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VRChat 2024.08.15

VR PHOTOGRAPHY EXHIBITION ――他者の「VR世界への眼差し方」に気づく展示会

この記事を今読んでいるVRユーザーの方は、実際に触れる前、VRのことをどう思っていたかを覚えていますでしょうか? 私は覚えています。「VRは没入感がある」と言われてもあまりピンと来ず、「スマホやPCの画面を見られる視界をわざわざ塞いでまで、VRヘッドセットを被るメリットがあるのか?」と、思っていました。

その後、実際にVR空間で様々な体験や遊びを重ねていく内に、スマホやPCの画面にはないVRの多くの良さについてを自然と理解していった訳ですが、その「VRならではの良さ」として最も強く感じたことの一つは、3DCGで作られた空間を””空間””として認識できるようになったことです。

VRを体験するまでは、3DCGで作られたものとはいつも私にとって平面上にあるものでした。映画、アニメ、ゲーム、どれを取っても、プロが最高の画角で2Dの画面上に仕上げたものでしか、3DCGを体感したことがなかったからです。

だからこそVRを体験して一番初めに感動したのはそこでした。3DCGで作られた空間というのは、決して平面上にあるものではなく、現実世界と同じように立体的な空間としてここに存在しているということを実感を持って理解できたことです。

そしてその理解の後に感動したのは3DCGで作られた空間は空間であるからこそ、VRで自由度高くシームレスな動作で””写真””を撮る事ができる、ということでした。VR上でカメラを構え、カメラのモニター越しに自分で決めた画角でシャッターを切ると、その通りの画像が生成される。それは単なる「スクリーンショット」を越えて、「写真」としか言いようがない。

今回の「VR PHOTOGRAPHY EXHIBITION」で作品を鑑賞した時、VRで感じたそのような最初の感動を想起しました。

瑞々しく美しい写真群によってVR世界に対する新たな見方を知る


(当写真展の会場は東京渋谷ー表参道間に位置するFUJIFILM WONDER PHOTO SHOP)

REAL✖️VIRTUAL VR PHOTOGRAPHY EXHIBITION Supported by FUJIFILM」は、2024年1月に同会場で初回が開催され、今回が2回目の開催となります。当写真展はプロデューサーのMiwonderfulさんとプロジェクトに賛同した有志によって構成された運営チームで企画制作し、FUJIFILMが協賛という運営体制の元、VRSNS 「VRChat」のワールドにて、参加作家の視点で撮影された作品を展示する写真展です。AmaNekoさんやえこちんさんといった現在活躍中のVRフォトグラファーの作品が展示され、期間中は自由に観覧できます。

訪問当日はお盆の三連休中の日曜日。人通りそのものは多かったですが周辺を歩く人達にアンケートを取ってもVRに興味がある人の方が圧倒的に少ないだろうな……という印象の往来であり、イマジンやインターネットが街を凌駕しつつあるような秋葉原・原宿・池袋に比べ渋谷表参道の雰囲気はかなり物質的です。

この街のこの往来の中で行われるVRの写真展は一体どのように自分の目に写るのだろうか……といささかの不安を抱きつつ、店内に入りお店の一番奥で行われている展示を見た時、その自分の不安が杞憂だったことに気づきました。

そこで開催されていたのは、仮にVRやVRChatの文脈を1mmも知らない人が見たとしても十全な鑑賞に値するであろう、実力に裏打ちされた写真の並ぶ写真展だったからです。

そして驚いたのは、FUJIFILM WALL DECORを使用して製作されたという展示写真の瑞々しく色鮮やかな発色です。3DCGによる空間やそこで撮られた写真を普段の自分のPCモニターやVR機器越しに見る以上にもっと解像度が高く美しいものであるように感じられました。

FUJIFILMは、数年前からNintendo Switchのゲーム画面のスクリーンショットを、専用アプリを用いてチェキにプリントできる「キャラチェキ」というサービスを提供していますが、そこで発揮されている「デジタルなものを敢えてアナログプリントによって物質化して残すことの良さ」は、本写真展にも通じるところがあり、またFUJIFILM WALL DECORによる高精細かつ大判なパネル化は、VRChat内で撮影した画像のプリント方法として非常に相性が良い印象でした。


フォトグラファーごとに区切られた個々の写真を見て気づいたのは、「VR写真」と一口で言っても、その作品群の趣向が一人ひとり全く異なっていることです。アバターにフォーカスした写真を撮っている作家もいれば、まるで現実の風景を撮ったかのようにリアリティのあるワールドの風景写真を撮る作家も、ワールドの風景とアバターが調和した風景を撮る作家もいて、その作風や「VR世界で何を眼差しているか」は、本当に人それぞれでした。

VRSNSは、PCで体験するかVRで体験するか、またどの機器をどのように使っているかによっても、見え方が大きく変わってきます。私は、両方の機器でVRChatを遊んだ経験があるだけで、その全ての見え方を知っているつもりになっていましたが、それ以上にVR世界の美しさを眼差している人々がいるんだな、ということへの衝撃がありました。

渋谷表参道という現実の街にある店舗で、この写真展が行われることにも、大きな意味を感じました。VRSNSあるいはインターネットで共有されるVR写真は多くの場合、その文脈を理解した人達からのみの閲覧に留まることが多いと思いますが、この場所で開催された展示会はその文脈を全く知らない人達の目にも留まるでしょう。

この環境で作品を鑑賞するということは、「VR写真を知らない人達にとってこれらの写真はどのように目に映るだろう?」ということを、例えVR写真の文脈を知っていたとしても意識せざるを得ません。また「現実の空間で撮影した写真とVR写真の違いや、VR写真ならではの面白さはなんだろう」ということについて、極めて新鮮な感覚で考えることのできる場にも、自然となっていたように思います。

そして、ここに現実世界を映したようなリアリティある写真もあれば、絶対に現実ではありえない、VRでしか撮ることのできないような写真もあり、また写真という表現を越えて絵画やイラスト的なアプローチとして捉えることができるような作品もあり、その志向性の幅広さが、つまりそのままVR写真の可能性の幅広さで、かつ、それだけ幅広い被写体や絵作りの余地があることそのものが「VR写真ならではの面白さとは何か?」の答えの一つであるように感じました。

それから写真展内に設置された「みんなのVR PHOTO WALL」も上手く機能していました。

ここは出展者ではない一般の来場者がWONDER PHOTO SHOPの「ましかくプリントサービス(有料)」を用いて印刷した、自分のスマホに入っているVR写真を展示できるというもので、私が訪問した時点でも多くの人が自身のVR写真を展示していました。

ここで展示された写真もまた、「他の人はどのようにVR世界を眼差しているのか?」を知る一助にもなり、かつここに来場者の写真が多く集まれば集まるほど、不思議とこの写真展が実在性のある写真展であるということが裏打ちされていくように感じました。

新たなクリエイターの育つきっかけになれば

また作品の鑑賞後、本写真展のプロデューサーであるMiwonderfulさんから本写真展についてのお話しを伺うことができました。
インタビューの最中にも、写真展目当てで訪れたVRChatterと思しき方や、たまたま通りがかったらしき方、インバウンドの方など様々な方が訪れ、みなさんそれぞれに興味深く写真を鑑賞している様子が見て取れました。

ーー今回の「VR PHOTOGRAPHY EXHIBITION」は2回目の開催ということなのですが、初回の開催は今年の冬だったとのことで、かなり短い間隔で今回の2度目の開催に至った経緯について教えてください。

Miwonderful:
前回もFUJIFILMさんにご協賛という形で関わっていただいたのですが、その際実際の作品をご覧になったFUJIFILMさんの社内の方々に、VR写真作品のクオリティの高さであったり、その表現の幅広さを感じていただけたということがまず1つあります。

もう1つが、 たくさんの方が写真展に来ていただけたことだけでもありがたかったのですが、さらに来場者の皆さまの中で、展示をご覧になって「私も自分のVR写真をプリントしてみようかな」「プリントグッズを作ってみようかな」と自発的なチャレンジをしてくれる方がすごく多かったんですね。

そういった様々な面で写真展への反響が大きかったこともあったり、そして会場となっているFUJIFILM WONDER PHOTO SHOPさんからも「またぜひいつでもやってください!」というラブコールをいただけたこともあり、「夏休みであれば、みなさんに来ていただきやすいかな」と、今回この時期に2度目の開催ということになりました。

またFUJIFILMさんにご協力いただけるようになったのは、MyAnimeListという会社さんがVRChatで行った「MAL Bunkasai(文化祭)」というイベントがきっかけでした。当時、私がそのイベントの運営を担当していたのですが、企画に興味を持ってくださったFUJIFILMさんからお問い合わせをいただきました。

そこから約1年間かけて一緒にPoC(※アイデアやコンセプトの企画実証)を行ってきた中で「写真展をやってみよう」という話しが出た結果、VR PHOTOGRAPHY EXHIBITIONの開催へと至っています。

――FUJIFILMは「キャラチェキ(※Nintendo Switchのスクリーンショットを専用アプリで読み込み、プリントする方法)」に取り組んでいらっしゃるところから、VR写真の分野に興味をお持ちになる流れになんとなくの納得感がありましたが、MyAnimeList側は、どういった流れでVR分野に興味持たれていかれたのでしょうか?

Miwonderful:
MyAnimeListは日本のアニメ・マンガの英語圏コミュニティを運営している会社さんで、そのグローバルなコミュニティにいるみなさんは様々な地域に住んでいらっしゃるんですよね。なのでMyAnimeListがお祭りを開くなら、バーチャル空間でやった方が国も時間も関係なく楽しめるんじゃないかということで、VRChatをその開催地に選んだというのがきっかけでした。だから最初の時点では VRに興味持ったというよりも、「コミュニティの繋がりをより深くするための場所としてメタバース空間を機能させられないか?」というチャレンジから始まっています。

――「VR PHOTOGRAPHY EXHIBITION」を通しての今後の展望などがあれば教えてください。

Miwonderful:
1つはこのプロジェクトを通じて、改めてVR空間で写真を撮っている方はたくさんいらっしゃることを学ばせていただいたので、今後、ギャラリー展示にチャレンジしてみたい方を公募するという試みをFUJIFILMさんと構想しています。

もう1つは、個人個人のためとして楽しむためのフォトプリントグッズやアナログプリントを気軽に楽しんでくれるようになっていくとステキだなと。あとは、願わくば今回の写真展に参加してくださった作家さん達が、より一層いろんな所で活躍してくださるよう、面白い創作活動ができるよう、わたしが出来る範囲でみなさんのお手伝いをさせていただけたら嬉しいなと思っております。

――ありがとうございました。

展示概要

タイトル:『REAL✖️VIRTUAL VR PHOTOGRAPHY EXHIBITION Supported by FUJIFILM』

<REAL会場>

期間:2024年8月9日(金)~8月21日(水)
営業時間:11:00 ~19:00
会  場:FUJIFILM WONDER PHOTO SHOP
※展示作品の製作にはFUJIFILM WALL DECORを使用。
また、プリント商品を活用した各種作品を販売中。
出展作家:えこちん / don / BIS / rocksuch / ToMoSan / とらお / AmaNeko

<VIRTUAL 会場>

期間:2024年8月9日(金)~8月23日(金)
会場:House of Photography in Metaverse パノラマギャラリー
URL:https://houseofphotography-jp.fujifilm.com/
出展作家:マドフキ / 此花ゆうな / なの / 龍神_黒墨

※推奨環境
パソコン
【OS】Windows10/Windows11/MacOS(11.7.3以上)
【ブラウザ】Google Chrome 最新版
【CPU】Intel Core i5 第10世代以上/メモリ: 8GB以上


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