こんなにも長くVR空間にいたのは初めてだったかも
「A Fisherman’s Tale」はVRパズルアドベンチャーゲームとして紹介されています。私のようなVR映画を体験したい人間としては「ゲームだし、パズルだし…」という理由で、選択肢から外してしまうコンテンツでした。
しかし昨年のヴェネツィア映画祭で出会った時から気になっていたので、先日Oculus Storeで購入し、最後までやり切ってみました。やり始めた途端、あっという間に2時間、3時間が経ってしまうぐらい没入してしまいました。こんなにも長くVR空間にいたのはこれが初めてだったかもしれません。
深いテーマがありながらきちんと考えられたストーリー。しかも受動的に待てば進むものでは無く、自分も主人公となって多くの困難を乗り越えなくてはなりません。その困難はゲームを楽しませる障害では無く、ストーリーの中で超える必要のあるものになっています。
オススメのポイント
1. 設定
この物語は灯台の近くの小屋に住んでいる漁師の人形ボブが主人公です。体験者はこのボブになって物語を体験します。
小屋の中には実物の灯台とそっくりそのままのミニチュアが置いてあります。実はこのミニチュアと実物の灯台の世界は入れ子構造になっていて、ミニュチュアで起こったことは実物大、つまり自分の世界でも同様なことが起こるようになっています。
自分が動いたり、動かしたりするものが他の大きさの世界でも反映される不思議な感覚です。この不思議な世界を使って隠された謎を解いていかなくてはなりません。
2. 冒頭
作品の中に入ると、鏡に自分自身が映し出されます。これにより、この作品世界での自分の振る舞い方のルールをスムーズに説明してくれます。
この点、VR作品作りには大変参考になると思います。説明が無いと自分が何をするべきかがわからず、作品に没入できないからです。私が体験してきた作品の中でも冒頭の説明が不足していて、VR空間で立ち尽くす羽目になったものがいくつもありました。
3. 空間
灯台と小屋という閉鎖された空間の中で主にストーリーは進みます。体験中、実際の自分の部屋を忘れて没入してしまったため、何度か手を壁や家具にぶつけてしまいました。
作中主に閉鎖された空間にいるので、クライマックスに荒れた海に船で出るシーンは開放感と臨場感があって、自分の部屋でやっているというのを忘れてしまいます。VR空間の色々な所に隠された謎やアイテムを探すので、座ってやるよりも歩き回って体験するのが良いと思いました。
4. 内容
この作品は単なるVRパズルアドベンチャーゲームではなく、立派なストーリーテリング作品でした。大きな失敗を経験した主人公の心の揺れ動きを丁寧に描いています。
色々なところに隠された謎も非常にストーリーに関連づけられたもので、1つひとつに意味がありました。例えば嵐で壊れた父親の船の模型を作るための謎解きは、非常に感動的でした。
嵐が過ぎ去った後のラストシーンの爽快な感じは、大きな苦悩を乗り越えたときの気持ちに非常に近い体験だったと思います。冒頭からラストシーンまで5時間ほどかかってしまいましたが、時間を完全に忘れるぐらい本当に素晴らしい作品でした。
まとめ
6dofの作品はスクリーン映画のようなストーリーテリング手法からさらに進化してきている気がします。こういう作品をただのゲームと片付けてしまうのは勿体ない気がします。
ストーリー性を重視した映画のようなストーリーテリングを、ゲームも必要としていると、私は感じています。受動的に見るだけの作品からユーザーが作品に影響を与えられるインタラクションへと変化していくことが重要です。
本作は「ゲーム」、「映画」といったジャンルに区分されるものではなく、VRが出現したことによる全く新しいストーリーテリング手法のものであると言ってよいのではないでしょうか?
このような作品を制作する新しいクリエイターたちが、さらに革新的なストーリーテリング作品を作ってくれるのではないかと思うと、今からワクワクします。私自身も革新的なVR映画を作っていきたいと思います。
作品データ
タイトル |
A Fisherman’s Tale |
ジャンル |
アドベンチャー |
監督 |
Balthazar Auxietre, Alexis Moroz |
公開 |
2019年 |
本編尺 |
体験者による |
製作国 |
フランス |
受賞等 |
VR Award 2019 VRゲーム・オブ・ザ・イヤー |
体験可能な場所 |
オンライン:Oculus Store, Steam, Playstation VR |
TEASER
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