ゆはらかずき監督による手描きのVRミュージックビデオ
世界中の映画祭でVR作品が取り上げられる中、日本でも文化庁メディア芸術祭がここ数年、積極的にVR作品を取り上げています。
今年の文化庁メディア芸術祭のアート部門では小泉明郎監督のVR/AR技術を使った体験型演劇作品「縛られたプロメテウス」が大賞を受賞し、エンターテイメント部門では当連載でも取り上げた「Replacements -諸行無常-」が優秀賞を受賞しています。
今回紹介するVR作品の「Canaria」はメディア芸術祭のエンターテイメント部門の新人賞を受賞しています。制作しているのはこちらも以前、当連載で取り上げた「MOWB」の監督で、東京藝術大学大学院映像科アニメーション専攻に在籍するゆはらかずき監督です。
今回の作品はミュージシャン・トクマルシューゴさんの「Canaria」という同名の曲のミュージックビデオとして制作されています。内容はポップでカラフルな世界の中で、老いゆく1羽のカナリアの姿を生き生きと描いています。
オススメのポイント
1. 360度手描きアニメーションの魅力
ゆはらかずき監督が初めて制作した「MOWB」と同様、今回の「Canaria」も半年以上かけて手描きでVRアニメーションを1人で制作しています。360度全天球にアニメーションを描かなくてはならないので膨大な作業量だったと思います。
その甲斐あって背景やキャラクターを描く一本一本の線も味わい深く、手描きならではの温かい表現が伝わってきます。特に冒頭のシーンで空に浮かぶ色々な立体物が水面に映る表現と空を流れる雲が地面に影を落とす表現は気持ちがよく、ずっとその空間の中にいたくなります。
ゆはらかずき監督の丁寧に描かれたVRアニメーションはいつもどこか心を動かされます。
2. 新しいVR表現の挑戦
新たなVR表現にたくさん挑戦しています。タイムラプスを使って時間経過を表現したり、光の線が下から上に流れることで落ちていく感覚を体験させたり、リトルプラネットを使って空間を超えてみたり……VRの特徴を活かした体感させる作品になっていたと思います。
「かなり挑戦したな」と思う表現もありました。カナリアが宇宙に飛び出した後、世界がぐるぐる回るシーンです。重力がないので車やカメや雲やカナリアが、なす術もなくグルグルと回ります。
酔いやすい方は要注意ですが、作品としては非常に意味のある、興味深いシーンになっていると思いました。ぜひこの機会にPCやスマートホンで360度動画を見た後、VRヘッドマウントディスプレイでも作品を体験してほしいです。作品の感じ方が大きく変わると思います。
3. VRミュージックビデオの可能性
トクマルシューゴさんの曲「Canaria」のミュージックビデオとして制作された今回の作品は、歌詞を元に監督がイメージを膨らまして制作しています。
トクマルシューゴさんからは自分の作品を作るつもりで自由に制作して良いよと言われたそうですが、トクマルシューゴさんの世界観を壊さないようにVR空間でどう表現するかを想像しながら絵コンテを書いて制作を進めたそうです。
過去VRミュージックビデオ作品は数多く制作されています。単純にアーティストが歌っている姿を360度カメラで撮影しているだけでなく、VRの特徴を考えて制作することでVRミュージックビデオは新しい表現の形になっていくでしょう。
ゆはらかずき監督が言うように、アーティストや曲の世界観を表現するにはVRはとても相性が良いと思います。フレーム映像よりもその世界に没入させることを得意とするVRは、今後音楽と組み合わせることによって新たな映像表現の方法を切り拓いていく気がします。
「Canaria」はVRミュージックビデオの新しい可能性を見せてくる作品です。
作品データ
タイトル |
Canaria |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
ゆはらかずき |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
4分19秒 |
視聴が可能な場所 |
Youtube |
Youtube
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