前回に引き続きCEDEC2015で体験したVRコンテンツのレポートです。今回はPS4向けのVRヘッドマウントディスプレイ、Project Morpheusで体験した「サマーレッスン」です。
※本記事で掲載している画像はYoutubeより引用したものです。
「サマーレッスン」は、夏に海辺の古民家で、金髪の美女に家庭教師として日本語を教えるというもの。
スタート時は真っ暗、徐々に周囲の音が聞こえてきて明るくなると青い海と縁側に座り、アコースティックギターを弾き語る美少女が見えてきます。とても入りやすい導入部です。
周りを見渡せば青い空、スイカ、麦茶、風鈴、薄暗い部屋の畳、ちゃぶ台の上の食器、頭を下にして覗き込むと縁の下も覗けるなどリアルに作り込まれています。レトロな扇風機の金属部分は顔が映り込むのではとつい覗き込んでしまったくらいリアルな出来栄えです。
音も3Dオーディオで奏でられており風鈴の音は風鈴から、ギターの音はギターから聞こえてくるので空間に広がりを感じ、今いる場所も人もリアルに感じます。
思い返しても、違和感を覚えたのは日差しが強いのに暑くなかったことくらいですね。それくらい視覚・聴覚はその場にいる感覚になっていたということです。
美女・アリソンと面と向かって顔を近づけると、彼女は現実の女性同様に眉をひそめ上体を反らします。
隣に座り本に目を落としてるときは横顔を向けてるので気づかないのか近づいても離れませんが、2cm位まで近づくと暗転(目を閉じてしまうようです)しますので注意が必要です。頰をくっつけるようにして1冊の本を2人で読んでると相手の存在を感じるのも不思議でした。
彼女とはコミュニケーションもとれます。質問されて答えるとき、は「はい」はうなずく、「いいえ」は左右に頭を振ることで選択肢を選ぶことができます。「何をするの?」など複数の選択肢があるときは、対象となる物の方向にアイコンが配置され、プレイヤーはどのアイコンをみつめるかで選択肢を選択できます。こうしたジェスチャーや目線を使った方法は現実の会話の動きに近く、相手を現実の人のように感じやすくなります。
以前Oculus Rift用コンテンツ「公園彼女」を体験したときも同様の方法で、相手を単なるキャラクターと思えなかったことがあります。
コミュニケーションで印象的なのは、その方法だけではありません。会話を選択してから行動するまでの間と仕草は自然で、まるで彼女自身が考えて行動してるみたいです。
アリソンがギターのピックを探しているときなど、思わず「あ、そこにあるよ」と普通に声をかけそうになりましたし、不意に顔を近づけて筆者の肩に止まっていた虫を払うときもとても自然でドキドキしました。
初対面なのに常ににこやかで気取らない立ち振る舞いは、居心地がよく、女性の筆者でももっと一緒に居たいと思うほどでした。
最後のシーンで、彼女がいなくなるとサングラスをかけた土足の男性が部屋の奥から足音をたてて現れ(乱暴な足音が後方から近づいてくるので、少し怖かったですが……)、現実に繋がっている穴に落としてくれるという演出があります。この演出のおかげで目がさめるような気持ちで、非常に現実に戻りやすかったですね。
このコンテンツ体験して、後悔したのは始めから終わりまで字幕なしの英会話なので、英語をもっと勉強しておけばよかったということくらいです。彼女との英会話ならば、現実の授業より緊張しませんし、ラジオやCDより集中します。もっとコミュニケーションをとりたくなる、そんなコンテンツでした。
体験したことがない方は、機会があれば彼女に会ってきていただきたいくらい完成度の高い出来栄えです。
(編集注)本レポートを行ったライターのkure氏は、CEDEC2015において行われた「サマーレッスン」の開発に関する講演を聴いていない状況で体験し、レポートを執筆してもらいました。
講演では、開発チームがVRを使ってどういうことを伝えたかったのか、企画段階からテクニカルな側面に至るまで語られました。Mogura VRで掲載した講演のレポートをお読みいただき、体験者が感じたことは果たして開発チームの狙い通りになっているのか、ぜひ確かめてみてください。
【CEDEC 2015】『サマーレッスン』から学ぶVR開発 ープロデュース編ー
【CEDEC 2015】『サマーレッスン』から学ぶVR開発 ーテクニカル編ー
【CEDEC 2015】『サマーレッスン』から学ぶVR開発 ー開発者ディスカッション編ー