Home » 【体験レポ】HoloLens 2は“正統進化”だ——性能は大幅強化、操作性は驚くほど自然に


HoloLens 2019.02.27

【体験レポ】HoloLens 2は“正統進化”だ——性能は大幅強化、操作性は驚くほど自然に

マイクロソフトは現地時間2月24日、バルセロナで開催中のMWCにてMRデバイス「HoloLens」の次世代機「HoloLens 2」を発表しました。HoloLens 2は2016年に発売されたHoloLensの性能や機能を大幅に向上した新モデルです。

25日から開催されているMWCのマイクロソフトブースでは、HoloLens 2の体験スペースが設けられていました。今回はMWCでの発表内容を振り返りつつ、体験レポートをお送りします。

産業用にデザインされたHoloLens 2

まず、「HoloLens 2」は前世代機以上に産業利用にターゲットを絞っていることがうかがえます。前世代HoloLensは高精度な“MR(Mixed Reality/複合現実)”を世界で初めて体験できるウェアラブルデバイスとして革新的なものでした。しかしその主な用途はマイクロソフト自身も模索の最中であり、産業やエンターテイメントと、分野を問わず様々な企業・団体へアプローチしていました。

産業用の初期のデモでは、日本航空(JAL)とパートナーシップを結びPoC(概念実証)を行っていたことが広く知られています。それと同時に、発表当初は部屋を舞台にしたシューティングゲームや「マインクラフト」などの既存ゲームをMRで体験させるなど、これまでにない新しいエンターテイメント装置としての可能性も示されていました。

しかし、2016年3月の開発者版の出荷開始後、圧倒的に伸びていったのは産業利用でした。マイクロソフトもパートナー企業を次々増やしていき、“企業の生産性向上につながるソリューションとしてのMR”の活用を前面に押し出すようになります。

HoloLens 2の発表会で紹介された事例も、ほぼ全てが産業利用に繋がるものでした。すなわち、HoloLens 2は設計から産業利用を前提に作られていること、そして明確にターゲットを想定していることを意味します。


(デザインも曲面を中心にした未来的なデザインから、実用的になった印象がある。一言で言えば“地味”に)

MWCのマイクロソフトブースで設けられたデモブースは4箇所。いずれも産業の現場で利用するソリューションの体験展示でした。展示されていたのは、マイクロソフトが自身が提供する「Dynamics 365」に含まれるデモ。そして医療、建築、製造の3種類の産業の各現場で使用することを想定したパートナー企業のソリューションです。

HoloLens 2の発表会では現実に出現させたピアノの3Dモデルの鍵盤に指を走らせて弾く様子が披露されましたが、こうしたカジュアルな体験ができるデモはありませんでした。また、発表されたHoloLensの性能・機能を1つずつ確認できるようなデモもなかったため、実際のソリューションで使われているところから性能を窺い知るような形になります。

なお、各デモで体験者が見ている視界(=現実とCGが重なり合った状態)は撮影ができなかったため、文章のみでの説明となることをあらかじめご承知おきください。

まずは装着

まずは装着から。マイクロソフトは、快適性の向上をHoloLens 2の大きな特長として挙げています。

確かに「3倍」と思っても良い装着感

前世代機が全体的に均一に重厚だったのに対して、グラフィックを司るディスプレイを搭載した前部、そしてバッテリーやプロセッサーを内蔵した後部の2箇所に重量が集中しています。逆に左右の側面はかなり薄く細くなっています。

また、額の部分と後頭部にはかなり広いパッドがセットされています。このパッドがしっかりとフィットし、ダイヤル式の固定方法で、しっかりと固定されます。前世代機に比べて固定はかなり簡易になったという印象です。このデザインと固定方法はマイクロソフトが2017年末から展開するVRデバイスWindows MRヘッドセットと似ています。


(前面)


(後頭部、電源ボタンとUSB-Cコネクタはここにある)

装着感は非常に軽くなりました。メガネが当たることもなく、スムーズに利用可能です。「何千人ものテストを繰り返した」と謳う改良の努力が結実したといえるでしょう。

マイクロソフトのフェローでHoloLensチームを率いるアレックス・キップマン氏は、快適性の向上を「3倍快適になった」と発表会で語りました。その数値的根拠についてはマイクロソフト広報も「本人に聴かないと分からない」と笑いながら回答しましたが、「無理なく装着していられる時間が伸びたというのは事実」であり、快適性の向上が数値的な効果を生み出していることを認めています。

続いて初期設定。「視野が目一杯見えているか」「四角形(長方形)の四隅が全て見えているか」をチェックするためのガイドが流れ、HoloLens 2の固定を少し直して調整したらスタート。スタートするためには四角形の下にあるボタンを指で触ります。

ここで、さっそくHoloLens 2で実装されたハンドトラッキング機能が使われています。初代とは異なり、もう目線を合わせてエアタップを使う必要はありません。ここで初代HoloLensと比べて“2倍以上に広がった視野角”の広さを確認することになります。

また、HoloLensと言えば空間を認識するマッピングの表示があります。前世代機はオレンジ色の網が空間に広がっていくデザインでしたが、HoloLens 2では、ピンク色を基調にしたカラフルな蛍光色が網目状に広がっていきます。色の表現や高精細さがマッピングの表現でも活かされています。

空間にリボンのようない紐状のカラフルな3Dオブジェクトが流れるアニメーションが広がり、アイトラッキング(視線追跡)の設定に移ります。アイトラッキングの設定はこの機能を使わないデモでも必要でした。設定方法は、顔を動かさずに、視界に出現する宝石を目で追いかけること。アイトラッキングの設定としては一般的なものです、上下左右に宝石が出現する回数は8回程度(2,30秒程度)でした。

アイトラッキングの設定が終わるとカラフルなキツツキが空間を舞いはじめます。このキツツキの美しさは、前世代機では見られなかった美しい色味と片目2Kを誇る解像度で表現されています。初代との表現力の違いに思わず最初は見とれてしまうほど。指を伸ばすとキツツキは寄ってきて、指の上に止まります。

建築業界向けデモで視野角を確認

Timble社が提供していた建築向けのデモは、2人でテーブルの上に建造前の建物の3Dモデルを置いて眺めるというシミュレーションでした。建造の時系列に沿って建物が組み上がっていく様子を自由に見たり、建機の配置を検討することができます。

視野角の実際

建物を視界全体に見ることができるのかどうか、視野角が試されます。机の上に乗っていたモデルがちょうど見えきるくらい。米メディアUploadVRが種々の情報をもとに推定した「43度×29度」という数字は体験したあとに見ると、確からしい数字です。Magic Leap Oneよりわずかに広いかな、と思う程度の視野角でした。


(UploadVRが推定した視野角。Magic Leap Oneよりわずかに横方向に広い。旧HoloLensよりはだいぶ広くなっている)

ハンドトラッキングで実現する自然な操作

また、スライダー操作やボタン操作はごく自然です。“自然”とは、手を伸ばして操作しようとすると、その通りに反応するということ。ボタンを突っついて押したり、スライダーをつまんで動かしたりと、スライダーのメモリは細かく、かなり細かい動きも可能でした。また、同時に体験している人にモノをつかんで渡すことも可能です。

自然に動かすだけの必要な反応速度は確保されているものの、決して速いものではありませんでした。同じハンドトラッキングでもLeap Motionと比べるとやや劣ります。手に重機を持って勢いよく振ると、重機はやや遅れてついてきました。

しかしマイクロソフト広報によると「HoloLens 2のソフトウェアは発売までにまだ改善される」とのこと。ハンドトラッキングの精度がどこまで上がるのか期待したいところです。

違和感のない同期

先ほど、同時に体験している人に重機をつかんで渡すというアクションを例に挙げましたが、複数人での同期が驚くほど自然に実現していました。また、スライダーを別の体験者が動かすと、自分の目の前の建物が変化していくなど、同期についてはごくごく自然です。

顔を近づけても消えない

試してみて驚いたのが3Dモデルに顔を近づけても表示が消えなくなっていたことです。前世代機では顔から30cm程度のところまで表示しているものが近づくと消えてしまいましたが、HoloLens 2では顔をギリギリまで近づけても消えませんでした。前世代機で感じられた「近づけない」不満が解消されています。

製造業向けデモで確認

続いてARエンジンVuforiaで知られるPTC社が展示していたのは、ツール「Vuforia Studio」と連携したMRアプリケーションです。PC版「Vuforia Studio」で設定した大型機械の3DモデルをHoloLens 2やiPadなどで現実空間に表示するというもの。「Vuforia Studio」では、説明の表示やパーツの分解などを設定しておくことが可能です。HoloLens 2でそのモデルを見ながら細部を説明することが可能です。

なお、Vuforia Studioの機能として搭載されている物体検知を使用し、実物の機械を前にしている状態でデモはスタートします。説明を見たい機械を操作パネルから選んで3Dモデルのミニチュアを表示、それを掴んで実物の機械の位置にもっていくと、実物と3Dモデルが重なって見えるようになる、というデモのスタートでした。

アイトラッキングの利用

HoloLens 2には眼球の動きを認識するアイトラッキング機能が搭載されています。発表会の場では虹彩認証(Windows Hello)による自動ログインと目での操作が紹介。PTCのデモでは空間に配置したPDFファイルを読む時に視線でスクロールできる機能が実装されていました。

しかし、顔を動かすとスクロールが止まってしまうため、操作には慣れが必要です。手で掴んでスクロールさせたほうが速いのは確かですが、作業で両手が塞がっているときには重宝しそうな機能ですね。

際立つ操作性

ここまではHoloLens 2用に作られたデモのレポートとなります。

他にも前世代機向けに提供されている「Remote Assist」も体験しましたが、操作方法がより直感的になった以外は、基本的には初代と同じ内容でした。ユーザーインターフェースのデザインなども初代と同じため、ビジュアル面ではHoloLens 2で体験したときの違いは分かりにくかったのですが、それだけ操作方法の違いが際立ちました。

「Remote Assist」は、工場などの現場でトラブルなどが発生したときにm遠くにいるオペレーターとビデオ通話をしながら、オペレーターが体験者のHoloLens 2のカメラ越しに現場の様子を見ながら案内をしていくという業務用アプリケーションです。

オペレーターとのビデオ通話のウィンドウは空間に浮いていますが、作業をしているときに邪魔に感じると横に動かしたくなります。前世代機では視線をウィンドウの縁に合わせ、指を立てて倒すエアタップと呼ばれる操作を行い、任意の場所までドラッグするという一連の操作が必要でした。しかし、HoloLens 2ではただ手でウィンドウを掴んで好きな場所に“置く”だけでOK。当たり前の動作ができることがこれほど自然で快適なのか、と思わせられる瞬間でした。

あらゆる面で改善が見られる

今回のHoloLens 2の実機を触って感じられたのは、HoloLens 2はビジュアル、操作性、快適性、使い勝手などのあらゆる面で前世代機を上回る改善が行われたということ。まさに正統進化という言葉がふさわしいでしょう。そしてこの進化の方向性も、産業向け用途へと特化したことで、現場における前世代機の諸課題を解決するものになっています。

前述のように視野角は広がったものの、空間全体で表現をしたい場合には「まだ足りない」という感想もありえると思います。しかし、表示領域が2倍に広がり、解像度もまた2倍に高まったことで、表示できる情報量は大幅に広がりました。また、ハンドトラッキングに関しても、手をかざしたときのオクルージョン処理などは搭載されていませんでしたが、操作としては十分直感的なものでした。

マイクロソフト広報も「HoloLensの発売以来、非常に多くのフィードバックをいただいてきた」と語るように、フィードバックを元にして設計されたと思われる点が随所にあります。その一つがフリップアップ機能です。MRの表示を一旦止めて視界を確保したいときに、グラス部分を上に跳ね上げることができる機能です。

マイクロソフトは例年MWCには出展をせず、久しぶりの出展となりました。モバイルの展示会という場を発表の場に選んだことについては、「新たなエッジデバイスであるHoloLensはこの場にふさわしい」としつつ、「我々は2019年内に発売されるHoloLens 2をできるだけ早く企業にお披露目することで、このデバイスに備えてほしいと考えている」と話しました。HoloLens 2を念頭においた開発を呼びかけたい、ともコメントしています。おMagic Leap One(2018)やnreal(2019年第2四半期発売)など競合機も登場する現況を鑑み、このタイミングでの発表となったと考えられます。

なお、今回の体験では、発表会の場で発表されていた

・ピアノを弾けるほどのハンドトラッキングの性能
・アバターを表示してのMRミーティング(Spatil社提供)
・Azureを使った「Spatial Anchor」と「Remote Rendering」
・作業内容などマニュアルや操作方法を表示する「Dynamics 365 Guides」

などの性能・新機能・アプリに関しては確かめることができませんでした。

特にAzureを使った「Spatial Anchor」と「Remote Rendering」に関しては、HoloLens 2単体では不可能なことをクラウドで可能にする拡張機能とされており、今後の詳報に期待したいところです。


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード