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VTuber 2022.10.17

「AIファンアート」はNGか?  VTuberそれぞれの対応を見る

AIを活用した画像生成技術が急速に広まるなかで、VTuberが「AIファンアート」の扱いをめぐって、対応に追われています。その多くは「AIが描いたファンアートの投稿は控えてほしい」。「AIが描いたことを明記してほしい」というスタンスを表明していますが、中には企画へと取り入れる動きも見られます。

本記事にて、VTuberと画像生成AIをめぐる状況を一部ご紹介します。

画像生成AIの現在

画像生成AIは、この数ヶ月で「劇的」と言ってよいほどの発展を遂げています。その流れの一部を追っていきましょう。


(「MidJourney」で生成。プロンプトは「Fan-art of VTubers, –ar 16:9」)

まず、7月13日に「MidJourney」のオープンベータサービスが始まりました。「プロンプト」と呼ばれるキーワードを入力するだけで、キーワードに沿ったイラストが出力されるAI画像生成サービスです。そのイラストのクオリティの高さから話題となり、多くの人が手に触れたことで画像生成AIの認知度は大きく引き上がりました。


(筆者ローカル環境の「Artroom Stable Diffusion」で生成。プロンプトは「Fan-art of VTubers」)

8月22日には「Stable Diffusion」という画像生成AIが登場します。「MidJourney」と同様に、「プロンプト」から高精度なイラストや、現実の写真と区別が困難な画像を生み出すAIです。その精度もさながら、「Stable Diffusion」は無償で一般公開されたのが重大なポイント。この日を境に「誰でもハイクオリティな画像やイラストを生み出すAIを使えるようになった」と言えるのです。

実際、その後「Stable Diffusion」を自分のPCで動かす人や、「Stable Diffusion」を活用したツールが次々に現れます。さらに、学習用のデータセットを変更し、特定の画像を生成することに特化した派生バージョンまで出現。中には著名なVTuber”のような”画像を生成できるものも存在します。

そして、10月3日に公開された「NovelAI Diffusion」が大きなインパクトをもたらしました。AIで小説を執筆できるサービス「NovelAI」に付随するAI画像生成サービスですが、生成される画像はまるで「プロのイラストレーターが描いた人物イラスト」と思ってしまうほど高精度。いわゆるアニメライクなイラストに関しては、「MidJourney」や「Stable Diffusion」よりも簡単にハイクオリティなものが作れるとして大きな話題になりました。

しかし、「NovelAI Diffusion」の学習用データセットが、「pixiv」などからの無断転載イラストが横行することで悪名高いサイト「Danbooru」から得ていることが明らかになると、「無断転載されたイラストを用いたAIへの学習」と、AI自体を有償提供していることを問題視する人も増加。利用者も加速度的に増加する一方で、AI画像生成の是非や、適切な発展をめぐる議論が、現在も続いています。

各VTuberのスタンスは?

画像生成AIの普及によって、現在活動中のVTuberにまず影響が出るものといえば「ファンアート」です。これまでは人の手で描かれたイラストが主でしたが、画像生成AIが広まる中で、「AIで描いたファンアート」を投稿する人が一定数現れました。

このAIファンアートに対し、何名かのVTuberはその扱いについての声明を発表しています。

「ホロライブ」の白上フブキさんは、AIファンアートに対し「AIで作ったこと」を明記するよう要請。また、「まだ色々と発展途中な業界」であるとして、配信活動には利用できないと説明しました。同じく「ホロライブ」の夏色まつりさんも、「個人で楽しむのはOKだが、AI製と明記しない、ファンアートタグの付与、自作イラストであると発言することは問題」という見解を表明しています。

「ホロライブEnglish」の小鳥遊キアラ(Takanashi Kiara)さんは、AI製ファンアートにファンアートタグの付与を使用しないよう要請。ファンアートは動画サムネイルなどに利用する可能性があることに触れ、「使用するファンアートが”本物”であることを確認したい」と見解を表明しました。

「にじさんじ」の郡道美玲さんは、AIファンアートを作ること自体には問題ないとしつつ、それらにはファンアートタグではなく感想用タグ「#教えて郡道先生」を付与してほしいと要請。その上で、「私は私自身で作ったAIイラストはそのAI提供会社の規約が商用利用可能であれば加筆修正加えてサムネに使います。自作グッズには使わん!」「会社から何か言われたら止める」という方針を明かしました。

一方、「にじさんじ」のグウェル・オス・ガールさんは、Twitter上で「AIイラスト芸術選手権」を開催。AIイラストをTwitterにて募集しました。さらに、AI製のグウェル・オス・ガールさんのイラストを募集する「AIグウェル選手権」も実施し、動画化する可能性も表明しました。ただし、いずれの企画も、使用AIとプロンプト入力内容の併記を必須としており、取り扱いには細心の注意を払っている様子です。

また、天神子兎音さんは「気持ちは嬉しいけど使用とかが色々が難しい」とした上で、「目に止まるもの」を送りたい人は長文のリプライや、画用紙に描いた絵でもいいとコメント。AI製イラストに頼らずともファンからの応援の気持ちは示すことができる、というメッセージを発信しました。

「AIファンアートを扱うリスク」を考える

各VTuberのスタンスから、AIファンアートに対して懸念されることがいくつか浮かび上がってきます。

ひとつは「生成された画像に問題はないか」ということ。仮に、誰かのイラストと酷似したものが出力され、それをファンアートとして投稿した場合、それを取り上げたVTuberの活動にトラブルが生じる可能性があります。その責任はVTuber当人に発生する可能性が高く、AIファンアートを取り上げることにリスクが生じている可能性があります。

もうひとつは「人の手で描いたイラストと区別がつきにくい」という点。これは上記の「生成された画像に問題はないか」とも合わせて、リスクのある画像を判別しにくいという問題点が考えられます。「AI製であることを明記してほしい」という要請は、AIファンアートをめぐるリスクを回避するための、もっとも効果的な対策であるといえます。

とはいえ、AIファンアートに対するVTuberのスタンスは(現時点では)少しずつ異なっています。AIファンアートを投稿してよいのかどうかは、VTuber当人のスタンスを見て判断するべきでしょう。もちろん、AI利用者の側にも、利用規約をしっかり読み込んだ上で使用する責任が伴います。

画像生成AIについては、現在も各所で議論が続けられています。法学的な観点はもちろん、倫理的な観点、感情的な観点など、様々な要素が絡み合っており、今後も議論は紛糾していくものと思われます。

そして、議論のスピード以上に技術発展のスピードが早く、一ヶ月どころか、一週間で情勢が一変することも十分に考えられます。画像生成AIの今後と、画像生成AIと向き合うVTuber業界の動向を、今後も注視していくべきでしょう。


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