一般社団法人ロケーションベースVR協会は、公式ホームページにて子どものVR利用に関する海外研究報告を公開しました。原文は「ChildrenandVirtualReality:Emerging Possibilities and Challenges」と題されており、イギリスの Dubit社、WEARVR社らが共同で作成したものです。
内容は8歳から12歳の児童に対してVRが及ぼす影響の研究、およびその研究結果が8歳未満の児童によるVRの利用にどのような意味を持ちうるかを調査したものです。
[ads]
研究の背景
VRは子どもにとっても魅力的なツールですが、安全面・健康面などの課題があり、ハードメーカーは13歳以上からの年齢制限を設けているケースが多くなっています。この妥当性を探り、子どもにとって適切なVRコンテンツを調査することが目的です。
本調査ではアンケートや実際にVRを体験したときの様子、視力テスト等によって影響を考察しています。
現在のVR利用状況
アンケート調査により、子どものVRの認知度は格段に上昇していることが分かりました。米国では、VR を聞いたことがあると答えた児童が8~10歳、11~15歳どちらの年齢層においても 50%以上を占めています。英国の方が比較的認知度は低くなっています。
また親のVRに対する姿勢の調査では、米国の児童の親はVRに対して比較的寛容であるのに対し、英国の親は消極的であることが分かりました。親が子どもにVRを初めて体験させることへの躊躇は、子どもたちに体験を許可することにも影響を与えると考えられます。
VRコンテンツへの反応
8~12歳の20名の児童がVRで遊ぶ様子をビデオ録画し、さらに体験前後にVRに対する知識、経験の有無、好きなコンテンツや嫌いなコンテンツについてインタビューを行いました。体験したコンテンツは、ゲーム「Job Simulator」や、バーチャル旅行を体験する「Google Earth VR」などです。
調査の結果、子どものVR体験にあたって「事前のブリーフィング」「操作性」「没入感」の3つがカギになると分かりました。親や子どもにコンテンツの内容を事前に理解させ、子どもが楽しみやすい操作性やスケール感を提供、子どもの想像力をかきたてる没頭感、が大事になるということです。
健康と安全
VR体験前と20分間の体験直後に、子どもに対して以下の3つのテストを行いました。
・3メートルの距離からの標準の視力検査
・ステレオテストによる立体視力検査
・直立時の姿勢の安定性/傾きを測るための首の動きのテスト (平衡感覚のテスト)
テストの結果、視力においては、短期間のVRの使用での影響は確認されませんでした。 立体視力と平衡感覚に関しては、ほとんどの子どもにあまり変化が見られませんでした。但しごく一部に、直立姿勢の安定性と立体視力が悪化したケースもありました。
長期的な影響等は未解明のため、子どものVR体験においては「プレイ時間の制限」や「子どもの体の大きさへの配慮」が必要になると結論付けています。
規制面の観点
デバイスやコンテンツの開発者に対し、プライバシーや健康面など、法律上の問題に対する規範作り、議論の必要性を提案しています。
また、VRコンテンツの対象年齢レーティングについて、現在の評価基準を適用しVRゲームの格付けを続けると同時に、新しいVRゲームの動向への注視も行うことを強調しています。
8歳未満のVRの使用について
VRを使用し、8歳未満を含むあらゆる年齢の子どもに有益な、遊びを通じた学びを実現することができると期待されています。このことについては、研究者、アーティストなど様々な分野から賛同を得ています。
しかしそのためには、安全面、健康面の研究についても、年少の児童に関して掘り下げて行く必要があるとしています。
結論
本調査では子どものVR 使用に関する様々な問題点が浮かび上がりました。一方、コンテンツデザイン、没頭感を高めるコン テンツ、健康面、安全面、法律面での問題、シナリオ作りや教育目的の使用についての知見が得られました。
レポートは、今後VRが子どもの生活にも組み込まれていく中で、重要な問題は、VR業界、研究者、児童の健康や教育に従事する関係者達が共同で自主的な行動規範を作成し、規制や悪印象を未然に防ぐことができるかどうかにあるとしています。そして、今回の研究がその第一歩になることを願う、としめくくっています。