来週、日本で開催されるイベントで初めて体験可能となるOculus Riftの新型プロトタイプ。4月13、14日で開催されるUnite2015で体験ブースが設けられます。
Crescent Bayは、2014年9月に発表されて以来、現行のVRヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)の中では、最も高性能なものの一つです。これまで世界中に出荷されてきた開発者版Oculus Rift DK2(DK2)と比べ、より一段とVRへの没入感が深くなっています。
この記事では、筆者の体験談も交え、Crescent Bayの特徴について紹介していきたいと思います。
昨年9月に発表された市販版に近い「プロトタイプ」
Crescent Bayは「プロトタイプ」とされているように、ユーザーに販売・出荷されるものではありません。名称は、開発を進めるOculus VR社で付けられたコードネームのようなものです。Oculus Riftはこれまで出荷されるバージョンが発表される前に、プロトタイプが発表されてきました。現行のDK2の前には、Cristal Coveと呼ばれるプロトタイプが発表されていました。Crescent Bayは、今年末から来年にかけて発売されるであろう、製品版Oculus Riftに近いものとして位置づけられています。
Oculus RiftはDK1、DK2とこれまで2つの開発者版が登場しました。DK2はDK1から大幅に性能が向上しており没入感は深まっていました。さらに、製品版はDK2からのどの程度性能が上がり、没入感が増すのか注目されています。その製品版に近い性能を備えているのがCrescent Bayです。
高性能化と3Dオーディオで深まった没入感
では、Crescent Bayでは一体どれだけ性能が向上したのか、筆者は特に4点が特筆すべき改善点だと感じました。順番に紹介していきましょう。
1.解像度、フレームレートの向上
2.ヘッドホンの一体化と3Dサウンド
3.小型・軽量化
4.トラッキング性能の向上
1.解像度、フレームレートの向上
DK2と比べ、画面の解像度が向上しています。Oculus VR社は解像度を公表していませんが、DK2の1920×1080(フルHD)を上回る、両眼で2K程度の解像度が実現されているのではないかと考えられます。きめ細やかな描写となり、画質の粗さをあまり感じないレベルまで改善しています。サムスンが発売するスマホ向けVRHMD「Gear VR」と比べると、Gear VRの解像度は2560×1440となっており、体感としては同程度、もしくはそれ以上の自然な描写になっていました。
また、映像の滑らかさに関わるフレームレートは90fpsとDK2の75fpsからさらに性能が上がっています。しっかりと動作するPCで動かした場合、もはや実際に見ているのと同じような非常に自然な体験となります。特に、首を動かして頭を振った時の感覚が現実に認識しているものと等しくなってきていることが分かります。
Crescent Bayの体験映像、画像は公表されていない。GDCのデモで体験できるコンテンツをまとめたイメージ絵がこちらの画像。廃館で恐竜がこちらに向かって迫ってくるもの、ビルの屋上から下を見下ろすもの、など
2.ヘッドホンの一体化と3Dサウンド
Crescent Bayでは、ヘッドホンの一体化により、Oculus Riftの外見が大きく変わりました。Oculus VR社では、VRへの没入感を深めるため、視覚だけでなく聴覚もVRの中にいるかのようにジャック(だます)することが重要だとして、3Dサウンドに重きをおいています。装着感などに課題はありますが、360度全方位から音が聴こえてくるインパクトは非常に大きいものでした。
3月に開催されたGDCでCrescent Bayのデモとして公開された映画ホビットの再現「Thief in the Shadows」。邪竜スマウグがとぐろを巻きながら話しかけてくるシーンでは、竜の息と声が後ろや横からリアルに聴こえてくるため、背筋がぞっとする体験に仕上がっている。
3.小型・軽量化
没入感を深めるために意外と重要なのが「装着感」です。Crescent BayはDK2と比べ、小型にそして軽くなりました。ふわっとしたつけ心地なので、頭に何かを装着しているという感覚は少なくなり、VRの世界に集中できるようになります。
4.トラッキング性能の向上
Oculus Riftには外部カメラが付属し、体験者の前後左右上下の動きをトラッキング(追従)してVRでも同じ動きを再現します。DK2にもトラッキング用のカメラがついていましたが、Crescent Bayではより精度の高く、範囲も広いカメラに変わっています。
体験して感じられたのは以上の4点です。他にも数多くの改良を施していると考えられますが、Crescent Bayはこれまでになく自然で没入感の高いVRを実現しています。
DK1が出荷されたのが2013年からまだ2年も経たないうちに、没入感はどんどんと深まり、VR技術が非常に早く進歩していることを感じさせます。
Oculus VR社は、創業者のパルマー・ラッキー氏も言及しているように、「VRの実現」を目標としています。それ故、妥協無く徹底的にこだわって開発をしている印象を受けます。2012年、Kicksarterで支援を集めた時は3Dオーディオについての話は記述されてませんでした。開発を進めるにあたって、視覚以外の感覚をジャックしていくことが没入感をさらに深めることに繋がることからとられた改良と考えられます。
Crescent Bayが発表されてから既に半年が経過しますが、いまだに製品版に関する発表はありません。やや遅いのではないかという気もしますが、没入感のさらなる追求を行っているとも考えられます。製品版Oculus Riftの発売が楽しみでしょうがなくなるCrescent Bay。どの程度「VRを実現」していると感じたか、体験した方はぜひ感想をシェアしてみてください。
Written by 久保田瞬(すんくぼ)
参考
Oculus VR公式ブログ
https://www.oculus.com/blog/