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VR動画 2021.11.06

【VR映画ガイド第73回】Facebook社が初めて制作したVR映画「Here and Now」を見てみよう

ニューヨークのグランドセントラル駅を行き交う人々のストーリー

今回は2016年にFacebook社(現Meta社)が初めて撮影・制作したVR映画「Here and Now」を紹介します。このプロジェクトは約3分30秒という短い作品ではありますが、ニューヨークのグランドセントラル駅の中で、500人以上の俳優を起用し、5週間に及ぶ撮影と編集作業を行なった大規模な作品です。

当時、VR映画用に新たに開発されたカメラ・Facebook Surround360を使い、高画質な360度3Dの撮影を行なっています。Facebook傘下のクリエイティブスタジオであるThe Factoryはこの映像で「人間性やつながりの深いストーリーを伝えるためにどのようなことができるか」ということに挑戦したそうです。

体験者はニューヨークのグランド・セントラル駅構内のメインホールの中央に立ち、家族の再会や旅立つ娘と父親の抱擁、楽しげに雑談する女の子たちなど、そこを行き交う人々のストーリーを眺めることができます。

オススメのポイント

1. ロケ地の魅力

この作品の魅力はなんと言っても世界でも有名なニューヨークのグランドセントラル駅を360度動画で撮影したということが大きいと思います。もし物語が無かったとしても美しい建築物を眺めているだけでも十分な価値があります。

体験者は駅のメインホールの中心に立ち、メインコースの天井のアートやグランドセントラル駅のランドマークになっている時計を眺めながら、駅構内を行き交う人たちのドラマを独り占めできます。駅全体に500人以上の俳優たちが配置されているので、360度色々なところで起こる小さな物語を覗き見ることができます。

2. 計算された自然な視点誘導

とても大きな駅の中に、大勢の人が行き交っているので360度全天球を使った映画としては視点誘導をさせるのが本当に難しかったと思います。しかしこの作品の素晴らしい点は、その混雑した空間の中を“音”や“人の動き”などで自然に視点誘導を行なっているところです。

最初、話し声で視線を誘導し、その登場人物がカメラに近づくことで、そのグループのやり取りに注目をさせます。会話が落ち着いたところで、他の箇所でまた会話が始まり、今度はそちらの方に振り向かせます。1つのグループの会話が落ち着くタイミングともう1つのグループの会話が始まるタイミングが絶妙に重ならないようにしています。

そのグループのやり取りが済んだところで、グループの1人が動き出し、その人の動きを追うと、新たなグループの会話が始まります。行き交う人たちのやり取りが連動していき、話し声や視線、やり取りする方向に振り向かせることで小さな物語が色々なところで起こっていくのです。

この連動はたまたま偶然に行なったわけではなく、何度もリハーサルやテスト撮影を重ねて制作側が計算した上でできた演出だということが想像できます。もちろん視点誘導通りに物語を追わず、特定の登場人物をみ続けることで彼らの駅構内でのやりとりを最後まで追いかけることもできます。
 

3. 体験者は物語の観察者

体験者は物語の中で何か役割を与えられているわけではありません。駅の真ん中にただ立っているような感じかもしれませんし、体が無いので駅に取り憑いた幽霊のような存在かもしれません。この物語では体験者の役割が何かということはそんなに重要ではありません。

豪華な駅の中で、大勢の人が行き交う様子をぼーっと眺める作品です。何も考えずに眺めているだけだと、ただの雑踏にしか見えません。ただ何か一つでも気になる人を見つけると、そこから小さな物語が生まれて、視点を動かすと駅の色々なところで小さな物語が語られていることに気がつきます。

物語のクライマックスで、自分の視点が宙に上ります。自分の体が宙に浮いたような不思議な感覚になる中で、自分の足元を見下ろすと駅全体の雑踏は、小さな物語が集まってできているということに気付かされます。

作品データ

タイトル

「Here and Now(Facebook 360 VR – Grand central)」

ジャンル

ドラマ

プロダクション

The Factory

制作年

2016年

制作国

アメリカ

本編尺

約3分30秒

視聴が可能な場所

YouTube VR

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