Home » 小島秀夫の計画するサードフェーズは現実を侵食する“AR” 10周年展示会の体験コンテンツをレポート


VR体験施設 2026.11.02

小島秀夫の計画するサードフェーズは現実を侵食する“AR” 10周年展示会の体験コンテンツをレポート

麻布台の路上に、黒い手形がひとつ、またひとつと浮かび上がる。スマートフォンの画面越しに見る現実世界は、『DEATH STRANDING』の世界で死者の存在を知らせるサインに覆われていた――。

コジマプロダクションの設立10周年記念展「BEYOND THE STRAND:創造と挑戦の航路」が、2026年10月31日から12月20日まで、東京・麻布台ヒルズギャラリーで開催される。開幕に先立って開かれたメディア向け内覧会には、小島秀夫監督も登壇した。

初公開の制作資料や大型インスタレーションなど、見どころが盛りだくさんの本展だが、XRの分野でも注目のコンテンツが用意されていた。それが、Niantic Spatialと共同開発した位置情報AR体験「DEATH STRANDING ODRADEK: TOKYO PROTOTYPE」と、Meta Quest 3でコジマプロダクションのオフィスを巡るVRコンテンツだ。

※補足:小島監督の代表質問と、ARアプリ担当者へのインタビュー部分は、読みやすさを重視して変更している箇所があります。

リアルな展示とVRで体験する、コジマプロダクションのこれまでとこれから

本展は、2015年12月に設立されたコジマプロダクションの取り組みを3つのフェーズで辿る、同スタジオ過去最大規模の展覧会だ。

会場の説明によれば、10周年を迎えるにあたって発表されたこの3つのフェーズは、スタジオの「これまでの歩み」と「これから向かう先」の両方を示している。過去を振り返る回顧展であると同時に、未来への宣言を含んだ構成であること。それが本展の大きな肝だ。

「FIRST PHASE」では、「誰も想像できないものが、遊びになるまで」という言葉が掲げられている。第1フェーズは2015年から2019年、新たなIP開発を目指して『DEATH STRANDING』が生み出された時期にあたる。

会場の中央には、直径6mのスクリーンによる『DEATH STRANDING 2』の360°映像インスタレーションが設置されており、その下では本展のために制作された3体の立像が存在感を放っている。

今回、特に注目したのは、Niantic Spatial制作のVR体験コンテンツだ(※体験には物販商品10,000円(税込)以上購入、先着順)。VRヘッドセットを装着して、コジマプロダクションのこれまでの軌跡を追体験するというもの。素手でボタンを押すといったシンプルなアクションのみのため、VR初心者でも気軽に楽しめる。

このバーチャルコンテンツの演出はかなりリッチに作りこまれていた。現実のコジマプロダクションの事務所の中を3Dスキャンし、3Dガウシアン・スプラッティング技術(詳細はこちら)で再現しており、非常に高精細だ。そもそも一般人では絶対に立ち寄る機会のない事務所の中に自分が立っている感動はなかなか得難いものである。

さらに、デスストシリーズの主人公サムの声優・津田健次郎氏によるナレーションも感動的で、ひとつの贅沢なツアーを体験している気分と言えばいいだろうか。とても満足度の高いVRコンテンツだった。

これまでコジマプロダクションはVRゲームを制作したという実績は無いが、小島秀夫監督自体はインタビューなどで度々VRに関して興味を示しており、10年前にはVRスタジオPrologue Immersiveの顧問を務めるなどの動きがあった。

一体、小島秀夫監督の中で、VRやARなどのテクノロジーは今どのように見えているのだろうか? その答えは、内覧会中に行われたメディアインタビュー内で明らかとなった。

あらゆるものの境界線がなくなり、端末の外へと出ていく世界

「ゲームは遊ぶのもおもしろいんですけど、作るほうがおもしろい」。

内覧会で実施された代表質問では、この10年間を振り返りつつ、近年の制作現場の変化や今後の展望について小島秀夫監督自らの口から語られた。その最後の質問として投げかけられたのが、「今後どのような表現や体験の可能性を追求していくのか」というものだった。

そこで、小島監督は現在進行中の『OD』や『PHYSINT』をプロダクションのセカンドフェーズだと位置づけた上で、従来のゲームが持つ「閉じた空間」としての性質について指摘。そのうえで、サードフェーズとして、ARなどを通じて、人々の日常とゲームが地続きになっていくエンタメの未来像を語りだした。

「サードフェイズはNiantic SpatialさんとARをやっていて、ゲームのメタバースというか……ゲームは、閉じた空間でしたよね。そのゲームの中で遊んで、繋がれる。でも今後、ARが日常を支配するようになると思うんです。ゲームや映画館、テレビやスマホの中にあったものとの境界線が、どんどんなくなっていく。」

「エンタメだけではなく、教育や医療、ファッションや音楽といったあらゆるものの境界線がなくなって、端末の外側に出てくると思うんですね。作られたものとリアルが混同する未来がくる。そんな未来に向けたステップとして、Nianticさんとの取り組みがあります」

「そうやって(境界線がなくなり)繋がってくると、エンタメがもっとリアルに寄っていくと思うんです。ライブとか、舞台とか、実際にあるアトラクションといったものが、デジタルを使って、デジタルの中だけじゃない、もっと自分のリアルに近いエンタメが出てくるのかなと。僕がサードフェーズとして狙っているのはそういった領域ですね」

画面の中に閉じていたゲームが端末の外に出て、日常との境界線がなくなっていく。これが小島秀夫監督の考える次の構想に繋がっているモノなのだろう。

そして、この言葉をまさに体現するかのような体験が、展覧会場の外で待ち受けていた。

麻布台ヒルズが配達ルートになる!? ARアプリ「DEATH STRANDING ODRADEK: TOKYO PROTOTYPE」

「DEATH STRANDING ODRADEK: TOKYO PROTOTYPE」は、Niantic Spatialとコジマプロダクションが共同開発した位置情報ARアプリだ。

本展の会場がある麻布台ヒルズ周辺でのみプレイでき、会期は展覧会と同じ2026年10月31日から12月20日まで。専用のQRコードが来場者向けに配布されるので、そこからアプリをインストールして体験する(iOS/Android対応)。

体験は、ゲームにも登場するジェイク・ウインドからの通信で始まる。本編の無線通信を思わせる画面で依頼を受け、荷物「KJP記録文書」を引き受ける。

荷物を受け取ったら、画面に示される目的地を目指して麻布台ヒルズの外に出る。目的地までの距離や荷物の重量の表示など、UIや演出は『DEATH STRANDING』の世界観そのもの。途中、画面に表示されたBBに触れたり、端末を揺らしたりしてあやせる場面もあった。


目的地に到着したら、目印となるシンボルをタップして配送を完了。この「実在するシンボルを目指して現実世界の街を歩く」という体験は、Nianticが技術提供した『ポケモンGO』を思わせる。納品確認、荷物の状態、配送ルートの開拓といった項目ごとに「いいね」が集計され、総合評価が付けられる演出まで再現されていた。

この時点で「リアルの街で『デススト』の体験ができる!」と興奮しきりだった取材陣だったが、極めつけは、BTの気配が近づいてくる演出だ。スマホの画面越しに見える現実世界に雨が降り、黒い手形が現れ、非日常が侵食してくる。

「カメラ越しに見える現実世界の上に演出を重ねる」というスマホARの表現は、今や珍しいものではない。しかし、風景の中でキャラクターが浮いて見えたり、チープに感じてしまったりする場合もあり、ゲームの演出としてリッチに成立させるには難しい側面もある。

ところが、今回の体験で画面越しに見えたBTの存在感は、「スマホARは少し物足りない」というイメージを軽く書き換えるほどだった。画面全体にかけられたエフェクトの効果も相まって、BTの姿が驚くほど風景に馴染んでおり、整備された麻布台の路上においてもほとんど違和感がなかったのだ。

来場前は「展示に関連したちょっとしたAR体験があるのかな」程度に捉えていたのだが、その想像は良い意味で裏切られた。

体験としては短かったものの、「目的地へ荷物を届ける」という『DEATH STRANDING』のゲーム体験が現実の歩行と身体感覚へと見事に置き換えられているのみならず、BTの脅威を“リアル”に味わえる体験になっていたからだ。『DEATH STRANDING』本編を遊んだことがある人は、ぜひとも実際に足を運んでプレイしてみてほしい。

閉じていたゲーム体験を日常の中へ解き放つ、その第一歩

思わぬ没入感をもたらしてくれたARアプリだったが、Niantic Spatialとコジマプロダクションの技術提携が発表されたのは、2025年9月のことだ。代表質問の話にもあったが、発表の際にも小島監督は、それまでスクリーンの中にあったゲーム体験を現実世界の体験へと解き放つことに言及していた。

今回登場したARアプリは、まさに『DEATH STRANDING』のゲーム体験を日常へと広げる第一歩だった。アプリでは「TOKYO PROTOTYPE」と銘打っているが、今後の展開はどうなっていくのだろうか。Niantic Spatialとコジマプロダクションの両担当者に話を聞いた。


――今回の展示でARコンテンツを作ることになった経緯を教えてください。

Niantic Spatial担当者:
コジマプロダクションさんとのパートナーシップ締結の発表後、どのようなことができるのか両社で模索してきたのですが、その第一弾として制作したのが今回のアプリになります。10周年記念イベントに際して、『DEATH STRANDING』の世界観を現実世界に持ち出すことができないか。そのように考え、一緒に開発しました。

――準備には相当な時間がかかったのではないでしょうか。

Niantic Spatial担当者:
今回のアプリは、イギリスから来ているLiquid Cityというチームにも開発に携わっていただいています。隣にいる彼もそのエンジニアで、ここ1〜2ヶ月はずっとこの開発にかかりきりでやってくれてました。

――正直、これほどのクオリティの体験ができるとは思っていませんでした。

Niantic Spatial担当者:
ありがとうございます。『DEATH STRANDING』は現実世界との親和性がすごく高い作品ですし、小島監督も以前、「現実世界とゲームを組み合わせて、いかにその境界をぼかしていくか」ということを『ボクらの太陽』(※)などでされていたので、今回の試みはまさにぴったりだったのかなと思います。

(※『ボクらの太陽』は、2003年発売のゲームボーイアドバンス用アクションRPG。カートリッジに太陽光(紫外線)を検知するセンサーを搭載し、「日光」がプレイに影響するのが特徴)

コジマプロダクション担当者:
「今後の未来のAR体験におけるパイロット版を作ろう」ということで、弊社とNiantic Spatialさんのアイデアを合体させて、10周年記念展に向けて作ったのが今回のアプリです。この「配送」仕立ての体験を作るにあたり、よりクオリティを高めたものをリリースすることができたと思います。

――今後もこうした取り組みは続いていくのでしょうか。

Niantic Spatial担当者:
今回のアプリにご好評をいただけたら、もっといろいろやっていけると思います。すでに嬉しい反応と感想を頂戴しているので、今後も続けていけたら嬉しいです。ここで体験をしたことで、この場所を通るたびに思い出してもらえたら最高ですね(笑)。

そうやって現実に別のレイヤーが重なるような体験ができれば、『DEATH STRANDING』の世界がさらに身の回りに溶け込むような感覚を感じてもらえるのではないかと考えています。ぜひ今後にもご期待いただければと思います。

「つながり」を技術によって可視化し、実践する

今回の展覧会を振り返って強く印象に残ったのは、制作資料の充実ぶり以上に、「作品世界をどのように体験させるか」への徹底したこだわりだった。

360°インスタレーションは映像に身体ごと入り込ませ、ARは現実の街をゲーム空間に変え、VRは実在するスタジオへとユーザーを招き入れる。いずれも『DEATH STRANDING』がテーマとしてきた「つながり」を、展示の側がテクノロジーによって実践してみせたものだと言えるだろう。

小島監督の言う「端末の外に出ていく」「自分のリアルに近くなる」エンタメは、決して遠い未来の絵空事ではなく、すでに始まっている。麻布台ヒルズを歩いて荷物を届けた人は、会期が終わったあとも、あの道を歩くたびに黒い手形を思い出すかもしれない。ゲームの記憶が現実の場所に刻まれる体験と、そのプロトタイプを目撃できたことは、本展の最大の収穫だ。

『DEATH STRANDING ODRADEK: TOKYO PROTOTYPE』がこの先、東京の外へ、そして私たちの日常へと広がっていくのかは、まだわからない。それでも、両担当者の前向きな言葉と、麻布台で得た確かな手応えを思えば、期待は十分に膨らむ。今後の展開の続報を心待ちにしたい。

開催概要

  • 展覧会名:KOJIMA PRODUCTIONS 10th ANNIVERSARY EXHIBITION「BEYOND THE STRAND:創造と挑戦の航路」
  • 会期:2026年10月31日(土)〜12月20日(日)。会期中無休(予定)
  • 会場:麻布台ヒルズギャラリー(東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階)
  • 開館時間:月〜金 12:00〜20:00/土・日・祝 10:00〜20:00(最終入館19:30)
  • 入場料:前売2,600円/当日2,800円(10月31日〜11月3日はプレビュー入場券が必要)
  • AR体験「DEATH STRANDING ODRADEK: TOKYO PROTOTYPE」:会期中、会場周辺で体験可能。参加方法は現地で案内
  • 公式サイト:https://beyondthestrand.kojimaproductions.jp/ja/
  • 公式X:https://x.com/kjp_bts

VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード

CONSULTING / DEVELOPMENT

コンサルティング・開発サービス

Moguraの知見を、あなたのプロジェクトに

mogura_next

Moguraの知見を、あなたのビジネスに
編集長の久保田を筆頭に、XR/メタバースなどバーチャル領域を知り尽くす専門チームが、リサーチからコンサルティング、企画、開発までを一貫支援。
Mogura VRで培った豊富な情報力と業界ネットワークを強みに、企業・行政機関の成果につながる最適な解決策をご提案します。