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VR動画 2015.08.13

DVによる殺人事件を再現した衝撃のVR体験「Kiya」VRを使ったジャーナリズムが秘める力

2013年6月18日、至って普通の火曜日の朝、サウスカロライナ州ノースチャールストンで2人の男女が口論になりました。一緒にいた姉妹を巻き込んだ口論の末、Peter Centil Williamsは銃を掴み、元ガールフレンドのZakiya Lawsonを射殺。武装した警官が突入すると、自分に向かって引き金を引いてこの事件は幕を閉じました。

この事件の緊急電話への音声が、事件直後に公開されています。事件から数年が経った今、テレビ局アルジャジーラ・アメリカはEmblematic Groupと共同で、DV(ドメスティックバイオレンス)を啓発する目的で、この事件を再現するVRコンテンツを制作しました。

Emblematic Groupは、「VRで容認できる」のはどこまでか、その限界を広げようとしているコンテンツ制作チームです。暴力や人種、ジェンダーなど論争を巻き起こす話題を扱っています。これまでも、移民の男性が国境警備隊にリンチされて殺害される光景を為すすべもなく目撃する体験『Use of Force』、ティーンエージャーが近所の自警団の男性に射殺される事件を再現した『One Dark Night』、シリアの内戦や難民キャンプの様子を再現した『Project Syria』などの、衝撃的なコンテンツを制作してきました。『Project Syria』は世界経済フォーラム(通称ダボス会議)の依頼で制作されています。

『Use of Force』

『One Dark Night』

『Project Syria』

これまでEmblematic Groupが制作してきたコンテンツは、これまでにないほど登場する人物に共感させる強い力を持ったものばかりです。今回新たに制作された「Kiya]も同じ考えのもと制作されています。

本コンテンツは、ロサンゼルスで開催されていたSIGGRAPH2015で展示されていました。体験したVRメディアUploadVRの記者は、「グラフィックはPCゲームのようなものであるにもかかわらず、その体験は想像以上のものだった。実際に当時、録音された音声の役割は大きい。被害者となったZakiya Lawsonの姉妹が、Williamsに銃を降ろさせようとして感じる苦悩といらだちが伝わってくる。彼女たちのこの感情は体験全体を通して伝わってきた。姉妹の一人がZakiya LawsonやPeter Centil Williamsと室内で話している間、電話をかけたままにしていた。こうした事件の生の音声を聞くことで体験に新たなレベルの現実味を感じた。彼らがどうにかしようとしているのを見ながら、死ぬ運命にあるということを知っている自分にはなすすべがなく、悲しかった」と述べています。

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そして、「使用しているGear VRのトラッキングが遅れてしまっていたり、音声がひび割れている等の技術的な問題はあったが、この体験は若い女性がDVによってあまりに若く非業の死を遂げたことについて考えさせるに十分なものだった」と語っています。VRはメディアとして、映像を見るよりもさらに強い感情を引き起こす影響力を秘めています。アメリカでは平均すると毎日3人の女性がDVで殺害されています。Kiyaはこうした止まらないDVの抑止に寄与するかもしれません。

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影響力が強いということは、犯罪等社会問題の抑止にも繋がるプラスの効果がある一方で、逆に影響力が強すぎることによる負の効果もあるかもしれません。VRのコンテンツ制作は、まだ検証されていない、これまで人類が体験したことのない領域への挑戦になります。VRのジャーナリズムへの活用、そしてその効果がどの程度なのか、今後も注視したいところです。

(参考)
UploadVR / Kiya is an intense VR recreation of a domestic murder-suicide
http://uploadvr.com/kiya-is-an-intense-vr-recreation-of-a-domestic-murder-suicide/

※アメリカのVR専門メディアUploadVRはMogura VRのパートナーシップ・メディアです。


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