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ゲーム・アプリ 2020.08.31

「Pixel Ripped 1995」レビュー 進化と熱狂の時代で、ゲームを遊んで世界を救え!

1995年。当時のゲーム界隈は「セガサターン」、「PlayStation」と言った次世代機の台頭、現役の最前線を走っていた「スーパーファミコン」の最盛・円熟期到来によって、熱狂の時代を迎えていました。ゲーム側にも3Dポリゴンを始めとする最新技術が続々と投入され、劇的に進化。大容量が特徴のCD-ROMも次世代機の標準メディアとなり、徐々に浸透しつつありました。

そんな1995年のゲーム界隈を題材にした異色のVRアドベンチャーゲームが「Pixel Ripped 1995」。2018年に発売された「Pixel Ripped 1989」の続編です。制作は前作に引き続き、ブラジルのゲームスタジオARVORE Immersive Experiences。2020年4月23日にSteamOculus Store(Rift)にてPCVR版、Oculus Quest版が先行発売されました。

国内では同年7月15日、日本語に対応したPSVR版が発売。合わせて他機種版にも日本語対応アップデートが行われました。

VR空間で親の目を盗んでゲームを遊べ!

その昔、「DOT」というヒーローがいました。彼女は師匠で賢者の「MASTER」と共に、広大なゲームワールドの魂である不思議な石「ピクセルストーン」のガーディアンを務めていました。

ある日、ゲームワールドを滅ぼし、現実世界との次元調和を乱そうとする悪の親玉「CYBLIN LOAD」が「ピクセルストーン」を強奪。世界は危機に瀕しましたが、DOTと当時のゲーマー少年の活躍でCYBLIN LOADは倒され、平和が戻りました。

しかし、CYBLIN LOADは生きていた。MASTERによれば、彼は別の時代にある「ピクセルストーン」を手に入れるため、そこへ向かったとのこと。かくしてDOTはCYBLIN LOADが向かったとされる1995年へタイムスリップ。当時最高のゲーマーである9歳の少年「David」の協力を得ながら、CYBLIN LOADのピクセルストーン強奪、次元調和の乱れを食い止めるための戦いに身を投じます。

このようにストーリーは前作「Pixel Ripped 1989」の続きとなっていますが、前作の知識必須のイベントは皆無。全く遊んだことのない人も楽しめる、独立した内容になっています。

ゲームはアドベンチャーを謳っていますが、実態はステージクリア型アクションの色合いが濃い作り。CHAPTER単位のエピソードごとに用意された舞台で、主人公のDOTを動かすゲームをプレイし、ストーリーを進めていきます。最終的にCHAPTER最後に発生するボス戦を攻略できればクリアになって次のチャプターが開始。以降、その繰り返しとなります。

最大の特徴は前作同様、VR空間内でゲームを遊ぶスタイル。プレイヤーは遊び手側の少年Davidとしてコントローラを手に持ち、DOTが主演を務めるゲームを遊んでいきます。いわば「ゲームinゲーム」とも称せるスタイルになっています。

そして、遊んでいる最中にはDavidからゲームを取り上げようとする障害が。幼い頃、ゲームを夢中になって遊んでいた世代から、現代の若い層にもお馴染みかもしれない両親です厳密には母親が何かにつけてゲーム機の電源を切ろうと邪魔してきます。

電源を切られるとゲームオーバー……にはなりませんが、それまでの進捗が白紙に。一応、ゲーム側でチェックポイントを通過していれば、電源を入れ直すことで途中再開できますが、母親はしぶとく詰め寄ってくるため、何もしなければ元の木阿弥です。

繰り返さないためにはどうするのか。注意を反らせばよいのです。

DavidにはDOTから授けられた「トイガン」と呼ばれるおもちゃの銃があり、これで家の中に置かれた物を撃って崩せば、母親がそちらに気を取られ、ゲーム機から遠ざけることができます。その隙にこちらはゲームを進め、DOTの目的を達成させる!

基本的に各CHAPTERはこのように進めていきます。まさに人の目を盗んでゲームを遊ぶ、当時のみならず今の世代も苦笑い確実の体験が味わえる作りになっています。

ただ、どのCHAPTERも母親が邪魔してくる訳ではありません。別のCHAPTERでは邪魔がなく、終始、ゲームに集中できることも。また詳細は伏せますが、母親ではない”誰か”が邪魔してくることもあります。

さらにゲームを遊ぶのは自宅に限らず、レンタルビデオショップ、ゲームセンターと言った外出先になることも。それぞれの場に応じたゲーム機、筐体が登場し、Davidが持っていないゲームを楽しめます。

肝心のゲームは、基本的に「レーザーガン」のショット攻撃で敵を撃退してはステージを進む横スクロールのアクションゲームですが、CHAPTERによってはジャンルも変わります。ボス戦ではレース、シューティングをプレイすることも。

このように1995年を生きる少年になって、親を始めとする妨害を回避しながらゲームを遊んではストーリーを進める斬新なプレイスタイルが特徴となっています。その魅力を端的に表すなら、幼い頃のゲーム体験における“あるあるネタ”の生々しさと言えるでしょう。

幼い頃の“あるある”満載なイベント、仕掛けの数々

特に象徴的なのは母親の妨害です。主にゲーム機の電源を切ろうとしてくるのがほとんどですが、その理由に科学的根拠など知ったことかのトンデモゲーム害悪論を振りかざしてくるのが“いかにも”な感じです。「ゲーム機からは放射能が漏れているのよ!」、「夜にゲームを遊んでいると網膜が焼けちゃうのよ!」など、似たようなことを言われた経験がある人なら苦笑い必至です。

また、後者の台詞が象徴する通り、あるCHAPTERでは夜、両親たちが寝静まった時間帯にゲームを遊ぶのですが、その際にも大きな音を鳴らすと間もなく目を覚まし、電源を切ろうとやってきます。ただし、別の部屋で寝ているので、来るまでには若干の猶予があります。なので、もし大きな音を鳴らしてしまったら、近くにあるテレビのリモコンをキャッチしましょう。そのままテレビの電源を消せば、空耳だと勘違いし、寝静まってくれます。

実際に家族が寝静まった夜遅く、音を小さくした状態でゲームを遊んだ経験のある人なら、思わず「あるある」と声に出してしまうのではないでしょうか。多少、ゲーム的な都合で処理された部分もありますが、このようにどの妨害もやり口がリアル。そして、爆笑確実なものになっています。

もちろん、ネタはこれに限らず。本来あるはずもない“嘘の裏技”を意気揚々と自慢する同級生、大々的な広告の割には値引き率が渋すぎる中古ゲームのセール、たまたま買った中古ゲームに残されていた最終ステージのセーブデータ、ゲームセンターでのトーナメント戦など、当時から今の世代も何かしら経験したことのある出来事、ネタがストーリーと共に描かれていきます。

そして、Davidが遊ぶゲームにも1995年特有の“移り変わり”を感じさせられる仕掛けが。具体的には中盤終わりのCHAPTER以降より遊ぶことになるゲームですが、主にグラフィック全般で次世代機への移行が始まりつつある当時の“うねり”を味わえる、とても印象深いものになっています。

CHAPTER終盤のボス戦も、現実世界とゲーム世界が入り混じった独特な構図もさることながら、当時起きていた進化の数々が伺えます。CHAPTER3のボス戦は最たる一例で、プレイすればこの当時、ゲームがどのような世界に足を踏み入れ、新境地を切り開こうとしていたのかが分かるかもしれません。

著名な作品のオマージュが満載なのも見所。取り分け露骨なのはCHAPTER3。名前を出してしまいますがKONAMIの「悪魔城ドラキュラ」のパロディになっています。大変物騒な台詞を決める“なんとか・ベルモンド”っぽいキャラクターも助っ人で登場します。再現度合いも非常に高い。敵にスケルトンが登場するのはもちろん、終盤のボス部屋付近がこれぞドラキュラな構造になっています。シリーズのプレイ経験があるなら、その完成度の高さに爆笑間違いなし。合わせて、制作スタッフの愛の深さを実感させられるでしょう。

またCHAPTER2では、ゲーム機が異なる2つのゲームをプレイすることになるのですが、これもネタの細かさのみならず、それぞれのゲームに登場するアイテムを持ち込むユニークな攻略法で楽しませてくれます。まさにこのプレイスタイルだからこそ成し得た構成になっていますので要チェックです。

深刻な弱点を抱えたPlayStation VR版

見所満載の本作ですが、気になる点も少なくありません。まず、プレイするゲームですが、どのCHAPTERも「レーザーガン」で敵を撃ち倒し、ステージを進むアクションゲームで、変化に乏しい。

あるCHAPTERだけはベルトスクロール型の格闘アクションゲームとなるのですが、それっきり。ボス戦はシューティング、レースなどの他ジャンルが登場しながら、道中に当たるゲームが実質ワンパターンなのには味気なさを感じる次第です。プレイヤーを混乱させないための配慮なのかもしれませんが、もう少し差別化しても……と感じてしまいました。

また、筆者はPSVR版、Oculus Quest版をプレイしたのですが、操作周りでは後者が勝ります。具体的にはゲーム機の電源を入れる、トイガンを撃つなどのモーションコントロール系の操作がPSVR版ではやりにくい。PlayStation 4の標準コントローラたるDUAL SHOCK4内臓のジャイロセンサーを活用する形になるのですが、プレイエリアの外と判定されて物が掴めず、悪戦苦闘することがしばしば。さらに「コントローラトラッキング」の設定がONだと、動かす度にDavidの腕や手が歪んでいき、ついにはコントローラを掴んでゲームを遊ぶことすらままならなくなることがあります。

(腕が歪んでしまって、コントローラが掴めなくなった図。)

多少環境に左右されますが、筆者は座り姿勢、かつトラッキングON設定でプレイしていた際、この現象に遭遇してゲームを再起動せざるを得なくなり、進めていたCHAPTERの最初からのやり直しを何度か強いられました。ただ、トラッキングをOFFにすれば多少改善します。そのため、これからPSVR版でプレイする方に対し、快適に遊びたい思いのある方はOFF設定で始めることを強く推奨します。逆にQuest版はコントローラの形状やヘッドセットの特質も相まって、件の現象は起きにくくなっています。

さらにPSVR版は、日本語ローカライズに深刻な難点が。Davidの居る現実世界の両親、同級生のMikeと言ったキャラクターたちの台詞(日本語字幕)が表示されません。設定ONでもこのままで、会話内容が全く分かりません。逆にDOTたち、ゲームワールドのキャラクターたちは日本語の台詞が表示されます。そのため最低限のストーリーは追えるのですが、現実世界のキャラクターたちも含めて物語を楽しみたい場合は、(執筆時点では)きちんと字幕が表示されるQuest版、或いはPCVR版が推奨されます。

ただ、字幕が表示されても音声は英語のため、テキストを読むことが必須に。ゲーム側に集中しがちな本作では、相性の悪さが出てしまっています。

このほか、PCVRとQuest版には「Ultimate Challenge」と題したアップデートが配信され、多数のやり込み要素が加わっているのですが、PSVR版は未配信でトロフィー(実績)の獲得以外にありません。また、執筆時点(2020年8月末)でも日本語字幕の非表示を解消するアップデートパッチは未配信。一応、英メディアVRFocusの報道によるとPSVR版にも「Ultimate Challenge」の配信は予定されているようですが、時期が明言されておらず、続報もないため実現の見通しは経っていません。

これは世界を救うための戦いであり、遊びである

現状、PSVR版は日本国内で見れば最も手に取りやすいですが、先述の問題を抱えているため、Quest版を始めとする他機種版が推奨となってしまいます。アップデートが実施されれば話は変わるのですが、いつの日になるのか……。

厳しいことを書き連ねましたが、それでも本作のプレイスタイルは唯一無二。メインストーリーのボリュームもエンディングまで大体4~5時間ほどと適切で、CHAPTERごとに変わる舞台と妨害、ボス戦などの特徴から、退屈することなく楽しめます。ストーリーも中盤にかけてのDavidと両親の関係が変わるイベントが印象的で、それらを越えた末に迎える最終決戦とエンディングも感慨深いものになっています。

メインターゲットにして最も“刺さる”のは1995年をリアルタイムで過ごした世代ですが、ネタ的に現代の世代にも通ずるものもあるため、そこまで人を選びません。何より、VR空間内でゲームを遊ぶコンセプトをこだわり尽くした作りと、それゆえに実現した斬新な仕掛けの数々はインパクト抜群です。この構造とプレイスタイルに少しでも興味を持ったのなら、遊ぶ意義は大いにある唯一無二の意欲作です。

1995年にタイムスリップし、様々なゲームを遊びながら世界を救いましょう。世界の命運を握るのは、ゲーマーたるアナタだ!

ソフトウェア概要

タイトル

Pixel Ripped 1995

発売・開発元

ARVORE Immersive Experiences

対応ヘッドセット

Valve Index、HTC Vive、Oculus Rift、Windows Mixed Reality、PlayStation VR(PlayStation 4、PlayStation 4 Pro)、Oculus Quest

対応コントローラ(PSVR)

DUALSHOCK 4

価格(税込)

2,050円(Steam
1,990円(Oculus Store:Rift / Quest)
2,420円(PlayStation Store

CERO

A(全年齢対象)

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