同じストーリーは2度と繰り返さない
「Agence」はバーチャルリアリティ、ゲーム、映画のストーリーテリングを融合させたインタラクティヴな“ダイナミックフィルム(動的な映画)”です。体験者は架空に作られた惑星で、3本足の知的生命体“Agents”を観察したり、影響を与えたりする力を持っています。
惑星から惑星へと移動しながら、彼らの平穏な暮らしのバランスを維持したり、彼らの生活を荒らすこともできます。体験者に彼らの運命が委ねられているのです。体験者次第で作品の内容が変わるので、同じストーリーを2度繰り返すことはありません。
ベネツィア映画祭で初公開されたこの作品は、カナダ・トロントのインディーズスタジオ「Transitional Forms」とカナダ国立映画制作庁(NFB)が共同制作しています。
オススメのポイント
1. 体験者が行う3つの要素
この作品で体験者は3つの行動を行えます。
1つめは「観察」。体験者はいくつかの惑星を渡り歩きながら、Agentsの行動やストーリーが展開していくのを見守ることができます。
2つめは「ギフト」。Agentsの行動に影響を与える魔法の花を植えることで、Agents同志の関わり方を変えることができます。
3つめが「干渉」です。体験者はAgentsを手に取って、別の場所に移動をさせることができます。彼らに干渉することによって、争いを避けるためにAgents同士を引き離したり、バランスを取るのを助けたりできます。さらに事前に訓練されたAgentsを加えることによって物語に影響を与えられます。訓練されたAgentsは目標と報酬システムを持ち動くため、通常のAgentsより目的を持って行動します。
これらのシンプルな要素をうまく使って、今までにない物語が展開されていきます。
2. 体験者の行動によって世界が変わる意味
「Agence」の中では体験者の行動が非常に重要になります。自分が行う行動が物語に影響するので、1つ1つの行動を考えなくてはいけません
自分がまさに神様になったような感覚で、知的生命体“Agents”と向き合うことになります。Agentsにも顔の形ごとに一体一体に名前がつけられています。それぞれにも個性があるようでお互いに助け合ったり、喧嘩したりするので、体験者がそれに対して色々と手を出すことで様々な物語が生まれていきます。
例えば、好奇心旺盛な一体が花に近づくと、不思議な柄に変化したり、花が原因で確執が生じたりします。通常のVR映画のようにがっちりとしたストーリー性があるわけではないですが、体験者がとった様々な行動が影響し合って物語が生まれていくという感覚があります。
今後、この方法が進んでいくとより面白いストーリーテリングの作品が生まれてくる可能性を感じました。
3. VRとAI
「Agence」はOculus RiftやHTC Vive以外にもPCやiOS, Androidからも体験できるマルチデバイス対応になっています。
今回、私はiOSとViveportからこの作品を購入して体験しました。iOSではストーリー体験というよりはゲームに近い感覚で楽しめます。
起きているできごとを見守り、自分でアクションを起こして、変化を観察する……まるで実験をしているような感覚でした。
この作品とVRについて監督はこう語っています。
「VR版では体験者と”Agents”が同じ空間に入って関係性を築くことができるため、非常に相性が良いと思います。「Agence」ではまだシンプルな方法しかないですが、将来AIを研究開発する上でVRは非常に重要なものになると想像しています。なぜなら、これらの生物と同じ空間を共有することができるからです。これらの生物は、事実上、学習する生き物です。彼らは私たちから学び、私たちが彼らに教えるのです。」
近い将来「Agence」のこの試みが、VR映画において大きな一歩になる可能性を感じています。
作品データ
タイトル |
Agence |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Pietro Gagliano |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
約10分 |
制作国 |
カナダ |
視聴が可能な場所 |
視聴が可能な場所に関しては作品のオフィシャルホームページをご確認ください。 |
Trailer
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