2019年6月21日、台湾の台北市でVTuberの国際フォーラム「VTuber 國際論壇」が開催されました。台湾政府の経済部工業局と民間3団体が合同で主催したイベントで、企業の担当者や一般のVTuberファンなど、100名ほどが参加。各台湾VTuber団体からのプレゼンテーションや台湾政府と民間団体との事業提携に関する調印式が行われました。
そもそも台湾では、VTuber文化がどのように受け入れられ、今後どのように発展していくのでしょうか? この記事では、登壇者たちのスピーチを元に、台湾で育まれているVTuber文化について紹介します。
1.政府代表が語る台湾のVTuber文化とは?
台湾のVTuber文化は現在どのような位置にあるのでしょうか? オープニングスピーチに登壇した台湾政府 経済部 工業局 電子情報技術組 楊志清 代表と台湾VTuber協会 理事長 陳封平氏は以下のように語りました。
楊志清氏
「日本のVTuber文化は大変盛り上がっていますが、台湾はまだまだ発展途上の段階です。私たちは、VTuberデザインにおけるベンチマークとして、日本のイラストレーションの技術を踏襲するのが適当だと考えています。政府の力が必要な場合は、サポートを約束します」
陳封平氏
「現在の日本のコンテンツ状況を学びつつ、台湾独自の文化を作り上げていきたいです。まずは、東南アジアから台湾に移住してきた人たちに向けたコンテンツの制作に力を注ぎたいと考えています」
2.台湾VTuber関係者たちが語る“バーチャルタレントの仕事”
台湾のVTuberたちは日本と同様に、企業のプロモーション活動に力を入れているとのこと。台湾VTuber「フニー(Hoonie)」プロデューサーである許朝欽氏は次のように語ります。
許朝欽氏
「現在、『Hoonie friends』チャンネルは米ヤフーからの支援で、さまざまなプロジェクトに挑戦しています。例えば、電気通信事業者『verizon』のプロモーションです。5Gのサービスを広めるのに、VTuberというアバターは非常に効果的な手段となりました。また、360度動画やVR動画を制作する『RYOT』の宣伝活動も行っています。
また、フニーにはオリスという名前の相棒VTuberもいます。オリスはフニーの普段の活動とはターゲットが異なるため、別の動きも必要です。そのため『ニコニコ超会議2019』参加や台湾のポータルメディア『バハムート』のイベント出演、高雄市のバーチャル観光大使などにも手を広げています。今後は、海外VTuberとのコラボレーションも大切にしていきたいですね」
一方、リアルタイムモーションキャプチャー技術を開発している「GranDen 狂点ソフトウェア開発株式会社」の賴錦德社長は、台湾で展開されている無人店舗に着目しているとのこと。
賴錦德氏
「無人店舗には『“温かい心”の無い店は顧客の購買率を低下させる可能性がある』という問題があります。そこで、改善策として提案されたのが“バーチャル店員”の導入です。株式会社ローソンとSHOWROOM株式会社との共同で『バーチャルクルー(店員)』を開発しました。今後、無人店舗の普及が進めば、バーチャルクルーとのコミュニケーションがより進化すると考えています(※1)」
さらに「台湾VTuber協会」の陳理事長は、国内のVTuber活動の展望について、次のように指摘します。
陳封平氏
「(VTuberは)売れてこそビジネスとして成り立つため、IP(知的財産)やコンテンツに力を注ぎたいと考えています。私たちは巨大な中国語マーケットへアプローチできる上、台湾政府からの支援という強みがあるので、活かしていきたいですね」
スピーチプログラムでは、「愛迪斯科技(Axis 3D Technology)」の製品開発マネージャー・蔡盛財氏が、3Dアニメーション制作ソフト「iclone」を紹介する一幕もあり、台湾がアニメーション技術にも深い関心を寄せていると分かりました。
(※1 編集注・日本国内ではVPCなども小売業におけるVTuber活用を模索している)
3.日本企業から見た、VTuber文化の広がり
フォーラムには、日本のVTuber関連企業も参加していました。ステージに登壇したのは、VRコンテンツを開発する「株式会社リンクトブレイン」社長の清水 弘一氏と、3DCGアニメーションを制作する「株式会社ロジックボックスピクチャーズ」の鈴木 鏡規謙代表取締役の2名。日本でのVTuberの立ち位置やキズナアイさんが人気となったきっかけを語りました。
清水 弘一氏
「日本では、音楽クリエイターや気象予報士、タレントなど、さまざまなスキルを持つVTuberたちが第一線で活躍しています。さらに、物理空間にあるモノをデータとして取得し、仮想空間でシミュレーションするデジタルツインという概念も定着しつつあり、現実では難しいこともVTuberなら実現可能です。
もともと日本と台湾のゲーム業界は協力関係にあり、弊社は台湾政府100%出資団体の『財団法人資訊工業策進会』と、日台ゲーム業界の相互活性化に向けた覚書を締結しました。今後、私たちは台湾のハードウェアと自社のソフトウェアを結合するようなラインを作ろうと考えています。人工知能のVR/MRビジネスは、夢のある未来のひとつといえるでしょう」
鈴木 鏡規謙氏
「キズナアイさんが人気になった要因は3つあると考えています。1つ目は『Tda式』と呼ばれる3Dモデリング。2つ目は『KiLA』というモーションキャプチャー技術。そして3つ目が、ニコニコ動画のようなユーザー起点の二次創作です。
現在、一般の方がVTuberになるためには、MMDやUnity、UNREAL、KINECT、NEURON、VIVEHTCなどさまざまなハードとソフトが必要です。しかし、私たちは場所や端末に依存せずに、VTuberとして配信収録できる『VLMstudio』というシステムを提供しています。このシステムを発展させれば、将来的にスマホだけでデビュー可能になるでしょう。今後はVTuber界隈がAI技術と合流して、より発展していくのを期待しています」
また、イベント中は実際にVTuberコンテンツを創作する「VTuberハッカソン」が行われ、台湾のバーチャルな創作文化の広がりを体感できました。
4.台湾AR/VRマーケットの未来像
当日は、台湾政府と民間3団体による事業提携の調印式が行われました。
台湾のAR/VRマーケットがより発展していくためには、HTCのような世界規模で活躍する企業を育成する必要がありますが、これまでスタートアップへの出資は他の先端産業に向けられる傾向にありました。
今回、台湾政府と民間団体の事業提携が決定したことで、この状況の好転が期待されます。台湾政府は、世界規模で活躍する国内企業を育成するため、よりグローバルな基準で審査を行うでしょう。その第一歩として、日本企業との連携は非常に意義があるといえます。
台湾のAR/VRマーケットが、日本と中華圏のVTuberをつなぐ中継点になるか、それを足掛かりにして世界へ飛び立つコンテンツが生まれていくか、注目です。