber界に仲間入りするイベントにもなるでしょう。

それは、ますます「バーチャルタレント」と「VTuber」の垣根が消え、共通の略称「VT」に近付いていく過程なのだと言えるかもしれません。これからも、この「才能」達を見守っていきましょう。


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