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ゲーム・アプリ 2019.07.15

VRゲーム「東京クロノス」その人気の理由  宣伝プロデューサーインタビュー

MyDearest株式会社より2019年3月に発売されたVRゲーム東京クロノス。本作は渋谷に閉じ込められた幼馴染8人と、謎を解きながら脱出を目指すミステリーアドベンチャーゲームで、SteamではVR部門売り上げ世界1位を獲得。Oculusより「Oculus Essentials」に選ばれるなど、国内外で人気を博しています。

好評を得ている「東京クロノス」ですが、本作は発売前からクラウドファンディングやファンミーティングなどが話題を呼び、多くのファンがSNS上で自発的に応援していたことでも知られています。本作がなぜそこまでの熱い支持を得られたのか、宣伝プロデューサーを務めたのMyDearest社取締役COO、千田翔太郎氏にインタビューし、「東京クロノス」の発売前後の流れについてお聞きしました。

取材会場となったのは、東京都新宿区にあるDNPプラザ1階にて期間限定で開催されていた「東京クロノスカフェ in DNPプラザ」。室内には本作のキャラクターデザインを担当したイラストレーターのLAM氏と大日本印刷が共同で制作したキャラクターアクリルアートが飾られ、ゲームの世界観に浸れる空間となっていました。

インディーゲーム的なこだわりとコンシューマーゲームのメジャー感を融合


――「東京クロノス」が発売されてから、手応えはいかがでしょうか?

千田翔太郎氏(以下、千田):

発売前後のプロモーション活動は概ねこちらが想定した通りに達成できたと感じています。ただ、正直これだけの盛り上がりになるとは思っていませんでしたね(笑) 印象的だったのは、ファンの方が発売前にTwitterで東京クロノス山手線チャレンジという企画を実施してくれたことです。開始当初は全く知らなかったのですが、1,000人規模で参加してくれて非常にうれしかったです。本当にファンの方々が積極的にゲームを盛り上げてくれたおかげで、今の人気ぶりがあると思っています。

――そもそも「東京クロノス」のプロジェクトが始まった経緯をお聞かせください。

千田:

今作の企画が立ち上がったのは2017年の10月です。当時は、VRゲームって発売からドカンと売れるイメージではなかったので、ちょっとマニアックで尖った雰囲気のインディーゲームを制作するというコンセプトではじめました。

ただ、大きな転機となったのが2018年5月のエンタメイベント「マチ★アソビ」です。会場でクラウドファンディングの告知を行ったのですが、またたくまに情報が拡散され、大きな話題になりました。

作品への期待度が予想以上に高いとわかったので、スタッフと何度もプロジェクト全体のコンセプトの打ち合わせをして、インディーゲーム的なこだわりは残しつつも、コンシューマーゲームのようなメジャー感も押し出していくことになりました。

――現状のVRコンテンツの中で、これほどメジャー感を押し出したゲームは珍しいと思いました。

千田:

個人的な意見ですが、今作を「新しいVRコンテンツ」という触れ込みだけで押し出しても、それほど広まらなかったと思います。現在のVRゲーム界隈は、FPSジャンルに偏り過ぎていて、キャラクターと触れ合ったり、物語世界に浸ったりできる作品が少ない印象です。だからこそ王道的なプロモーションを展開して、これまでの流れとは違う新たなゲームの登場をアピールしようと考えました。

――プロジェクト全体のコンセプトはいつ頃決まったのでしょうか?

千田:

「マチ★アソビ」が行われた5月の、クラウドファンディングの告知文を発表するタイミングですね。どのように伝えれば、ユーザーに熱い想いが伝わって、一緒に盛り上がれるのか、スタッフたちと相談して……。告知文章の推敲を何度も重ねるうちに全てのコンセプトが固まりました。この告知文があったからこそ、制作進行やプロモーション活動をスムーズに進めることができたと思っています。

ファンを“共犯者”として巻き込んで、一緒にゲームを作り上げる


――「東京クロノス」は発売まで、かなり積極的にファンミーティングを実施していましたが、それにはどういった狙いがありましたか?

千田:

今回は、ファンミーティングを“共犯者ミーティング”と名付け、開発陣と積極的にコミュニケーションが取れるようにしました。受動的に告知を受け取るだけでなく、当事者としてゲーム作りに関わって、発売までの一連の流れを楽しんでもらう狙いがありました。ゲーム自体はもちろん、プロジェクト全体を好きになってもらいたかったんです。VRのコアユーザーやゲームファンなど、さまざまなクラスタの人たちに向けて「尖った面白いことを一緒にやりませんか?」と呼びかけてみたイメージです。

――ファンがゲーム作りに関わるというアイデアはとても面白いですね。イベントを実施するに当たって何か参考にしたものはありましたか?

千田:

ニコニコ生放送のネットコンテンツはかなり研究しました。ニコ生の公式アニメイベントでは、作品が発表される前からファンと声優、制作陣が一丸となって作品を応援して盛り上がる風潮があるんですけど、これを「東京クロノス」でも取り入れれば、応援してくれる人を増やせるのではないかと。

ビジネス・フォー・パンクス」という、アメリカのクラフトビール会社の社長が出したビジネス本があるんですが、この人はYouTubeに「他社のビール製品を散弾銃で粉々にする」動画を投稿する、みたいなぶっ飛んだことをしていて(笑) 当然これは炎上しているんですが、一方で「パンクであれ」というコンセプトに惹かれた熱狂的なファンもたくさん生まれているんですよ。東京クロノスでも「合言葉になるようなコンセプトを共有したい」と思い、「制作共犯者」という軸が生まれたんです。

――実際の“共犯者ミーティング”の盛り上がりはいかがでしたか?

千田:

イベント終了後も会場に残ってくれる方が多く、中にはゲームの方向性について熱く語ってくださる方もいました。イベント会場に「残りすぎだ!」と怒られるほどでしたね(笑)。開発中のデモ画面を観た後にメッセージカードで意見をフィードバックしてくださったので、大いに参考になりました。作品作りのヒントとなった意見は多く、実際に実装させてもらったアイデアもあります

――ファンミーティングの運営と制作進行を両立させるのは大変だと思いますが、苦労した点はどういったところでしたか?

千田:

声優さんを招いてのイベントの運営は大変でした。VRゲームという新しいジャンルなので、どのような企画をすれば声優さんのファンにゲームの魅力が伝わるのか、かなり悩みましたね。とにかくイベントで何か不手際があれば、次の機会には必ず修正するようにしました。また、ゲームを応援してくれるクリエイターの方々はもちろん、イベント運営をしている方や広報戦略担当の先輩など、さまざまな方と意見交換して、企画全体をブラッシュアップしました。本当に多くの人の積極的な関わりのおかげで「東京クロノス」が生まれたと感じています。

「東京クロノス」を長く愛されるIPとして成長させたい


――発売後、ゲーム実況者やVTuberたちが積極的にゲームの魅力を紹介している姿が見られました。

千田:

本当にありがたいですね。個人的には、九条林檎さんのnoteでのレビューや、甲賀流忍者ぽんぽこさんのゲーム実況などが特に魅力的でした。今作はネタバレ次第で作品の感想が大きく変わってしまうこともあり、レギュレーションで体験版のみを配信してくださるようお願いしたのですが、今後は配信を前提として楽しめる企画を出せるようにしていきたいですね。

――今作で多くのファンが積極的に応援していることが明らかとなりましたが、今後はどのようなかたちで関係を構築していく予定でしょうか?

千田:

今、社内で最も話し合っている議題で、まだ明確な答えは出ていません。ただ、オンラインサロンのような閉鎖的なものでも、メルマガのような受動的なものでもない、面白いアイデアをみんなで突っ込みながら出し合えるような流れを作りたいと考えています。

また、今回のプロジェクトは、ネットユーザーの方とのコミュニケーションをもっと充実させたかったと反省しています。宣伝活動が関東でのイベントに偏ってしまったので、これからは全国各地どこでもオンラインで話し合える機会を増やしたいですね。

さらに、海外のファンの方へ向けた取り組みも進行中です。現在、海外のメルマガユーザーは2,000人以上いるのですが、彼らと積極的に交流できる場ができればいいなと……。今後、「東京ゲームショウ」や「AnimeJapan」など海外からの注目度の高いイベントで、日本のアニメカルチャーが好きな人たちにアピールしたいと考えています。

――今後はどういったことを目標に「東京クロノス」を広めようと考えていますか?

千田:

プロジェクト全体の目標は「東京クロノス」を多くの人に長く愛されるIPとして成長させることです。そのためにも今後は漫画や小説、グッズなど、さまざまなメディアミックスを展開させる予定です。世界観やキャラクターをより好きになってもらえるよう、世間を驚かせるような企画を用意していますので、楽しみに待ってくだされば幸いですね。

――最後に、これからゲームに触れる方にはどういった点をオススメしたいでしょうか?

千田:

プレイしてくれた方の中には「VR用のマスクがビショビショになるほど泣いた」といった感想を寄せてくれる人がいます。VRの臨場感でキャラクターたちと接していると、彼らへの愛着がとても深くなるでしょう。ストーリーも没入しやすく、後に引きずるような面白さを堪能できるはずです。まずは登場人物たち9名にVR空間で会ってみてください!

(参考)東京クロノス 公式Webサイト


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