11月13日、TECH::CAMPは「VCとVRエンジニアが語るVR業界の今と未来」というテーマのイベントを「TECH::CAMP VRコースの受講生」を対象に行いました。今回は、ソーシャルVRプラットフォームを開発中のクラスター株式会社CEO & Founder 加藤直人氏の講演「VR業界の今と未来&VR開発の勘所」をレポートします。
国内のVR市場はこれから盛り上がる状況
加藤氏が、VRに関心を持ったのは、京都大学を中退して引きこもりをしていた時期とのこと。当時はハッカソンや音楽ライブ、コミケに行けないことが、大きなフラストレーションで、VRなら外に出なくても、イベントに参加できるようになる可能生を感じたと語りました。
加藤氏は、VRスタートアップを起業した経験から、現在の世界のVR業界をざっくりとまとめると以下のようになると示しました。
・投資:インフラへの投資が一段落し、今後はコンテンツを開発する企業に投資が行われる。
・開発:非常に盛り上がっている。特に中国では数千というプレーヤーがいる可能性もある。
・消費:黎明期でこれから。今はPlayStation VRが盛り上がっている。
しかし、日本国内で見ると“投資・開発・消費”の3つともが盛り上がっているわけではなく、これからという現状であると話しました。
今はOculus Rift、HTC Vive、PlayStation VRといったハイエンドなVRデバイスと、Google CardboardやハコスコといったローエンドなVRデバイスが、消費者に届きつつあると指摘。そして最近の動きでは、Gear VRやDaydream、さらにはスタンドアロン型のSnapdragon VR820などのミドルエンドのVRデバイスに加藤氏は注目しているとのことで、「1,2年後には(今のハイエンドVRデバイスに)追いつくだろう」と語りました。さらにVRの普及という面では、ミドルエンドのVRデバイスが鍵になるだろうと考えを示しました。
VRコンテンツの面で考えると、すでに競争の激しい分野(ゲームや映像の分野)でも、参入余地はあると加藤氏は語りました。まだ、ゲームとして完成されているVRコンテンツは少なく、むしろ低い品質のものが溢れている状況なので、質の良いものを制作できれば、注目を集めることも可能だと述べました。
多くのVRコンテンツにソーシャルな要素が入ってくるだろう
加藤氏が海外のVCと話すと、コミュニケーション領域が大きな可能性を秘めているという話題が多くなるとのこと。特にVRは、たとえゲームであっても一人で楽しむのを寂しく感じやすくなるため、将来的には多くのVRコンテンツにソーシャルの要素が入ってくるだろうと語りました。
加藤氏は他にも、シニア向けや教育向けでのVR活用が相性が良いと考えていることを明かしました。
また、実際に開発する際には、VRの特性を理解した上で、いかにプレゼンス(その世界にいるように感じられること)を高められるかが重要と語りました。
ありがちなミスの一例としては、シーンの賑やかしのためにオブジェクトを置いただけになってしまい、プレイヤーがそのオブジェクトに触れた時に期待された結果(インタラクション)を返すことができず、プレゼンスを下げてしまう結果になってしまうことが挙げられました。また3DCGの世界にプレイヤーが入ることから、情報の並びやレイヤー階層を意識的に設計し、ユーザーを混乱させないよう配慮することも大切だと語りました。
他にも、PC/スマホのUIを持ち込まないこと、ハンドコントローラーやボイス(声)の役割が重要といった、VRならではのクリエイティブを追求していくことが高い品質のコンテンツに繋がると語りました。
VR開発に必要となる知識・スキル(プランナー/デザイナー/エンジニア)
講演の最後には、プランナー、デザイナー、エンジニアと分けた時にVR開発で必要となるであろう知識・スキルが紹介されました。
プランナー
VRコンテンツを開発する際に、プランナーの頭の中にある企画を言語で伝えるのは非常に難しく、さらにVRコンテンツの場合はペーパープロトタイピングでも伝えるのが難しいことから、高レベルな絵コンテのスキルが求められると語りました。企画段階でもゲームエンジンで簡単なものを制作できるのが理想的とのこと。
また、「とにかく沢山のVRアプリをプレイする」ということも重要だとし、新しい分野なのでプレイ経験の豊富さも特に必要になってくるとしました。
デザイナー
3Dモデリングとアニメーションツールの知識は必要になるとのこと。また、VR向けのUI/UXデザインについて学習していく能力も必要になるとしました。
VR開発の特徴として、コンセプトアートの世界に一人称視点で入った場合に何か違和感を感じることも多くなってしまうことが挙げられました。そのためゲーム開発などの場合であっても建築デザインの知識が役に立つことがあり、クラスター社のデザイナーも建築デザインについて勉強しているとのこと。
エンジニア
前提としてゲームエンジンのスキル・開発ロジックの知識は必須とのこと。さらにVRコンテンツの制作は複数人で長期間の開発になることが多くなるので、それに耐えられるロバストネスなシステムを構築していくことが重要になってくると語りました。また、ネットワーク周りの知識もソーシャルな要素を取り入れる場合に必要になってくるので、学んでおいた方が良いだろうと話しました。
イベントの最後には懇親会が開かれ、TECH::CAMP VRコース第一期生卒業生の方に話を聴いたところ、VR開発、さらにはゲームエンジンでの開発も初めてという方が多かった印象を受けました。また開発はUnityで行ったとのこと。VR開発に興味を持ったきっかけとしては、『VR ZONE』や『Galaxy Studio』でVRアトラクションを体験したことを挙げる方もいて、VR開発者の裾野の広がりを感じられたイベントにもなりました。