今年のアイスホッケー世界選手権にて、世界初のバーチャルスポーツアナウンサーが登場しました。スウェーデン代表チームでコーチを務めるRikard Grönborg氏の音声や外見の映像を収録、これによってつくられた“デジタルクローン”がアナウンサーを務めています。
Grönborg氏のデジタルクローンは、5月10日の初戦から5月26日の決勝戦まで、様々なニュースやインタビューに不眠不休で対応。今回のニュースやライブ配信の中では、20年分のアイスホッケーの統計データを利用して分析し、試合結果を予測するなどしました。
昨年11月、中国の通信社が史上初のバーチャルアナウンサーを発表しましたが、Grönborg氏のデジタルクローンは、スポーツのみに焦点を当てた最初のバーチャルアナウンサーとなるようです。
24時間不眠不休の“デジタルクローン”を作成
Grönborg氏は、バーチャルクローンを作るための作業について、「さまざまな角度から何時間もかけて撮影しました。それから、意味をなさない奇妙な文章を読み上げ、それを録音しました。撮影は4〜5時間かかり、録音作業は少なくとも3時間以上かかりました。大変で骨が折れる作業でしたが、結果として非常に良いものができたと思います」と感想を語り、「世界選手権でのチームの情報を追いかけたいファンは、明らかに興味を寄せていました」とコメントしました。
このバーチャルアナウンサーでの事例のように、さまざまな業界で人間に替わって人工知能(AI)や生成された音声などを使用する例が増えています。ブルッキングス研究所の2019年のレポートでは、米国における仕事の25%はAIと自動化によって置き換えられるリスクが高いと述べられています。
米CNNテレビのAlex Thomas氏は、AIのアナウンサーについて、「私の経験では、視聴者はスポーツニュースを知るための信頼できる人物を求めていています。本物の知識を持っていて、共感できる人物です。そのため、バーチャルアナウンサーではなく、まだ本物の人間である必要があると思います。ただし、もしも将来的にバーチャルアナウンサーが、実際の人間よりもスポーツを伝えるためのより良い手段になるのだとすれば、それは私にとって受け入れられないものではありません」とコメントしています。
また、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンでコミュニケーション学の教授を務めるニール・サーマン氏も、「現時点では、このような動向をテレビのアナウンサーへの脅威とは考えていません。」とコメント。「視聴者は、ほとんど人間だが、完璧な人間ではないバーチャルの存在を不快に感じます。短いテキストからビデオを生成する自動化技術のほうが可能性があると感じています。自動的にニュースの内容に合った動画や写真を選び、コンピューターで生成した字幕や声を使うといったものです。」と述べています。
今の所、すぐにアナウンサーの仕事がバーチャルの人間に置き換わる可能性は低いようですが、AIによってニュースの作り方も今後変化していくことが予想されます。
(参考記事)CNN